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一夏の思い出づくり
1話 暇人三人
しおりを挟む――高校最初の夏、とある3人に人生を変える出来事があった。
「暑い」
「溶けるぅ~」
「死にそう」
公民館に設置されたベンチで項垂れてる俺たち3人は今年高校生になったばかりだ。俺たちは家が近いということもあり、保育所からの付き合いだ。ま、幼馴染というやつだな。
「周、金あるぅ?」
「もうないよ」
「司は?」
「俺もねぇよ」
「マジか……」
期待外れの返答に肩を落とす城。相当暑いのだろう。それなら公民館の中に入ればいいだけなのだが、高校に入学する前に悪戯をして出入り禁止になっているのだ。
「そういう城はどうなんだよ?」
「あるんやったら訊かん」
「それもそうだな」
俺たちたち3人は青い空を諦めにも似た表情で眺めていた。
「こら、そこの悪餓鬼三人。こんなところでサボってないで親の手伝いでもしたらどうなんだ」
突如、公民館のベンチで休む俺たちに叱る男の声が聞こえた。俺たちは男の声のする方へ視線を向ける。
「無理言わないでください」
「そうだよ。こんな暑い日に労働させられたらすぐにひからびてミイラになっちまうよ」
周たちがショウさんと呼ぶ男はこの遊子川の公民館に勤める公務員だ。
「それでも、お前たちはこの村の子か」
呆れて嘆息するショウさんに3人は言い返す。
「俺は村の子ではなく親の子で~す」
「俺も、俺も」
「城君も司君もそんなこと言ったらまたショウさんに面倒臭い説教を聞かされるよ」
「お前らなぁ、さっさと家に帰って親の手伝いするか夏休みの宿題でもしろ! この悪餓鬼共が!」
「やばっ! ショウさんが怒った!」
「逃げようぜ!」
「こらっ、逃げるな!」
「逃げるが勝ちなんだぜ!」
「黙れバカ城が!」
「今度サバゲーしような」
「だれがするか!」
城はショウさんに銃の形にした手を向けて「バンッ」と言って前を向いて走り出した。都会では決してありえない他人の子を叱ると言う行為。もしも都会ですれば叱られた子の親が文句を言いに来るだろう。だが、田舎では未だに昭和のように他人の子でも叱ると言う行為が起きている。それは別に子供の親が文句を言いに来ることが無いからではない。都会に比べて田舎の子供たちは年々数が減りつつある。そのため出来るだけ子供は大切に、そして良い子に育ってもらおうという気持ちからである。とこの村に住む子供たちは小さい時から知っている。それでも何度も怒られる司たちはこの地区遊子川村だけでなく城川町全体でとても有名な悪餓鬼三人衆なのだ。
「相変わらず、城君はサバゲーが好だよね」
「当たり前だろ。あれほど面白いゲームはないな」
サバゲーとはサバイバルゲームの略で直径6ミリのプラスチック弾を電動のモデルガンで撃ち合いをするゲームである。どうやら最近はサバゲーをする人が増えだして大会では男性だけでなく女性でも参加する人が増えだしたらしい。
俺たちはショウさんから逃げると、棚田を上から眺めながら遊具も何にもない。ただベンチしかない公園に来ていた。
「それにしても、今日は暑いな~」
「まだ僕たちはマシだよ。都会の方はもっと暑いらしいから」
「マジかよ周」
「うん」
「でも、都会にはクーラーがあるからまだマシだよな」
「そうだよな~、うちなんか親が、クーラーなんかいるほど暑くない。扇風機で十分だ。とか言うから扇風機でいつも過ごしてる」
「マジで」
「ああ」
周たちが住むこの遊子川という村はとても田舎で山と山の間に家を建てたり山を削って建てたりしてできた村だなのだが、どちらかというと谷に村を作ったようなものだ。なので郵便物なので住所を書くときは遊子谷と書かなくてはならない。それもかなりの田舎で自販機が3つしかない村なのだ。そのとき涼しい風が俺たちを癒してくれる。
「涼しいな」
「まったくだ」
城と周は目を瞑って地面に寝っころがりこのひと時を堪能していた。俺は空を見上げた。
「青いな~」
ずっと眺めていると吸い込まれそうな青い空に白い雲が流れて行く。俺も横になろ。俺は周たちのように地面に寝っころがった。そして横に視線をやると棚田の稲穂が微風でゆらゆらと舞を踊るかのように揺れていた。暇だな。
「なあ、周、城」
「なに?」
「なんだ?」
「なんか、一生思い出に残るような思いで作りたくねぇか?」
「たとえばどんなんだよ?」
「……思いつかねぇ」
「なんだよそれ」
何も思いつかない俺に突っ込む城。
「あ、そう言えば最近城川町全体で鬼が出るんだって」
「鬼?」
「うん。なんでも夜の10時過ぎに一人で歩いている人を後ろから襲って食べてしまうしいです」
「なんだよそれ。どうせウソだろ。今は夏だから誰かが面白がって流したに決まってるだろ」
「うん。僕も最初はそう思ったよ。だけど、本当に行方不明者が何人も出てるらしいんだよ」
「マジか……」
周の話を聞いて俺は思った。
「なあ、ひと夏の思い出に鬼退治しようぜ」
そんな俺の言葉に、
「面白そうだな」
「いいと思うよ」
二人は賛成してくれた。
俺たちはその日の夜。原付で隣の魚成村の役場に来ていた。
「さて、鬼はどこかな?」
俺は周りを見渡しながら金属バットを肩に置いた。
「早く、鬼を撃ちてぇな」
「お前、鬼なんか信じてねぇくせに、なにが、早くを撃ちてぇな。だ」
「いいだろ別に」
「僕は早く鬼が見てみたいです」
周はなぜか目をキラキラと輝かせていた。てか周が手に持ってるのって、
「おい、周お前が手に持ってるのって」
「うん。スタンガンだよ」
「この中で一番危ねぇ物持ってきてるな」
城はそう言った。俺も同感だ。
「だってこれしか武器がなかったから」
逆になんでそんなもんがあるんだよ。
「でも、城の武器は鬼、倒せなくね?」
「大丈夫だ。これは俺が心血注いで魔改造しまくってサバゲーでは使えなくなった銃だからよ」
「違法じゃねぇか!」
「ああ。なんせ弾がプラスチックじゃなくて鉄球だからよ。コンクリートだって貫通するぜ!」
「それ完璧に人殺せるじゃねぇかよ! よくそこまで改造出来たな、おい!」
俺は加減をしらない城の改造に突っ込みを入れつつも内心では呆れていた。
「それじゃ、鬼退治と行きますか!」
「おう!」
「うん!」
俺たちは人気の少ない道を歩きながら鬼を探し始めた。
「それにしても、やっぱり田舎だな。まだ11時過ぎだと言うのに人が一人もいねぇ。てか、家の明かりがついていない家がほとんどだ」
「それはそうだろ。ほとんどが年寄ばっかだからな」
城の言葉に俺は答える。この町は城川町の役6割から8割が高齢者という町なのだ。そのため外を歩けば必ず同世代に会うまでに高齢者数人に会うのは確実なのだ。
「にしてもいねぇな」
「そうだね」
「だな。これじゃ、この改造銃を持ってきた意味がねぇな」
「いや、それ一生持ち出すなよ」
俺たちは鬼を探し初めて30分以上が経過した。だが鬼やそれっぽい奴はいなかった。
「やっぱり、嘘なんじゃねぇか?」
「きっといるよ」
城の言葉に周が答える。その時周が何かに気づいた。
「ねえ、二人ともあれなんだろ?」
俺と城は周が指を指した方向を見る。そこには夏だと言うのにコートをきたオッサンが
いた。
「どうせただの酔っ払いだろ」
「たぶんな」
俺たちは電柱に凭れ掛かって寝ているオッサンに近づいた。
「おじさん。こんなところで寝ていたら風邪ひくよ」
周が声をかける。だが、反応がない。
「ねえ、おじさんってば」
すると、オッサンが立ち上がった。
「ほら、早く家に帰って布団で寝て」
その時だった。
「ウガアアァァ!」
行き成りオッサンが周に襲い掛かった。いや、確かに周は男のくせに可愛いよ。いや、マジで非公式だけど学校にはファンクラブまであるぐらいだから!
「逃げろ、周!」
俺は咄嗟に金属バットでオッサンの顔面を殴った。オッサンは殴られた勢いで後ろに1メートルほど吹き飛ぶ。
「おい、大丈夫か周!」
「う、うん。ありがとう司君」
「なんだよ、このオッサン!」
城は改造銃をオッサンに向けて言った。その口調から混乱しているのが分かる。
「どうする司!」
「もう少し様子を見るぞ!」
「わっ、分かった!」
すると、オッサンはよろめきながら立ち上がる。そして、俺たちは絶句した。
「マジかよ……」
「ありえねぇ……」
「うそ……」
さっきは電柱の光でオッサンの顔がよく解らなかったが、今度はよく解る。オッサンの口から人には絶対にない長い牙が2本生えていた。
「おい城、1発撃て!」
「どこにだよ! 頭か! 腹か! 胸か! それとも股間か!」
「なんで最後が股間なんだよ! こんな時までボケなくていい! 撃つなら太ももにしろ! 絶対股間は撃つなよ! 見てるこっちまで痛くなりそうだからな!」
「それもそうだな!」
そう言うと、城は照準を合わせてオッサンの太ももを撃った。
バンッ
本物の銃ほど音は五月蠅くはないが、かなりの威力があり太ももを貫通していた。おい城その改造銃はこれが終わったら永遠に封印しとけよ!
「ウソだろ……」
城は絶句した。それもそのはずだ。俺も自分の眼を疑っているところだ。城が発砲した鉄球の弾丸は完璧にオッサンの足を貫通した。その証拠に太腿からは出血している。なのにオッサンは痛がるどころか平然とよろめきながらもこっちに向かって歩き出す。信じられねぇ。
「お、おい周! こいつが鬼なのか!」
「わ、解らない!」
「くそっ! おい、どうする司!」
「たぶんこのオッサンからは逃げられねぇ。だからぶっ倒す!」
「だと思ったよ!」
城は返事をするとオッサンに目がけて発砲する。だが、倒れる気配がない。仕方がない!
「城、援護を頼む!」
「分かった!」
城は、オッサンの正面ではなく少し右から撃つ。そして俺は走ってオッサンの顔面目がけて金属バットをフルスイングした。だが、今度は倒れもしなかった。マジかよ!
「俺に任せろ!」
そう言うと、城はオッサンの顔面だけ狙って連射した。徐々にオッサンの顔面が悲惨になって行く片目は潰れ、頬に穴が開き口内が見え、顔のありとあらゆるところから出血してゆく。額はほぼ肉はなく骨が剥き出しになっていた。
「今だ、司!」
「任せろ!」
俺はヒビが入った骨に目がけて思いっきり金属バットで殴った。骨は砕け、中の脳ミソをぶちまける。
「やったか……?」
「ハア……ハア……たぶんな」
俺たちは脳みそをそこら中にブチまけて倒れるオッサンを見ながら言った。てか、これって、
「なあ、俺らって人殺しだよな」
「……やばくね」
「やばいよ」
「逃げるぞ!」
「了解!」
「うん!」
俺たちは自分の武器を持ってその場から逃げた。
原付に乗って遊子川の公民館まで帰ってきた俺たちは誓った。
「「「このことは誰にも言わず、永遠に俺たちの中で封印する」」」
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