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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第三十二幕 退屈と元勇者
しおりを挟むどこか眠たそうな表情を浮かべる和也、それにたいしてライラは真剣な面持ちで和也に鋭い視線を向けていた。
「率直に聞こう。カズヤ、お前はなんのために力を求める」
「死にたくないからだ」
「なら、なんのために戦う」
「………」
二つの目の質問に和也の口は開かない。負い目や罪悪感、これからの任務に不利になるからではない。
ただ単に考え事がなかったから。
(なんのために……確かに俺はなんの為に戦っている。確かに守りたい者達がいるのは間違いない。だが、今回の戦闘ような守りたい者たちに被害が出るわけでもないのに俺は戦った。情が移ったから? いや、違う。なら何のために……)
「それとも、こう訊いたらいいのか。何故笑っていた?」
(笑っていた? 俺が? 戦場で?)
ふと、脳裏にヘロンとの戦いが蘇る。
(楽しかった。ああ、そうだ。俺は楽しかったんだ)
普段は深淵に眠る闘争本能。戦場でない限り思い出すこともない。こうやって誰かに問われなければ、無自覚のままだっただろう。
「何故戦うのか? 何故笑うのか? それは、最高の自己満足を得るためにだ」
「自己満足だと?」
「そうだ。俺が元居た世界、正確には俺が住んでいた国は平和だった。確かに罪を犯す者たちも居る。それでも他の国に比べたら遥かに治安が良い国だ。だから俺は退屈していた」
「退屈だと! 大切な者を失うこともない国に生まれながら退屈だと、それは傲慢だ!」
憤りを顕にするライラ。しかし和也はそれに対して言い返すことは無かった。
「ライラたち、この世界に生まれた者たちからしてみればそうかもしれないな」
笑みを浮かべ口を開く和也だが、どこか悲しみを含んでいた。
「それでも俺は退屈だったんだよ。でも、最初はどうして退屈だったのか分からなかった。親友と遊ぶのも隙だった。ゲームや本を読むのも好きだった。だが、それは一時的に退屈を紛らわせる事しか出来なかった。で、ある事件を境に俺は退屈を知り、その対価に大切な者たちを失った」
「それってつまり……」
「ああ、俺の自業自得なんだろうな。俺はあの時助けた筈の親友達に拒絶された衝撃で人間不信になっていた。だが、その原因を作っていたのは俺なんだろうな。きっと武器をもった相手との生死を賭けた緊張感、生き延び、相手に勝った達成感。それが俺の退屈を消し嬉しくて笑みを浮かべていたんだろうな」
「そうか。それでもお前は武士なのだろう?」
「武士か……そうなのかもな。強者との戦いを求める。あはは、そうかもしれないな」
自嘲気味に呟く和也。そんな彼に対してライラは口を開いた。
「これは私の考えだが、和也は武士なのだろう? 武士がなんなのかまだ解らないが、化物とは違うことぐらい私にも解る。なら親友達と仲直り出来るんじゃないのか?」
「あいつらと……いや、無理だな」
「どうしてだ!」
「別に拒絶されることが怖いわけじゃない。だが、それでも無理だ」
「だから、どうしてだと訊いている!」
「あいつらが優しすぎるからだよ」
「やさしい過ぎるからだと」
「そうだ。俺達が元居た世界にも関係してくることだが、俺達の世界には人間しか存在しない。確かに肉食動物や草食動物も存在するが、魔物や魔族、亜人種は存在しないのさ」
(ほんと、私からしてみれば羨ましい世界だよ)
「だからこそ、亜人種や魔族、魔物に興味を持つし、警戒もする。それでもあいつらには亜人も魔族も関係無い。悪いことをする奴が悪だ。見た目が異なるだけで敵だとは決め付けない。それがあいつらだ」
「それはつまり」
「共に魔族軍と戦うことは可能でも、非戦闘員や亜人種との戦いは無理だってことだ」
「なんて事だ……」
思わず頭を抱えるライラ。それもその筈で、勇者は人間種からしてみれば希望の光だ。だが、その勇者が人間以外の者達とも友好的になろうとしていることに落胆の念を覚えるしかなかった。
「ま、魔王討伐は進んでしてくれるだろうよ。そうしたら元居た世界に戻して後のことはお前達で好きにすればいいだけの話だ」
「だが、それはあまりにも勝手すぎるのでは?」
「元々別世界の人間に他国の王を殺させようとさせているんだ。一つ二つ増えたところで変わらないさ。それに元の世界に帰してやれば、その後の事なんて知る由もないしな」
「お前、本当に召還された勇者なんだよな?」
和也の言葉に思わず疑いの念を向けてしまう。
「元勇者だ。今は、武士であり、ライラの部下だ。それに元の世界に戻るつもりもない。俺にとってはこの世界の方が生きやすいからな」
「まったく恐ろしい勇者だよ。お前は」
呆れて笑みを零すライラに和也は今日始めて否定する。
「だから、元勇者だって」
「そうだったな」
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