ゆるゆる冒険者生活にはカピバラを添えて

蔵崎とら

文字の大きさ
11 / 18

お仕事を始める

しおりを挟む
 初めての仕事を引き受けるため、冒険者ギルドのジェイド館にやってきた。
 サロモンはお金になる仕事があるから、とどこかへ行ってしまったので、私はティーモとイヴォンと一緒に掲示板を眺めている。

「いろんなお仕事があるのねぇ」

 勝手なイメージだけれど、冒険者の仕事といえば人間に危害を加える魔獣を駆除したり、ダンジョンに入って調査をしたり、とにかく危険なものばかりだと思っていた。
 しかし、今私たちが見ている掲示板に並んでいるのは薬草の採取や花の採取そして水の採取といったこれといって危険はなさそうなもの。
 庭の草むしりなんてものもある。危険どころか平和で仕方ないな。
 しかも毒草はないので草食の聖獣が食べてくださっても大丈夫です、と注釈が入ったものまで。これならモルンもお腹いっぱいだしお金ももらえるし一石二鳥かもしれない。
 ……だがしかし、私とモルンだけならそれを請け負ってもいいけれど、ネポスとアブルは別に草食ではないよなぁ。

「聞いたか? 公爵令嬢のはなし」

 どの依頼を請け負うか、と頭を悩ませていたところで、どこからともなく噂話が聞こえてきた。

「聞いた聞いた。前代未聞だよな、公爵令嬢が冒険者だなんて」

 おそらくキャサリンのことだろう。
 高位貴族が冒険者になるなんて、やっぱりあり得ない話なのだろう。こんなところで噂話になるくらいに。

「公爵夫妻もよく許したよなぁ」
「許したかどうかは分からないだろう。公爵令嬢の独断って可能性だってなくはないはずだし」

 私たちは三人で顔を見合わせながら、ちょっと呆れた顔をする。
 好き勝手言ってるわねぇ、なんて零しながら。

「公爵令嬢の独断だったとしたら、そのうち勘当されたりしてな」
「あー。じゃああの公爵令嬢が勘当されて、いつか平民に?」
「平民になったとしたら、俺たちがあの美少女と結婚することも可能ってことかぁ」
「わぁ、それめちゃくちゃいいなぁ。見かけたら手を貸すフリでもしてとりあえずお近づきにならねぇとな!」

 下卑た笑いで勝手に盛り上がっているが、彼らが見ているのは低ランク帯冒険者向けの掲示板だ。
 ……まぁ、夢を見るのは自由だけれど、と思っていたところで、ばさりと羽音が聞こえた。
 そして次に聞こえたのは――。

『頼むから静かにしてくれ』

 というアブルの声だった。

「こらアブル!」

 なんとアブルはイヴォンの肩から噂話に興じている奴らの元へと飛んで行き、いつも自分が言われているあの台詞を放ったのだ。
 私とティーモは思わず「ぷふっ」と失笑してしまった。いや、我慢しなきゃいけないことは分かってたんだけど突然だったから。
 しかし周囲を見てみれば笑っているのは私たちだけではない。
 この場にいて、下世話な噂話が聞こえていた人たちは皆ほんのり笑っているようだった。
 アブルを見て「あの鳥天才じゃん」と笑っている人もいる。
 確かに、絶妙なタイミングで、さらにはイヴォンの呆れた感じの口調で『頼むから静かにしてくれ』だもの。いけない、折角我慢したのに笑ってしまいそうだ。

「なんかすみません」

 ほんのちょっぴりの申し訳なさもない、完全なる棒読みの「すみません」を放ったイヴォンがアブルを連れて戻ってくる。
 下世話な噂話をしていた人たちは、笑いを我慢している私やティーモ、そしてこの場にいるギャラリーたちの生暖かい視線を浴びながら、草むしりの仕事を請け負ってそそくさとギルドを後にしていた。
 去って行く様子を見たところ、彼らの聖獣はヤギ、ヒツジ、シマウマと、見事に草食動物ばかりだったようだ。

「あの、少しよろしいでしょうか」

 さて、仕事仕事、と掲示板に視線を移したところで、女性に声を掛けられた。
 制服を着ているのでギルド職員だろう。胸元のループタイには緑色の宝石、ジェイドが輝いている。

「はい」
「活動適性区域、水中ですよね」
「ええ、そうですけど」

 よく見たら、職員の女性は急いでいるのか少し息が上がっている。

「あの、急ぎの依頼があるんですけどお願いできませんか?」

 本当に急いでいるようだ。

「えっと」
「お願いしますっ、水中で活動出来る聖獣を連れてるかたがなかなか捕まらなくて!」

 とても困っているようだ。

「あの」
「報酬もランクポイントも倍にしますので!」
「やります」

 お金につられて即答してしまったけれども。

「ありがとうございますー!」
「あの、でも私、これが初めての仕事で」
「大丈夫ですよ! 依頼内容は近所の泉での水草の採取ですので!」

 職員さんは私の両手をがっしりと掴んで言う。
 絶対に逃がさないという強い意思を感じる。

「それでは、三名でこちらの依頼を受けてくださるということでいいですね! こちらに手を翳してくださいね」

 仕事が早い。
 クリスタルの玉を差し出されたので、そこに手を翳すと冒険者宝石とその玉がリンクして、依頼の受注が完了する。
 簡単で助かる。

「よろしくお願いします。お気をつけていってらっしゃい」

 というわけで、初めてのお仕事が決まったのである。

「えーっと、ペサレの泉でウンディーネの髪飾りという水草の採取。採取量は多ければ多いほど……だそうよ」

 ティーモとイヴォンに依頼内容を見せる。
 そして私は視線をモルンのほうに移す。

「モルン、お願い出来る?」
「きゅー」

 モルンはそう一言鳴いてから、に、と自慢げに前歯を見せてくれたのだった。ああかわいい。




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

処理中です...