鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

文字の大きさ
224 / 351
第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第百十幕 最強と万能

しおりを挟む
 次の日。千夜は久々の休暇を愛する妻たちと過ごす事にしていた。と言っても、早朝だけは何時もと変わらない。
 何時ものように起き、着替え、ストレッチをしたあと朝稽古を行う。その日によって参加するメンバーも異なるが、今日は何時も同じエルザとタイガーだけだった。
 軽く素振りをしたあとエルザとタイガー相手に模擬戦を行う。これが何時もの日常だ。これは余談だが、千夜たちの戦闘音がエリーゼたちの目覚まし時計代わりになっていたりもする。
 一時間半模擬戦を行った千夜たちは汗を流しリビングへと向かう。少し早めに切り上げていたエルザは朝食の準備の手伝いをしていた。

「旦那様おはよう」
「おはようエリーゼ。ミレーネもクロエもおはよう」
「おはようございます」
「おはようなのじゃ。ぅふあ~」
 朝が弱いクロエは目を擦りながら自分の席に座る。

「旦那様今日は何するの?」
「いや、今日は特に何も無い」
「だったら今日は一緒に居られるのね!」
「ああ」
「だったら今日は――」
「エリーゼ様。朝から騒々しいです。そう言った話は朝食後にしてください!」
「解ったわよマリン」
 マリンに叱られて項垂れる姿はまるで子犬のようであり、そんな姿を見て千夜は可愛いと内心思うのであった。

「それじゃあ、頂こうか。頂きます」
「「「「「「「「「頂きます」」」」」」」」」
 千夜の後に続いて、エリーゼ、クロエ、ミレーネ、エルザ、タイガー、ラム、セバス、マリン、ロイドたちは合掌する。
 それから一時間、他愛も無い話をしながら食事終えた千夜たちは食後の紅茶を飲みながら、何をするか話し合う。
 結局この日は外に買い物し、屋敷に帰ってからはただ雑談して一日を終えた。


 次の日千夜はエルザ、タイガー、ラムの四人で奴隷商に向かっていた。

「ラム、本当について来るのか。正直子供には見せたくないんだが」
「だいじょうぶ。これも勉強」
「そうか」
 社会見学の一環としてついてくるようだが、ラムの興味は周りの出店に向いていた。
 歩く事数分、大通りに並ぶ店の中で唯一不気味な雰囲気を醸し出す建物に到着した。ここはミレーネ、クロエと出会った奴隷商だ。
 ドアを開け中に入ると前と変わらぬ光景が広がっていた。
(相変わらず薄気味悪い場所だ。よくも大通りで仕事できるな)
 内心そんな事を思いながら、この店の店長である奴隷商人に近づく。

「これはこれはセンヤ様、お久しぶりでございます。して今日はどういった奴隷をお探しでしょうか?」
 奴隷商人の中で既に一番の顧客となっている千夜に身軽な動きで近づく。

「前と一緒だ。数はまだ決めていないが、犯罪奴隷以外の奴隷たちを見せて貰えるか?」
「畏まりました。して、後ろのお二人は?」
「ああ、こいつらは俺の側近兼護衛だ。だから気にするな」
「わ、解りました」
 鋭い視線に強烈な威圧に思わず尻餅をつきそうになるが、直ぐに千夜を案内する事で免れた。
 奴隷たちが居る地下室に向かうとそこには25人弱の奴隷が檻の中に入れられて居た。

「この中で犯罪奴隷は何人だ?」
「はい。五人です。本当なら犯罪奴隷は扱わないのですが、売り手からどうしてもと言われまして仕方なく」
「そうか」
(五人か。となると残りは22人微妙だな。まあ、良いか)

「この中に病気持ちや怪我人は居るか?」
「はい。一人だけ」
「どいつだ?」
「この女です」
 檻の中には片足を失った17、8歳の人間の少女が薄汚れた貫頭衣かんとういを着て俯いていた。
 ブラウンの髪は手入れされていないせいか、ボロボロで薄暗い室内でも毛割れが分かる程だった。

「彼女は?」
「はい、彼女の名前はイルマ。先日都市ロアントを襲撃した魔族軍から逃げ遅れた際に左脚を失ったそうです。肉親も居ないせいか誰も引き取る者もおらず、結果私の所に来たというわけです」
「なるほどな」
 あの戦いに参加していたタイガーとエルザは助けられなかった少女の姿を見て思わず目を逸らしてしまう。
(仕方が無い。俺たちは周りから最強だの言われているが神じゃない。『最強』は『万能』ではないからな)
 千夜は視線を逸らす事無く真っ直ぐ見詰める。
(彼女の足を直す事をは出来る。だが、問題が一つある)

「イルマ、悪いがこっちを向いてくれないか?」
「………っ!」
 ゆっくりと振り向いたイルマは千夜とエルザに気付き一瞬目を見開けるが、直ぐに憎悪が篭った視線を向ける。

「魔族……」
 千夜の縦長の瞳と額から生えた二本の角。エルザの紅の瞳を見て気付いた。
(怯えてはいない。憎しみはあるな)
 襲われた人間が生き延びて心に刻み込まれるのは大抵、恐怖か憎悪のどちらかだ。イルマは後者だったようだ。

「奴隷商人」
「は、はい」
「イルマを含めて、犯罪奴隷以外全て買う。幾らだ?」
「有難うございます! 全部で金貨290枚です」
「解った………290枚だ」
 金貨300枚入った皮袋から10枚だけ取り、残りを皮袋ごと奴隷商人に渡す。

「有難うございます。それではこちらにサインをお願いします」
「解った」
 出された羊皮紙にサインした千夜は奴隷商人に檻を開けるように促す。
 イルマが入っている折の扉が開けられると千夜はイルマに近づく。

「近づくな!」
「イルマ! 今日からセンヤ様がお前のご主人様だぞ! なんだその態度は!」
 奴隷商人が叱咤するが千夜が手で制すと直ぐに黙る。

「確かに俺は魔族だ。正確には混合種だがな」
「何が違う。半分は魔族の血が流れているんだろうが」
「ま、確かにな」
「それに後ろの女は吸血鬼だろ。そいつは完全に魔族じゃないか!」
 まともな食事与えられていないのか、怒りの篭った声で喋るが掠れていて威厳も迫力もない。

「エルザは俺が信頼出来る数少ない吸血鬼人間の一人だ。そう怒らないで貰えると助かる」
「無理だ。魔族は私の足を奪った。全てを奪った。なのにどうして許せる!」
「許さなくて良い。だが俺たちの事は恨まないで貰えると助かる」
「無理だ」
「なら、俺がお前の左脚を治すと言っても許してくれないか」
「は? 何を言っている」
 千夜の言葉が理解できなかった訳ではない。ただ信じられなかったのだ。

「そのままの意味だ。『エクストラヒール』」
 欠損していた左足に手を翳した千夜は短縮詠唱を唱えるすると白い粒子のような物がイルマの脚に集まり脚の形態へとなる。数分後、光の粒子は弾け飛ぶとそこには広く美しい足があった。

「嘘………」
 驚きを隠せないイルマ。しかし涙を流しながら自分の足を撫でていた。
しおりを挟む
感想 694

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。