鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第三十幕 羅蛇双鬼と決着

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 相手の懐に飛び込み攻撃を繰り返すがドジャーローワンの武具の前に千夜の鬼椿が阻まれる。
(まったく面倒な武具だ)
 思わず舌打ちする千夜だが焦りは一切ない。
 武器、武具には耐久値と言う物がある。人間で言うところのHPみたいなものだ。
 元々損傷の激しい武具の耐久値は4割以下と踏んだ千夜は弾かれても攻撃を繰り返す。
 しかし、ゴブリンジェネラルもただ攻撃を受ける間抜けではない。
 千夜の頭上から大剣を持つ反対の拳を振り下ろすが、悠々と躱した千夜は再び距離をとる。
(このままじゃ限が無いな。時間が経てばアミッツたち村人たちにも不安が増す。早く終わらせないとな)
 肩越しからアミッツがいる村に視線を向けた千夜はすぐさまゴブリンジェネラルに視線を戻す。
(仕方が無い)
 千夜はアイテムボックスに鬼椿をしまうと新たな武器を取り出す。
 両手に構えた双刀の柄から頭にかけて一匹の蛇がうねりながら進む様が施されていた。

「殺したら不味いからな。力で来る相手にはスピードと技術で戦った方が瀕死状態にしやすい」
「舐メルナ。オレハ最強ノ戦士ダ!」
 千夜の言葉に怒号を吐き出す。

「始めるか」
 両手に持つ双刀の名前は羅蛇双鬼らだそうき
 千夜が所属していた百鬼族のメンバーに製作して貰った一振りだ。

────────────────────
 羅蛇双鬼らだそうき
等級
 伝説級
スキル
 DEX40%
 AGI40%
 麻痺30%
 痛覚上昇35%

製作者
百鬼蒼龍
────────────────────

(ほんと鬼畜武器だな。相手の身体を麻痺させ動かせないようにはするが痛覚だけは鋭敏にするんだからな)
 そんな事を思いながら不敵な笑みを浮かべゴブリンジェネラル目掛けて走る。

「オナジ攻撃ガ、何度モ通用スルト思ウナ!」
 接近する千夜目掛けて横薙ぎ振るう。しかし千夜は来るタイミングに軽く跳び躱す。
 完全にがら空きになった懐に潜り込んだ千夜は羅蛇双鬼を持つ手に力を込めて斬る。何度も斬る。
 斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬
 舞い踊る。己の存在を知らしめるかの如く舞い踊る。
 斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬
 降り注ぐ鮮血の雨の中を笑みを浮かべて踊る様は、ある者たちには高揚感をある者たちには恐怖を与えた。

「グア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァァァァ!!!」
 千夜の頭上から聞こえる絶叫。
 斬られる度に増す激痛。その場で蹲りたくても逃げ出したくても動かない身体。だが痛みだけは増す絶望に叫ぶほか無かった。
 約5分と短い演舞だったが、相手を瀕死にするには十分過ぎる程だった。
 ようやく戦いが終わりゴブリンジェネラルから少し離れた瞬間ゴブリンジェネラルは前のめりに倒れた。
 近くにいた千夜の足元が軽く震えたが気にする様子も無く戦場を見渡すが生きているゴブリンはウィルが相手している3対以外居らず、すべて倒れ伏していた。
 間もなくしてウィルの戦いも終わり汗だくになりながらもクロエに支えられながら千夜の許へやって着た。

「お疲れウィル。よく頑張ったな」
「はい……ありがとうございます……」
 掠り傷程度の怪我はあるが、命を落とすような怪我が無い事に千夜は内心安堵する。

「それじゃ、早速事情聴取を始めるか」
 踵を返し地面に倒れ伏したゴブリンジェネラルに近づく。

「生きてるか?」
「殺セ。オレハ、オ前ニ負ケタ。早ク殺セ」
「その望みは叶えてやるが、その前にお前に聞きたいことがある」
「ナンダ?」
「お前が装備していた武器と武具は何処で手に入れた?」
「貰ッタンダ。アルオ方カラナ」
「貰っただと。誰にだ?」
「顔ハ見タ事ハナイ。ダガアレハ人間ダ。魔物ヤ魔人ノ類デハナイ」
「人間から? 何のために?」
「知ラナイ。タダオレハ、コノ村ヲ襲エ言ワレタダケダ」
 ゴブリンジェネラルの言葉にエリーゼから悲痛な声が漏れてくる。

「その武器を貰う代わりにか?」
「ソウダ」
「そうか。教えてくれて助かった。望みどおり殺してやる」
「感謝スル」
「今度生まれてくるときは人間か他の種族に生まれてこい。そしたら一緒に酒でも飲むとしよう」
「酒? ソレハ何ダ?」
「美味い飲み物だ」
「ソウカ。ソレハ楽シミダ」
 それを最後にゴブリンジェネラルはこの世を去った。

「なんだから武士みたいなゴブリンでした」
「ああ、あいつは自分で言ってたからな。戦士だって」
「ゴブリンって本当は優しい生き物なんでしょうか?」
「違うな。あいつらはただ馬鹿なんだ。考える力が無いから本能で生きている。だから良い事も悪い事も分からない。だからと言って同情すれば被害が出る。結局弱肉強食なんだ」
「そうなんですね……」
「ミレーネお前は優しいな」
「いえ、そんな事は――」
「お前は優しいさ。だが力あるものが上に立つのは世の常であり、自然の摂理だ。だが、上に立つものが良い事を考えて行動すれば自然と笑みが増え、私利私欲を肥やすためだけに動けば自然と憎しみが増える」
「つまり」
「上に立つも次第と言う事だ」
「それならセンヤさんが上に立てばきっと素晴らしい世界になるでしょうね」
「俺にそんな力も器もない。俺は俺の出来る事を精一杯するだけだ」
 ミレーネの言葉を否定するがそれは千夜本人だけの考えであってミレーネたちは違った。
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