ゆるゆる冒険者生活にはカピバラを添えて

蔵崎とら

文字の大きさ
9 / 18

新しいお友達が増える

しおりを挟む
 サロモンのストーカー……いえ、サロモンを尋ねて来た女の子の名はキャサリン・ゴールドストーンというそうだ。
 ゆるく波打った薄紅色の髪に、きらめくサンストーンのようなオレンジ色の瞳が可愛い15歳の女の子。
 ちなみに私が18歳でサロモンが17歳なので、私たちより少し年下だ。
 キャサリンの聖獣は白く長い毛を持つ少し大きめな猫。名前はポヨ。
 そんなキャサリンはサロモンに一目惚れをしたらしい。
 サロモンもお母様似で中性的な顔をしているものね。姉の贔屓目もあるかもしれないけれど、綺麗な顔だと思う。
 ……だからまぁ、一目惚れをするのは分からなくもない、かもしれない。ただ、まさかそれで家まで押しかけてくるとは。
 恋する乙女の行動力をなめてはいけない、ということだろうか。
 そして、そんな主に似たのかポヨもどうやら一目惚れをしたらしい。まさかのモルンに。
 さっきまで私になでられていたモルンだったが、不審者が去ったあたりでベッドに戻っていったのだ。
 モルンのその様子を、じっと真ん丸の目で見ていたポヨは、モルンがベッドに寝そべったところでキャサリンの側を離れてモルンの脇腹にそっと寄り添った。
 モルンの背に飛び乗ったネポスから、ちくりと小さなキックが入ったけれど、ポヨはそんなことお構いなし。
 ゴロゴロと爆音で喉を鳴らしながらモルンに貼り付いている。それはもうぺったりと。
 モルンのほうは我関せずといった様子で、ポヨを一瞥することもない。
 なんとも不思議な光景だけれど、揉め事が起こるわけではないのでそっとしておいてもいい……のかな?
 傍から見ていたらとてもかわいいし。

「皆さまはデザーウッド王国出身ですのね。……デザーウッド」

 押しかけて来たキャサリンをさくっと追い返すのもなんだか悪い気がするし、ということで我々と彼女を含めた五人でティータイムとなった。
 本日のお菓子はイヴォン特製のストロベリータルトである。とても美味しい。

「四人ともデザーウッド出身。俺とリゼット姉さんは完全に国を捨てて出てきたんだけどね」
「あら、そうなのですか?」
「そう。ちょっと色々あって」
「……と、いうことは、皆さま平民ということ」
「そういうことになるね。ゴールドストーンってことは、キャサリンは公爵令嬢かな」
「あ、ええ、まあ」

 一人で押しかけて来ていい人じゃなかったのでは? まさかの公爵令嬢。

「ではキャサリン様とお呼びしたほうがいいのでしょうか?」

 私がそう問いかけると、彼女はとても寂しそうな顔をした。

「いいえ……いいえ、わたくしのことはキャサリンと呼んでくださって構いませんわ」

 そういうわけにはいかないのでは? 公爵令嬢なのに。

「だって、わたくしは皆さまと同じ、冒険者ですもの!」
「公爵令嬢が? 冒険者? 大丈夫?」

 サロモンが矢継ぎ早に質問を飛ばした。

「現状は公爵令嬢ですわ。しかし近いうちに家を追い出されるでしょう」
「追い出される?」

 首を傾げる我々四人を見たキャサリンは、深く頷いて見せる。

「わたくし、婚約者がいるのですけれど、その婚約者に恋人がいますの。婚約者はその恋人と結婚するために、婚約者とその取り巻きたちとで共謀し、わたくしに濡れ衣を着せて公爵家を没落に追い込もうと画策しているのですわ」
「とんでもない話が出てきたわね」

 思わず口を挟んでしまった。

「わたくし、家族が大切ですの」
「……え、だから」
「だから、婚約者と取り巻きが面倒なことを起こす前にぐっちゃぐちゃにしてやるつもりで冒険者になったのですわ!」

 とんでもないじゃじゃ馬かもしれない。

「……でも、本当はわたくしも、家も国も全て捨てたほうが、家族のためになったのかもしれないとは、思っていて……だから、お二人の勇気が羨ましいですわ」
「いやいや、俺たちは大切な家族である母親を病気で失って、さらに父親を憎んで捨てたんだから。大切な家族を守るために行動したキャサリンの勇気も大したもんだと思うよ」

 サロモンが微笑みながらそう言うと、キャサリンの頬が薔薇色に染まった。完全に落ちた顔をしている。恋に落ちている。サロモンったら罪作りな男だこと。

「でも、冒険者になっただけで、ぐっちゃぐちゃになるのかしら?」

 ふと私が首を傾げると、頬を薔薇色に染めてぼんやりしていたキャサリンが我に返った。

「わたくしの婚約者は侯爵家の男なのですが、そちらの侯爵家は職を持つ女は嫁にしないというしきたりがあるのですわ。ですから私が冒険者登録をした時点で結婚相手にふさわしくなくなる。現に彼のお母様である侯爵夫人が婚約解消の話を進めようとしているところですわ」
「じゃあ、丸く収まりそうなのかしら?」
「婚約の話さえなくなれば濡れ衣を着せられることもないでしょうし、大丈夫だと思いますわ。それにこのことは王子殿下にも話を通して……」

 キャサリンが動きを止めた。
 そしてサロモン、私、イヴォン、ティーモを見回して、己の胸の前でぱちんと手を叩く。

「思い出しましたわ! さっき外で見た不審者! あれは確か、デザーウッド王国の王族ですわ!」
「デザーウッドの王族?」
「どこかで見た顔だとは思っていましたの! そうですわ、きっとそう。数年前近隣諸国の交流会で見た……デザーウッド王国の、王子、弟のほう……第二王子殿下ですわ!」

 やっと思い出せたらしいキャサリンのスッキリした顔とは裏腹に、我々四人は完全に青ざめてしまった。
 なぜよりによって第二王子がこの国に!?

「俺たち、その第二王子から逃げてきたみたいなもんなのに!」
「ええ!?」




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

氷の精霊と忘れられた王国 〜追放された青年、消えた約束を探して〜

fuwamofu
ファンタジー
かつて「英雄」と讃えられた青年アレンは、仲間の裏切りによって王国を追放された。 雪原の果てで出会ったのは、心を閉ざした氷の精霊・リィナ。 絶望の底で交わした契約が、やがて滅びかけた王国の運命を変えていく――。 氷と炎、愛と憎しみ、真実と嘘が交錯する異世界再生ファンタジー。 彼はなぜ忘れられ、なぜ再び立ち上がるのか。 世界の記憶が凍りつく時、ひとつの約束だけが、彼らを導く。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

処理中です...