怪物殺しのケルベロス

月見酒

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一夏の思い出づくり

4話 準備する三人

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 俺の名前は富城城とみしろじょう。富城製鉄会社の息子だ。と言っても田舎の小さな会社の息子なんだけどな。あ、それと名前に関しては親父の趣味だから気にせんとって。
 俺は仕事で出た廃棄物で俺たちの武器を作っていた。まったくこんなに真面目に鉄を溶接するなんて親父の手伝いでもなかったな。

「城君、言われた通り鉄バットと釘とアルミホイルと爆竹と霊水を持ってきたよ!」
「悪いな周。一人じゃどうも完成に間に合いそうにないからな」
「そんなことないよ。僕も二人の為に何かが出来てうれしいよ。だって僕いつも迷惑ばかりかけてるし、今回だってなにも……」
「また出たネガティブ周。だからいつも言ってるだろ。友達なら迷惑をかけて当然だっつうの。それに今回はお前が必要だ。だって俺や司より鬼に関しては物知りだからよ」
「で、でも……」
「でもじゃねぇ! お前は俺たちの親友だし仲間だ! それにお前の知識のお蔭で一度は助かってるのは事実だろうが!」
「う、うん」
「だからネガティブ思考はやめろ! こっちまでおかしくなる」
「わかったよ。それで僕は何をすればいいの?」
 暗くなっていた周は何とか前向きになった。まったく世話が焼けるぜ。

「そこに200ミリリットルサイズの牛乳パックがあるだろ」
「う、うん。大量に」
「まず、ストローの刺し口の面の周りを切り取って、その中に爆竹の火薬だけを紙に包んで導火線を差し込め。それを牛乳パックの真ん中に入れてその周りに細かくちぎったアルミホイルを入れろそのかわり満タンには入れるなよ。そしてその上から切り取った牛乳パックで蓋をしてくれ。その代り導火線だけは火がつけれるように出しとけよ。それを10個作ってくれ」
「わ、わかったよ!」
 俺は周に支持をだして自分の仕事にもどる。俺は司の武器を作っている。とても大変な作業でもあるし一番大切な武器でもある。きっとこの武器と司の戦闘力次第で俺たち3人、いや、この町全土の生死が決まる! だから俺は出来るだけ速く、そして完璧に仕上げ司の手に馴染む武器を作る!

 あれから何時間経過したんだろうな。俺はそんな事を思いながら額の汗を袖で拭う。

「城君、出来たよ二種類目の爆弾!」
「わかっ。たそれなら次は──」
「おーい、城、周、飯出来だぞ。一休みしようぜ」
 突然作業場のドアが開き大量のおかずと飯と飲み物を大きなお盆に乗せて持ってきた司の姿があった。
「わかった。周少し休憩するぞ」
「わかったよ」

   *****************

「それにしてもうめぇなこの飯! さすがは料理屋の息子!」
「ホント美味しいよ!」
「当たり前だろ俺が作った飯なんだからよ」
 俺たちは地面に段ボールを敷いてご飯を食べていた。きっとこの時だけは誰も戦いの事は考えていなかった。
 だが、それはすぐに消え去り現実に呼び戻された。

「それで、これからどうする?」
「そうだな。はっきり言って敵の数も解らない状態じゃどうしようもねぇからな」
「確かに」
「なに言ってんだよ。俺たちはどんな危機的状況でもいつも3人で切り抜けてきたじゃねぇか。それにこの町は俺たちが小さい時から住んでいる町だ。数百年の間寝ていた鬼なんかに土地勘のある悪餓鬼3人衆に勝てるわけねぇよ」
「そうだね」
「ああ、そうだな」
 相変わらず城は自信にあふれているな。俺もそう言うところは見習わないとな。

「それで武器の方はどうだ?」
「ああ、なんとかサブ武器と俺の武器は完成した。だけど司の武器はまだ時間が掛かりそうだ」
「そうか……」
「ま、安心しろお前の武器は俺や周の武器より遥かにすごい武器だからよ」
「ああ、期待してる」
 城の顔は煤で黒くなっていた。だが、その顔は自分のためそして俺たちの為に頑張ってくれた証。そんな笑う城の顔を見ただけで俺の中にあった不安が何かに溶かされるように消えていった。

「それじゃ、俺は仕事に戻るとするか。周お前は作った武器をカバンの中に入れてってくれ。それが終わったら休んでいいぞ」
「わかったよ」
 そう言って城は再び自分が今するべき仕事に戻って行った。

「城君が真剣に何かをするところなんて初めてみたよ」
「ほんとだな。明日は雪でも降るかもな」
「あはは、そうかもね」
 笑顔で話していると、

「聞こえてるぞ」
 聞こえていたらしく城は振り返って睨んできた。が、煤で黒くなった顔で睨まれても迫力があるのか無いのかよく解らないな。
 夜の10時10分前、作業場に鉄を切断する音が鳴り響く。

「すっきりした」
「ほんとだね」
「まったくなんで男3人で風呂に入らないといけないんだよ」
「良いじゃんか。たまにはよ」
「そうだよ。司君」
「わかったよ。でもなんで風呂がドラム缶風呂なんだよ!」
「いいじゃんかたまには。それに一度でいいから即席で風呂作ってみたかったんだよな」
「お前の好奇心なんかしらねぇよ!」
「二人とももうそれぐらいにして明日の戦いの為にもう寝ようよ」
 まったく何考えてんだか。

「そうだな。戦いに向けて寝るか」
「おい、俺の話は終わってないぞ」
 城はすぐに電気を消して自分のベッドに横になった。俺と周は城の母親が用意してくれた布団で横になった。少しだけ太陽の匂いがするな。

「よく寝たな~」
 俺は上体を起こして背伸びをした。俺は視線を横に向ける。まだ周は寝ているようだ。
「どうせ城も寝てるんだろうな」
 俺は城が寝ているベッドに視線を向けた。だがそこに城の姿は無かった。

「アイツどこに言ったんだ?」
 キイィィィ!
 外から寝ぼけた頭を覚ますように金属が切断される高音が聞こえてきた。

「あいつまだ何か作ってるのか」
 俺は少し呆れながら嘆息した。

「おい、周起きろ朝だぞ」
「ん……ん、ん……もう……朝なの?」
「ああ」
 俺は眠たそうに眼を擦って起き上がる周を連れて1階に下りる。そこで城の母親と出くわす。

「あら、司君に周ちゃんおはよう」
「おはようございます。お母さん」
「おはよう城のお母さん」
「それにしても随分とお寝坊さんね。もうお昼だというのに」
「「え?」」
 俺は腕時計を見て時間を確かめる時間は午後2時48分となっていた。やべぇ寝過ぎた。
「早く顔を洗ってきなさい。昼食作ってあるから」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
 俺たちが礼を言うと城の母さんは「いいのよ」と言ってリビングに戻って行った。

「それじゃ、顔を洗って城を呼びに行くか」
「そうだね」
 俺たちは顔を洗ってから作業場に向かった。

「おい、城昼飯だってよ!」
 俺は大声で呼びかける。なぜなら作業場の中は外以上に金属音が鳴り響いていたからだ。そして予想通り城には聞こえていなかった。

「おい、城!」
 数回城を呼んでようやく気がついたのか作業を止めた。

「なんだようやく起きたか」
「ああ。そんなことよりお前なにしてるんだ?」
「なに、ちょっと思い付いたんで、作ってるんだ」
 その言葉に俺は不安しか感じなかった。

「それよりお前の母さんが昼飯できたから早く来いだってよ」
「わかった。もうすぐ完成するから先に食べててくれ」
「分かったよ」
「それじゃ、先に行ってるからね」
「ああ」
 そして再び作業場に金属音が鳴り響きだした。

「悪い遅くなったな」
 俺たちがリビングで飯を食べ始めてから約20分後に城はようやく作業を終えて来た。俺と周はその間にご飯を済ませてしまい今は城を待つためにお茶を飲みながらテレビを見ていた。

「城、友達を待たせて何してるの」
「別にちょっとした作業だよ」
「まったく勝手にお父さんの機械使って怒られたって知らないわよ」
「親父には許可貰ったから大丈夫だ」
「まったくこの子は。はい、昼ごはん」
「待ってました! いや~、作業した後の飯は美味いよな」
 そう言いながらご飯を食べる。

「こら、もっとゆっくり食べなさい!」
「分かってるうっ!」
 次の瞬間城の顔が真っ青になり苦しそうになる。やっぱりな。俺は予想していたことが現実になった。

「ほら、言わんこっちゃない」
 城の母さんも呆れながら城にお茶の入ったコップを渡す。それを城はすぐに受け取り喉に詰まったご飯を胃へと流し込むようにゴクゴクトお茶を飲んだ。
「はぁ……死ぬかと思った……」
 安堵するように息を吐く。
 そして、数分後。
「ごちそうさま」
 城は合掌しながら言った。

「それにしてもよく食ったな」
「ほんとだね僕も驚いたよ」
 城はこの数分の間に大盛りご飯を4杯、味噌汁3杯、焼き魚2匹を食べていた。まったくこいつの胃袋はどうなってるんだ。
「なんせ運動した後や作業した後は腹がすいて仕方ねぇんだよ」
「そうかよ」
 絶対、将来太るな。
 そんな時、テレビで一つのニュースが流れる。
『◯◯県◯◯市◯◯町で行方不明者が多発しています。現在、分かっているだけでも15人もの行方が分からなくなっているそうです』
「最近は物騒ね。こんな田舎だから警戒してなかったけど。城、あなたも夜の外出は気を付けなさいよ」
「了~解」
「本当に分かっているのかしら」
 いや、俺が言うのもなんだけど。普通そこは、外出は控えなさいよ。と言うべきところでは?
 その時、城が俺の足を蹴って呼ぶ。そして視線を城に向けた途端小声で。
「おい、司。やっぱりこの事件って」
「ああ、鬼の仕業だろうな」
「もう、こんなに犠牲者が出ていたんですね。早く何とかしないと」
 俺たちの話し声が聞こえたのか周も参加する。

「周の言う通りだな」
「それじゃ、司」
「ああ、明後日の夜11時決行だ」
「「了解!」」
 二人は小声で強い意志を表した。
 その時だった。

「何が了解したの?」
「「「うわっ!」」」
 俺たちの会話に入ってきたのは、

なぎさ! お前驚かすなよ。てか、勝手に会話に入って来るな!」
「別に良いじゃない。兄貴だけズルいよ!」
「何がズルいんだよ!」
 城と話している女の子は城の一つ年下の妹だ。名前は矢富城凪とみしろなぎさ。俺たちと同じ高校に通う高校1年生だ。城とは違い頭も良い。

「おい司、今失礼な事考えただろ」
「いや、別に」
 相変わらず、変なところで鋭いな。

「それより周君、凪と遊ぼう」
「え、僕と」
「うん」
 行き成り凪ちゃんは周の腕に抱きつくと上目づかいでおねだりする。そう、凪ちゃんは周の事が好きなのだ。もちろん城もそのことは知っているし、反対もしていない。だから、将来はきっと周は城の義弟になるだろう。城もそうなってくれると嬉しいと前に呟いていた。

「おい凪! 今は忙しいから後にしろ!」
 城は凪ちゃんの襟を掴み周から引き離す。

「何するのよ、兄貴!」
 すると、今度は凪ちゃんが兄である城に怒りだした。そんな兄妹喧嘩の光景に俺は又かと呆れ、周はどうすればいいか解らずオロオロとしていた。仕方ないな。
「凪ちゃん」
「なんですか司先輩」
 凪ちゃんは少し睨みを聞かして問うてきた。相変わらず、俺と周の態度が違うな。

「城の言っていることは事実だ。なあ周」
 俺は周に同意を求めた。

「う、うん。城君が言っていることは事実だよ。今、忙しいからまた今度ね」
「む、周君が言うなら、その代り今度は私とデートしてください」
「え、ええ! デート! 僕と!」
「はい」
 凪ちゃんの言葉に周はアタフタと混乱する。その光景に俺は笑い。城は呆れて嘆息していた。

「いいですね?」
「えっ、えっ?」
「いいですね」
「で、で、でも」
「い・い・で・す・ね!」
「は、はい……」
「やったー!」
 周から了承の言葉を貰い喜ぶ凪ちゃん。最後は完璧に凪ちゃんが威圧押し切ったようにも見えたけどな。城は凪ちゃんの後ろから手を合わせて周に謝っていた。

「(悪いな)」
「(いいよ、別に)」
 俺たちはここではまともに話すこともできないと感じ城の部屋に向かった。
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