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7沖田総司編 浅葱色の秘めた恋 ①
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「あはははははは、こっちですよ櫻子さん」
「宗次郎様……待って」
「ほら、捕まえてごらんなさい」
「宗次郎様ったら」
僕たちは境内でいつも仲よく遊んでいた。
みーんみーんみーん・セミはけたたましい程の鳴き声で夏の到来を告げている。
青葉が生い茂る青臭いにおいの中、朝露を従えた葉っぱたちはキラキラと輝き、シトリシトリと水滴は流れていった。葉っぱの隙間から零れる屈折した光たちは地面をゆらゆらとはい、まるで陽炎の様だった。
「セミが鳴くと夏が来たって思うわぁ」
地面にしゃがみこんで蟻の行列を見ている。何が楽しいのか櫻子はジッとそこから動かず一列に行列をなす蟻に集中していた。
「櫻子さん!櫻子さん……どうしました」
肩に置かれた手に心臓が跳ね、ドクンドクンと大きな音が体中から漏れてしまいそうだった。
「なんでもないわ、ちょっとポーっとして」
「働きすぎですよ」
彼女の名前は【櫻子】老舗豆腐屋喜祥の一人娘だ。
小さいながらも手入れの行き届いた店は、いつも埃一つ落ちていなく、気分のいい店である。彼女の気立ての良さがうかがえる。
今日はいつもより早く目が覚めたものだから、剣の稽古にと竹刀を持ち宗次郎は素振りに出かけた。
境内に入ると何やら誰かが歌を歌っている声がする。朝露にピッタリの声は空に引き込まれていくような透明感のある声だった。
優しい風に♪染まったならー♪緑の葉が――――降り注ぐ♪貴方を想い――♪心の中に――――――キラキラと♪光るシャボン玉♪
知られてはいけない想いだから♪心の便せんにしたためましょう――♪
ガサガサ!
「!?」
びっくり眼の大きな目が、音のする方を見る。
僕の方を凝視する目は宙をさまよい、頬はどんどん真っ赤に染まっていく。
「誰ですか!」
「ごめん、僕です。宗次郎です。盗み聞きするつもりではなかったのです……余りにも綺麗な声だったから。つい」
「いやですわ、宗次郎様。剣のお稽古ですか?下手なお歌を聞かないで下さい」
「そんなことない、ただちょっと切なくて、普段の櫻子さんからは想像つかなかったから……」
「想像ですわ……」
櫻子は境内の階段に腰を下ろし少しの間お稽古を見ていたが、おもむろに立ち上がりにっこり笑った。
「豆腐屋の朝は早いのです。もうお手伝いに行かなければ……」
「一人では危ない、送っていくよ」
「まぁ、私の方が四つも年上ですのに……生意気なことをおっしゃって」
「早く私も追いつきたいものです」
二人は境内を後にした。
「櫻子さん、自分は剣の腕を磨こうと思います。天然理心流に入ります」
この時沖田総司は9歳であった。
守りたいものの為に強くなろうとした男の決意がここにあった。
「櫻子さん僕は‥‥‥」
「宗次郎様……待って」
「ほら、捕まえてごらんなさい」
「宗次郎様ったら」
僕たちは境内でいつも仲よく遊んでいた。
みーんみーんみーん・セミはけたたましい程の鳴き声で夏の到来を告げている。
青葉が生い茂る青臭いにおいの中、朝露を従えた葉っぱたちはキラキラと輝き、シトリシトリと水滴は流れていった。葉っぱの隙間から零れる屈折した光たちは地面をゆらゆらとはい、まるで陽炎の様だった。
「セミが鳴くと夏が来たって思うわぁ」
地面にしゃがみこんで蟻の行列を見ている。何が楽しいのか櫻子はジッとそこから動かず一列に行列をなす蟻に集中していた。
「櫻子さん!櫻子さん……どうしました」
肩に置かれた手に心臓が跳ね、ドクンドクンと大きな音が体中から漏れてしまいそうだった。
「なんでもないわ、ちょっとポーっとして」
「働きすぎですよ」
彼女の名前は【櫻子】老舗豆腐屋喜祥の一人娘だ。
小さいながらも手入れの行き届いた店は、いつも埃一つ落ちていなく、気分のいい店である。彼女の気立ての良さがうかがえる。
今日はいつもより早く目が覚めたものだから、剣の稽古にと竹刀を持ち宗次郎は素振りに出かけた。
境内に入ると何やら誰かが歌を歌っている声がする。朝露にピッタリの声は空に引き込まれていくような透明感のある声だった。
優しい風に♪染まったならー♪緑の葉が――――降り注ぐ♪貴方を想い――♪心の中に――――――キラキラと♪光るシャボン玉♪
知られてはいけない想いだから♪心の便せんにしたためましょう――♪
ガサガサ!
「!?」
びっくり眼の大きな目が、音のする方を見る。
僕の方を凝視する目は宙をさまよい、頬はどんどん真っ赤に染まっていく。
「誰ですか!」
「ごめん、僕です。宗次郎です。盗み聞きするつもりではなかったのです……余りにも綺麗な声だったから。つい」
「いやですわ、宗次郎様。剣のお稽古ですか?下手なお歌を聞かないで下さい」
「そんなことない、ただちょっと切なくて、普段の櫻子さんからは想像つかなかったから……」
「想像ですわ……」
櫻子は境内の階段に腰を下ろし少しの間お稽古を見ていたが、おもむろに立ち上がりにっこり笑った。
「豆腐屋の朝は早いのです。もうお手伝いに行かなければ……」
「一人では危ない、送っていくよ」
「まぁ、私の方が四つも年上ですのに……生意気なことをおっしゃって」
「早く私も追いつきたいものです」
二人は境内を後にした。
「櫻子さん、自分は剣の腕を磨こうと思います。天然理心流に入ります」
この時沖田総司は9歳であった。
守りたいものの為に強くなろうとした男の決意がここにあった。
「櫻子さん僕は‥‥‥」
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