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一日目
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起きると体の節々が痛かった。視界が開けてくると、自分が硬い床の上で寝ていたことに気づく。別に驚いてもいなかった。なぜなら、この経験はこれで三回目だからだ。
どうやら隣の部屋が騒がしくなっていた。私はこの部屋の扉をゆっくりと開けた。開けた扉の隙間から差し込んでくる光におもわず目を細めた。開けた扉の隙間から差し込んでくる光におもわず目を細めた。何人かの生徒。そう今回の敵はクラスメイトだった。
GAME STRAT
べつに辛いわけでもなかった。むしろ、それぞれの性格を知ってるためやりやすいと思っていた。そこには、前回の人狼ゲームで人狼としてともに戦った夏美の姿もあった。
私の人狼ゲーム初体験の時の役職は普通の村人だった。そのゲームで占い師だった男性の活躍でなんとか勝つことができた。
二回目は、夏美と人狼をやった。一回目のゲームでは人狼は二人だった。でも、二回目は私と夏美ともう一人の人狼がいた。女性だった。運悪く、占い師に占われ正体がばれてしまった。もちろん吊られたが私たちは気にしていない。勝てたからだ。勝つためだったら、多少の犠牲もしょうがない。しかし、三回目の敵がクラスメイトとは。いつも仲良しの人たちに指をさし、吊ることができるだろか。
「これで全員?」
入って来た私を見て葵がそう言った。
「ここはどこ?」
だいたいわかっているが、聞いてみた。
「窓見てみな。どこだか分からないと思うけど。」
席に座ったいた楓がこたえた。
「なんだよこれ。」
そう言った浩司が首を触った。彼のけわしい顔を見て、それぞれ自分の首を確認した。
「なにこれ、首輪みたい。」
横に立っていた誠が答えた。
「首を締めるとか」
詩織が低く小さい声で呟いた。
「やめてよ。怖いこと言わないでよ」
綾香が首のリングをつまみながら言った。皆の首についているリング。この人狼ゲームを恐怖に追い込むためのものだ。
「このテープなに?」
今度はアナログテレビの前に立っていた夏美がつぶやいた。
夏美は人狼ゲーム二回目だ。もちろん夏美はこのテープの存在を知っていた。前回の人狼ゲームにもあった。だから、私も知っている。夏美はテープに注目させたという方が正しいだろうか。気になった智樹がテープを手に取り、テレビの下にある機械に射し込む。全員がテレビに注目した。テレビ画面には人狼ゲームのルール説明がされていた。ルールは知っていたから、私も夏美も見てはいなかった。気づいたら基本ルールの説明が終わり、役職の説明に入っていた。テレビに一番近い智樹が画面の文字を読み上げていた。
「役職の種類とその人数は、村人五人、人狼三人、占い師一人、騎士一人、霊能力者一人、狐一人」
夏美はおもわずテレビを見た。自分もそうだった。狐一人狐という役職は今までの人狼ゲームでは出てこなかった。
「ねえみんな、これ信じる?」
椅子に座って見ていた隼人が問いかけた。しかし、誰も口を開こうとせず、沈黙が流れた。まずは、自分の役職を知らないとゲームが始まらない。
「自分の役職を確認したほうがいいと思う」
投票室の窓側にいた直樹が沈黙を破った。皆、制服のポケットからカードを取り出す。私もポケットを探った。プラスチックのカードを取り出しゆっくりと表にした。自分で自分の目を疑った。カードの中央には黄色い絵。上にはfoxと書かれていた。そう私は・・・狐
時計に目をやった。まだ午前十時だった。投票の時間は二十時。夜の投票まで時間がある。
「投票まで時間あるから、ここからは自由行動にしない?」
美咲の提案に何人かがうなずいて部屋を出て行った。部屋には紗良一人になった。急いでテープを巻き戻してもう一度見返す。
【役職 狐 この役職は村人側でも人狼側でもない役職。人狼の襲撃、占い師に占われると死亡する。勝利条件村人か人狼の勝利が決まった時、狐が生き残っている場合、狐の一人勝ち。】
説明が終わり、紗良は狐カードの裏に書かれた自分の部屋の番号を確認して部屋へ移動した。
私は部屋に戻ったが落ち着かなかった。やったことも見たこともない役職「狐」になってしまったせいで、戦い方すら分からずイライラしていた。ベットに大の字になって深呼吸してみた。何も浮かばなかった。
起き上がって部屋全体を見わたす。部屋には二台の監視カメラがついていた。ひとつはタンスの上。もう一つは、テレビの上にのっていた。タンスには制服の着替えなどが入っている。前回は人狼だったから、夜の襲撃用のナイフも入っていた。今回は、無いみたい。テレビは夜に占い師や騎士が行動にするために使うのだろう。よくできている。狐ではテレビは使わないだろう。なんとなくつけてみた。番組はもちろん見れず、画面には時刻が映っていた。部屋の時計を探してみる。時計はなかった。もう一度テレビを見る。午前十一時。皆は昼食を食べているだろうか。
耳を澄ますと一階の食堂から声が聞こえた。自分も行こうとベッドからおりる。コンコンノックが聞こえた。ドアの前に立ち隙間から覗くようにゆっくりと開けた。ノックしたのは夏美だった。
「どうしたの?」
「少し、入っていいかな?」
夏美の顔色が悪かった。彼女を部屋にいれ、二人ともベッドに座り込んだ。
「どうだった?」
夏美が先に口を開いた。夏美の質問の意味が分からず、私は首をかしげた。
「カードだよ。役職どうだった?」
「あっ、それね」
一瞬どう答えようか迷った。村人と言って、嘘をつくか、言えるわけないと言うか。
「村人」
私は嘘をつくことを選んだ。自ら正体を隠して、怪しまれるよりも相手を安心させたほうがいいと考えた。
「良かった。私も村人」
信じてくれたようだ。
「まさか二回目があるとは。絶対にやりたくなかったのに…」
「…うん」
私は三回目だと夏美は知らない。
「あーお腹すいた。昼食食べた?」
お互いの役職を知って緊張がとけたのだろうか。顔色がいつも通りに戻っていた。私は夏美の質問に首を振る。
「じゃあ先に行ってるね」
そう言って彼女は部屋を出て行った。私が狐である以上、私か夏美は死んでしまう。私は親友の死を見て居られるだろうか。少し考えて夏美を追うように部屋を出た。
食堂ではほとんどの人が集まっていた。一人黙々と食事する人、数人でかたまって雑談をする人たち。まさに修学旅行の光景だった。
私は、カップラーメンを手に取り、湯を注ぎ夏美の座っている席の正面に座った。
「人狼だれだろうね」
遊び感覚で質問してきた。夏美の質問に私はこたえなかった。
「あたしは、美咲だと思うな」
詩織が夏美の横に座ってそう言った。
「なんで?」と夏美が聞くと、
「カードを取ってからあたりをキョロキョロしてるし、目が泳いじゃってるし」と詩織がこたえた。
私は、それを聞いて感心した。すごい人間観察力だ。人間の行動をしっかり見ている。自分にとって要注意人物だ。
夏美が食べ終えると食器を片付けると、食堂を出て行った。足取りが速く感じた。
食堂を出ると、テレビの前に座り、何か見ていた。
「直樹のやつ人狼ゲームやったことあるんだって」
わざわざ誠が教えに来てくれた。テレビの前に直樹が立ち、テレビに指をさしながら説明していた。私は、ルールすべてを知っているから、説明を聞く意味がなかった。
「別に興味無いから」
そう誠に告げて部屋に戻って寝ることにした。
「あと十分だ。そろそろ集合してくれ」
浩司が呼びかけていた。気づけば七時五十分。長い時間寝ていたことに気づく。投票の時間だった。三分もたてば、みんなが集まっていた。
「あ、あのさ」
私から右に三つの席に座っている誠が声を出した。
「これで票を集めたら、本当に死んじゃうの?」「まさかお前、あれ信じてるの?」
誠の正面に座っていた隼人がバカにするように言った。皆もつられて笑っていた。もちろん私も。
「それでも、真面目にやれよ」
哲也が低く声で呼びかけた。
「時間だな」
浩司が時間を知らせる。誰もが声を発しなくなった。
「い、いくぞ。せーの!」
一斉に指を指す。一日目は、何も手掛かりがない。指の先の方向も皆、バラバラだった。私も指されている。その中で、智樹が一番票を集めていた。
「なんで俺なんだよ」
全身の力が抜けて、ため息をつく。周りの人間はドンマイやしょうがないと励ましていた。智樹が立ち上がろうとした時だった。中途半端な格好でその動きが停止した。
「えっ?!」
その声で全員が智樹を見た。智樹は動かないままだった。突如、智樹が首を抑え震え出した。首を抑えたまま自分の席を蹴飛ばし、倒れこんだ。智樹の首についているリングの一点が赤く点滅していた。リングが智樹の首を締め付けていたのだ。女子どもは悲鳴を上げ、男子どもは慌て出していた。私は智樹から一番離れ、見物していた。夏美は、口を手で覆い静止していた。見事な演技だ。まさに初体験という感じだった。私にはできない。絶対に。
動かくなった智樹に哲也が近寄り、智樹の手首に哲也の親指をそえた。
「ダメだ。死んでる」
誰も声を出せなかった。
「あとは俺がなんとかする。みんなはもう寝てくれ」
ぞろぞろと部屋に戻っていった。私は戻ろうとせず、哲也を見ていた。
「紗良も戻れ。見たくないだろ」
「あんたにできんの?」
私の質問で哲也は、うつむいてしまった。少し冷た過ぎたかもしれない。彼も私も智樹を見た。
さっきまで自分の目の前に生物として、すぐそこに存在していたものが、一瞬で物体と化した。
「手伝うよ」
今度は優しく言ってみたこれで少しカバーできたかもしれない。
智樹の部屋番号を哲也が知っていたから、部屋まで運んで部屋に戻る途中
「お前ってこういうの平気なのか」
ポツリとつぶやいた。
「実は、人狼ゲームやったことあるの」
私の言葉に、哲也の足が止まった。そりゃそうだ。突然殺し合いが始まってその経験者がいたら驚いて当然だろう。
「どういうことだよ」
私の歩く道を阻むようにして立ち、予想通りの台詞が返って来た。私は、「ごめん。気にしないで」背を向けて言った。そして自分の部屋に戻ろうとした。
「待てよ」
たが、止められた。腕を掴まれてしまった。 これ以上、前回のゲームについて話したくなかった。「この夜に人狼からの襲撃がある。気をつけて。明日会えることを祈ってる」そう言って掴まれた腕を振り払い、部屋へ戻った。
どうやら隣の部屋が騒がしくなっていた。私はこの部屋の扉をゆっくりと開けた。開けた扉の隙間から差し込んでくる光におもわず目を細めた。開けた扉の隙間から差し込んでくる光におもわず目を細めた。何人かの生徒。そう今回の敵はクラスメイトだった。
GAME STRAT
べつに辛いわけでもなかった。むしろ、それぞれの性格を知ってるためやりやすいと思っていた。そこには、前回の人狼ゲームで人狼としてともに戦った夏美の姿もあった。
私の人狼ゲーム初体験の時の役職は普通の村人だった。そのゲームで占い師だった男性の活躍でなんとか勝つことができた。
二回目は、夏美と人狼をやった。一回目のゲームでは人狼は二人だった。でも、二回目は私と夏美ともう一人の人狼がいた。女性だった。運悪く、占い師に占われ正体がばれてしまった。もちろん吊られたが私たちは気にしていない。勝てたからだ。勝つためだったら、多少の犠牲もしょうがない。しかし、三回目の敵がクラスメイトとは。いつも仲良しの人たちに指をさし、吊ることができるだろか。
「これで全員?」
入って来た私を見て葵がそう言った。
「ここはどこ?」
だいたいわかっているが、聞いてみた。
「窓見てみな。どこだか分からないと思うけど。」
席に座ったいた楓がこたえた。
「なんだよこれ。」
そう言った浩司が首を触った。彼のけわしい顔を見て、それぞれ自分の首を確認した。
「なにこれ、首輪みたい。」
横に立っていた誠が答えた。
「首を締めるとか」
詩織が低く小さい声で呟いた。
「やめてよ。怖いこと言わないでよ」
綾香が首のリングをつまみながら言った。皆の首についているリング。この人狼ゲームを恐怖に追い込むためのものだ。
「このテープなに?」
今度はアナログテレビの前に立っていた夏美がつぶやいた。
夏美は人狼ゲーム二回目だ。もちろん夏美はこのテープの存在を知っていた。前回の人狼ゲームにもあった。だから、私も知っている。夏美はテープに注目させたという方が正しいだろうか。気になった智樹がテープを手に取り、テレビの下にある機械に射し込む。全員がテレビに注目した。テレビ画面には人狼ゲームのルール説明がされていた。ルールは知っていたから、私も夏美も見てはいなかった。気づいたら基本ルールの説明が終わり、役職の説明に入っていた。テレビに一番近い智樹が画面の文字を読み上げていた。
「役職の種類とその人数は、村人五人、人狼三人、占い師一人、騎士一人、霊能力者一人、狐一人」
夏美はおもわずテレビを見た。自分もそうだった。狐一人狐という役職は今までの人狼ゲームでは出てこなかった。
「ねえみんな、これ信じる?」
椅子に座って見ていた隼人が問いかけた。しかし、誰も口を開こうとせず、沈黙が流れた。まずは、自分の役職を知らないとゲームが始まらない。
「自分の役職を確認したほうがいいと思う」
投票室の窓側にいた直樹が沈黙を破った。皆、制服のポケットからカードを取り出す。私もポケットを探った。プラスチックのカードを取り出しゆっくりと表にした。自分で自分の目を疑った。カードの中央には黄色い絵。上にはfoxと書かれていた。そう私は・・・狐
時計に目をやった。まだ午前十時だった。投票の時間は二十時。夜の投票まで時間がある。
「投票まで時間あるから、ここからは自由行動にしない?」
美咲の提案に何人かがうなずいて部屋を出て行った。部屋には紗良一人になった。急いでテープを巻き戻してもう一度見返す。
【役職 狐 この役職は村人側でも人狼側でもない役職。人狼の襲撃、占い師に占われると死亡する。勝利条件村人か人狼の勝利が決まった時、狐が生き残っている場合、狐の一人勝ち。】
説明が終わり、紗良は狐カードの裏に書かれた自分の部屋の番号を確認して部屋へ移動した。
私は部屋に戻ったが落ち着かなかった。やったことも見たこともない役職「狐」になってしまったせいで、戦い方すら分からずイライラしていた。ベットに大の字になって深呼吸してみた。何も浮かばなかった。
起き上がって部屋全体を見わたす。部屋には二台の監視カメラがついていた。ひとつはタンスの上。もう一つは、テレビの上にのっていた。タンスには制服の着替えなどが入っている。前回は人狼だったから、夜の襲撃用のナイフも入っていた。今回は、無いみたい。テレビは夜に占い師や騎士が行動にするために使うのだろう。よくできている。狐ではテレビは使わないだろう。なんとなくつけてみた。番組はもちろん見れず、画面には時刻が映っていた。部屋の時計を探してみる。時計はなかった。もう一度テレビを見る。午前十一時。皆は昼食を食べているだろうか。
耳を澄ますと一階の食堂から声が聞こえた。自分も行こうとベッドからおりる。コンコンノックが聞こえた。ドアの前に立ち隙間から覗くようにゆっくりと開けた。ノックしたのは夏美だった。
「どうしたの?」
「少し、入っていいかな?」
夏美の顔色が悪かった。彼女を部屋にいれ、二人ともベッドに座り込んだ。
「どうだった?」
夏美が先に口を開いた。夏美の質問の意味が分からず、私は首をかしげた。
「カードだよ。役職どうだった?」
「あっ、それね」
一瞬どう答えようか迷った。村人と言って、嘘をつくか、言えるわけないと言うか。
「村人」
私は嘘をつくことを選んだ。自ら正体を隠して、怪しまれるよりも相手を安心させたほうがいいと考えた。
「良かった。私も村人」
信じてくれたようだ。
「まさか二回目があるとは。絶対にやりたくなかったのに…」
「…うん」
私は三回目だと夏美は知らない。
「あーお腹すいた。昼食食べた?」
お互いの役職を知って緊張がとけたのだろうか。顔色がいつも通りに戻っていた。私は夏美の質問に首を振る。
「じゃあ先に行ってるね」
そう言って彼女は部屋を出て行った。私が狐である以上、私か夏美は死んでしまう。私は親友の死を見て居られるだろうか。少し考えて夏美を追うように部屋を出た。
食堂ではほとんどの人が集まっていた。一人黙々と食事する人、数人でかたまって雑談をする人たち。まさに修学旅行の光景だった。
私は、カップラーメンを手に取り、湯を注ぎ夏美の座っている席の正面に座った。
「人狼だれだろうね」
遊び感覚で質問してきた。夏美の質問に私はこたえなかった。
「あたしは、美咲だと思うな」
詩織が夏美の横に座ってそう言った。
「なんで?」と夏美が聞くと、
「カードを取ってからあたりをキョロキョロしてるし、目が泳いじゃってるし」と詩織がこたえた。
私は、それを聞いて感心した。すごい人間観察力だ。人間の行動をしっかり見ている。自分にとって要注意人物だ。
夏美が食べ終えると食器を片付けると、食堂を出て行った。足取りが速く感じた。
食堂を出ると、テレビの前に座り、何か見ていた。
「直樹のやつ人狼ゲームやったことあるんだって」
わざわざ誠が教えに来てくれた。テレビの前に直樹が立ち、テレビに指をさしながら説明していた。私は、ルールすべてを知っているから、説明を聞く意味がなかった。
「別に興味無いから」
そう誠に告げて部屋に戻って寝ることにした。
「あと十分だ。そろそろ集合してくれ」
浩司が呼びかけていた。気づけば七時五十分。長い時間寝ていたことに気づく。投票の時間だった。三分もたてば、みんなが集まっていた。
「あ、あのさ」
私から右に三つの席に座っている誠が声を出した。
「これで票を集めたら、本当に死んじゃうの?」「まさかお前、あれ信じてるの?」
誠の正面に座っていた隼人がバカにするように言った。皆もつられて笑っていた。もちろん私も。
「それでも、真面目にやれよ」
哲也が低く声で呼びかけた。
「時間だな」
浩司が時間を知らせる。誰もが声を発しなくなった。
「い、いくぞ。せーの!」
一斉に指を指す。一日目は、何も手掛かりがない。指の先の方向も皆、バラバラだった。私も指されている。その中で、智樹が一番票を集めていた。
「なんで俺なんだよ」
全身の力が抜けて、ため息をつく。周りの人間はドンマイやしょうがないと励ましていた。智樹が立ち上がろうとした時だった。中途半端な格好でその動きが停止した。
「えっ?!」
その声で全員が智樹を見た。智樹は動かないままだった。突如、智樹が首を抑え震え出した。首を抑えたまま自分の席を蹴飛ばし、倒れこんだ。智樹の首についているリングの一点が赤く点滅していた。リングが智樹の首を締め付けていたのだ。女子どもは悲鳴を上げ、男子どもは慌て出していた。私は智樹から一番離れ、見物していた。夏美は、口を手で覆い静止していた。見事な演技だ。まさに初体験という感じだった。私にはできない。絶対に。
動かくなった智樹に哲也が近寄り、智樹の手首に哲也の親指をそえた。
「ダメだ。死んでる」
誰も声を出せなかった。
「あとは俺がなんとかする。みんなはもう寝てくれ」
ぞろぞろと部屋に戻っていった。私は戻ろうとせず、哲也を見ていた。
「紗良も戻れ。見たくないだろ」
「あんたにできんの?」
私の質問で哲也は、うつむいてしまった。少し冷た過ぎたかもしれない。彼も私も智樹を見た。
さっきまで自分の目の前に生物として、すぐそこに存在していたものが、一瞬で物体と化した。
「手伝うよ」
今度は優しく言ってみたこれで少しカバーできたかもしれない。
智樹の部屋番号を哲也が知っていたから、部屋まで運んで部屋に戻る途中
「お前ってこういうの平気なのか」
ポツリとつぶやいた。
「実は、人狼ゲームやったことあるの」
私の言葉に、哲也の足が止まった。そりゃそうだ。突然殺し合いが始まってその経験者がいたら驚いて当然だろう。
「どういうことだよ」
私の歩く道を阻むようにして立ち、予想通りの台詞が返って来た。私は、「ごめん。気にしないで」背を向けて言った。そして自分の部屋に戻ろうとした。
「待てよ」
たが、止められた。腕を掴まれてしまった。 これ以上、前回のゲームについて話したくなかった。「この夜に人狼からの襲撃がある。気をつけて。明日会えることを祈ってる」そう言って掴まれた腕を振り払い、部屋へ戻った。
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