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第1章 卵が暴れるソーサレス
「我ながら見事だったわ」
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「あーっはははははっ!」
洞窟内にアレクシアの無邪気な笑声が響き渡る。
楽しくて仕方がないといった表情の先には、腹部が大きくひび割れた巨像がいた。
相変わらず無邪気に笑う魔法使いの卵はその石の巨塊に、次々と光弾を撃ち込んでいく。
どんっ! どどどどどんっ!
巨像も両腕を交差させて防御体勢をとってはいたが、アレクシアの左手から連続して放たれる光弾は、命中する度に石の体を容赦なく削った。
そして――
「穿つ死よ!」
アレクシアは、右手に溜めた破壊の力を放出し、稲妻で楔のようなもの形成した。赤い輝きを帯びた楔は四本である。
「これで終わりよ!」
破壊の魔法で形成された楔は使い手の声で消滅すると、次の瞬間には巨像に突き刺さっていた――魔法使いでなくては、防ぐことすらできない破壊の楔。もはや摂理ともいえる理不尽。それを使いこなす少女が叫ぶ。
「あんたの出番はこない!」
かっ!
赤い閃光と同時、四本の楔は切っ先から破壊の稲妻を放出し、石の巨塊を小石の山に変えた。
アレクシアは満足そうに頷くと、適度な運動でもこなしたかのような清々しい表情を浮かべる――
「あー、すっきりした♪」
それから足元に転がっていた巨像の破片を蹴り飛ばすと、崩れた壁まで進んだ。そこから吹き込む風が、魔法力の活性化で汗ばんだ体を冷やしていく。
「我ながら見事だったわ」
アレクシアは風に吹き散らされる赤い髪を押さえつけながら、大きく深呼吸をして――ふと、眼下を見下ろせば、森の木々が小さく見える。吹き付ける風の強さも頷ける高さだった。
それはそれとして、魔法使いの卵は両腕を豊かな膨らみの前で組むと、ふふんと鼻を鳴らし、胸中で得意げに言葉を紡ぐ。
(これでわたしのことをお荷物扱いなんてできないでしょうね。あ、そういえば……)
満足感と優越感に満たされたところで、アレクシアはグローリーたちの状態を思い出したらしい。
森に背を向けて、三人の元へ向かおうと振り向いた時、少女の足を冷たい何かが掴んだ。
「きゃあああああ!?」
アレクシアは疑問符を浮かべる暇もなく、勢いよく壁に叩きつけられた。横たわるように倒れ伏した彼女を見下ろしているのは――
「あれだけ粉々にしたのになんで!?」
先ほど粉砕したはずの巨像だった。
復元した直後であるからなのか、全体にひびが走って入るが、その動作は力強い――巨像は動けないアレクシアに手を伸ばすと、彼女の首を力強く掴み、そのまま軽々と宙づりにする。
めき……!
(やばい!)
嫌な音を肉体越しに聞いたアレクシアは、反射的に魔法力を頸部へと集中させ、防壁を構築した。
ぐぎぎっ!
その直後、考えたくないような圧力が防壁を歪ませた。
防壁の構築があと一秒でも遅れていれば、アレクシアの首は握り潰され、頭が地面を転がっていただろう――それを防いだものの、窮地は続く。
アレクシアは石像の右腕を破壊しようと雷をまとわせた右拳を振り上げるが――
ごきっ!
「きゃああああああ!?」
巨像の左腕によって、逆に右腕をへし折られてしまい、絶叫に近い悲鳴をあげた。魔法力で防護されていない部位は、石の巨塊が振るう怪力には耐えられない。
と――
「すぐ助けるから待ってな!」
聞き覚えのある声が、窮地の少女にかけられた。
涙が浮かぶ瞳でそちらを見やれば、グローリーがいる。その脇にはジェイコブも。
(早く……!)
激痛で失いつつある意識をなんとか維持して仲間たちに心で訴えかける――だが、斬りかかる寸前のグローリーを、ディゴが制止した。
「あれじゃ、もう無理すよ!」
「だからって放っておける訳ないだろ!?」
「ディゴは一人じゃ動けないんすよ! ここで俺たちが死んだら、あいつだって死んじまうんです! 全滅っすよ!」
「――!」
窒息寸前のアレクシアが、彼女らのやりとりを完全に把握できた訳ではないが、確実に言えるのは、グローリーとジェイコブが、きびすを返して走り去ってしまったということだけだった。
「うっそでしょ……!?」
アレクシアは何度も両目を瞬かせたが、現実は変わらない。それどころか、窮地はより深刻さを増していく。
「ちょっと!?」
『……』
埒が開かないとでも思ったのか、巨像はアレクシアを抱きしめると、そのまま恐ろしい腕力で締め付け始めた。首の一点だけならまだしも、胴体全体に十分な防壁を展開する余裕は、アレクシアには残されてはいなかった。
「痛い……! この……!」
肺が締め付けられ、肋骨が軋む。
背骨が悲鳴を上げ、負荷に耐えられなくなった瞬間、全ての内臓はぐしゃぐしゃに押しつぶされるだろう。
(死ぬ……!?)
だが最強の魔法使いすら気丈に過ぎると頭を抱えるアレクシアが、なんの反撃もなく最期を迎えるはずがない――破壊魔法の寵児は、最後の力で大きく息を吸った。肺の圧力で巨像の怪力に対抗しようというわけではなく。
「ふざけんなあああああああああああああ!」
咆哮にも似た怒声を張り上げ、残りの全魔法力を一気に破壊の力へと変換した。
それは制御どころか、そもそも魔法として構成すらされていない力の奔流。破壊魔法の源であり、別の大地に在る輝き――アレクシアが赤い光に包み込まれてから一瞬後、鮮血のように濃い赤の輝きが、周囲の一切を呑み込んだ。
洞窟内にアレクシアの無邪気な笑声が響き渡る。
楽しくて仕方がないといった表情の先には、腹部が大きくひび割れた巨像がいた。
相変わらず無邪気に笑う魔法使いの卵はその石の巨塊に、次々と光弾を撃ち込んでいく。
どんっ! どどどどどんっ!
巨像も両腕を交差させて防御体勢をとってはいたが、アレクシアの左手から連続して放たれる光弾は、命中する度に石の体を容赦なく削った。
そして――
「穿つ死よ!」
アレクシアは、右手に溜めた破壊の力を放出し、稲妻で楔のようなもの形成した。赤い輝きを帯びた楔は四本である。
「これで終わりよ!」
破壊の魔法で形成された楔は使い手の声で消滅すると、次の瞬間には巨像に突き刺さっていた――魔法使いでなくては、防ぐことすらできない破壊の楔。もはや摂理ともいえる理不尽。それを使いこなす少女が叫ぶ。
「あんたの出番はこない!」
かっ!
赤い閃光と同時、四本の楔は切っ先から破壊の稲妻を放出し、石の巨塊を小石の山に変えた。
アレクシアは満足そうに頷くと、適度な運動でもこなしたかのような清々しい表情を浮かべる――
「あー、すっきりした♪」
それから足元に転がっていた巨像の破片を蹴り飛ばすと、崩れた壁まで進んだ。そこから吹き込む風が、魔法力の活性化で汗ばんだ体を冷やしていく。
「我ながら見事だったわ」
アレクシアは風に吹き散らされる赤い髪を押さえつけながら、大きく深呼吸をして――ふと、眼下を見下ろせば、森の木々が小さく見える。吹き付ける風の強さも頷ける高さだった。
それはそれとして、魔法使いの卵は両腕を豊かな膨らみの前で組むと、ふふんと鼻を鳴らし、胸中で得意げに言葉を紡ぐ。
(これでわたしのことをお荷物扱いなんてできないでしょうね。あ、そういえば……)
満足感と優越感に満たされたところで、アレクシアはグローリーたちの状態を思い出したらしい。
森に背を向けて、三人の元へ向かおうと振り向いた時、少女の足を冷たい何かが掴んだ。
「きゃあああああ!?」
アレクシアは疑問符を浮かべる暇もなく、勢いよく壁に叩きつけられた。横たわるように倒れ伏した彼女を見下ろしているのは――
「あれだけ粉々にしたのになんで!?」
先ほど粉砕したはずの巨像だった。
復元した直後であるからなのか、全体にひびが走って入るが、その動作は力強い――巨像は動けないアレクシアに手を伸ばすと、彼女の首を力強く掴み、そのまま軽々と宙づりにする。
めき……!
(やばい!)
嫌な音を肉体越しに聞いたアレクシアは、反射的に魔法力を頸部へと集中させ、防壁を構築した。
ぐぎぎっ!
その直後、考えたくないような圧力が防壁を歪ませた。
防壁の構築があと一秒でも遅れていれば、アレクシアの首は握り潰され、頭が地面を転がっていただろう――それを防いだものの、窮地は続く。
アレクシアは石像の右腕を破壊しようと雷をまとわせた右拳を振り上げるが――
ごきっ!
「きゃああああああ!?」
巨像の左腕によって、逆に右腕をへし折られてしまい、絶叫に近い悲鳴をあげた。魔法力で防護されていない部位は、石の巨塊が振るう怪力には耐えられない。
と――
「すぐ助けるから待ってな!」
聞き覚えのある声が、窮地の少女にかけられた。
涙が浮かぶ瞳でそちらを見やれば、グローリーがいる。その脇にはジェイコブも。
(早く……!)
激痛で失いつつある意識をなんとか維持して仲間たちに心で訴えかける――だが、斬りかかる寸前のグローリーを、ディゴが制止した。
「あれじゃ、もう無理すよ!」
「だからって放っておける訳ないだろ!?」
「ディゴは一人じゃ動けないんすよ! ここで俺たちが死んだら、あいつだって死んじまうんです! 全滅っすよ!」
「――!」
窒息寸前のアレクシアが、彼女らのやりとりを完全に把握できた訳ではないが、確実に言えるのは、グローリーとジェイコブが、きびすを返して走り去ってしまったということだけだった。
「うっそでしょ……!?」
アレクシアは何度も両目を瞬かせたが、現実は変わらない。それどころか、窮地はより深刻さを増していく。
「ちょっと!?」
『……』
埒が開かないとでも思ったのか、巨像はアレクシアを抱きしめると、そのまま恐ろしい腕力で締め付け始めた。首の一点だけならまだしも、胴体全体に十分な防壁を展開する余裕は、アレクシアには残されてはいなかった。
「痛い……! この……!」
肺が締め付けられ、肋骨が軋む。
背骨が悲鳴を上げ、負荷に耐えられなくなった瞬間、全ての内臓はぐしゃぐしゃに押しつぶされるだろう。
(死ぬ……!?)
だが最強の魔法使いすら気丈に過ぎると頭を抱えるアレクシアが、なんの反撃もなく最期を迎えるはずがない――破壊魔法の寵児は、最後の力で大きく息を吸った。肺の圧力で巨像の怪力に対抗しようというわけではなく。
「ふざけんなあああああああああああああ!」
咆哮にも似た怒声を張り上げ、残りの全魔法力を一気に破壊の力へと変換した。
それは制御どころか、そもそも魔法として構成すらされていない力の奔流。破壊魔法の源であり、別の大地に在る輝き――アレクシアが赤い光に包み込まれてから一瞬後、鮮血のように濃い赤の輝きが、周囲の一切を呑み込んだ。
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