【完結】金の王は美貌の旅人を逃がさない

ゆらり

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番外編  「旅人にまつわる小さな物語」

ご先祖様は嫉妬深い①

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 ※現代風です。本編から百年以上未来の時間軸。






 ――幾多の王がその辣腕を振るい国を治めた時代が、遠い過去となった現在。

 かつて金の王と呼ばれたリヤスーダ王が治めた国は、民の手によって統治されるようになり、王の末裔らは市井に下っていった。

 神族の末裔とされ尊ばれた彼らは、今となっては只人として生きている。




「――珍しい特性だけど、ただそれだけなんだよ」

 リヤスーダから数代目の子孫に当たるカルネは、昼食を頬張る友人にそう言った。

「ふぅん? でもさ、神秘だよな。神族の末裔とか言われてるんだろ? 凄いよな」

 かつての王族がそうであったように、幾代もの混血を経ても金の髪色を持って生まれるという特性をカルネもまた受け継いでいる。どのような髪色の伴侶を迎えようとも、その髪には黄金色が混じるのだ。

「うーん、ご先祖様は偉大な王様だったけどさ」

 苦笑いしながらパンをかじったカルネは、王の末裔という以外はごくごく普通の若者だ。今年、大学生になったばかりである。

「俺は一般市民でただの学生。それ以上でも以下でもないし」
「そんなこと言ったら俺なんか、由緒正しい猟師の末裔だぞ。誇ればいいだろ」

 弓を引く真似をしながら、友人のラドが言う。大学に入ってから知り合った彼とは、付き合いはまだ浅いが気の合う友人だ。ひょうきんな性格をしていて、少し調子に乗りやすいところがあるが憎めない男だ。

「あー、まあ、うん。誇らしいとは思うよ。俺、この国の歴史とか神話が好きだから。ただ、血筋がいいからって調子に乗りたくないから……それ以上でも以下でもない……って、思うことにしてるんだよ」
「えらいっ! カルネのそういうとこ、俺も見習おうかな」
「褒めてもなんにも出ないぞ」

 ラドを始めとした友人にも恵まれ、学業に勤しみながら若者らしい充実した学生生活を送っていたある日。カルネは思わぬ出会いを果たすことになる。


 ――それは、大学敷地内にある大図書館での出来事だった。

 幼い頃から生まれ育った国の歴史が好きで、王家にまつわる伝記や歴史書などをよく読んでいた。大学に入ってからもそれは相変わらずで、膨大な書籍が収蔵された大図書館は、カルネにとって垂涎ものの場所だ。

 単に読むだけでは飽き足らずに、気になった事柄はより詳しく深く調べるのが趣味になっていた。授業やアルバイトの合間の時間を使ってほぼ毎日、図書館に通っていた。

 いつものように窓際の机に陣取って本を読み漁ってはノートに書き留めるなどして調べものをしていると、細身の人影がカルネの視界の端を横切った。

「ん……?」

 顔を上げて横切っていた人影へと視線を向けた。

 洗いざらしのデニムパンツに、グレーのパーカー姿の青年が歩いていた。フードを目深に被っていて顔が見えない。細身ですらりとしていてまるでモデルのようにスタイルがいい。

 妙に気になって行き先を追っていると、彼は歴史関係の書棚に手を伸ばして本を一冊抜き取った。

 ――白く細い指をした手が綺麗だと、唐突に思った。

 何冊かの本を抱えた彼は、カルネのいる机から少し離れた位置にある他の机に行ってしまった。

「誰だ……? あれ」

 大学の敷地内ではあるが、図書館は一般にも開放されている。ここの学生ではないかも知れない。顔が見えないのにやたらと目立つ。こんな人が在学していたのなら、少しくらいは大学内で有名になっていると思う。
 
 男性とわかる程度には骨ばっているが、すんなりとした細い指がページをめくる様から目が離せない。ゆったりとした仕草と、背筋がピンと伸びた姿勢も綺麗だ。

 自分や周りの学生とは全く次元が違う。

 典雅とか、優雅とか、そういう言葉がはまる雰囲気だ。図書館特有の少しかび臭いような独特の匂いがする空間の中で、そこだけが清浄な空気に包まれた別世界にも見えた。

 着ているのは量販店で売っているようなありふれた服だというのに、恐ろしく絵になっている。同じように本を読んでいる自分が、急に不格好な存在に思えてしまった。

 この違いはなんだろうか。もしかしたら、物凄い有名人なのかもしれない。

「……じろじろ見たら失礼か」

 気付かれて怪しい奴だとか変な奴だとか、思われたくない。彼に、負の感情を向けられたくない。まるで知らない他人に対して、どうしてかそういう気持ちになってしまった。

 どうにか彼から目を逸らして調べものに没頭しようとしてみたが、この日はいつものように没頭できずに、ただ文字の上を視線が滑っていくだけの無意味なものに終わってしまった。
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