【完結】金の王は美貌の旅人を逃がさない

ゆらり

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本編第四部「黄金色の夢の結末」

9 王の逸話

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 ――世にも珍しく美しい黄金色の髪から、『金の王』と称されたリヤスーダ。

 優れた政の手腕から始祖王の再来と謳われ、とある国における歴史上で最も愛され親しまれた王である。彼は、その生涯において側室を持たなかった。

 隣国から輿入れした正妃との間に、後に暁の賢王と称される長子のラフィンに加えて、二人の美しい王女を儲けた。

 王と妃は仲睦まじく、時には戦友のように共に並び立ち精力的に政に勤しみ、国の発展の為に生涯を捧げたという。

 人格者として知られていたリヤスーダ王ではあったが、隠され続けていた彼らしからぬ逸話がある。

 ……王城の片隅にある離れ家に、美しい異国の青年を囚えていたのだ。

 許しなく離れ家を出る事は許さず、ほぼ軟禁に近い状態で長い年月のあいだ自由を奪っていたという。人格者たる王に有るまじき行為である事は否めない。彼の死後にどこからともなく噂が流れ出して、公に知られるに至ったのだ。

 異常な執着心が垣間見えるその行為に、後世の学者らの中には、偉大な為政者の中に潜む人格の歪みを指摘する者もいた。

 しかし、この逸話に関する公的な文書による記録は一切残されておらず、果たして事実であったのかは未だ結論付けは成されていないのだった。

 離れ家の佳人とリヤスーダ王の間に何があったのかは……、定かではない。

 愛妾であったとか、ラフィン王子の教育係として異国から呼び寄せられたのだとか、幾年も姿の変わらない魔物であったとか……、様々な憶測と噂が混じりどれが真実であるかは判然としない。

 王が崩御した年に、その青年は離れ家から姿を消したとされている。霊廟に納められていた筈のリヤスーダ王の遺骸も、いつの間にか失われていた。

 残されたのは、蓋の落とされた空の棺のみ。

 青年が連れ去ったのか、はたまた違う理由なのか。長子であるラフィンは後年それについて何も語る事は無く、遺骸の行方を捜す事もなかった。

 中身の無い棺だけが、リヤスーダ王没後百年以上の月日が過ぎた今も、蓋が落とされた状態で霊廟に安置されている。

 そして……王城の片隅にある離れ家と庭は、今も王の末裔らの手により当時を忍ばせる姿を保ち続けている。自然味豊かな命に溢れた庭は、神が創った箱庭のようだ。
 
 美しい異国の青年がここで過ごした日々は、果たして幸福なものであったのか、それとも不幸なものであったのか。

 ……時の彼方に全てが消え去った今となっては、もはや問う事など出来ないのだった。













※これにて本編完結です。お読み頂き誠にありがとうございました。番外編投稿予定ですので、その際にはまた、お読み頂ければ幸いです。
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