ゆるゆる冒険者生活にはカピバラを添えて

蔵崎とら

文字の大きさ
12 / 18

水草を採取する

しおりを挟む
「穏やかな天気ねぇ」
「本当、お散歩日和ですねぇ」

 なんて、穏やかな会話をしながら、私たちは徒歩でペサレの泉を目指している。
 ペサレの泉は冒険者ギルドの門を出てすぐの森の奥にあるとのことで、地図を見てみたらそれほど遠くなかったので移動は徒歩を選んだわけだ。
 ギルドの敷地内もギルドの外も、いろんな聖獣がいて、皆違って皆かわいい。
 そして私の足元をのしのし付いて来ているモルンもとてもかわいい。
 よく見たら時々私のことを見上げているようで、それはそれはとてもかわいい。
 お仕事が終わったらおやつを買ってあげようねぇ。
 私はギルドの敷地内に聖獣のおやつ屋さんというのを見付けていたのだ。
 このお仕事が終わって報酬を貰ったら一番におやつとアクセサリー的なものを買うと決めている。
 ちなみに聖獣は野生動物ではないので食べ物を食べなくても生きていける。
 食べたければ食べるし、食べることに興味がない聖獣は一生食べないこともあるのだとか。
 そして聖獣は聖獣を食べないので、肉食獣であるウォルクとモルンやネポスが一緒に生活していても問題はない。
 聖獣とは実に不思議でかわいい生き物なのである。

「森だわ。この奥にある泉ね」

 歩いて歩いて、時々モルンと目と目を合わせて微笑んで、そんなことをしていたらあっという間に森に着いていた。

「水の音もしてますし、迷うこともなさそうですね」
「そうね」

 森に足を踏み入れたあたりから、小川のせせらぎが聞こえ始めていた。
 森といっても鬱蒼とした森ではなく、ピクニックが出来そうな森のようだ。
 ギルドで見せてもらった依頼書にも猛獣や魔物の出現はなしと書かれていたから、初心者に優しい森なのかもしれない。

「しかし水草を急ぎで採取してほしいってどういうことなんでしょうね?」

 と、ティーモが首を傾げる。
 それに答えたのはイヴォンだった。

「ウンディーネの髪飾りは薬草だから、どこかで病人が出たんじゃないかな」

 ウンディーネの髪飾りって薬草だったんだ。

「薬草なんですねぇ」

 ティーモも知らなかったようで、感心している。

「そう、薬草。確かなんとかっていう疫病の薬を作る素材だったと思うけど」
「疫病?」
「はい。どっかで流行り病でも出たのかも……?」

 採取量も多ければ多いほど助かる感じだったし、あながち間違いではなさそうな気もする。

「じゃあ出来るだけたくさん採取して帰りましょうね」
「そうしましょうそうしましょう」

 採取するのはモルンなんだけど、モルンは大丈夫かしら?

「モルン、お願いね」
「きゅるるるる」

 やる気に満ちているようだ。いやまぁいつものかわいい顔だけれど。

 そんなこんなでペサレの泉に到着した。

「それじゃあモルン、ウンディーネの髪飾りっていう水草を取ってきてください」

 私がそう声を掛けると、モルンは「ふんっ」と気合いの鼻息を零して泉に飛び込んだ。

「泳ぐモルンもかわいいわねぇ」

 普段あんなにのしのし歩いてるのに、水に入ってしまえばすいすい泳いでいる。かわいい。
 あんよがびよーんってなっててかわいい。

「綺麗な泉ですね。泳ぐモルンさんがよく見える」

 ティーモが言った。

「本当ねぇ」

 泉のほとりで、モルンの仕事ぶりを眺めながら感心していると、イヴォンも泉を覗き込みに来た。

「ペサレの泉の水は裂傷によく効くポーションにも使われるから、持って帰れば売れるんじゃないかと」

 だそうだ。売れるのなら持って帰りたいところ。

「イヴォンさんって、さっきの薬草のこともですけど、そういうのに詳しいんですね」

 ティーモが呟いた。
 確かに、ウンディーネの髪飾りが疫病に効く薬の素材になるなんて、依頼書にも書いてなかったな。

「昔の知り合いに、魔法薬専門の薬師がいたもので」
「なるほど」
「魔法薬専門の薬師……ってことは、本当に流行り病だったとしたら、その知り合いさんも忙しくしてるかも?」

 私がそう問いかけると、イヴォンはふ、と微笑んだ。昔を懐かしむように。

「あ、モルンさんが戻ってきましたよ」

 さっきまで潜っていたモルンが、すい~、と上昇してきている。かわいい。

「え、なんかもっさり持ってきてますよね」
「本当だわ、もっさりしてる」

 モルンは一度に大量の水草を取って来たようで、口元が水草でもっさりしている。

「わぁ、ありがとうモルン!」
「きゅー」

 泉のほとりにもっさりとしたウンディーネの髪飾りを置いて、またすぐに潜っていった。

「じゃあ私たちはこれを袋に詰めましょうか」
「はい!」

 モルンが持ってきてくれたウンディーネの髪飾りを、アブルとネポスが長さごとに仕分けをしてくれているので、私とティーモとイヴォンの三人で黙々と袋に詰めていく。

「葉っぱの色も綺麗だし、なんか真珠みたいな実もついてるし、本当に髪飾りみたいですねぇ」
「確かにこのまま髪飾りに出来そう」
「でもこれ乾くとすぐに黒くなるんですよ」

 ティーモと私がウンディーネの髪飾りを髪に当ててみたりしていたら、イヴォンがぽつりと零した。
 こんなにも綺麗なのに、すぐに黒くなってしまうなんて。

「じゃあ髪飾りには出来ないのね。こんなに綺麗なのに」
「そうですね。俺は黒くなった状態の物しか見たことがなかったから、こんなに綺麗だったなんて知りませんでした」

 イヴォンがくすりと笑った。

「お、もっさり第二弾が来た!」

 どうやらモルンはとても働き者のようだ。
 もっさりを陸に置いてもう一度潜っていってしまった。
 そんなもっさりをせっせせっせと袋に詰めて、用意していた袋が全てぱんぱんになった。

「きゅるるる、きゅるるる」

 もうそろそろ終わりにしようと思っていたが、モルンがもう一度潜っていった。
 またもっさりを持ってくるのかと思ったが、上がって来たモルンの口元にもっさりはない。
 泳ぎたくなったのかな? と思ってモルンの動向を見ていると、モルンはかわいい鳴き声を零しながら私のところへ歩いてきた。

「どうしたの?」

 座って作業をしていた私の腕に鼻先を擦り付けているので何事かと思えば、モルンは私の膝の上に何かを置いた。

「何、あら、綺麗ね」

 どうやらモルンは泉の底で宝石のような物を見付けてきたらしい。

「私にくれるの?」
「きゅるる」

 ということは、私へのプレゼントということ!? 最高にかわいい!

「ありがとうモルン」

 そう言って耳のあたりをなでると、モルンは嬉しそうに目を細めて「くくく」と鳴いた。




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

氷の精霊と忘れられた王国 〜追放された青年、消えた約束を探して〜

fuwamofu
ファンタジー
かつて「英雄」と讃えられた青年アレンは、仲間の裏切りによって王国を追放された。 雪原の果てで出会ったのは、心を閉ざした氷の精霊・リィナ。 絶望の底で交わした契約が、やがて滅びかけた王国の運命を変えていく――。 氷と炎、愛と憎しみ、真実と嘘が交錯する異世界再生ファンタジー。 彼はなぜ忘れられ、なぜ再び立ち上がるのか。 世界の記憶が凍りつく時、ひとつの約束だけが、彼らを導く。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

処理中です...