ゆるゆる冒険者生活にはカピバラを添えて

蔵崎とら

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仕事ぶりを褒められる

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 ウンディーネの髪飾りでぱんぱんになった袋を抱えながら、私たちは冒険者ギルドに戻ってきた。
 門のそばにあるパン屋さんから放たれる甘く香ばしいパンの香りに惑わされ、聖獣用の装飾品店の看板に惑わされ、とりあえずこの大荷物をギルドに預けなければという強い思いで歩みを進める。
 たしかサファイア館で採取してきた物の鑑定をしてもらって、依頼された物で間違いなければジェイド館で依頼完了と――。
 
「おかえりなさいっ」

 ジェイド館で私たちに急ぎの依頼があると声を掛けてくれたギルド職員のお姉さんが出迎えてくれた。どうやら我々を待ち構えていたようだ。
 よほど急いでいるのだなぁ。

「今帰ってきたところで、まだ鑑定が」
「大丈夫です! 薬草なら私でも鑑定出来るので!」

 ギルド職員のお姉さんは私が抱えている袋の中を覗き込んで「あぁ間違いありませんこんなにたくさん助かりますー!」と早口で言い放った。
 この大量のウンディーネの髪飾りはジェイド館に運び込めばいいそうなので、このままジェイド館を目指す。
 そしてジェイド館に着くやいなや、職員の皆さんが飛びついてきた。

「助かる~!」

 と言いながら。

「それでは報酬とランクポイントの準備をしてきますので、この部屋でお待ちください!」

 職員のお姉さんに言われるがまま、私たちは応接室のような部屋で待つことになった。

「なんだか怒涛の初仕事でしたね」

 ティーモがネポスの背中をなでながら言う。

「そうね。そしてとてつもなく急ぎの依頼だったのね」

 私がモルンの耳あたりをなでながら答える。

「職員総出で待たれてたみたいですしね」
『クッキーほしい』
「今は無理」

 イヴォンがアブルと面白トークを始めようとしたところで、職員のお姉さんが部屋に入ってきた。

「お待たせしました、依頼完了です」

 職員のお姉さんが、テーブルの上に報酬とクリスタルを乗せる。
 我々が報酬を受け取ると、クリスタルから光が放たれ、それが三人の冒険者宝石に吸い込まれていった。
 これがランクポイントの加算方法だったようだ。キラキラしてて綺麗だなと思ってたらいつの間にかポイントが加算されてたなんて。

「いやぁ、本当に助かりましたぁ」

 職員のお姉さんはそう言って大きく息を吐く。

「本当に急ぎだったのですね」

 私のそんな問いかけに、職員のお姉さんがこくこくと何度も頷いてみせる。

「これ、依頼主がカロン公国なんですよ」
「他国から直々の依頼……ってことですか?」

 職員のお姉さんの言葉に、イヴォンが首を傾げた。
 するとお姉さんがひとつ頷いて、声を潜める。

「なんでも、カロン公国内で疫病が蔓延してるんだとか」
「疫病」

 イヴォンの言う通り、疫病の薬を作るためにウンディーネの髪飾りが必要だったのだ。
 カロン公国といえば、今いるリュビシュタナールのご近所さんだったはず。

「その疫病がリュビシュタナールに入ってこないよう、しっかりとした対策をとってもらうことを条件にウンディーネの髪飾りを送るって話でして」

 たしかに疫病なんて入ってくると大変なことになるもの。
 薬草を渡すことでしっかり対策してもらえるなら、そしてこの薬草で疫病で困っている人が助かるなら、急ぎで採取して来た甲斐があるというものだ。

「でもこの最悪なタイミングでリヴァイアサンが目を覚ましてしまって」

 リヴァイアサンというと、海に住んでいるめちゃくちゃ大きな魔獣……だったかな?

「海中で活動出来る聖獣だけでは足りなくて、水中で活動出来る聖獣まで出払っていたんです」

 私が知らないところで、なんだか大変なことになっていたようだ。恐ろしいな。

「しかしながら皆さんが大量の薬草を持ってきてくださったので、しばらくは大丈夫だと思います。カロン公国に送る分も我が国で保存しておく分も確保出来ましたから」

 職員のお姉さんは、心底ほっとした様子で微笑む。

「あ、そういえば売れるかもしれないと思ってペサレの泉の水も採取してきたんですが」

 イヴォンが泉の水を入れた瓶を差し出すと、職員のお姉さんが立ち上がった。

「助かりますーっ! これがあれば裂傷治療用ポーションが作れますしリヴァイアサンおやすみ隊の皆さんの治療がはかどります!」

 リヴァイアサンおやすみ隊……?

「追加報酬とポイントを持ってきますね!」

 リヴァイアサンおやすみ隊というなんともメルヘンな呼び名に、きょとんとしている間に、追加報酬が決まったようだ。
 イヴォンのお手柄だわ。私たちだけではペサレの泉の水が使えるなんて知らなかったのだから。

「今日は本当にありがとうございました」

 追加の報酬とポイントを受け取った私たちは、帰るために立ち上がる。
 そんな私たちに職員のお姉さんが握手をしながらお礼を述べてくれているが、初仕事で想定以上の報酬を貰えたのだから、感謝したいのはこちらのほうだと思う。

「また足りなくなったらよろしくお願いします」

 今までで一番圧が強かった。

 そんな仕事終わりの帰り道、イヴォンが難しい顔をしながら口を開いた。

「この疫病、デザーウッドは対策をしてるのか……?」

 独り言のように零す。

「一応しているのでは? さすがに……」

 ティーモがそう答えるが、イヴォンは難しい顔をしたままで。

「デザーウッドはウンディーネの髪飾りが採れる泉が少ないからな……」

 言われてみればデザーウッドは沼地が多くて泉や湖が少なかった気がする。

「大変なことにならなければいいわね……」

 国を出た私たちが出来ることなんてほとんどない。
 だから私たちは大事にならないよう祈るしかないのだ。

「あら、サロモンだわ」

 ジェイド館を出て、広場に差し掛かったあたりでサロモンと遭遇した。

「リゼット姉さんだ」
「サロモン、あなたどこに行ってたの?」
「仕事であちこち。見てよこれ! 大量の報酬!」

 サロモンが見せびらかしてきた報酬とやらは、たくさん貰えたと思っていた私たち以上だった。

「何をしたらそんなに……?」
「身体強化用の魔法石を作っては売り作っては売りを繰り返して」
「魔法石……」
「今リヴァイアサンと戦ってる人たちがいるって話だったからその人たちに売り付けてきた」

 リヴァイアサンおやすみ隊の皆さんだ……!

「とりあえず何か食べて帰ろうよ。俺お腹空いた」
「あ、そうね。私たちもお腹空いたわ」
『クッキーほしい』
「こらアブル」

 私たちは皆であははと笑いながら空腹を満たし、家路につくのだった。




 
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