モンスターコア

ざっくん

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vs秘密結社クロノス

70話 戦場

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「…まぁ、ミスくらい誰でもするって」

 ラウドはフィロスに語りかける。彼の声は彼女のした事の大きさからは考えられないほどに慈悲深く柔らかなものだった。

「…ッ!?…」

 彼女は彼の行動に困惑する。罵倒であればどんな言葉も覚悟していたが、普段通り接っされるとは考ていなかった。
 そんな状況でないことは理解しているつもりだが、先程のミスを指摘され恥ずかしさが込み上げる。
 覚悟、困惑、羞恥心と少しの嬉しさがせめぎ合い微妙に頬を赤らめた何とも言えない表情になってしまう。

「それは今関係ないでしょ!今回はいつものような喧嘩とは訳が違うの!」

 やめて!私に優しさを向けないで!

「それ、よくミーニャに貸してたもんな。そんな事もある」

「あなたは勘違いをしている!私は本気!私が冗談をいっているように見えるの!?いい加減にして」

 希望を見せないで!私は友情それを砕くつもりできたの!

 彼女は態度を変えようとしないラウドに魔道具の武装を向けた。
 少しでも変な動きをしたら撃つ。もう後には引けない…

「フィロ…、ミーニャとデュエットする気はないか?」

「はぁ!?何でそうなるの!?ちょ…待っ!」

 私が人前が苦手なのを知ってるよね!?はっ!違っ…

「さっきのを見て思ったんだが、お前がアイドルやれば人気出ると思うぞ。少なくても俺は推せる!」

「そっちは深掘りしなくていいかr…うっ!」

 彼女は酷く後悔した。恥ずかしさのあまり目を瞑って叫んだのがいけなかったのだろう。彼女の腹部を強烈な衝撃が襲った。

「全く、俺が何回を止めたと思ってやがる」

 ドン!ガシャン!

 フィロスはリオンの静かな呟きと”人をダメにするベット君2号”が破壊される音を受けながら落ちる。
ーーー今回は…今回ばかりは、負けるわけにはいかないのに…

 フィロスは地面に堕ち無念を思う。彼女はもう何もできない。
 彼は不意打ちを人を助けながら対処し、不利な状況でも彼女を打ち負かしたのだ。そして今、立場が逆転した。彼は頭の先の見えない位置に、それも拳の届く超近距離に座っている。

「何が目的だ?」

 リオンの声は優しかった。きっと、彼はどんな目的があっても許してくれるのだろう。
 だからこそ、気に食わない!気に入らない!声を大にして、ふざけるな!と叫びたくなる。

「あなたは何も分かってない!今の状況を正しく理解しているの!?」

「当たり前だ。これだけ派手に騒ぎを起こしたのに誰一人駆けつけて来ねえ。きっと観客席でもお前の手引きした連中が暴れ回ってる。が、俺は他人なんかよりもお前ら身内のほうが大切だ」

「はぁ…理解していないのね。していたらそんな言葉は出て来ないもの」

「何故そうも悪者になろうとする?誰も殺す気は無かっだろ」

ーーーやっぱり理解していない。
 確かに、あの三人にあの程度の魔法では致命傷を与えることはできない。せいぜい、数十分を再生に使わせるくらい。学長も私が渡した魔道具があればあなたが助けなくても死にはしなかった。でも…

「でも、あなたは?」

ーーー普通の人間で魔道具も無い。それが私の目的。それでも私を許しますか?

「保留だ。少し眠ってろ」

 ラウドはそう言って拳を振り上げる。
 その直後、異変が起こった。辺り一体が暗黒に包まれる。

「…ッ!ゴホッ、ゴホッゴホッ!」

 周囲の変化ぎ関係したのだろうか。彼は苦しみ胸を抑える。動けなくなるほどでは無いが、その隙は致命的だった。

「…ッ!」

 彼を不意打ちの時と同じ青白い閃光が襲った。ギリギリで守りを固めたが、それは瞬時に全身を焼き焦がし、観客席へと吹き飛ばした。

「…何が、起こってる!?」

 一度にものが起きすぎている!かんがえるひまがない!

 飛ばされた先の観客席では継ぎ接ぎのモンスターと生徒、教員がアリーナと観客席の境を戦線にして争っていた。
 ただ、膠着状態こうちゃくじょうたいを保っているものの徐々に押され始めていた。皆もラウドと同じように苦しんでいたのだ。

「動ける奴はいるかッ!?」

 ラウドは痛みを押し殺し周囲のモンスターを薙ぎ払う。

ーーーあれはやはり”窓”か!?ランク外以外が向こう側の空気を吸うとこうなるのか

「動けます!」

 後方から声が掛かる。目を向けると、そこにはサイカ、リョッカ、イルカの三人がいた。

「リオンのとこの!一年は無事だったか!」

 これは嬉しい誤算だ。現状はいくら手があってもいい。だが、一年には少々重い戦場、無理はさせられない。

「一年!動けない奴をシェルターに避難させろ!」

「で、でも!」

「教員を舐めるな!行け!」

「はい!」

ーーー数分稼ぐだけでいい。それで事態が好転する。

ーーーーー
 同時刻、闘技場の外、島の北の防衛を任された教員が全滅した。

「あぁ、素晴らしい…これが戦場、これこそが戦場だ」

 獣耳の黒装束が人とモンスターの入り混じる屍の平野で悦に浸っている。

「滅びた軍事国家の英雄が何故ここに?」

 一人の教員が彼に声をかけた。しかし、彼は満身創痍、戦える力など残っていない。地面に這いつくばり血を吐く

「おぉ、想像以上の質!これが学園か!あなたは合格です」

 彼はこの状況を喜び教員に止めを刺さずにその場を立ち去ろうとした。

「…ッ!殺さないのか?」

「えぇ、あなたは種です。私の理想とする世界のために増えてください」

「クソ野郎が…」ガクッ、

「あの目、特攻する気だった。油断も隙もない。あぁ、懐かしい、この感覚」

 彼は北を落とした後、更なる戦場を求め闘技場に向かった。
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