鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

文字の大きさ
191 / 351
第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第七十七幕 鞭と美人の上官

しおりを挟む
 魔族撃退の知らせは直ぐに帝都知らされた。
 その事にベルグたち重鎮達は歓喜の声を上げる。
 その後詳細が伝えられるとベルグの指示で全世界に伝えられた。それにより帝都にすむ住民達は安堵しまるでお祭り騒ぎとさっていた。
 公開出来る情報には限度があるが、なるべく詳細に伝えられた。その中には今回の功労者である月夜の酒鬼、和也、そして勇者たちの事も伝えられた。勇者たちの事はサイロの気遣いによるところが大きかった。
 そんな帝都王宮会議室では、

「まさかこれ程早く魔族軍を撤退できるとは思いませんでしたな」
「ええ、まったくです」
 会議そっちのけで誰もが笑顔で会話を楽しんでいた。テーブルにはワイン、酒が置かれており完全に小さな祝勝パーティーが開かれていた。

「ライラ殿」
「何でしょうか皇帝陛下」
「貴方はとても優秀な部下をお持ちのようだ。報告によれば敵の主力戦力の一部を一人で倒しただけでなく、危機的状況を何度か救ったとあったぞ」
「お褒めに頂きありがとうございます。教皇様にも良い知らせが出来ました」
 嬉しくもあったがライラは正直和也の事が心配なのだ。
(嬉しさのあまり遣りすぎていないだろうな)
 あまり自国の戦力を他国に教えたくはない。兵士の数が知られたところであまり問題はないが個人の能力が知られる事だけは避けたいライラ。
(部下が強いとなれば間違いなく上司が強いと思われてしまうからな)
 その後も笑い声が途絶える事は無く、ちゃんとした会議は和也たちが戻ってきてからに改めてすることとなった。

            **************************************

 その頃とある一室では一人の人物が苛立ちのあまりワイングラスを壁に投げつけていた。甲高い音を発しながら割れたワイングラスは中身のワインを壁と床に撒き散らした。

「まったく余計な事をしよって。これでは私の作戦が無駄になっただけではないか! 帝国の馬鹿共を少しでも弱らせる筈が身内の活躍で失敗するなど末代までの恥ではないか!」
 息を荒くする人物は息を整えるべくオフィスチェアに体重を預ける。

「だが、ワシにはまだあれがある。最強の薬がな」
 新たなワイグラスに高級なワインを注いぐと喉を潤す。
 豪華な部屋一人の人物は不敵な笑みを浮かべる。その部屋には数人の女が倒れ込んでいた。

「さてと休んだ事だしまたこいつらを痛めつけて遊ぶとするか」
 男は無造作に置かれていた鞭を手にすると女達の許にへと歩み寄る。

「下等生物と愚者どもはワシに従っておけばよいのだ。ほら、さっさと立て!」
 振り下ろされる鞭によって、乾いた音と悲鳴が室内に響き渡るのだった。

            **************************************

 あれから数日が経ち、月夜の酒鬼。和也、勇者たちは帝都へ帰還する事になった。
 月夜の酒鬼と和也は出来るだけは早く帝都に戻りたかったが、勇者の疲労――勇治の精神――が思った以上に酷かったため馬車で帰ることとなった。それなら勇者たちを無視して戻れば良い話なのだが、そうもいかない。ベルグの指示で凱旋パレードをする事が決まったためだ。
 帰還するにあたって馬車が3台用意されたが、和也は断った。月夜の酒鬼、勇者たち、和也とそれぞれのる馬車が違うからだ。一人で乗るのが寂しい訳ではない。一人だけしか乗らないのに馬車を出すのはあまりにも効率が悪いからと和也は断ったのだ。結局和也は一人だけ乗馬で帰ることとなった。

「それでは月夜の酒鬼、勇者様方、フィリス聖王国の騎士今回は真にありがとうございました」
 南城門前で集結する人々。かれらはこれから出発する和也たちを――主に月夜の酒鬼だが――見送りに来ていた。その中には腕などを骨折した兵士の姿もあった。

「サイロ殿」
「なんだ、カズサ殿」
「これを負傷した兵士達に使ってくれ。それとこれはみんなで食べてくれ」
 和也はアイテムボックスから大量の――これまでの狩りで手に入れた――食料と中級回復ポーションをサイロに渡そうとした。

「すまないが、これは受け取れない。フィリス聖王国の騎士である貴殿にこれ以上迷惑は掛けられぬからな」
「そうか。なら、一友人としては駄目か? 正直俺は元冒険者って事もあってフィリス聖王国が掲げる人間至上主義が理解できないんだ。こうして人間と他種族が手を取り合い共に暮らしている。それなのにどうして他の種族を卑下にするのかまったく理解出来ないんだよ」
 フィリス聖王国の人間と言う事もあり、普通なら誰も信じなかっただろう。だが、和也の口から語られる言葉、一言一句に誰もが真実だと思った。

「なら、なぜカズサ殿はフィリス聖王国の騎士になった。貴殿の力なら何処でも直ぐに採用してくれそうだが?」
 サイロの口から吐かれた質問は当然の疑問だと言えた。

「何故だろうな。スカウトしてくれた上官が美人だったからかもな」
 はぐらかす言葉に全員が笑い出す。きっと言えない事情があるのだろうとサイロは悟った。

「それでこれは受け取って貰えるのか?」
「ああ、ありがたく受け取ろう。これで兵士も民達も喜ぶ」
「それは良かった」
「もしもフィリス聖王国に居辛くなったらレイーゼ帝国に来ると良い。その時は喜んで歓迎する」
「それは嬉しいな。だが軍の勧誘なら美人の上官で頼む」
「ああ、探しておこう」
 再び南城門前に黄色い笑い声が生まれる。
 こうして和也たちは帝都ニューザに向けて都市ロアントを出発した。
 必要ないと思えるが護衛に囲まれながら出発した和也たちに笑顔浮かべて手を振る都市ロアントの住民達。
 そんな彼らの笑顔を背に和也は馬の手綱を改めて握りなおすのだった。
しおりを挟む
感想 694

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。