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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第十四幕 和也VSジャム
しおりを挟む協会本部内にある訓練所の一つへと遣ってきた和也とライラ。そこでは、何十人もの騎士が訓練に励んでいた。
素振りする者、摸擬戦を行う者、休憩するもの様々だ。
「いつもは、全員で同じ事をするのだが、今は自由訓練のじかんなのでな」
「自主訓練とは違うのか?」
「自主訓練は各々が訓練をするかしないか決めるが。自由訓練は必ず訓練に参加だ。そのかわり訓練の内容は各々で決めるのだ」
「なるほどな」
説明を聞き納得のいく和也。
(サボっている奴がいるかと思ったが、一人もいないようだな)
強制参加のため、どうしても身が入らない者だっているだろう。しかし、和也が見た限りではそういった者は誰一人として居なかった。
(それだけ、神への信仰が厚いのか。それとも他種族に負けたくないだけなのか)
そんな事を考えていると、
「全員訓練を中断せよ!」
女性からとは思えないほどの大声に内心驚く和也。
「これより、新しく私の部下になるものを紹介する。カズヤ・アサギリだ。皆も噂で知っていると思うがたった三ヶ月でSSランクにまで上り詰めた男だ。しかし噂は所詮噂だ。これよりカズヤの実力を知るため一対一の摸擬戦を行う。誰か戦いたいものはいないか」
ライラは部下に視線を配る。その中に一人の男が手を挙げる。
「ならその役目、自分がお受けしても宜しいでしょうか!」
気合の篭った男の声。
身長は175前後で、細身ではないが引き締まった体格をし、金の短髪が特徴的な男だった。
「ジャムか。同じ槍使いだし良いだろう。カズヤも問題はないな」
「ああ、俺も構わない」
平然と了承する和也の態度が気に食わないのか鋭い視線を向けるジャム。
騎士たちは中央に移動した二人の戦いを観戦するべく円を作る。
「これより、親睦試合を行う。双方全力を出して奮闘するように」
審判役ライラである。いつもは他の者に任せるのだが、今回は自分ですると言い出したのだ。それがジャムや他のものとっては不愉快でしかなかった。
「双方構え!」
互いに白銀の槍と蒼槍を構える。
ピリピリとした緊張感が静寂を生み出し、
「始め!」
ライラの合図のもと、静寂が打ち破られる。
最初に動いたのはジャムである。
槍は剣や刀と違い、間合いが広い武器である。そのため迂闊に近づけば返り討ちにあい易い武器である。
また、槍自体が長いため剣や方に比べて扱いづらい武器でもある。しかし、達人となればその両方が無に帰すのだ。
相手の間合いを感覚的に測り、自分の間合いと重ねる。
僅かに届く距離を感じ取ったジャムは相手の喉を的確に狙う。
しかしジャムの槍は和也の喉を掠める事も出来ずに空を刺す。
躱したわけではい。和也は相手の槍の軌道を逸らしただけなのだ。
槍とは剣以上、矢以下の間合いのある武器であり、槍とは刺す武器である。そのため横からの衝撃で軌道が変わりやすいのだ。
勿論、ジャムも一撃目で勝負が決まるとは思ってはいない。どちらかと言えば最初の一撃は相手の出方を窺うための一撃だったのだ。
(なら、これならどうだ!)
再び攻撃をしかける。しかしそれも軌道を逸らされる。
そんな攻防が何度も続く。
観戦する騎士たちから見れば和也の防戦一方に見えるだろう。勿論ジャムはそうではないと分かっていた。しかし、徐々に軌道を逸らすのが遅くなっていることにジャムは内心笑みを浮かべる。
(体力には自信がないのか。それともただ単に自分の攻撃を裁ききれなくなってきたのか。いや、違う。この程度で遣られる男ではない)
油断大敵と浮かれそうになる心に喝を飛ばす。
それでも徐々に遅くなることに、ジャムは浮かれ始める。
(なら、これでどうだ!)
顔面目掛けて放たれた槍の切先は和也によって軌道を逸らされる。しかし、
「くっ!」
和也の表情が僅かだが歪む。その原因は和也の左頬に浮かび上がる一筋の赤い線。
それがジャムを完全に思考を鈍らせた。
(やはりそうか。この男はもう捌ききれないのだ! なら次の一撃で決めてやる!)
警戒することなくただ放たれた一撃。勢いも、信念も感じない、幻の勝機に酔いしれた男の一撃。
それは和也にとって待ち望んだ瞬間であった。
不適な笑みを浮かべ平然と槍を躱した和也は流れるような動きでジャムの喉に槍の切先を突き立てる。
「そいれまで! 勝者カズヤ!」
ライラの宣言により勝者が決まる
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