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ざっくん

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受験戦争

20話 洞窟内攻防戦.2 2/19 手直ししました

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「グッ…!はぁ!」

 カイトが長剣を右手で受け流す。そのまま腕を掴み地面に向けて投げた。
 しかし、少女は地面スレスレでピタリと止まった。背中に生えた四枚の羽を高速に羽ばたかせて上のカイトを見つめる。

「まだまだ行くよー!」

 地面を蹴ってカイト目掛けて飛び立つ。無邪気な笑顔で楽しそうに戦っている。

「来んな!他所いけ!」

 カイトが迷惑そうに言い返す。
 彼は一日目の試験時とは違う武器を形成していた。それは、長く鋭い鉤爪である。『水魔法』で形成された籠手から二本の爪が伸びている。

(珍しい…カイトが戦いを避けようとするなんて)

 リュートが少女に興味を持って目を向ける。

「え?(どう言う事?)」

 リュートは言葉を失った。不可解な現状に混乱していた。

 第一にリュートは少女を知らない。つまり、昨夜に調べた実技試験での得点上位者の中に居なかったが、それに引けを取らない強さを持っている。

 第二に少女は自由自在に空中を飛んでいる。羽を動かしているためその影響だと考えられる。しかし、彼女が小柄とはいえとても人を支えられる大きさでは無い。

 第三に少女の種族が分からない。彼女の飛行は十中八九魔法の影響であるがピクシーで無ければマナが持たない。
 それなのに彼女の持つ双剣はピクシーの扱える大きさでは無い。『風魔法』で形成した軽い武器であっても、身の丈ほどの刀を片手で振るうにはドワーフ並みの力が必要である。

 第四に、実力と強さにズレを感じる。

 この瞬間、リュートの最も警戒する相手は少女となった。

「ッタク、運のいい奴が、誰のための罠だと思ってやがる!」

 カイザは何かを引っ張った。

「ウアッ!」

 離陸しようとする少女の羽が止まり地面に落ちた。

「えっ?え?」

 少女は急に動かなくなった羽に驚き取り乱す。

 カイザがトドメを刺そうと棒手裏剣を形成しする。しかし、タイミング悪く岩の槍が飛んできた。

「邪魔しやがって、恨みでもあるんかテメェ!?」

 カイザがリュートに向かって棒手裏剣を振り払うように投げた。

「ごめん、先に投げてた」

 少女の動きが止まるとは思わずカイザに槍をなげてしまっていた。
 リュートは盾でガードした。壁を形成した後槍を複数生成して地面に刺しストックした。
 
「リュート!やるならこっちだ!こいつはやばい!」

 カイトは爪で地面に倒れる少女を突き刺した。しかし、あと少しのところで攻撃は躱され少女に空中へと逃げられてしまった。
 『水魔法』で大量の水を生成してクッションにする。カイトが飛び込むとクッションは破裂して飛び散った。

「知ってる!」

 空に逃げる少女にリュートが槍を投げる。

「あーもう、僕を化け物みたいに…」

 少女は槍を躱すと、洞窟の上の辺りで滞空して様子を伺っている。

「安心しろ、お前は十分化け物だ」

「傷ついちゃうなー、僕、女の子なんだよ」

 少女はカイトの軽口に頬を膨らませる。そして、おもむろに弓を形成し構えた。

 皆の動きが止まる。それぞれが遠距離武器を構え隙を見せたら喰われかねない一触即発の雰囲気となった。

「君さー、人を化け物呼ばわりしてるけど、僕が山岳着いた時には孤高の王と化してたじゃないか?」

 少女が雰囲気お構いなしにリュートの逃げようとしていた上の洞窟に腰をかけた。

タッ!

 洞窟に隠れていた女子の受験生が『速度魔法』を発動させて岩のナイフで少女を奇襲をした。

「……」

 カイザはそれをいち早く察知し、素早く小さな動きで3人に棒手裏剣を投げた。
 リュートは盾で受け、カイトは難なく躱した。
しかし、少女はそうもいかなかった。奇襲に対処すれは棒手裏剣に当たる。逆もまた然りナイフで切られてしまう。

「えっ!?」

 驚いて間の抜けた声を上げる。少女はおぼつかないながらもなんとか羽を動かして棒手裏剣を避けた。
 
(クソ、誰か一人くらい当たり上がれってんだ)

 カイザ槍を形成してその後に備える。
 ナイフが少女の胸に刺さり掛けたその時、奇襲を仕掛けた女子が消えた。

「「…ッ!」」

 リュートとカイザのニ人が騒然とする。

 そんな二人をよそ目に少女は羽を羽ばたかせて元の場所に戻った。洞窟が崩れて飛び出た所に腰を落ろすと、三人を見下ろして呑気に話しかけた。

「フフフッ、ねぇ、今起こったこと知りたい?僕、優しいから教えてあげないこともないけど…どうする?知りたい?今だけ、特別、僕今すっごく機嫌いんだ。後で教えてって言っても教えてもらえないかもしれないよ、気になるでしょ?ねぇねぇ」

 足をぶらぶらと振りながら返事を待つ。

「教えてよ。僕、気になるなー」

 リュートは右手を後ろに回し『岩魔法』で分銅を形成した。

「僕っ子だー!お揃いだよ、お揃い、ねぇ、お友達になろうよ!」

 少女は元気よく話しかける。その時、そこにナイフが三本飛んできた。

「…ッ!危ないじゃないかー!」

 ナイフを躱して叫ぶ。

「休ませるな!休ませると次撃ってくるぞ!」

 カイトがさらに投げナイフを形成して、少女目掛けて投げた。

「それも知ってる!」

 リュートはカイトに続いて岩の分銅を投げた。しかし、それは少女を飛び越えて上の方に飛んでいった。

「…」

 少女はリュートの分銅を無視して、形成した丸盾をカイザのナイフに向けた。
 突然、少女の座っていた地面がドロドロになって崩れる。

「え?…でも、こんなんじゃ僕を倒すことなんて出来ないよ!」
 
 少し驚いた様子を見せたが、すぐに余裕を取り戻した。ナイフを縦で防ぐと、羽を羽ばたかせて飛び出した。
 少し時間を置いてから少女がいた場所に分銅が降り、槍が飛び出した。

「ねぇ、本当にお友達にならない?気が合うと思うよ、僕たち」

 少女は空中を飛び回りながらリュートに話しかけた。

「チーミングは褒められる行動じゃねえよな」

 カイザはカイトに向かって棒手裏剣を投げた。

「なっ!お前、今の見てただろ!なんで、俺を攻撃すんだよ!…リュート!これは赤の他人でも手を組むよな!」

 カイトがリュートに手を組む様に打診する。

「んー、まぁ、これなら減点少なくすみそうだしね」

 リュートが答え、カイトの手前に岩の足場を設置した。
 カイトがそれに足をかけると瞬く間に崩れ落ちた。そして、その中には先の尖ったスパイクが設置されていた。

「…ッ!」

 カイトは瞬時にスパイクを叩き壊した。

「リュート!どう言う事だ!」

「ごめんカイト、僕はそこまで追い詰められてないんだ」

「マジかよ…」

「チッ、そう上手くはいかねぇか」

 カイザがまた何かを力一杯引っ張った。

「うぁっ!」

 いきなり複眼の少女が声を上げた。腰あたりを引っ張られたかのように下に落ちて来る。
 カイザが落ちてくる少女を槍で突き刺す。しかし、少女の目の前で水の槍が一部蒸発した。

「アチッ!」

 カイザは急激に熱くなった水の槍に耐えきれず手を離した。
 その瞬間、カイトが『加速魔法』を発動させた。巨大な太刀を形成して上から少女とカイザを同時に狙う。
 リュートもこの期に少女目掛けて槍を投げ、岩のショーテルを両手に持ち距離を詰める。

(クソッ!)

 カイザは攻撃を防ぐすべの無いものの諦めきれずカイトを見上げて策を考えていた。ふと、カイトのさらに上洞窟地帯を超えてた山岳地帯の地上からこちらを覗く男を見つけた。
 その男は岩でできたフラスコのようなものを手に持ち筒の先をこちらに向けている。
 見た感じでは銃ではない。だが、それと同様の使い方をするのは想像に難く無い。

(漁夫の利…今まで、戦ってきた成果をあいつに取られるのか?)

 そう思うと、怒りが沸々と湧いて来る。

「降りてこいや!テメェー!」

 カイザが叫んだ。そこに、打算的な考えは無く意識としては断末魔とそう変わらない。しかし、その行動が結果を変えた。
 そこにいたほとんどの人間が上の男に視線を向けた。ただ一人、少女だけが違う場所を見ていた。

「えっ!?待って、僕もうちょっとここ居たいんだけど…」

 少女に岩の槍が突き刺さり呆気なくリタイアした。
 その後、ボン!ボン!と破裂音が洞窟内に鳴り響いた。
 カイトは後ろに振り向き太刀で一発目を弾いだが、二発目に当たってリタイアする。
 そして、距離を詰めていたリュートは新たに壁を形成して射線の影へと隠れていた。
 カイザは即座に水で釣り針を形成してを投げた。

「おっ、なんか投げて来た。あっ、でも向こう飛んでいってやんの。ノーコンじゃん」

 カイザの投げたがフックが男を通り過ぎて行った。

「さっきは怒鳴って悪かったなぼう、こっち来て一緒にあそばねーか?」

 通り過ぎたはずのフックが男の方へ戻り服に引っかかる。

「何これどう言う仕組み?糸!?」

 男が穴に落ちまいと踏ん張る。しかし、力負けしてジリジリと穴に近づいていく。

「クソォ!」

 男は岩のナイフを形成し糸を切りにかかるが糸が切れ無い。抵抗も虚しく穴に引き摺り込まれ落っこちた。

「ウワァァーーー!」

 男は叫びながら地面に激突してリタイアしてしまった。

「後はテメェだけだぜ。リュート…だったか?」

 カイザがリュートに槍を向ける

「あぁ」

 リュートは返事をした。しかし、その時にはもう体の半分が地面に沈んでいた。

「あっ!おい待て!テメェ!」

 棒手裏剣を投げ、槍で突き刺す。だが、あと一歩届かず手裏剣は弾かれ、槍は地面を切った。

「ふぅ…あの野郎、追いかけて潰す」

 カイザは緊張の糸が切れた様に息を吐いたが、すぐに気を取り直し一言つぶやいた。
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