鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第五十六幕 2週間と信用するな

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 初戦は和也とエリーゼたち『月夜の酒鬼』によって切り抜けた。
 その事に安堵する兵士や逃げ遅れた住民たち。だが何も解決していない。未だ港は魔族軍によって占拠されている状態。このままでは敵の援軍が易々と港に上陸されてしまう。それはなんとしても防がなければならない。
 しかし駐屯地にいる帝国軍は最初の半数以下の4000弱、まだ敵は1万4000近い兵が居る。このままでは間違いなく都市ロアントは魔族軍に占領されてしまう。
(時間との勝負だな)
 サイロの報告で帝国軍3万5000が帝都を出発したと報告が通信結晶を使って齎された。しかし、徒歩で10日以上掛かる道のり、それも3万5000となると2週間は掛かる。
(その間俺たちだけで勝てるのか?)
 サイロは呻き声とも呼べる声を洩らす。

 トントン。

 答えの出ない悩み中に突如扉が叩かれる。

「誰だ?」
「月夜の酒鬼のエリーゼです」
「なんと!?」
 この都市を守ってくれた英雄が着てくれた事に喜び混じりの声が室内に響く。
 慌てて扉を開き、中に入るよう促す。
 月夜の酒鬼メンバーのエリーゼ、ミレーネ、クロエ、エルザ、千夜の姿をしたラッヘン。そして和也が室内へと足を踏み入れる。

「それで、どうされましたかな?」
「いえ、援軍は何時頃到着するものか気になりまして」
「……早くても2週間後かと」
「そうですか。ならそれまでの間は私たちでなんとかしましょう」
「しかしそれでは負担に」
「私たちが防衛するのは都市の外。港から都市へと続く街道です。ですが、もしかしたら迂回して来るかもしれませんので、そちらはお願いします」
「分かりました。まったく軍人だというのに貴方がたに頼らなければならないとは、恥ずかしい限りです」
「魔族は人間、獣人、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、全て共通の敵ですから。気を落とすことはありません」
 貴族としての過ごしてきた時の様に社交辞令をもって受け答えをするエリーゼの姿を見た、和也は女って凄いなと恐ろしくもあり、本当の姿を自分だけ見せてくれる優越感と嬉しさが同時に込み上げてくる。

「そう言って貰えると助かります。出来るだけ早く援軍がこれないか聞いたところ。どうやら勇者様たちが既にこちらに向かっているとの事です」
「そうですか。なら早くて2日後には着くでしょうね」
「そうですか。ですが正直なところ私は異世界の勇者様よりも貴方方に魔王を倒して欲しいと思っています」
 サイロの言葉にエリーゼたちは苦笑する。
 政治的な事を言えば異世界の勇者は全て人間、つまりヒューマン。魔王を倒したのち、国同士の権力争いの火種になる可能性もある。
 もしも権力争いになれば間違いなく名乗りを挙げるのは、勇者召喚を行ったファブリーゼ皇国。朝霧奏を召喚したレイーゼ帝国。
 そして、人間が魔王を倒したと言う理由でフィリス聖王国だろう。
 他の国は間違いなくそれぞれの国を推薦するか、傍観を決め込むだろうが、間違いなく次の戦争に発展する可能性がある。
 サイロもその事は薄々気づいていた。だからこそ。そうならない為にエリーゼたち。特に千夜に倒して貰いたいのだ。
 客観的な事を言えば、勇治たちより遥かに強く、実績と信頼があるからだが。

「それだけ信頼してくれるのはありがたいわ。でも、旦那様は戦争が嫌いなの。勿論自分が住む街が危機に陥りそうになれば今回のように動くけど。そうでないのなら何もしないわ」
 エリーゼは一つ嘘を吐いた。嫌いなのではなく、興味が無い。だが、ここで本心を言えば間違いなく期限を損ねると思い、言葉を変えたのだ。

「誰だって戦争は嫌いです。軍人の私ですら嫌いですから」
 仕方が無い。と表情に出しながら返答する。

「それでは私たちはこれで。明日の為に休ませて貰います」
「そうしてください。それと今日は本当にありがとうございました。都市ロアントを代表してお礼を申し上げます。それと明日からもお願いします」
「ええ、分かったわ」
 笑顔で返答したエリーゼたちは退出する。室内に残されたのはサイロと和也のみとなった。

「貴公も今日はご苦労だったな。明日に備えて休むと良い」
「そうさせて貰う」
 随分と態度が違うことに苦笑してしまう。仮面を被っているおかげで相手には分からない。

「それと一つ忠告しておく」
「なんだ?」
「今日は助かった。だがそれは非常時だったからに過ぎない。あまり好き勝手な行動は控えて貰いたい」
「ああ、善処しよう」
 簡素な返答に眉を潜める。

「それとこっちからも一つ忠告しておく」
「なんだ?」
「あまり勇者を信用するな」
「どういう意味だ?」
 フィリス聖王国に仕える兵士から聞かされる言葉ではない。その事にいっそう険しい表情になる。

「今回戦って分かった事だが、ただの兵士なら勇者でも勝てるだろう。だが、相手の指揮官クラス。それも四天王の副官クラスともなれば絶対に無理だ」
「どうしてだ? まさか勇者はそこまで強くないと言いたいのか?」
「違う。人間に似ているからだ」
「………そういう事か」
「ああ」
 何を言いたいのか理解したサイロは小さな声音で返答する。
 和也も話を終えると書斎を後にし廊下を歩く。
(あいつ等にはまだ無理だ)
 仲間が殺されそうになったから殺した。確かに一歩を踏み出した事には間違いは無い。だが、難しいのはその次なのだ。
 再び殺すとなると、どうしても前に殺した人物の顔と重なったり、その時の感触を思い出したりする。和也はそれを恐れているのだ。
 そうなれば間違いなく敵に隙を与えることになり、殺される確率が上がる事を。

「頼むから止めを刺すのが勇治で無い事を祈るだけだな」
 拳を握り締め廊下を歩く。
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