ゆるゆる冒険者生活にはカピバラを添えて

蔵崎とら

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聖獣について掘り下げる

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 とりあえず生活の拠点を整えるのが私たちの最初の仕事、というわけで。
 こちらに住み始めてから三日ほどが経った。
 聖獣を召喚し冒険者登録も完了し、いつでも冒険者として仕事が出来るわけだけれど、まずは拠点である家の中を整えなければ皆本領発揮出来ないでしょ。

「うーん?」

 共用部分の家具を配置していたところで、サロモンが首を傾げた。
 ちらりと見てみると、共用部分に置いた聖獣ベッドを見ながら首を傾げているようだ。

「どうしたの?」
「ウォルクのベッドとモルンのベッド、あとはアベルの止まり木があって……ネポスが」
「モルンをベッドにしてるわね。かわいい」

 モルンは穏やかが過ぎるようで、ネポスが上に乗っていてもなんともないらしい。
 ぴすぴすと寝息を立てて眠っている。

「いやモルンとネポスは可愛いんだけど、ウォルクがどうしてもネポスのベッドを尻で潰すんだよね……」

 ウォルクはネポスのベッドを自分の尻置きだと思っているようだ。

「何度も何度もそれはネポスのベッドだよって言うし、ウォルクもそれに毎度毎度頷くんだけど、それはそれとして敷きたいらしい」
「なんか気に入っちゃったのかな?」

 私とサロモンがそんな話をしていると、そこにティーモがやってきた。

「いやでもネポスもそのベッド使わないんですよね……」
「あら、そうなの?」
「そのベッド使ってるところ見たことなくて。いつもモルンさんの背中に乗っちゃってます」

 言われてみれば、共用スペースにいるときは必ずモルンの背中に乗ってる気がする。そして急にモルンが立ち上がった時に落とされている気がする。
 昨日はモルンに落とされたネポスが仕方なさげにウォルクのところに向かっていたのを見た気がする。
 もしかしたらネポスは誰かの背中の上に乗っていたいのかもしれない。

「まぁ揉めそうだったらネポスのベッドを改めて考えるってことでいいかしら?」

 背中に乗るのが好きなネポスを無理にベッドに寝かせるのも可哀想だし、モルンの背中に乗るネポスかわいいし、ネポスのベッドを尻に敷くのが気に入ってしまったウォルクからそれを取り上げるのも可哀想だし、モルンの背中に乗るネポスかわいいし。かわいいし。
 三匹がそんなことをしている中、キエェェェェでお馴染みのアブルは基本的には我関せずといった様子で止まり木にいる。
 たまに床に降りてきてはてくてくと歩き回り、三匹にすりすりと嘴あたりを擦り付けて止まり木に戻っていくという謎の動きを見せている。
 あれにどんな意味があるのかは分からないけれど、誰も嫌そうにしていないので問題はないのだろう。
 皆べったり仲良しというわけではないものの各々丁度いい距離感を保って穏やかに過ごしている、そんな感じで、眺めているだけでとても楽しい。
 そもそもこの先一生モルンと一緒にいられると思うだけで楽しいし幸せだ。
 なんせ聖獣には寿命がない。
 聖獣というのは私たちのような魔法使いが、魔法の力と己の血で聖界にいる魂を呼び寄せるもの。
 本体は魂であり、姿形はただの借り物なので生き物とは少し違うのだ。……と、聖獣についての本に書いてあった。
 だから聖獣と野生生物は違うし、魔獣とも違う。
 魔法使いによっては魔獣を使役する人もいるとのことだが、魔獣には寿命があるので一生一緒にはいられない。
 そんな聖獣の最後はというと、呼び寄せた魔法使いが亡くなった時に借り物の姿形を消して聖界に帰っていく。
 魔法使いの最後の最後まで共にいてくれる。
 あぁ愛おしい。

「きゅるるる」

 モルンが私の視線に気が付いたのか、むくりと立ち上がりネポスを盛大に落としてこちらに向かってきた。
 椅子に座っていた私のそばに来て、のそりと立ち上がって私の膝に己の手を乗せる。
 重い。重いけどかわいい。

「どうしたの?」

 特に何をするわけでもなく私の匂いを嗅いだり鼻先を私の腕に擦り付けたりしている。かわいい。
 かわいいんだけど……?
 モルンに落とされたネポスが窓に向かって駆け出し、ウォルクが唸りながら立ち上がる。
 最終的にはアブルが外のほうを向いて「キエェェェェェ」と絶叫する。
 ちょっと様子がおかしい。
 何か、警戒しているような?

「ちょっと外の様子を見てくる」

 サロモンがそう言うと、ウォルクもサロモンの後を追う。
 自分も行きます、とイヴォンが言えばアブルは機敏な動きでイヴォンの肩に向かって飛んだ。
 聖獣たちのこの相棒感が私は最高に大好きだ。

「きゅる、きゅるるる」
「よしよし」

 やたらとすりすりしてくるモルンの頬や顎の下をなでてやる。
 するとモルンは気持ちよさそうに目を細めた。
 それからしばらくして、玄関ホールから「おじゃまいたしますわねっ」という女性の、とても大きな声がした。
 どこかで聞いたような声だった気がしないでもない。

「素敵なお家ですわね、サロモン様!」
「ニャーン」

 あぁ、白い長毛種の猫。
 ということは、聖獣を召喚したあの日、サロモンに同じ種族がどうとかいって声を掛けていた女の子か。
 なぜここに……?

「ど、どうやってここに?」

 サロモンが戸惑いながら女の子に問いかける。

「わたくし、どうしてもサロモン様にお会いしたくて、ポヨに頼みましたの。サロモン様の香りを辿ってくれないかしら? って」
「ポヨ……」
「あ、私の聖獣ポヨです。ポヨとは古代の言葉でよき友という意味なのですわ」

 女の子の名より女の子の聖獣の名を知ってしまった。そしてそんなポヨは今、女の子の腕の中から真ん丸の目でモルンを見詰めている。
 モルンはというとポヨのことも女の子のことさえも気にせず私になでられている。

「……ええと、さっき聖獣たちが警戒していたのは、彼女のことだったのかしら?」

 私はサロモンに声をかける。

「なんか、違う気がする。ウォルクもアブルも彼女のことは見ていなかったから」

 じゃあ一体何に、と私たち四人が首を傾げていると、女の子もふと首を傾げる。

「そういえば、わたくしの他にも外からこのお家を気にしている人がいらっしゃいましたわ」
「え?」
「とても挙動不審で、わたくしが見ていることに気がついたらそそくさと逃げていってしまいましたわ。黒い髪で、同じ色の大きな鳥を連れていた気がするような?」

 挙動不審な怪しい人物がいたから皆が警戒していたのかもしれない。

「黒い大きな鳥ってことは、こないだアブルが喧嘩売ってたカラスですかね」

 冒険者登録に行った時の話か。
 その可能性もあるだろうけど、どうしてその人が挙動不審な感じでこの家を見ていたんだろう?
 もしかして、アブルに喧嘩を売られた逆恨みで……?

「俺たちも警戒しておこう」

 そんなサロモンの言葉をいち早く拾ったのは女の子だった。

「わたくしも、見かけたらとっ捕まえてさしあげますわっ!」
「あ、いや、それは別に大丈夫です」

 ドン引きするサロモンであった。




 
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