6 / 8
6
しおりを挟む
「リディア、俺と結婚してほしい」
「リディアはお前じゃなくて俺と結婚するんだ!」
「皆さん争わないでください!」
さてさて、いよいよ魔王城への入り口が近付いてきた。
馬車で数日間走った程度の人里からそう遠くない場所に魔王城があるのか、と疑問に思う人もいるだろうが、もちろんそんなに近いところにあるわけではない。
山の麓にある洞窟の、少し入ったところに魔王の臣下が使っていたとされる魔法陣がある。
その魔法陣に触れると、魔王城の入り口に転移するのだ。
我々はその山の一番近くにある小さな村に馬車を預けて、魔法陣まで徒歩移動をすることになった。
「馬車は置いていくのに御者であるエリオは来るんだね」
「うん。ミレイアと一緒にいたらあれこれ回収できるし。足手まといにはならないようにするよ」
「怪我だけはしないようにね」
足手まといだと思うことはないけれど、怪我だけはされたくない。死ぬなんてもってのほかだ。
しかしエリオが一緒にいてくれるのは、正直ちょっと嬉しかった。
だってエリオがいなければ、私は喋る相手もいないのだから。
一応旅の同行者であるヒロインと攻略対象キャラ御一行様は、今まで大して魔物に遭遇しなかったことを一切気にするわけでもなく、今も私とエリオの後ろをついてくるだけ。
それどころか修学旅行ではしゃぐ子ども顔負けの騒ぎっぷりだ。この先、下手したら死ぬかもしれないというのに。
いや……まぁ、それもこれも私たちが楽しいからって魔物が出た瞬間撃ち抜いて核を回収して、アイツらの視界に魔物を入れなかったことが原因なのかもしれないから、文句は言えないのだけれど。
「あった、魔法陣」
外の光が届きづらくなってきたところで、薄く紫色に光る魔法陣を見付けた。
あれを踏めば、魔王城の入り口に辿り着く。
「行こう、ミレイア」
エリオがそう言って手を差し出してきた。
「うん」
差し出された手を取って、私たちは魔法陣の中に一歩足を踏み入れた。
なんかまだわいわいやってるヒロインと攻略対象キャラたちを放置して。
「おー、すごーい」
魔王城を見た瞬間、私の口から漏れ出た言葉がそれだった。
ゲームで見たことのある物が目の前に現れると感動するよね。聖地巡礼的な感覚だ。なんて、感動しながら門の両脇にいたガーゴイルを銃で撃ち抜く。
そんな私の隣でガーゴイルの核を回収していたエリオが「ガーゴイルの核はちょっと重い」と呟いていた。
それから数体の魔物を撃ったところで、やっとヒロインたちが現れた。
私たちが魔法陣を踏んでいた時に「誰がリディアと手を繋ぐか」で揉めていたので、やっと決着がついたのだろう。誰でもいいわ。本当に。マジで。
ため息を噛み殺しながら魔王城の門を開けようとしたところ、第二王子が「俺が開ける!」と言い出した。
めんどくせぇなと思いながら一歩下がって待つ。わざわざ、見てて! 今からカッコイイことするから! みたいな顔をしながらヒロインを見ているのがとても鬱陶しい。そして腹立たしい。
そんな感情を全て心の中に押し込めて、魔王城内に入った。
心なしか湿度が高い気がする。そしてなんとなく埃っぽい。なかなか体に悪そうな城である。
さらに建物に対して照明が少ないからめちゃくちゃ薄暗い。精神面にも悪そうな城である。さっさと出たい。
「何もいないなぁ」
私の特殊スキルを使ってみたものの、何も見えない。見えないってことは、何もいないってことだ。
「リディア、何が出てくるか分からないから俺の後ろにいて」
と、ヒロインに声をかけたのはレオンだった。年下キャラに先を越された、と第二王子だのなんか他の奴もヒロインを取り囲み始めるわけだが、こちらとしてはなんかかっこつけてるけど何もいねぇっつってんじゃんとしか思えない。
エリオの表情筋だってどんどん死んでいっている。魔物が出ないもんだから核の回収も出来ないもんね。
そんな無駄に警戒する攻略対象キャラたちと、沢山のナイトに守られるお姫様気取りのヒロインと、死んだ目をしたモブという良く分からないパーティも、ついに魔王がいるであろう部屋まで辿り着いた。……城内で魔物にエンカウントすることなく、辿り着いてしまった。その道中で、私はふと思った。
ガーゴイルを倒した後、数体の魔物を倒したわけだけど、あの中に魔王の臣下がいたかもしれない……と。だからこんなにもエンカウントしないのかもしれない。まぁ今気が付いたところで倒してしまったもんは仕方ないのだけれど。
そんなことを考えている私をよそに、攻略対象キャラたちが我先にと魔王がいるであろう部屋の扉を開けた。
「あれが……」
ヒロインの小さな声が響く。
廊下に比べればいくらか明るいけれど、やはりどこか薄暗い、ただただ広いだけの部屋。
その最奥に、玉座がある。そこにいたのはもちろん魔王だ。
頭には黒くて大きな角、髪はこの世の闇を集めたような暗い色。全身は鱗に覆われており、背中だか腰だかからはタコの足のようなうねうねとした何かが生えている。
そんな魔王が、赤黒い光を灯した瞳でこちらを凝視していた。
我々は、今からあの魔王と戦うのだ。
もしも敗れれば、そこにあるのは死。我々だけでなく、この世界の全ての人たちにも、死がもたらされるかもしれない。
ああ、悪役令嬢さえ己の責務を全うしてくれたなら、私はこんなところに来なくて済んだのに。
「リディアはお前じゃなくて俺と結婚するんだ!」
「皆さん争わないでください!」
さてさて、いよいよ魔王城への入り口が近付いてきた。
馬車で数日間走った程度の人里からそう遠くない場所に魔王城があるのか、と疑問に思う人もいるだろうが、もちろんそんなに近いところにあるわけではない。
山の麓にある洞窟の、少し入ったところに魔王の臣下が使っていたとされる魔法陣がある。
その魔法陣に触れると、魔王城の入り口に転移するのだ。
我々はその山の一番近くにある小さな村に馬車を預けて、魔法陣まで徒歩移動をすることになった。
「馬車は置いていくのに御者であるエリオは来るんだね」
「うん。ミレイアと一緒にいたらあれこれ回収できるし。足手まといにはならないようにするよ」
「怪我だけはしないようにね」
足手まといだと思うことはないけれど、怪我だけはされたくない。死ぬなんてもってのほかだ。
しかしエリオが一緒にいてくれるのは、正直ちょっと嬉しかった。
だってエリオがいなければ、私は喋る相手もいないのだから。
一応旅の同行者であるヒロインと攻略対象キャラ御一行様は、今まで大して魔物に遭遇しなかったことを一切気にするわけでもなく、今も私とエリオの後ろをついてくるだけ。
それどころか修学旅行ではしゃぐ子ども顔負けの騒ぎっぷりだ。この先、下手したら死ぬかもしれないというのに。
いや……まぁ、それもこれも私たちが楽しいからって魔物が出た瞬間撃ち抜いて核を回収して、アイツらの視界に魔物を入れなかったことが原因なのかもしれないから、文句は言えないのだけれど。
「あった、魔法陣」
外の光が届きづらくなってきたところで、薄く紫色に光る魔法陣を見付けた。
あれを踏めば、魔王城の入り口に辿り着く。
「行こう、ミレイア」
エリオがそう言って手を差し出してきた。
「うん」
差し出された手を取って、私たちは魔法陣の中に一歩足を踏み入れた。
なんかまだわいわいやってるヒロインと攻略対象キャラたちを放置して。
「おー、すごーい」
魔王城を見た瞬間、私の口から漏れ出た言葉がそれだった。
ゲームで見たことのある物が目の前に現れると感動するよね。聖地巡礼的な感覚だ。なんて、感動しながら門の両脇にいたガーゴイルを銃で撃ち抜く。
そんな私の隣でガーゴイルの核を回収していたエリオが「ガーゴイルの核はちょっと重い」と呟いていた。
それから数体の魔物を撃ったところで、やっとヒロインたちが現れた。
私たちが魔法陣を踏んでいた時に「誰がリディアと手を繋ぐか」で揉めていたので、やっと決着がついたのだろう。誰でもいいわ。本当に。マジで。
ため息を噛み殺しながら魔王城の門を開けようとしたところ、第二王子が「俺が開ける!」と言い出した。
めんどくせぇなと思いながら一歩下がって待つ。わざわざ、見てて! 今からカッコイイことするから! みたいな顔をしながらヒロインを見ているのがとても鬱陶しい。そして腹立たしい。
そんな感情を全て心の中に押し込めて、魔王城内に入った。
心なしか湿度が高い気がする。そしてなんとなく埃っぽい。なかなか体に悪そうな城である。
さらに建物に対して照明が少ないからめちゃくちゃ薄暗い。精神面にも悪そうな城である。さっさと出たい。
「何もいないなぁ」
私の特殊スキルを使ってみたものの、何も見えない。見えないってことは、何もいないってことだ。
「リディア、何が出てくるか分からないから俺の後ろにいて」
と、ヒロインに声をかけたのはレオンだった。年下キャラに先を越された、と第二王子だのなんか他の奴もヒロインを取り囲み始めるわけだが、こちらとしてはなんかかっこつけてるけど何もいねぇっつってんじゃんとしか思えない。
エリオの表情筋だってどんどん死んでいっている。魔物が出ないもんだから核の回収も出来ないもんね。
そんな無駄に警戒する攻略対象キャラたちと、沢山のナイトに守られるお姫様気取りのヒロインと、死んだ目をしたモブという良く分からないパーティも、ついに魔王がいるであろう部屋まで辿り着いた。……城内で魔物にエンカウントすることなく、辿り着いてしまった。その道中で、私はふと思った。
ガーゴイルを倒した後、数体の魔物を倒したわけだけど、あの中に魔王の臣下がいたかもしれない……と。だからこんなにもエンカウントしないのかもしれない。まぁ今気が付いたところで倒してしまったもんは仕方ないのだけれど。
そんなことを考えている私をよそに、攻略対象キャラたちが我先にと魔王がいるであろう部屋の扉を開けた。
「あれが……」
ヒロインの小さな声が響く。
廊下に比べればいくらか明るいけれど、やはりどこか薄暗い、ただただ広いだけの部屋。
その最奥に、玉座がある。そこにいたのはもちろん魔王だ。
頭には黒くて大きな角、髪はこの世の闇を集めたような暗い色。全身は鱗に覆われており、背中だか腰だかからはタコの足のようなうねうねとした何かが生えている。
そんな魔王が、赤黒い光を灯した瞳でこちらを凝視していた。
我々は、今からあの魔王と戦うのだ。
もしも敗れれば、そこにあるのは死。我々だけでなく、この世界の全ての人たちにも、死がもたらされるかもしれない。
ああ、悪役令嬢さえ己の責務を全うしてくれたなら、私はこんなところに来なくて済んだのに。
48
あなたにおすすめの小説
「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました
黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。
古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。
一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。
追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。
愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。
ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・
強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる