鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第七十八幕 帰還と適当

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 都市ロアントを出発して十日目。
 途中で都市ロアントに向かう兵団と会い軽く情報交換して予定より遅れたがそれは極僅か許容範囲内だ。
 で、日がもうすぐで天辺へと到達すること和也たちは帝都ニューザが視認出来る距離まで来ていた。
(ようやくか)
 馬に揺られながら新婚旅行以来の長旅に和也は内心嘆息する。
 夜営の時には月夜の酒鬼の武勇伝を肴に盛り上がり気分転換にはなったが、それでも疲労が堪らないわけではない。それがようやく解消されると心を弾ませた。
 十数分馬に揺られながら和也たちは帝都城門を潜った。
 そこに待ち受けていたのは派手で賑やかな凱旋パレードだった。和也にとって凱旋パレードは二回目だが人に注目を浴びるのはどうも慣れなかった。
(早くベッドで寝たい)
 手を振る事無く内心そんな事を考えていた和也は馬に乗り換えたエリーゼたちの後姿を眺める。
 笑顔を浮かべ手を振るエリーゼ、ミレーネ、クロエ、拳を高々と挙げるタイガー、何もしないエルザとスケアクロウ、そして微笑を浮かべて軽く手を振る千夜姿のラッヘン。そんな彼らが一挙手一投足動かすたびに帝都市民から歓声が沸き起こる。
(俺っていつもそんな感じなのか?)
 ラッヘンの姿に愚問を浮かべる。
 肩越しに視線を勇者たちに向けるとこちらも笑顔で手を振っていた。初めてで緊張しているのかどこかぎこちなさを感じる。勇治も笑顔を浮かべて手を振っているが、どこか無理やり遣っているようなそんな感じだ。きっと真由美たちに言われて仕方なく遣っているのだと和也は推測し視線を前に戻す。
 結局その後王宮に入れたのは凱旋パレードが始まってから一時間が経過した頃だった。
(疲れた)
 内心項垂れる和也。
(念のためにマップと危機察知で調べたが敵意を向けてくる者は居たが殺意を向けてくる者は居なかったな)
 色々と考えすぎなのかもなと思いながら和也は頭を切り替え、謁見の間にて跪く。
 現在謁見の間には帝国貴族と魔族対策会議で入国していた各国の重鎮達が勢揃いしていた。その中心で跪く月夜の酒鬼、和也、勇者たち。

「表を上げよ」
 玉座に座るベルグからの一言で和也たちは俯いていた顔を上げる。
(危ない寝るところだった)
 なんど経験してもこの堅苦しい作法に慣れない和也はコンマ数秒遅れて頭を上げた。もちろんその程度で気づく者は誰も居ない。

「此度はよくぞ都市ロアントを護ってくれた礼を言うぞ」
 前口上とも呼べる台詞だがベルグの声が弾んでいた事はこの場に居る誰もが感じた事だ。

「さて、そちたちには何か褒美を与えなければな。何か欲しい物でもあるのなら申してみよ」
 ベルグにそう言われるが誰も言葉を発しようとしない。
 それはその筈で、まず和也は他国の人間である。ある程度の要望なら通るかもしれないが出すぎた事を言えば国際問題の切っ掛けになる恐れがあるからだ。ましてや元々仲の悪い両国。敵視している者からしてみれば絶好のチャンスである。
 勇者たちの面々は功労者の一人として考えられているが、自分達は他の者たちと比べて何もしていない。そのため要望出来る立場ではないと思っているのだ。
 月夜の酒鬼のリーダーは千夜である。しかしそのリーダーは別の人物であるため何を言えば良いのか分からないのだ。
『創造主様』
『なんだ?』
「なんて答えれば宜しいでしょうか?』
 ラッヘンが念話を通じて問いかけて来る。
 しかし和也は言葉に詰まる。今のところ欲しいものが無いからだ。お金は十分にあるし、地位や権力にも興味はない。それ以外に欲しい物があるかと言われても困るのだ。
(あ、そうだ)
 ふと、思いついた事をラッヘンに伝える。本当は自分で言おうかと思ったが千夜の方が都合が良いと思ったからだ。それが千夜の株を上げる事など一切考えていなかった。その結果後日千夜の新たな噂が広がる切っ掛けになるのだが。

「なら、俺から良いか」
「構わぬ」
 ラッヘンは千夜になりきりいつも通りの態度で言葉を発する。その姿に環とナヤタを除いた重鎮達は驚きのあまり目を見開いていた。

「正直欲しいものは無いが、お金で換算するならどれぐらいだ」
 こういう事はハッキリさせたい和也である。

「そうだな………月夜の酒鬼の活躍から考えて金貨250枚と言ったところか」
「そうか。なら、その金で都市ロアントに住む者たちに食料を送ってもらいたい。出来れば上質の良い物をな。それであまったら都市ロアントの復興予算にでも足しておいてくれ」
「本当に良いのか?」
「ああ。地位や権力には元々興味がないし、正直金にも困っていない。それなら必要としている者たち与えるた方が有効活用にもなるってものだ。ま、お金を渡さないのは今お金を渡されても住民達を困るだろうし。それなら食料の方が喜ばれるだろうからな」
「そうか。それならありがたくそうさせて貰おう」
 普通なら皇帝の威厳を保つために断っても良い所だが千夜とベルグの仲は誰もが知っている事のため文句など無く、それどころか帝国貴族達は笑みを浮かべていた。各国の重鎮達は驚いていたぐらいだ。

『相変わらずね』
 突如懐かしくも感じる女性の声が脳内に響き渡る。その事に思わず驚くが平然と声の持ち主に視線を向ける。
『そんなに可笑しいのか?』
「いえ、貴方らしいと思っただけよ』
『そうか。それよりもよく千夜偽者で本物が俺だと気づいたな』
『あら、どれだけ私が貴方を愛しているのか分からないの? 姿形が同じでも少し仕草が違うだけで私には分かるわよ。で、超解析スキルを使って確かめたったわけ』
『流石は環。『煉獄の鬼姫れんごくのおにひめ』『玉藻前たまものまえ』と呼ばれただけはあるな』
『煉獄の鬼姫は好きだけど、玉藻前は好きじゃないのよね。だってあれ日本三大悪妖怪の一角じゃない。まるで私が平然と人を殺す悪女みたいじゃない』
『よく言うな。見た目なんて悪女その者だし、ゲーム時代の時なんてギルド連合を焼け野原にしたのは何処のどいつだ』
『それを言われると返す言葉も無いわ。でも見た目が悪女って酷くないかしら』
『事実だからな。でも俺は好きだぞ、その見た目』
『あら、そうなの………』
『ああ。年上で高飛車の女を惚れ落とした時なんて最高じゃないか』
『貴方って昔から鬼畜って言うか、ドSよね』
『そうか?』
 謁見が行われている最中二人の鬼は楽しそうに念話で話ていた。
 結局その後、勇治たちも千夜同様ベルグに同じ事を頼み。和也は思い付かなかったので適当に訓練所の使用許可を頼み謁見は終了した。和也が頼んだときライラが頭を抱えたそうにしていた事は言うまでも無い。
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