鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第五十九幕 嫌味と凄み

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 和也が出て行った書斎では重い空気が漂っていた。
 エリーゼたちは和也の正体を知っているためか気分は良くない。だからといって表に出すほど子供でもない。
(私たちも成長したわね。特にエルザは)
 千夜の事になると暴走しやすいエルザだが、今はまるで無関心とでも言いた気な態度で勇者たちを眺めていた。
(このままだと話も進まないし、)
 さっさと終わらすべくエリーゼは話題をふる。

「そろそろ教えて貰っても良いかしら?」
「あ、すいません。そ、そうですよね!」
 ようやく気がついた勇治は慌てて謝罪し本題へと進む。

「僕たちが今日中に着けたのは称号のおかげなんです」
「称号ね……」
(道理で速いわけよ)
 勇治の言葉に納得したエリーゼは内心愚痴るかのように吐き捨てる。

「って事はドラゴンか何か倒したのかしら?」
「いえ、僕たちの称号は元々あった物なんです」
「最初っから?」
「はい。セレナさんが言うには僕たちには勇者として召喚された時に神の贈り物、もしくは加護、資格者のどれかが影響してあるそうなんです」
「なるほどね。でもそれだけの力があれば私たちと戦ったとしても互角に戦えたと思うんだけど?」
「そ、それは………」
 エリーゼの問いに言い淀む。
 そんな勇治に代わって真由美が代弁する。

「まだ覚醒してなかったのよ」
「覚醒?」
「そう。称号はあったけど、使えなかったの。どうして今まで仕えなかったのかは言えないけど」
「そういうことね。将来貴方たちは必ずその称号に見合うだけの存在になる。だけど今まではそうではなかったということね。おめでとう。称号が使えるようになって」
「…………」
(なによ、嫌味のつもり! 腹立つ!)
 笑みを浮かべて賛辞を贈るエリーゼの言葉が気に食わなかったのか内心怒声を吐き捨てる。

「なら明日から頑張りましょう。今日攻めて来た数よりも多いはずだから貴方たちにも頑張って貰わないと困るわ」
「分かってるわよ!」
「そう。なら、私たちはこれで失礼するわね」
 大人の余裕なのか、はたまた和也に対しての態度が気に食わなかったのか、それとも本心なのかは分からないがエリーゼたちは笑みを浮かべたまま書斎を後にする。


 そんなエリーゼたちの背中が見えなくなると、

「なによあの態度腹が立つ!」
「私たちは前に千夜さんに色々質問しましたからね。それが気に食わなかったのでしょう」
「いつの話よ。女々しいにも程があるわよ!」
「愛する人に尋問染みた事や意見を押し付ければ誰だって嫌です」
「ま、確かに私だって勇治を馬鹿にされたら嫌だけど」
「真由美……」
「それにしても凄かったな。あれが貴族婦人の凄みって奴か」
 他人事のように片付ける正利の言葉に嘆息する真由美と紅葉である。

「それよりサイロ殿」
「な、なんでしょうか!」
 完全に女性陣の攻防に気圧され空気となっていたサイロは突如紅葉に声を掛けられて震える声で返事をする。

「私たちはこれから負傷した兵士や民間人の治療を行いたいと思うのですが構わないでしょうか?」
「心遣い感謝します。勇者様方のお手を煩わせて申し訳ありませんがお願い出来るでしょうか? きっと兵士たちの励みにもなりますので」
「ええ、これぐらいの事構いません」
「部下に案内させますので、どうかお願いいたします」
 まるで聖母のような包容力のある紅葉の笑みにサイロは涙腺が緩みそうになり、今回の事が片付いたら里帰りする事を心に刻むのだった。


            ********************


 退出した和也は時間つぶしにと都市ロアント内を目的も無く歩いていると城壁の上に来ていた。
 都市ロアントを一望できる場所だが、夕闇に覆われた今では詳細に見ることは叶わない。ましてや人口の大半は魔族侵攻に合わせて近くの村々や他の都市に避難してしまっている。そのため街には殆ど灯りは無く、夜襲に備えての松明が等間隔に置かれているのと最終防衛基地となている伯爵家の屋敷にしかなかった。
 そんな一瞬とも言える都市の変貌した姿に和也は言葉が出てこなかった。
 別に悲惨な姿に悲しみも憤りも感じない。結果は結果。反省も後悔もない。だからこそ同情もない。今目の前にある光景が全てなのだ。と受け入れるのみ。
 少し冷たい潮風が和也のウィッグを靡かせ、早く基地に戻れと急かす。
 だが、和也は戻りたくない。理由は勇治たちが居るからだ。
 未だに引き摺っている訳ではない。だがもしもバレた時が面倒なだけなどだ。完全に親友として、友人として、家族として縁を切った和也に話すことは一切ない。
 だが、向こうは違う。
 縁を切ったとはいえ、10年近く、奏に至っては12年間の間柄なのだ。どういった人物なのか和也はよく知っている。だからこそ嫌なのだ。
(面倒事だけは勘弁だ)
 確かに仮面とウィッグを身に着けているからバレる可能性は低い。だが、声だけはどうすることも出来ない。近くに居れば高確率で話しかけられる。それだけは回避しなければならない。
 だが、そんな和也の心情などお構い無しにと潮風は先ほどよりも強く背中を押す。

「ああ、分かったよ。戻れば良いんだろ。明日に備えた作戦会議もあることだろうしな」
 詳細な時間帯は決まっていないが、和也、月夜の酒鬼、勇者パーティー、ロアント駐屯軍が明日どのように動くのか決めなければならない。

「何事も無いことを祈るか」
 会議中高確率で揉めるであろう事を信じてもいない神に軽口で頼みながら城壁から飛び降りるのであった。
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