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一夏の思い出づくり
2話 馬鹿三人
しおりを挟む次の日、正確にはあの出来事から9時間。俺たちは学校に来ていた。夏休みに一度の登校日だ。やばい完璧に今日が登校日だったこと忘れてた。俺は顔を青くして後悔していた。他の2人も同じらしく城は机の上で突っ伏し、周は机に両肘をついて手で顔を隠すようにしていた。頼むから、こんな時に警察来るなよ。
「……さ……かさ……司ってば!」
「うわっ!」
俺は驚き椅子から落ちそうになった。
「なに驚いてんのよ」
腰に手を当てて話しかけてきたのは城や周の同じで保育所からの幼馴染の浦崎野乃葉だった。
「な、なんだノンか。驚かせるなよ」
「なにが、驚かせるなよ。こっちはさっきから呼んでるのに返事もしないで」
「仕方ないだろ。考え事してたんだから」
「考え事、司が」
「うるせぇな。ほっとけ!」
「冗談よ。それより、どうしたのあんたたち、城川全土に知れ渡っている悪ガキ3人衆が3人とも元気がないなんて。何かあったの?」
ノンは少し心配した様子で訊いてくる。やばい、さすがは優等生は鋭いな。俺は城と周に視線を送ると、どうやら話し声が聞こえていたらしくこちらに視線だけ向けていた。わかってる。まかせろ。
「別に。今日の3時まで城と周の3人で賭け大富豪してたからな。ただの寝不足なだけだ」
「あんたたち何考えてるのよ。登校日があることぐらい知ってるでしょう」
「忘れてた」
「そんなことだろうと思った」
ノンは呆れて嘆息した。
「まったく少し心配して損した。それじゃあね。そろそろホームルームが始まるから教室に戻るわね」
「ああ」
手を軽く振りながら自分の教室に戻って行った。それと同時に城と周が俺のところに来た。
「ナイス司」
「さすがだよ」
「こんなの楽勝だぜ」
「でも、おかしくないか?」
城は周りの生徒を見ながら言った。
「何がだ?」
「昨日俺たちは人を殺したはずだぜ。それなのに全然テレビのニュースにも学校の話題にもなってすらねぇ。これはどういう事だ?」
「もしかしたら、殺した場所が人気の少ない場所だったからまだ見つかっていないとか?」
「そうかもな。それじゃ、学校が終わったら昨夜の場所に行ってみるか」
「了解」
「うん」
「こら、お前ら! もうホームルームは始まってるぞ。それにまた3人でコソコソと。どうせくだらない悪巧みでも考えているんだろ」
「違いますよ。岡村先生」
「そうだぜ、先生なら生徒を信じねぇと駄目だぜ」
「信じて欲しかったらそれだけの事をしろ、バカたれが!」
「うわっ! 先生が生徒に向かってバカって言った! 酷いよぉ~」
城は自分の席に戻りながら泣くフリをする。
「本当の事だからいいんだよ」
「それもそうだな」
『アハハハハハハ!!』
教室中が笑いに包まれる。いつもこうやって城は悲しんでいる生徒や暗い空気の時の盛り上げて明るい空気にするムードメーカーなのだ。まったくアイツは。
「くそっ! なんで俺たちだけが居残り補修なんだよ」
「まったくだ。司の言う通りだ」
「仕方ないよ。だって僕たちは悪ガキ3人衆だもの」
夏休みの登校日は午前中で終わる。なのに俺たちが下校したのは夕方の5時40分だった。なぜそうなったかというと、補習をしていたからだ。俺は別に頭は悪くない。クラスで一桁には入るほどだ。だけど授業中にケータイゲームしたり、寝たり、で授業態度が悪いから補習を受けていた。
城は学校を欠席、遅刻とサボりの常習犯である。まともに来たかと思えば寝ているから補習となった。ま、あたりまだな。
周はまともに学校に来て普通に授業態度もいい。だけど理数系に関してはバカだから補習となった。
茜色に染まる空と今日1日の終わりを教えてくれる蜩の鳴き声を聞きながら俺たちは原付に乗って目的の場所に向かった。いつも見てる光景のはずだが、なんだか今日に限って不気味だな。俺はそう思いながらアクセルを強めた。
俺たちは昨夜奇妙な男を殺した場所来ていた。そこで見た光景に俺たちはただ困惑した。なぜなら昨夜死闘が繰り広げた場所に死体が無いからだ。それも大量に流れ出た血も城が連射した鉄球の弾丸も、そのすべての痕跡が消えていた。
「お、おい、これてどういうことだよ?」
城が訊いてくる。
「俺が知るわけないだろ」
俺はそう返事するしかなかった。
「僕も何が何だか」
周も解らないのか額から一滴の汗が流れていた。ま、当然か。
「これからどうするの?」
「そうだな。何もないなら俺たちにとって好都合だ。だったら何もなかったことにして帰ろうぜ。それに俺は帰ったらやらないといけないことあるし」
城が言う。確かにその通りだ。最初は焦ったが死体も痕跡もないなら俺たち3人とってとても好都合だ。だから、
「帰るか」
「賛成だ」
「僕もです」
俺たちは原付に跨り、エンジンをかけようとすると、
「まだ帰らなくてもいいと思うがな」
突如後ろから男の声が聞こえる。
「だ、誰だ?」
「俺はとある組織の者だ」
「そ、組織だと」
「ああ」
白髭を生やした男はそう言った。なに、わけのわからない事言ってんだ。
「悪いな。俺たちには組織なんて知らないんだ。それにそんな中二病くさいことに巻き込まないでくれ。じゃあな」
「そうですよ。僕も家に帰ってやらないといけないことがあるんです」
「ま、そう言わずに」
男はにこやかな笑顔で言った。だが、その表情が俺たちには不気味でとても恐ろしいものに見えた。
「わ、悪いが帰らせてもらう」
俺たちはエンジンをかける。
「それは困るな」
「な、なんだ、こいつら!?」
すると、いつのまにか俺たちは黒服の男達に囲まれていた。こ、こいつら何時の間に俺たちを包囲したんだよ!
「ちゃんとしたおもてなしはするから少しお話ししようや」
男はそう言う。絶対嘘だ。俺は周と城に視線を向ける。おい、いいな? すると二人は理解したのか視線で「了解」と返してきた。
「悪いがそんな時間は……………ねえぇんだよ!」
俺たちはアクセルを最大にして男たちの間を突っ切る。よ、よしこれで何とか。俺たちはそう思った。だが、
「うわあ! なんなんですかあれは!?」
周の声に俺は振り向き、絶句した。な、なんなんだよ! 後ろを向くと黒服の男たちと白髭の男が人間ではありえないスピードで走って追いかけてくる。化け物かアイツらは!
原付の俺たちに徐々に近づいてくる。や、やべぇな。
「どうします司君!」
どうするって言われても……。
「俺に任せろ!」
そう言うと城は左手でポケットから2つほど何かを出す。何をするつもりなんだ?
「まさかこんな時に試作品を使う破目になるとはな!」
そう言うと城は手に持っている物を口に近づけ安全ピンのような物を抜いた。ま、まさか!
「くらいやがれ!」
大声で言いながら後ろの黒服の男たちに投げた。城の奴手榴弾なんか作っていたのかよ。
投げた手榴弾は丁度男たちの目の前で爆破すると同時に大量の鉄球が男たちの顔と胸あたりを襲う。やるじゃねぇか。さすがサバゲーマニア!
だが、先頭を走っていた。男たちは足止めできたがその後ろにいた男達約6名が俺たちを走って追走する。しぶとい連中だな。
「おい、城!もう手榴弾はねぇのかよ!」
「あるわけねぇだろ!あれは前々から作ってた試作品なんだよ!そう何個も作れるわけねぇだろうが!」
城は声を荒立てて叫ぶ。ま、それもそうか。
「早く国道に出るぞ! まだこの時間帯なら人がいるはずだ。そしたらあいつらも追いかけてはこないはずだ!」
「でも、そのあとどうするんだよ。まだ魚成はいいとしても辰口からどうするんだよ。遊子川はこの時間帯になるとほぼ人がいねぇぞ!」
「そうだな……」
確かに城の言う通りだ。せめてあいつらが入ってこれない場所があれば………。
「そうだ!」
何かに気付いたのか、周はポンと手を叩く。おい、原付で手放し運転はあぶねぇよ!
「もしもあの日たちが噂の鬼だとしたら神社や寺には入れないはずです。おじいちゃんに聞いた話だけど昔このあたりに出た鬼を町全体のお坊さんたちが封印したって。で、その時に鬼は寺や神社に入れない術をかけたらしいんだ! だから――」
「わかった。つまりはお前の家に向かえばいいんだな!」
「うん!」
周は頷く。周の家は寺で代々遊子川の神に仕える家系で周の親父が住職をしている。結構有名らしく県外からたくさんの参拝客来る。俺や城も大晦日になるとバイトをする。給料は安いけどな。
「なら向かう場所は決まったな。向かうは周の家、誓願寺だ!」
「了解!」
「分かったよ!」
二人はどこか楽しそうに返答する。おいおいこの状況で笑ってられるとか頭おかしいだろ。いや、人の事言えねぇな。俺も楽しくて仕方がねぇからな!
「はあ……はあ……はあ……な、なんとかまいたようだな」
「……そ、そうみたいだな。……はあ……はあ……」
「ねえ、ぼ、僕の言ったとおりでしょ。……はあ……はあ……」
俺たちは原付で周の家の誓願寺に突っ込んでなんとか黒服の男達から逃げることが出来た。それで安心したのか走ってもいないのに、息切れしていた。心臓がドクンドクン言ってやがる。
「今日はもう遅いから周の家に泊まるとしよう」
「そうだな」
「周、行き成り泊まって大丈夫か?」
「うん。事情を説明したらたぶん」
「説明ね……」
「司どうする。説明って言われても」
城も気づいたようだ。噂になっているとしてもこんな話を真面に信じてくれる奴なんかそうはいない。まして俺たち悪ガキ3人衆は城川全土に知れ渡るほどの悪ガキだ。そう簡単に信じてもらえるわけがない。
「仕方がない。今は周の部屋で休憩しながら作戦会議だ」
「わかった」
「わかったよ」
こうして俺たちは鬼から身を守れる場所を見つけた。ま、今は不安とわからねぇことだらけだけどな。
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