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めろめろになる
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「はぁ、美味しかったわねぇ」
先ほどのお店でいただいたものはほとんど大当たりだった。
私が食べたケーキも、サロモンたちが食べたケーキも、お茶も、おおむね満足だった。
ただ一人、いや、一羽だけは満足出来なかったらしい。
『クッキー……』
アブルは色んな種類のクッキーを食べていたはずだけれど、どうやらどれもお気に召さなかったらしいのだ。
「毎日あんなに喜んでクッキーを食べてる奴が、なんでクッキー食ってしょんぼりしてるんだよ」
しょぼくれるアブルに、イヴォンが言う。
「というか、そもそもアブルが好きなクッキーって、イヴォンが作ったクッキーなのでは?」
私がぽつりと零すと、アブルがイヴォンの肩からばさりと離陸して、私の肩に着陸した。
そして体全体を私の頬に摺り寄せてくる。大正解だと言わんばかりに。ふわふわでかわいい。
「ねえアブル、イヴォンが作ってくれたクッキーが好きなのよね?」
『クッキー!』
「ほら、そういうことなのよ、きっと」
そう言って笑うと、まんざらでもなさそうなイヴォンがこちらに近付いてきた。
「はいはい。毎日焼きますよ」
と、アブルに向けて右手を差し出すと、アブルは私の肩から差し出された手に乗り換えて、そのまま腕をよじ登ってイヴォンの肩に帰っていった。仲良しだなぁ。
「次はどのお店に行く?」
ふとサロモンに問われる。
「行きたいのは聖獣のおやつと聖獣のアクセサリーのお店だけれど、近いほうから?」
「近いほうは、アクセサリーですわね」
あちらですわ、とキャサリンが指をさした先には、行きたい行きたいと思っていた『永遠の夢』と書かれた看板が小さく見えている。
めちゃくちゃ行きたい。
「……行ってもいいかしら?」
私が皆に問いかけるが、もう皆の足はそちらに向いている。
「ほら、早くしなよリゼット姉さん」
なんだったらもう置いて行かれ始めている。
「きゅるるぴー?」
モルンが私の少し前を歩きながらちょっと首を傾げながらこちらを振り返っている。かわいい。置いて行くよー? みたいなこと言ってた気がする。めちゃくちゃかわいい。私の聖獣が世界一かわいい。
「ほら、こちらですわよリゼットお姉様」
モルンにめろめろになっていた間に到着していたようだ。
「もう入り口に置いてある物から早速かわいいわね」
入り口に置いてあったのは、どんな聖獣にも合いそうなスカーフだった。
サイズも色柄も豊富で、モルンに合いそうなサイズの物もありそうだ。
他の物ももちろん見て回るつもりだけれど、とりあえずこのスカーフは絶対に買おうと思っている。
スカーフの他は、魔法石を使ったアクセサリーか、人間と聖獣でお揃いに出来るアクセサリーか、なんて考えながら顔をあげると、そこには噂のワイバーン用の猫耳フードが置いてあった。
これを身につけてくれるワイバーンは、果たして存在するのだろうか……?
「……増えていますわね、ワイバーン用のフード」
「えっ」
「以前はひとつしかなかった気がしますわ」
ワイバーン用の猫耳フードを眺めていた私の隣に並んだキャサリンが言う。
私の売れるのか? という思いとは裏腹に、商品は増えているのだという。
増えているということは需要があるということか。
ワイバーンを召喚した人がいるという噂は聞いたから、ワイバーンそのものはこの世に存在しているはずだし、そのワイバーンが猫耳を付けたいのかもしれないものね。……増えただけで減ってないってことは……これ以上考えるのはやめておこう。
猫耳フードは他にもサイズがあるようだけれど、モルンに猫耳は……猫耳であのぴろぴろぴっぴしてるかわいいお耳が隠れるのはもったいないからいらないか。ぴろぴろぴっぴ。
「リゼットお姉様はどんな物を買うつもりなんですの?」
「そうねぇ、一応あっちにあったスカーフは欲しいのだけれど……身体強化用の石を使ったアクセサリーも付けてあげたいのよねぇ」
「それでしたらスカーフにこちらのブローチを付けてあげるのも可愛いのでは?」
「かわいい!」
そんなこんなで石の色がどうとか、スカーフの素材がどうとか、それはもう盛り上がった。ちなみにモルンとポヨはちょっと飽きてきている。
モルン用のアクセサリーを決めて、お会計をと思った途中でかわいいブレスレットを見付けた。こちらは人間用らしい。
「これかわいい」
「可愛いですわね。意匠は同じだけれど、石の色も数も選べる」
「ねえ、これ皆でお揃いにしない?」
「え?」
「ほら、色もたくさんあるから、私たち五人分の瞳の色の石を使うとかで、お揃いに!」
それぞれ見たい物を見ていた皆を揃えて、ブレスレットのかわいさについて力説したところ、サロモンやイヴォンも折れてくれたようで、最終的には皆お揃いでブレスレットを買うことにしたのだ。
「可愛いし浄化と身体強化と毒無効と麻痺無効、あとは癒し……なかなかいい感じですね!」
ティーモはノリノリのようで良かった。
「そうでしょそうでしょ。大抵のことは無効化してくれそうだし毎日でも付けられるでしょ」
「わたくし、宝物にしますわっ!」
ほら、キャサリンだって涙目で喜んでくれて……涙目!?
「キャサリン?」
「わたくし、こんなに嬉しいの、初めてですわ!」
いやそんなに喜んでくれるなら私も嬉しいけれども……!
「あーあ、リゼット姉さんが泣かせちゃった」
「えっ!?」
「あーあ」
「イヴォンまで!」
『あーあ』
「アブルまで!?」
私の提案で、まさかキャサリンが泣いちゃうなんて思ってもみなかったし、最終的にアブルにまで「あーあ」と言われることになるなんて考えてもいなかったわ!
とはいえ皆楽しそうに笑っているし、思い出の品として、そして今後もたくさんの思い出を作っていけるように、ここで楽しく生きていこうじゃないか。
「きゅるるるる」
「モルンは私を慰めてくれてるのよね? 今のきゅるるは『あーあ』って意味ではないわよね?」
「ぴーぃ」
あぁどっちだったとしてもかわいいねー!
なんて、またしてもモルンにめろめろになっていて、その時の私は周りが見えていなかったのだと思う。
先ほどのお店でいただいたものはほとんど大当たりだった。
私が食べたケーキも、サロモンたちが食べたケーキも、お茶も、おおむね満足だった。
ただ一人、いや、一羽だけは満足出来なかったらしい。
『クッキー……』
アブルは色んな種類のクッキーを食べていたはずだけれど、どうやらどれもお気に召さなかったらしいのだ。
「毎日あんなに喜んでクッキーを食べてる奴が、なんでクッキー食ってしょんぼりしてるんだよ」
しょぼくれるアブルに、イヴォンが言う。
「というか、そもそもアブルが好きなクッキーって、イヴォンが作ったクッキーなのでは?」
私がぽつりと零すと、アブルがイヴォンの肩からばさりと離陸して、私の肩に着陸した。
そして体全体を私の頬に摺り寄せてくる。大正解だと言わんばかりに。ふわふわでかわいい。
「ねえアブル、イヴォンが作ってくれたクッキーが好きなのよね?」
『クッキー!』
「ほら、そういうことなのよ、きっと」
そう言って笑うと、まんざらでもなさそうなイヴォンがこちらに近付いてきた。
「はいはい。毎日焼きますよ」
と、アブルに向けて右手を差し出すと、アブルは私の肩から差し出された手に乗り換えて、そのまま腕をよじ登ってイヴォンの肩に帰っていった。仲良しだなぁ。
「次はどのお店に行く?」
ふとサロモンに問われる。
「行きたいのは聖獣のおやつと聖獣のアクセサリーのお店だけれど、近いほうから?」
「近いほうは、アクセサリーですわね」
あちらですわ、とキャサリンが指をさした先には、行きたい行きたいと思っていた『永遠の夢』と書かれた看板が小さく見えている。
めちゃくちゃ行きたい。
「……行ってもいいかしら?」
私が皆に問いかけるが、もう皆の足はそちらに向いている。
「ほら、早くしなよリゼット姉さん」
なんだったらもう置いて行かれ始めている。
「きゅるるぴー?」
モルンが私の少し前を歩きながらちょっと首を傾げながらこちらを振り返っている。かわいい。置いて行くよー? みたいなこと言ってた気がする。めちゃくちゃかわいい。私の聖獣が世界一かわいい。
「ほら、こちらですわよリゼットお姉様」
モルンにめろめろになっていた間に到着していたようだ。
「もう入り口に置いてある物から早速かわいいわね」
入り口に置いてあったのは、どんな聖獣にも合いそうなスカーフだった。
サイズも色柄も豊富で、モルンに合いそうなサイズの物もありそうだ。
他の物ももちろん見て回るつもりだけれど、とりあえずこのスカーフは絶対に買おうと思っている。
スカーフの他は、魔法石を使ったアクセサリーか、人間と聖獣でお揃いに出来るアクセサリーか、なんて考えながら顔をあげると、そこには噂のワイバーン用の猫耳フードが置いてあった。
これを身につけてくれるワイバーンは、果たして存在するのだろうか……?
「……増えていますわね、ワイバーン用のフード」
「えっ」
「以前はひとつしかなかった気がしますわ」
ワイバーン用の猫耳フードを眺めていた私の隣に並んだキャサリンが言う。
私の売れるのか? という思いとは裏腹に、商品は増えているのだという。
増えているということは需要があるということか。
ワイバーンを召喚した人がいるという噂は聞いたから、ワイバーンそのものはこの世に存在しているはずだし、そのワイバーンが猫耳を付けたいのかもしれないものね。……増えただけで減ってないってことは……これ以上考えるのはやめておこう。
猫耳フードは他にもサイズがあるようだけれど、モルンに猫耳は……猫耳であのぴろぴろぴっぴしてるかわいいお耳が隠れるのはもったいないからいらないか。ぴろぴろぴっぴ。
「リゼットお姉様はどんな物を買うつもりなんですの?」
「そうねぇ、一応あっちにあったスカーフは欲しいのだけれど……身体強化用の石を使ったアクセサリーも付けてあげたいのよねぇ」
「それでしたらスカーフにこちらのブローチを付けてあげるのも可愛いのでは?」
「かわいい!」
そんなこんなで石の色がどうとか、スカーフの素材がどうとか、それはもう盛り上がった。ちなみにモルンとポヨはちょっと飽きてきている。
モルン用のアクセサリーを決めて、お会計をと思った途中でかわいいブレスレットを見付けた。こちらは人間用らしい。
「これかわいい」
「可愛いですわね。意匠は同じだけれど、石の色も数も選べる」
「ねえ、これ皆でお揃いにしない?」
「え?」
「ほら、色もたくさんあるから、私たち五人分の瞳の色の石を使うとかで、お揃いに!」
それぞれ見たい物を見ていた皆を揃えて、ブレスレットのかわいさについて力説したところ、サロモンやイヴォンも折れてくれたようで、最終的には皆お揃いでブレスレットを買うことにしたのだ。
「可愛いし浄化と身体強化と毒無効と麻痺無効、あとは癒し……なかなかいい感じですね!」
ティーモはノリノリのようで良かった。
「そうでしょそうでしょ。大抵のことは無効化してくれそうだし毎日でも付けられるでしょ」
「わたくし、宝物にしますわっ!」
ほら、キャサリンだって涙目で喜んでくれて……涙目!?
「キャサリン?」
「わたくし、こんなに嬉しいの、初めてですわ!」
いやそんなに喜んでくれるなら私も嬉しいけれども……!
「あーあ、リゼット姉さんが泣かせちゃった」
「えっ!?」
「あーあ」
「イヴォンまで!」
『あーあ』
「アブルまで!?」
私の提案で、まさかキャサリンが泣いちゃうなんて思ってもみなかったし、最終的にアブルにまで「あーあ」と言われることになるなんて考えてもいなかったわ!
とはいえ皆楽しそうに笑っているし、思い出の品として、そして今後もたくさんの思い出を作っていけるように、ここで楽しく生きていこうじゃないか。
「きゅるるるる」
「モルンは私を慰めてくれてるのよね? 今のきゅるるは『あーあ』って意味ではないわよね?」
「ぴーぃ」
あぁどっちだったとしてもかわいいねー!
なんて、またしてもモルンにめろめろになっていて、その時の私は周りが見えていなかったのだと思う。
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