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第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。
第百一幕 接触とシャイネ
しおりを挟む登山を始めて2日目。ようやく7割近く来た千夜たち。
標高も既に6000メートルを超えていた。吐く息は白く。空気が薄いせいか少し息苦しく感じるエリーゼたち。それでも少ししか感じないのは強くなった恩恵でもあった。
「あと少しじゃ、頑張るのじゃ」
先頭で歩くクロエは一度振り返り励ましの言葉をエリーゼたちに投げ掛ける。
(そろそろだな)
マップを開き敵意を持った存在が居ないか確める。
(今のところは居ないか)
敵意を持った敵どころか千夜たち以外は魔物の反応が数キロ離れた場所にあるだけだった。
「それにしても綺麗ね」
「そうだな」
「雲の上を歩いてる気分です」
雲の上に出た千夜たち。気温は低いが、日光に照らされた風景は神秘的で心も体も温かかった。
最初に比べて疲労はあるが、モチベーションは良好と言えた。
残り数キロと言うところまで来た時だった。
(来たか)
肌に感じる殺意と敵意ですぐさまマップを確めた。そこには十数人にもの赤い点が千夜たちを囲むようにして表示されていた。
「気づいているか?」
千夜の小さな呟きに全員が無言で頷く。
「向こうから接触してくるまでは手を出すなよ」
妻たちへの指示だが、一番は腰にある短剣に手を伸ばすエルザに向けられたものだった。
気づかない振りをして進むこと数分。
シュッ!
千夜の足元から一本の短剣が突如として飛び出してくる。
しかし短剣は顎を上げたことで空高くへとどこかに行ってしまった。
(ようやくか)
待ち草臥れたと言いたげな視線を岩影に隠れるダークエルフたちへ向けられた。
「ここは、我らの土地。よそ者はさっさと立ち去るが良い!」
敵意を向けてくるダークエルフたち。
「生憎とそれは出来ない」
「なら、お前たちは死有るのみだ」
「警戒するのも分かるが、まずは人の話を聞いたらどうだ?」
「人間の話など聞く必要はない。関わるだけで我らが一族に災厄が降り掛かる」
「大袈裟だな」
「事実だ!」
怒声を含んだ言葉に千夜は思うところがあった。
(前にクロエが言っていたやつだろうな)
「お前たちに何があったかは知らないが、俺は許可を貰いに、そしてクロエはお前たちに会いに来たんだが?」
その言葉にざわめき出すダークエルフたち。
「クロエだと」
「そうだ。嘘だと思うならクロエと話すといい」
「シャイネ、我じゃ! クロエじゃ!」
「お前など知らない! 確かに見た目はクロエに似ているが、クロエはそんな喋り方はしない」
「これはに訳があるのじゃ! だから一先ず我の話を聞いてくれぬか!」
嬉しそうに、だが、同じ村人から敵意を向けられ悲しみがクロエの焦りを増幅させる。
「だからお前など知らない!」
「なら、どうやったら信じてくれるのじゃ! ステータスを見せれば良いのか! 昔の出来事を喋れば良いのか!」
「……………お前が6歳の時、私とお前はある場所に行こうとして母さんに怒られた。その場所はどこだ?」
「竜の巣じゃ」
「……………なら、お前が8歳の時にある事をして泣いた。それはなんだ?」
「うっ、言いたくは無いが仕方がない。……………お………お……おね……おねしょ……」
「最後だ。お前が最初の狩りで倒した魔物はなんだ?」
「ロックバットじゃ」
「貴女本当にクロエなのか?」
「そうじゃ。最初ッからそう言っておるじゃろうが」
シャイネと呼ばれたダークエルフの質問に答えていくクロエ。その答えにシャイネだけでなく周りのダークエルフまでもが敵意が無くなっていった。
「クロエ!」
「シャイネ!」
短剣を放り捨ててクロエに抱きつくシャイネ。
数年ぶりの再会に二人の涙腺は緩みきっていた。
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