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第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。
第百二十七幕 異世界人と証拠はあるのか!
しおりを挟む千夜たちは再びミレーネの故郷たる村へと来ていた。
前回と同様村人たちに敵意を向けられながら。
「何しに来た裏切り者! さっさとここから出て行け!」
男エルフは怒声をもって警告する。が、千夜たちは動く気配がない。まるで誰かを待っているようにも感じられた。
しかし、それに気付いた者たちは誰も居なかった。いや、数名は居たかもしれない。それでも怒りで思考が鈍っている者たちに、そんな事を感じる余裕などあるわけがないのだ。
敵意を込めた弓を向けるエルフたちそんな彼らを書き分けるように一人の青年エルフが前へとやって来た。
「デセオ……」
悲しげに呟かれた裏切り者の名前。
「ミレーネ久しぶりだな。しかし裏切り者が堂々と姿を見せられたものだな」
彼の表情には偽りの怒りの表情とその奥にバレる事は無いと確信している余裕が見え隠れしていた。
「裏切り者には即座に死刑。それがこの村の掟だ。しかし私は血を見るのも、あの悲劇で沢山だ。だから今すぐ立ち去ると言うのなら殺しはしない」
自分は民を守る義務がある。しかし裏切り者とはいえ、元は同じ村の仲間。だから一度は見逃してやる。という村人たちに対して、慈悲深い村長なのだとアピールするのも忘れない。
しかし、そんな彼の言葉は一人の青年、千夜によって霧散させられる。
「裏切り者はどっちだろうな」
「なに?」
デセオは千夜の言葉を理解できなかった。いや、理解はしていた眉を顰める程度には。しかし、それでも自分が真犯人だとバレない自信が彼にはあった。
(所詮は部外者。誰も奴の言葉など信じはしないだろう)
「初めまして、長殿。俺は千夜、お前たちが裏切り者と罵るミレーネの夫だ」
「夫だと。ならお前も気をつけた方が良いぞ。その女は平然と村人を裏切るような奴だからな」
嘲笑うように吐かれた言葉に、エリーゼたちは憤りを抑えるので必死になる。今回は暴力で解決したって意味がないからだ。
「忠告をどうも。だが生憎と俺はミレーネを心のそこから愛しているし、信じている。だから心配無用だ」
自信満々に宣言する千夜にデセオの表情は少しずつ亀裂が入っていく。
「さて、今回俺たちが来たのは本当の裏切り者、真犯人を暴き出すためだ」
「何を馬鹿げた事を。裏切り者はそこに居るじゃないか」
デセオの言葉に村人たちも同意の言葉を千夜立ちに投げつける。
「黙れ」
エリーゼたちでさえ初めて聞く低く威圧的な言葉。
それは願いではなく命令。
それだけで村人たちは無自覚に黙り込む。
そう、忘れてはならない。この中で一番、憤りを感じ、激怒しているのは紛れも無く千夜なのだ。
「改めて始めるぞ。おい、お前」
「お、俺か?」
「そうだ」
千夜は近くに居た青年エルフに呼びかける。
「この村の掟では人間と関わることはどうなっている」
「勿論禁止だ。昔は取引などしていたが襲撃されて以来、人間たちだけでなく他の種族とも干渉しない事になった。二度とあのような事は嫌だからな」
「そうか。これで真犯人は逃げる事も隠れる事も出来なくなった」
「何を言っている」
青年エルフは千夜が言っている意味が出来ないでいた。しかし一人だけは違った。
(まさかあの現場を見られていたのか? いや、そんな筈はない。あの場所はだれも近づけないため他人避けの魔法も掛けてあった)
デセオの表情の亀裂が増していく。
「さて、今から謎解きを行う。俺が話を聞いて疑問に感じた事を一つ一つおさらいして行く」
「そんな無駄な話を聞く余裕は私にはない! さっさと立ち去らなければ処刑にするぞ!」
「何を焦っているんだ長殿」
「くっ」
全て見透かしたような視線にデセオの偽りの仮面は今にも剥がれ落ちそうになっていた。
「まず一つ目。長殿どうしてお前はミレーネが人間たちと密会している所に遭遇しながらすぐさま介入しなかった? 人間と関わる事が禁じているのならば即座に止めるべきだ。にも拘わらず、お前は目撃し眺めていただけで何故止めに入らなかった?」
「相手は複数いた。それに密会の現場を目撃したのだ。最後まで見届けてから問い詰めたほうが良いに決まっている」
「なるほどな。なら次だ。ミレーネが密会していたその夜の日に村は襲われた。つまり前々から準備していなければ不可能だ。その時お前は何処に居たんだ?」
「私は密会を終えたミレーネを探していたんだ」
「それはおかしいな。お前は密会中に目撃したはずだ。にも関わらず探す必要があるのか」
「……一度見失ったのだ」
「そうか。だが、それもおかしい。その時の年齢でいえばお前は12歳、ミレーネは9歳だ。お前は9歳の子供を見失うほど無能だっと言う事だな?」
「違う! その場にはまだ人間たちも居た。だから直ぐには動けなかった。それだけだ!」
無能という言葉に強く反応したデセオ。その事に千夜は薄らと笑み浮かべる。
「なるほどな。なら、お前はそれが密会だと何時知った?」
「話す内容が聞こえたんだ。私は天才だからな。数百メートル離れた会話も聞く事が出来る」
自慢げに答えるデセオ。しかしそれが千夜の誘導尋問だとは気付いていない。
「それは凄いな。しかしそれだとお前はどうして、密会の内容を知りながらも村に知らせるのではなく、ミレーネを探す事を優先したんだ。お前が伝えていれば被害は最小限に抑えられたかも知れないのにだ」
「そ、それは……」
「それにだ。何故ミレーネは村を襲わせる必要がある。私利私欲の為とは聞いているが、まだ9歳の子供だ。そんな子供が私利私欲のために村を危険にさせる理由が見つからない。ましてや長の娘で時期長がする事ではないな」
「そ、そんなの決まっている! 外の世界に憧れてしたんだ!」
「ただ、外の世界に憧れそこまでする必要が何処にある。外に出たければそれなりの年齢になってから外に出れば良いだけの事だ。何たたってエルフは長寿なんだからな。時間は沢山ある」
デセオが考えた嘘の内容が次々と崩壊している。
「しかし、村を襲わせミレーネを裏切り者にする事で利益を得るものが一人だけ居る」
その言葉にエルフたちはいったい誰なんだ。と真剣な眼差しで千夜を見つめ、デセオの仮面は剥がれ落ち、既に歯軋りさえしていた。
「それはお前だよ、長。いや、裏切り者デセオ」
エルフたちは驚愕の表情でデセオを見つめる。
「……しょう……こ……は………証拠はあるのか! 私がしたという証拠はあるのか!」
激怒するデセオ。確かに自分が真犯人だと決め付けられて怒らない人間は居ないだろう。しかし、それが焦りから答えたとは誰も気付いていない。
異世界人である千夜以外は。
(その言葉を口にした時点でお前が犯人なんだよ)
「証拠ならある。エルザ」
「はい、こちらに」
エルザが投げ捨てるように千夜の前に置かれた人物。足と手を縄で縛られた男は懇願するようにデセオを見つめていた。
(なぜこの男がここに居る! やはり先日の密会を目撃されていたのか。だが)
「その男がどうした。私は知らないぞ。それにその男が私が村を襲わせたと言っても、私を真犯人に仕立てるためにお前たちが用意した人物だと村人たちはそう思うだろう」
「確かに、こいつだけではそうかもしれないな。だが、これならどうだ」
そう言って千夜は懐からあるものを取り出す。
「それは記録魔水晶」
エルフの誰かが答える。
「その通りだ。これは記録魔水晶。この中には真犯人の証拠が残っている」
千夜の手にある記録魔水晶を見てデセオは汗が止まらなくなっていた。
(止めろ! 止めろ!)
心の中で何度もそう念じ、懇願し、命令する。
そんな時心を見透かしたように千夜は最後にもう一度デセオに視線を向け、笑みを浮かべた。
「止めろ!」
声に出された言葉。しかし、その願いが聞き届けられる事は無かった。
映し出された真犯人の一部始終。そこには地面に横たわる男とデセオの密会の内容だった。
『これが、今回の薬草だ』
『確かに。それにしてもまさか本当に長になるとは思っていませんでしたよ。偶然あの時会って村を襲って女子供を数人なら誘拐しても良いって言われた時は半信半疑でした。しかし、本当に襲わせて村の長になり、こうして薬草を下さる本当に貴方は良い人だ。しかしですね、そろそろ品薄になり始めましてな。どうかまた分けてくださいませんか。こちらで準備いたしますので』
『……ただし今回は見返りを要求するからな』
『ええ、構いませんとも』
映像が消える。
「これで分かっただろう。裏切り者はミレーネではない。数年間お前たちを騙し、欺き、私利私欲のために村人をこの男に売ったのは、そこに立つデセオだ」
デセオはそんな千夜の言葉すら耳に入ってこなかった。怒りで頭がいっぱいだったのだ。
(どうしてこうなった。私はただ、一番になりたかっただけだ。あんな女が一番なんて認めるわけにはいかない。私こそが一番なのだ! それもこれもお前が戻ってきたせいだ!)
「ミレえぇぇネえぇぇぇぇ!」
懐から取り出した短剣を握り締め、ミレーネに襲い掛かろうとする。
しかし、それはけしてありえない事だった。
視界が歪み、反転する。
何が起きたのか理解できないデセオ。しかし、最後彼の目に焼きついたのは憤りを顕にし、睨みつける一人の怒鬼の姿だった。
「お前は死んでも許さない」
怒気を含み低音で呟かれた言葉を聞く事も無くデセオは命を落とすのであった。
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