元歌い手悪役令嬢、うっかりラスボスに懐かれる

蔵崎とら

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大変身計画

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 この数日間を一言で表すならば「えらいこっちゃ」だった。
 いや、本当に、マジでえらいこっちゃ状態だった。
 私がちょっと自分に自信がない感じの発言をしてしまったばっかりに、私の愛すべき女友達の皆さんが燃え上がってしまったのだ。
 たった一人の男にフラれただけで自分に価値がないなんて思わないで! というちょっとしたお説教から始まり、その後数日間の私の予定を押さえられた。
 そしてその数日間、私はハンネローレ様の監視下に置かれるらしい。
 まず、ハンネローレ様付きの侍女さんが二名ほど私に付いてくれるとのこと。マジで付きっきり。
 付きっきりで何をしてくれるのかというと、身体のケアだった。
 ヘアケアだったり、顔面の肌ケアだったり、全身のむくみを取るマッサージだったり、何から何まで至れり尽くせり。
 ほんの三日ほどで髪の毛はつやつやのさらさらだし顔は小さくなったし腕も足も腰も細くなった。元々それほど太かったわけではないのに細くなった。びっくりだわ。
 そうして磨き上げられた己に驚いていたところで我が家に大量のお化粧品が届いた。そのお化粧品は、私が受け取る間もなくハンネローレ様の元から派遣されている侍女さんたちが受け取って、確認作業をしていた。
 一瞬、私には関係ないお届け物だったのかな? と思ったけれど、確認を終えた侍女さんたちが獲物でも狙うような目でこちらを見たので、あ、私の顔面に使うやつだと察した。
 侍女さんたちは私に似合う色のお化粧品を選別しているらしい。自分でもあんなに真剣に選んだことはない。
 そして次にやってきたのはドレスだ。
 ドレスのほうにはハンネローレ様だけじゃなくマリカさんも協力しているようだ。なぜならつまみ細工のめちゃくちゃ可愛い飾りがついている。もちろんマキオンパールも縫い付けてくれていた。ありがたい。
 ただ……ありがたいのだが、私が普段着ているものよりちょっとセクシー系だ。大丈夫だろうか?
 バーガンディーの布地はとても綺麗なんだけども、首元の黒いリボンの下、デコルテ部分はがっつりスケスケの黒レースになっている。
 胸のすぐ下には幅の広い黒いリボン……これは胸が協調されるやつだ。
 恐る恐るドレスの背面を見ると、なんと背中もがっつりスケスケ黒レースだった。ここここれは私が着て大丈夫なやつなのか!?
 いやいや確かにこのスタイルに合う服を着てみたいなぁあんて淡い願望もあったけど、それにしたって普段と違い過ぎる。大丈夫か?
 私はハンネローレ様に遊ばれているのでは? いやでもハンネローレ様はそんなことしないし……。
 何が何だかわからずに、不安が不安を呼んでいる。ただ一つわかるのは、鏡の中の自分が普段と違ってちょっと綺麗だということ。
 ちょっと綺麗になった私が、このドレスを着たところを見たら、クリストハルト様はなんて言ってくれるかな?
 ……そもそも気付いてくれるかな? 私の見た目がどうなったって、歌声は変わらないものね。


 そしてその日はやってきた。
 そう、このセクシードレスを着る日がやってきたのだ。
 その日の朝、ふと違和感を覚えた。なんだか騒がしい。何事かと思えば、ハンネローレ様の元から派遣されてきた侍女さんが、二人から六人に増えている。
 驚いている私をよそに、侍女さんたちはてきぱきと私の姿を変えていく。
 髪もお化粧もドレスも、纏う香りまでもいつもとは違う。えらいこっちゃ。
 全てを整えられて、鏡の前に立たされた時、本当に心の底から思った。「これが私!?」と。
 かつての私は出来る限り節約をして、人並みに見える程度に着飾ることが出来ればそれで完璧だった。
 経費なんか削れれば削れるほど最高だと思っていた。
 そもそも婚約者がいたから相手を探す必要もないし、両親からは私に割く経費が勿体ないとさえ思われていた。
 それがここまでお金と労力をかけてもらって、こんな風に仕上げてもらうことが出来るなんて、夢みたいだ。
 しかもそれだけじゃなく、ちゃんとドレスにもアクセサリーにもマキオンパールを使ってくれている。

「泣いちゃいそう」
「お化粧が崩れるので我慢してください」

 ハンネローレ様の侍女さんが辛辣。食い気味で怒られた。泣いちゃいそう。
 もはや色んな意味で泣いちゃいそうになっていたところ、ノックの音が響く。

「準備は出来て?」

 ノックの音とほぼ同じタイミングで開けられたドアの向こうから現れたのはハンネローレ様だった。今日も美女。

「あ、あの、ハンネローレ様」
「うん、綺麗ね」

 褒められた~好き~!

「今から我が家主催のお茶会に参加してもらうわ」
「え、そうだったんですか」

 実は今まで誰も教えてくれないまま準備を進められていたのだけども。

「参加者は未婚で婚約者もいない人が半数いらっしゃるの」
「あ、はい」
「あなたも今は未婚で婚約者もいないわね?」
「えっと、はい」
「きっとたくさんお声が掛かるわね?」

 ……そうだろうか? そう思いながら、ふと鏡を見る。
 いつもの私ではなく今日の私ならもしかしたら、そう思う私と、着飾ってもらったけれど婚約破棄されるような奴だぞ? そう思う私が脳内で喧嘩をしている。

「ほら見て。今日のあなたはとびっきり綺麗よ。たった一人のゴ……男から婚約破棄されただけで自信を失うなんてもったいないわ」

 ハンネローレ様が鏡を見ながらそう言ってくれた。ゴミって言おうとしたことは、聞こえなかったことにしておくとして。

「それとも、私の目を信じられないのかしら?」
「え」
「私が綺麗だって言っているのに、信じられないのかしら?」
「いえそんなことは」
「でもまぁ、仕方がないわね。悪いのはあなたじゃなくてゴミだもの」

 ゴミって言っちゃったな。

「だからね、今日……そうね、三人から声を掛けられたら、私のことを信じてほしいの」
「……はい」

 私の返事を聞いたハンネローレ様は、微笑みながら私の肩を優しくなでてくれる。

「あの、ハンネローレ様」
「なあに?」
「……その、クリストハルト様は、綺麗だって思ってくれるでしょうか?」

 そんな私の問いかけに、ハンネローレ様はただただ笑顔を見せてくれるだけだった。




 
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