鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第九十六幕 二人の子供と一つのパン

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(さて、あと残りは5人。いや、6人か。あの偽善者も無駄に頑固だな。ライラは完全に戦意喪失しているな。言い過ぎたかもしれないな。戦いの後で軽くフォローしておくか)
 視線を色々な方向に向けて状況確認を行った千夜。
(さて、どうするか。早く帰りたいんだがな)

「もう終わりにしないか。戦う意思はないんだが」
「なら、断罪されろ!」
「お前に殺されるのは一生御免だ偽善者」
「っ!」
「エクス、相手の挑発に乗るな! 漆黒の鬼夜叉。戦う気ないのならあんまり挑発するのは止めて貰えるか?」
「悪かったな。だが俺はアイツみたいな偽善者が一番嫌いなんだ。勿論正義のためにって言いながら殺す事が出来ないような臆病者よりかはマシだがな」
「私から言わせればエクスの信念は素晴らしいものだと思うが。確かに感情を制御出来ないのがたまに傷だが」
「俺はアイツが掲げる正義は正義だとは思わないがな」
「ほう、その理由は?」
 エクスが反論する前に訊き返す。

「エクスが掲げるのは正義ってのはフィリス聖王国にとって、人間至上主義にとっての正義だろ。それだと悪とか関係ないよな。ただ単に都合の悪い奴を殺してるだけだろ」
「なら、お前が掲げる正義はなんだ?」
「そんな物は無いな」
「何?」
 千夜の返答にレイだけでなく他の者たちまでもが目を細める。

「俺はただ俺の大事な者たちが安心して暮らせるなら何だってする。人間であろうが無かろうが害を成す奴は殺す。それだけだ」
「なら、何故俺たちを殺さない」
「今回は依頼だからな。それにここには大切な者たちはいない。だから殺す必要もない」
「なるほどな。ならお前が考える正義はなんだ?」
「そうだな……私利私欲で他人を傷つけたり殺したりする奴を殺す事かな……」
「なら、僕と変わらないじゃないか!」
「違うな。俺は差別なんかしない。助けを求めているのであれば人間であろうが、亜人種であろうが助ける」
「そんなの僕だって!」
「なら、お前に質問だ」
「………何だ?」
「お前の目の前に腹を空かせた人間の子供と獣人の子供が居ます。しかしお前の手にはパンが一個しかありません。さあ、どうする?」
「……パンをあげる……」
「どっちにだ?」
「………人間の子供にだ」
「だからお前は偽善者なんだよ」
「なんだと! 獣人は平然と人間を襲うそんな子供を助けるなんて出来るわけないだろ」
「お前は知らないのか。小さな子供は何もしらない無垢な子供なんだよ」
「それぐらい知っている!」
「だったら教えてやれよ。何が良い事で悪い事なのか。そうすればその子は良い子に育つだろうが」
「うっ………だったらお前ならどうするんだ!」
「そんなの簡単だ。パンを半分にして二人に与え、家に連れて帰り育てる。一時的な自己満足で終わるぐらいならパンは与えない。助けるなら最後まで助ける。そこに種族なんて関係ない。それが俺が考える正義だ」
「そ、そんなの詭弁だ。人間以外の生き物なんて凶暴で全員が悪だ!」
 ここで相手の考えを認めれば、これまでの自分を全て否定する事になる。そう考えたエクスは反論する。

「お前と話していたって一生無駄だ。で、レイ見逃してくれるのか?」
 分かち合えないと判断した千夜は直ぐに話を打ち切りレイに視線を向ける。

「悪いがお前を逃がすわけにはいかない」
「お前はもっと聡明な奴だと思ったんだがな。仕方が無い。ここからは俺も攻撃させて貰う。死なないようにはするがそれで死んだら自己責任だ」
 千夜は夜天斬鬼を鞘から抜く。

「さあ、始めようか。八天大蛇ヤマタノオロチ
 千夜の一言で長さ10メートル幅2メートルの大蛇が出現する。
 短縮詠唱によって発動した八天大蛇ヤマタノオロチは火、水、土、風、光、闇の全属性を出来た大蛇だけでなく、雷と氷で出来た大蛇までもが出現した。
 雷と氷は上位属性と言われる物で、火と水、水と風の両方を極めた者にしか手に入れる事の出来ない属性だ。正確にはその二つを組み合わせて出来る混合魔法である。そのためステータスには表示されないのだ。
 突如出現した見た事もない大蛇に全員が目を見開けた。

「これはこれは……」
「おいおい、なんだこりゃ」
「嘘でしょ……」
「ありえない」
「…………」
「参ったな」
 三者三様ならぬ、六者六様の反応を見せるレイたち。そんな大蛇の中心に立つ千夜は不敵な笑みを浮かべていた。

「この魔法は初めて出すからな。少し張り切りすぎた。どうも戦いとなると心が踊ってしまう」
(ライラにも注意されたからな)

「さて、頑張って倒してくれ。スサノオみたいにな」
 いったい誰の事を言っているのか解る筈も無いレイたちは襲い掛かってくるそれぞれの大蛇と戦闘開始した。
(夜天斬鬼を抜いたのは良いが、意味が無かったな。このまま立ち去っても良いが、どうするかな)
 千夜の力であれば八天大蛇ヤマタノオロチを遠隔操作する事など容易い。だがこのまま逃げれば間違いなく面倒になりそうな予感がしてならないのだった。
(エクスとかは一生恨んで暗殺者とかを送ってきそうだしな)
 そんな時ヴァイスと目が合う。
(頼んでみるか)
 千夜は隠密を発動してヴァイスへと近づく。
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