召喚された勇者様が前世の推しに激似だったので今世も推し活が捗ります

蔵崎とら

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ハツカネズミの心拍数は1分間に約300回らしい

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 あー……どういうことだかわかんないけど前世を思い出しちゃったし、なんか前世の推しに激似の人が私の隣にいる。
 推しに激似なだけで推しではないんだけれども、似すぎててヤバい。なんかもうヤバい。ヤバいしか言えなくなりそうでヤバい。
 いやでも逆に隣で助かったみたいなところはあるかもしれない。だって正面だったら、うっかり目が合ってしまったら、私爆発しちゃうかもしれない。無理~! って言いながら爆発しちゃうわ。
 隣は隣で距離が近くてヤバいけど。っていうか私の隣にいる理由が婚約者だからってのもヤバいな。婚約って。推しと同じ顔の人と婚約って。
 え、婚約ってことはそのうち結婚するじゃん。ってことは一生一緒にいるってこと? は~やべぇ~!

 ……と、現在の私の脳内は大変なことになっていて、パーティーが終わったことにもほとんど気が付いていなかった。
 私は導かれるままに、王家の控室へと戻ってきていたわけだが、勇者様は勇者様の控室に戻ったそうなので、今はもう隣にはいない。
 よかった、命拾いした。あのままでは心拍数が上がり過ぎて天に召されるところだったもの。さっきまでの私の心拍数は多分ハツカネズミと同じくらいだったと思う。

「セリーヌ様、大丈夫でしたか?」

 脳ミソパンク状態の私に、王妃様が優しく尋ねてくれる。

「はい、大丈夫です」
「見たところ、あのクズよりは良さそうでしたけれど」

 にこやかに声をかけてくれたし、静電気が起きた際は気遣って「ごめん」と言っていたし、突然の婚約だというのに嫌な顔一つしていなかったようにも思える。推せる。

「髪の毛黒かったね」
「黒かった」

 ソシアとルナールがこそこそと話している。
 確かに髪の毛は黒というか焦げ茶というか、濃い色合いをしていた。お父様が個性的な色合いだと言った意味も分かった。
 あれは日本人だからあの色だったのだ。日本ではあれが普通だ。いや私の推しは金髪になったりピンクになったりと忙しかったけれど。ちなみに私は黒髪が一番好きだった。そんで一番ビビったのはレインボーだった。

「婚約したとはいえ、結婚までにはまだしばらく時間がある。嫌なことがあったらすぐに俺に言うように」
「ありがとうございます、お兄様」

 今のところ嫌なところはない。爆発の危険性はある。私の心臓が危ない。

「……なにやら廊下が騒がしいですね」

 側妃様の声に、ふと意識を廊下に向けると、男の騒ぐ声がした。
 それからすぐにドアがどんどんと叩かれる。
 その音を聞いたお父様が「はあ」と盛大な溜息を零した後、従僕にドアを開けさせた。

「どういうことだ!?」

 雪崩れ込むように入ってきたのは、浮気男の父親だ。
 さっき顔面を真っ白にさせたり真っ青にさせたりしていたと思ったら、今度は真っ赤になっている。怒ってる怒ってる。

「どういうこともなにも、勇者の望みは叶えねばなるまい」
「しかし、しかし俺の家は」
「学生時代懇意にしてくれた恩があったと思っていたんだがなぁ」

 そう言ったお父様の瞳は酷く悲しそうだった。

「その恩があったから、お前の息子の愚行にも目こぼしをしていた。もう少し大人になれば、まともになると思っていたからな」
「な、なんのことだ」
「我々が気付いていないとでも思っていたのか?」
「……それは、いや、しかし、あれは」
「この期に及んで言い訳が出来るとでも思っているのか? お前の愚息のせいで、我が娘は盛大に傷ついたのだ。それでもなお自分だけは助かろうと?」
「あ、あのくらい、女なら我慢すべきだろう」
「まさか、我々が王族だということを忘れているのか? お前の愚息がやったことは立派な侮辱だ。やろうと思えば死罪にも出来るのだぞ?」
「ぐ、う……」
「借金を重ねてまで贅沢をしている暇があったのなら、もっとまともな子を育てておくべきだったな」

 お父様は、話は終わったとばかりに手で払う仕草を見せる。するとそれを見た近衛兵たちが、浮気男の父親を連行していった。
 彼がどこに連れて行かれるのかは、私は知らない。

「すまなかったな、セリーヌ」
「あ、いえ」

 そんなことより聞いてよお父様! 私の新しい婚約者が前世の推しにそっくりなんだけど! という気持ちでいっぱいなので、浮気男からの今までの仕打ちや今のやりとりなど心底どうでもいい。
 現在の私の悩みは、新たな婚約者である勇者様を正面から見て心臓が止まらないかどうかだ。
 折角推しに激似の人と婚約者になれたのだもの。どうせなら結婚してから死にたい。せめて結婚式まではなんとか。あ、結婚式と言えばこの世界の結婚式に誓いのキスとかあったっけ!?
 などと邪なことを考えていると、腰のあたりに衝撃が襲ってきた。

「お姉さま」

 王妃様の娘であるアナが腰に抱き着いてきた衝撃だったようだ。
 そんなアナを見た王妃様の娘その2とその3ことイヴとヴィセも集まってくる。

「お姉さまがいなくなるの、寂しい」
「ええ、私もよアナ」
「ずっとここにいてほしい」
「イヴ」
「けっこん、いや?」
「いいえ、嫌じゃないわ、ヴィセ」

 私は三人の頭を撫でながら、少しだけ後悔をする。
 こんなにも寂しがってくれる妹たちがいるというのに、推しのそっくりさんと結婚出来るからと手放しに喜んでしまっていた。
 しかも推しではないし。そっくりさんだし。勇者様、いやタイキ様にもちょっと失礼だったかもしれない。
 と、私は少しだけ冷静になった。




 
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