ゆるゆる冒険者生活にはカピバラを添えて

蔵崎とら

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びっくりする

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 あっという間に私たちの番になり、まずはサロモンが聖獣召喚に挑んでいる。
 聖獣召喚は、魔力を持つ人であればそう難しくなく出来るという。
 しかしどんな人であっても、かの大賢者ウォルミテ・ロユマノワをもってしても、どのような生き物を召喚するかは選べなかった。
 円形の広いホールの中央に描かれた大きな魔法陣。その中に、サロモンがいる。
 あの場所で魔法を唱えて血を垂らすと魔法陣の中央に聖獣が召喚されるわけだ。
 サロモンは今魔法を唱えているところだろう。口元が動いているから。
 それからすぐに左手に持っていたオブシディアンの小刀で右手の中指に傷をつけた。
 距離があるのでさすがに一滴の血は見えなかったけれど、魔法陣が光を放ち、風が吹き始めた。
 光と風が落ち着いた頃、魔法陣の中央に大きなシルエットが見えてくる。
 
「あれが、サロモンの聖獣……」

 思わず言葉が滑り落ちる。

「クロヒョウだ」
「とても美しい」

 客席のあちこちから声がする。
 しかしサロモンの聖獣は周囲のざわめきの声などものともせず、魔法陣の中央で凛々しく座っている。

「よろしくな、ウォルク」

 そう声を掛けられたサロモンの聖獣は、しなやかに立ち上がり、音もなくサロモンの足元に近付いたかと思えばサロモンの膝あたりに頭を擦り付けていた。かわいい。なにあれかわいい。大きいけどかわいい。

「次のかた、どうぞ」
「はい」

 多少の緊張を残しつつ、私ははっきりと返事をして魔法陣を目指す。

「頑張ってね、リゼット姉さん」
「ええ、ありがとう」

 途中ですれ違ったサロモンと小さく会話をして、定位置に着いた。
 そして深く息を吸って、魔法を唱えるのだ。

『トア・リュビエント・イオルツ』

 次はオブシディアンの小刀で右手中指に傷をつけ、血を垂らす。

『聖界の魂よ。えにしを辿り、我が血の元へ』

 ぽたり、血が魔法陣に落ちた瞬間、魔法陣が光り輝いた。
 客席からでは分からなかったけれど、光も風も思ったより強い。
 頑張って目を開けておく予定だったのに、そうはいかなくて、私は思わずぎゅっと目を閉じてしまった。
 そして風が落ち着いてきたのを肌で感じたその時だった。

「あ、あれは……」

 という周囲の声が耳に滑り込む。

「なにあの聖獣……」
「初めて見たけど」
「とっても……ずんぐりむっくりしてる」

 サロモンの聖獣の時とは明らかに違う周囲のざわめきを聞きながら、ゆっくりと目を開ける。
 そして魔法陣の中央を見ると、そこには茶色の塊が、いた。

「……ん?」

 軽く首を傾げている私をよそに、茶色の塊がもそりと立ち上がる。……あ、今まで座ってたのか。っていうか、え?

「なにこの生き物!!!?」
「きゅるるる、きゅるる」

 鳴き声かなぁ? きゅるきゅる言ってる!

「え!? かわいい! あ、えっとえーっと、あなたの名前は、モルン。よろしくお願いします」
「きゅるるるる」

 手を差し伸べたら、頭を撫でさせてくれた。
 毛は硬くブラシに触れたみたいな感覚だった。え、かわいい。
 撫でまわしたい気持ちを押さえつけて、急いで魔法陣から降りて客席へと向かう。
 足元を見たら私の聖獣モルンはのしのしと歩いて付いてきてくれている。かわいい。

「おかえり、リゼット姉さん」
「ただいまサロモン。かわいい」
「良かったね。カピバラかぁ」
「カピバラっていうの?」
「そう。大きいけどネズミの仲間だよ」
「ネズミなの!?」

 こんなに大きいのにネズミだったのか、この子。

「俺の聖獣はクロヒョウ。猫の仲間」
「両方ともこんなに大きいのに猫とネズミなのね……」

 世の中には不思議な生き物がたくさんいるんだなぁ。
 そんなことを思いながら、モルンのぴろぴろと動く耳を眺めたりひくひくしている鼻を眺めたりしていたら、いつの間にかティーモの召喚がおわっていた。
 なんだかとても小さい生き物を召喚したらしく、ここからは見えない。
 ふとぬくもりを感じたのでちらりと足元を見ると、モルンが私の足にぴたりとくっついて座っている。かわいい。

「おかえりなさいティーモ。聖獣は……あらかわいい!」

 ティーモの聖獣は彼女の肩に乗っていた。
 小さくてかわいくて白い生き物。あれは確かオコジョだ。

「可愛い子を召喚出来て良かったです」

 ティーモは嬉しそうに言う。

「今のところ冒険者からスカウトが来そうな聖獣は誰も引いてないみたいで良かった」

 と、サロモンが言うのとほぼ同じタイミングで、魔法陣からの光を感じた。
 イヴォンが聖獣を召喚したのだろう。
 どんな聖獣かなぁ、と魔法陣を注視していると、ばさりという羽根の音が響く。

「あれは」
「なんだか、とっても」
「ピンクだな」

 ティーモ、私、サロモンがテンポ良く言葉を落とす。
 ……いや、まぁ、イヴォンは鳥がいいって言っていたし、希望通りだったのでは……ないのかな? イヴォンの顔がちょっと引きつってる気がしないでもないけど……?

「なんか思ってたのと違う」

 帰ってきたイヴォンがぽつりと零した。
 やっぱ違ったんだ……。

「全員召喚したし、受付で各々の聖獣データを登録してから次に行こう」
「はーい」

 聖獣データの登録は義務らしいので、受付にあるクリスタルに触れてデータを登録するのだとか。
 そしてデータを登録すれば自分の聖獣の詳細も分かるというので早く登録したいところ。
 ちらりと足元を確認すると、やっぱりモルンがのしのしと付いてきてくれていてかわいい。
 もはやかわいい以外の言葉が思い浮かばないままデータ登録所までやってきていた。
 データ登録は自分と自分の聖獣と一緒にデータ登録用の魔法陣に乗れば勝手に読み込まれ、目の前にあるクリスタルに触れるだけで完了する。
 そしてそのクリスタルからクリスタル板がぽいっと出力され、自分の聖獣の詳細が分かる。
 このシステムも大賢者ウォルミテ・ロユマノワが作ったものだそうで、サロモンが魔法陣やクリスタルを見ながら興奮している。大賢者すげぇー! って。
 そんな中、そんな状態のサロモンに声を掛ける猛者が出現した。
 長毛種の白い猫を抱いた可愛い少女だった。

「あの、サロモン様、ですわよね?」
「え? ああそうですけど」
「その、同じ種族のよしみで仲良くしていただけると嬉しいと思って声を掛けさせていただいたのですが」
「同じ種族……? あぁ、まぁ、ざっくり言えば……?」
「あの、その、よろしくお願いいたしますっ!」

 ……これがサロモンとそのストーカーとの出会いだった。
 一方その頃私はというと。

「君、僕と同じ種族の聖獣を召喚していたよね」
「同じ種族……? その、手のひらの上の……」
「チンチラだよ。同じげっ歯類だよね?」
「……そう……ですね?」
「だから、その、よろしく」

 これが私とそのストーカー? との出会いだった。

「キエェェェェェ!」

 そしてこれがイヴォンの聖獣の初めての絶叫だった。

「ちょ、頼むから静かにしてくれ……!」




 
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