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二日目
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目覚まし時計で目が覚めた。
あまり目が開かないまま見た時計は六時時を指していた。自分が設定した記憶がなかった。最初から設定されていたのだろう。自分が生きていることに一安心する。
昨日の制服のまま部屋を出た。投票所まで歩いていくと、誰もいなかった。どうやら一番だったらしい。椅子に座ってあくびした。涙が出てきて、目が霞む。はっきりしてきた視界に美咲が映っていた。それに続いてみんなが投票室に入ってきた。誰もが声を出さず、それぞれ自分の席に座った。
一席空いていた。智樹の席だと思っていた。しかし、席は十二席しかなかった。
「葵がいない」
気づいたのは、美咲だった。
「まだ寝てんじゃないの?」
美咲と詩織の会話の中に直樹がはいり、その一言でみんなを恐怖に突き落とした。
「まさか人狼…」
口を手で覆う者、座ったまま固まっている者、震え出している者も一人や二人ではなかった。
「……様子見てくる。」
そう言って立ち上がったのは、哲也だった。昨日あれだけ死体を怖かっていたのに。一人で騒がれたら、皆がパニックになりかねない。
「私も行く」
そう言って私も立った。
「じゃあ俺も」
浩司もそこにわりこんできた。結局、三人で様子を見に行くことになった。
「気をつけろよ。葵が人狼の可能性もある」
「分かってる」
私たちは、一階女子部屋が並んでいる廊下まで足を運んだ。
葵の部屋は廊下の一番奥だった。連れてったのは私。私は女子それぞれの部屋をすべて把握している。
ドアの前に立ってお互いの顔を見合う。哲也がいくぞという顔をしてこっちを見た。私と浩司はその顔を見て頷き、哲也がドアノブに手を掛けた。私はその時ドアが少し開いていることに気づいた。
「ちょっとまって!」
「なんだ?!」
哲也が手を引いた。
「ドアが少し開いている。待ち伏せしてるかも。いっきに開いたほうがいいと思う」
それを聞いた浩司は二人に見えるよう、指で三カウントした。指で一を表したあと勢いよくドアを押し開けた。勢いで葵の部屋の壁にドアがあたりものすごい音をたてた。部屋の中は真っ暗で何も見えなかった。三人とも何歩かさがって部屋の様子をうかがう。ドアの音以外、何も音がしなかった。哲也が最初に部屋に入る。続けて浩司、私の順で部屋に入った。詩織の言う通りでまだ寝ているのだろうか。そうであって欲しかった。そう祈ってた。でも違った。
男二人のどちらかが明かりをつけた。目の前に現れた光景を疑うことができなかった。部屋はとても荒れていた。机の上にあっただろうものが全て床に落ち、タンスの中にあった制服も床の上にあった。そして、ベットの横で首を抑えて倒れている葵の姿があった。なぜか赤い服を着ていた。いや、葵の血が制服を赤く染め上げていた。首のリングが締め付けられていた。胸からは何か生えている。おそらくナイフなどの刃物だろう。これが凶器なのは誰が見てもわかる話だ。問題は誰がやったかだった。
投票室に戻って来た三人を誰もが注目していた。
「葵もダメだった」
三人が座ったあと、浩司が声を出した。これを聞いて皆、精神的に限界だった。詩織と美咲は今にも泣き出しそうだ。そんな極限状態のなかで人を疑う者がいた。
「お前じゃないか?」
隼人が私を睨みつけてそう言った。疑われていたのは私だった。
「紗良は死体見ても、平気だよな。お前が殺ったんじゃないか?」
無表情のまま冷静に答えた。相手を刺激しないように。頭で台詞をしっかり考えてから声に出した。
「隼人は私を疑っているんだ。残念だな」
台詞がしっかりきまった。そう思った。
「じゃあその冷静さはどこから出てくるんだよ」
「た、たしかに」
直樹が立ち上がって隼人の考えに賛成した。私の顔がゆがんでいた。これこそ、一方的ないじめだと思った。一人のいじめ行為がきっかけにいじめる人が増えていく。そして、何人もの人が一人をいじめる行為に発展する。隼人の意見にみんなが賛成した。誰もが私を人狼と疑っている。
「ちょっとまって」
みんなが賛成したなかで反論した者がいた。夏美だ。彼女が話を続ける。
「紗良が人狼の証拠がない。隼人が人間とも限らない。別に疑ってるわけじゃないけど」
夏美の説明に賛成も反対の声もなかった。決定的な証拠が無ければ、疑ってもきりがない。
「占い師とかいないの?」
楓が気づいた。占い師の存在に。
「出て来たほうがいいと思うけど」
私も占い師が出てくるようにうながす。狐にとって、占い師は邪魔な存在だったからだ。早めに占い師が誰なのか知っておく必要があった。
「……いないのか?」
誰も手をあげなかった。
「二日目も手掛かり無しか」
浩司が諦めたようにため息をつき、本音を吐いたとき
「……ちょっといい?」
今まで黙っていた綾香が手をあげた。
「信じてくれるか分からないけど、私が霊能力者」
突然のカミングアウト。その場にいた全員が驚きの表情をしていた。
私にとってはとてもラッキーだった。霊能力者がいれば、人狼と村人がそれぞれ何人ずついるのか、予想がつくからだ。
「昨日吊られた智樹は人狼だった」
綾香が智樹の役職を明かした。これで村人が勝利に一歩近づいた。
「本当か?!」
最初に喰いついたのは浩司。私は、全員の表情を見ながら話を聞いていた。
「……それでさ」
綾香の話は終わってなかった。
「今日の夜、騎士がいるなら私を守って欲しい。占い師が分からない今、守るなら私だと思う」
確かに綾香の言う通りだ。そっちのほうが私も村人たちもありがたい。
「本当に霊能力者?騙そうとしてないよね」
詩織が綾香を疑った。
「そう言うあなたは何なの?まさか人狼?」
「そんなわけない!」
詩織が椅子から立ち上がった。隼人が私を疑い始め、綾香が霊能力者と名乗り出て、誰もが混乱していた。この場にいる全員が疑心暗鬼になっていた。
「もうやめない?みんな冷静じゃない。これじゃあ正しい判断もできないぞ」
哲也が昼過ぎにもう一度話し合いを行うように伝えた。納得した者は、食堂か自分の部屋に向かって行った。私は、部屋に戻ることにした。
部屋に戻り、今までの出来事を頭で整理してみた。まず、綾香は本物の霊能力者だろう。他に霊能力者がいなかったから。たが、智樹や葵が霊能力者の可能性もある。そのため、綾香は絶対に霊能力者とは言えない。
次は、占い師の存在。さっきもそうだったが、智樹や葵が占い師の可能性もある。もう占い師がいなければ狐にとっては嬉しいのだが……
最後は、人狼の正体。私を疑った隼人はおそらく人狼だろう。智樹の役職が伝えられたとき、戸惑っている表情を見れた。そう考えると、綾香の霊能力者の確率は高い。彼女は、信じてもよいだろう。私…狐は一体なんなのだろうか。ゲーム終了時に生きていれば、一人勝ち。つまり、自分が生きている状態で人狼か村人を勝たせることができればいいということだ。
今、有利なのは村人だ。綾香の言葉を信じれば人狼はあと二人。しかし、自分は人狼ではないかと疑われている。むやみに意見を言うことができない。元々、そんなこと言える性格ではないが。人狼の見方をするような態度を見せれば、狐とバレれ、夜の襲撃に遭うだろう。
結構な時間迷って考えたが、結果は分からないだった。その前に、占い師を始末しなければならない。
「紗良いる?」
ノックの音が聞こえた後、ドアから自分を呼ぶ声が聞こえた。多分、夏美の声。私は夏美を部屋に入れ、占い師の手掛かりがないか探ってみた。
「占い師が誰かはまだ分からない。私は直樹だと思うな。なんかみんなの様子を見てるって感じがする」
言われてみればそうかもしれない。哲也の意見に賛成したのも、人狼をあぶり出す演技かもしれない。
「占い師がむやみに名乗り出ると人狼のターゲットになるから、直樹は言い出せなかったと思う」
それを聞いて私は焦った。朝の会議で占い師が出てくるように呼びかけた自分を思い出した。夏美がそれを覚えていれば、私が狐か人狼だと知られてしまう。
自分の心臓の音がうるさい。夏美に聞こえそうな大きい音のように感じた。
夏美は「あっ、そうだ」と言って持ってきたビニール袋をあさった。取り出したのは、おにぎりと水の入ったペットボトル。それを私に差し出した。
「朝ご飯食べてないでしょ。ほら、これ食べないと保たないよ」
私がそれを無言で受け取ると、夏美が話を変えた。
「紗良はこれからどうするの?」
「なんのこと?」
「あんた、みんなに疑われてるよ。紗良が部屋に向かった後、隼人が必死に全員を説得してた。もちろん、私も紗良に投票をいれるように言われた」
「多分、隼人は人狼。智樹の正体が分かったとき、あまり嬉しそうじゃなかった。結構隼人は追い詰められてると思う。そろそろ人狼と思われる本性が出てくるかもね」
そう私が説明した。正直に言うと、最後の台詞は半分冗談。だけど、夏美は真剣な顔をして、私の顔を見た。
「安心して。紗良に何かあったら私が守るから。何か手伝えることない?」
隼人の説明でみんなが自分に投票するか分からない。まだ、行動するわけにはいかない。「昼まで待って」
それが私のお願いだった。みんなの思いを知りたかった。
時刻は、十一時過ぎ。もう投票室に皆が集まっていた。最後の楓が椅子に座ると、哲也が仕切り出した。
「昼の会議を始めるぞ。まず、何か情報を持ってる人がいたら、手をあげてくれ」
誰も反応がなかった。
「じゃあ、何か意見がある人は手をあげてくれ」
手をあげたのは、夏美と隼人。
「夏美から言ってくれ」
浩司が夏美を先に言うように指示した。夏美はその場を立って話し始めた。
「朝も言ったけど、証拠が出てきたら疑ってください」
それだけだった。
次は、隼人が立った。
「紗良が、今一番怪しいと思う」
隼人もそれだけだった。
「だから、証拠がないじゃん」
夏美が反論した。まずい。このまま反論し続けると逆に夏美が疑われる可能性がある。しかし、場はヒートアップしていた。自分が止められる状態ではなかった。
「疑うあんたが人狼じゃないの?」
「疑うときりがないって言ってただろ!」「あんただって疑って……」
「もうやめてよ!」
そう言ったのは、私だった。反射的に叫んでいた。その声が響いて、隼人も夏美も椅子に座った。
「僕からいいかな」
浩司がゆっくり手をあげた。
「隼人も紗良も人狼の証拠がない。だから、 今日の夜の二人に投票しにくいと思う」
「だったらどうするの?」
誠が質問した。きっと、みんな同じことを思っていただろう。浩司は真剣な顔で答えた。
「だったら今日の夜、僕に投票して欲しい」
その台詞は誰も予想して無かった。
「浩司は自分で何を言ってるかわかってるの!?」
浩司の反応はない。
「あんたはそれでいいの?」
私がその台詞が本気で言っているのか、確認した。しかし、彼の表情は変わらない。どうやら本気のようだった。いくらゲームといっても命がけだ。そう簡単に口に出せる言葉ではない。
「本当に……いいのか?」
哲也が最終確認をした。浩司はうつむいて、
「構わない。何も手掛かりがない。こうするしか方法は無いんだ」
そして、浩司の処刑が決まった。
それからは何もなく、夜になった。みんなが投票室へ向かう足取りはとても重かった。
浩司が椅子に座り、全員揃った。
「浩司は、これでいいんだな」
哲也の質問に浩司は無言で頷いた。今日は、誠の合図で全員が指を指した。浩司の指示通り、彼に票が集まった。彼は自分で自分のことを指していた。余計な争いを避けるため、みんなの代わりに犠牲になった浩司。
私は何故か辛い気持ちになっていた。私は、彼の苦しむ姿を見たくなかった。私は、彼の苦しむ声を聞きたくなかった。その思いが私の目を閉じ、耳を塞ぐという行動をさせていた。少しの間、自分の周りが騒がしくなった。すぐに静かになり、ゆっくり目を開けた。目を開けたら、責められると思った。
「お前が浩司を殺したんだ!」
みたいな感じで。でも、誰も私を見ていなかった。人を責めている場合ではなかったからだ。みんなの視線の先を見る。そこには、動かない浩司がいた。その姿を見て、私はとても辛く、悔しくなった。そういう思いのせいなのか、泣いている私がいた。今まで人前で泣いたことがなかった。いつも無表情と言われてきた。こんなに感情がある私を見たここに存在する人はどう思っているのだろうか。
「俺が運ぶ。」
隼人が死体となった浩司をかつぎ二階へと階段を上がっていった。浩司への償いのつもりなのだろうか。自分が何もできないことにまた悔しかった。
私はまだ、椅子から立てずにいた。
「大丈夫。私たちは必ず助かる。もう少し頑張ろう」
座っている私の後ろにいた夏美が私の背中をさすりながら、そう言った。慰めているつもりだろうか。その言葉で、私の気持ちは変わらなかった。逆に夏美のその発言の自身はどこから出てくるのか、分からなかった。今日の夜にまた人狼の襲撃がある。その不安は無いのだろうか。夏美の冷静さに少し怖かった。今までの私は、こうだったのかと疑問に思った。
「もういい加減にしてよ!」
その叫び声で、みんなの動きが止まった。投票室の監視カメラに向かって美咲が叫んでいた。浩司の死の悲しみよりも、自分たちを連れてきたこの監視カメラから見ている人への怒りが込み上げていたのだろう。この場にいる人はみんな同じ思いだろう。悔しい思いをしている私以外……
「もうやめろ。犯人を刺激するな」
直樹が美咲に近づき落ち着かせた。美咲は怒りを抑えられないまま部屋に戻って行った。
「明日、ここに占い師がいるなら占い結果を教えて欲しい。占い師が名乗り出るのは難しいと思う。でも、まだ騎士がいるかもしれない。お願い。村人を助けて」
楓の声が震えていた。顔を見ると彼女も泣いていた。さっきはみんな怒っていると思っていたが、この場のほとんどがとても辛い思いをしていたかもしれない。してないのは人狼だけ。人狼はどんなことがあっても許さない。自分も、前回の人狼ゲームで人狼になって同じことをしていた。だから、自分自身も許せない。でも今は、その怒りをこのゲームの人狼と、このゲームをつくった主催者に向けるしかなかった。
あまり目が開かないまま見た時計は六時時を指していた。自分が設定した記憶がなかった。最初から設定されていたのだろう。自分が生きていることに一安心する。
昨日の制服のまま部屋を出た。投票所まで歩いていくと、誰もいなかった。どうやら一番だったらしい。椅子に座ってあくびした。涙が出てきて、目が霞む。はっきりしてきた視界に美咲が映っていた。それに続いてみんなが投票室に入ってきた。誰もが声を出さず、それぞれ自分の席に座った。
一席空いていた。智樹の席だと思っていた。しかし、席は十二席しかなかった。
「葵がいない」
気づいたのは、美咲だった。
「まだ寝てんじゃないの?」
美咲と詩織の会話の中に直樹がはいり、その一言でみんなを恐怖に突き落とした。
「まさか人狼…」
口を手で覆う者、座ったまま固まっている者、震え出している者も一人や二人ではなかった。
「……様子見てくる。」
そう言って立ち上がったのは、哲也だった。昨日あれだけ死体を怖かっていたのに。一人で騒がれたら、皆がパニックになりかねない。
「私も行く」
そう言って私も立った。
「じゃあ俺も」
浩司もそこにわりこんできた。結局、三人で様子を見に行くことになった。
「気をつけろよ。葵が人狼の可能性もある」
「分かってる」
私たちは、一階女子部屋が並んでいる廊下まで足を運んだ。
葵の部屋は廊下の一番奥だった。連れてったのは私。私は女子それぞれの部屋をすべて把握している。
ドアの前に立ってお互いの顔を見合う。哲也がいくぞという顔をしてこっちを見た。私と浩司はその顔を見て頷き、哲也がドアノブに手を掛けた。私はその時ドアが少し開いていることに気づいた。
「ちょっとまって!」
「なんだ?!」
哲也が手を引いた。
「ドアが少し開いている。待ち伏せしてるかも。いっきに開いたほうがいいと思う」
それを聞いた浩司は二人に見えるよう、指で三カウントした。指で一を表したあと勢いよくドアを押し開けた。勢いで葵の部屋の壁にドアがあたりものすごい音をたてた。部屋の中は真っ暗で何も見えなかった。三人とも何歩かさがって部屋の様子をうかがう。ドアの音以外、何も音がしなかった。哲也が最初に部屋に入る。続けて浩司、私の順で部屋に入った。詩織の言う通りでまだ寝ているのだろうか。そうであって欲しかった。そう祈ってた。でも違った。
男二人のどちらかが明かりをつけた。目の前に現れた光景を疑うことができなかった。部屋はとても荒れていた。机の上にあっただろうものが全て床に落ち、タンスの中にあった制服も床の上にあった。そして、ベットの横で首を抑えて倒れている葵の姿があった。なぜか赤い服を着ていた。いや、葵の血が制服を赤く染め上げていた。首のリングが締め付けられていた。胸からは何か生えている。おそらくナイフなどの刃物だろう。これが凶器なのは誰が見てもわかる話だ。問題は誰がやったかだった。
投票室に戻って来た三人を誰もが注目していた。
「葵もダメだった」
三人が座ったあと、浩司が声を出した。これを聞いて皆、精神的に限界だった。詩織と美咲は今にも泣き出しそうだ。そんな極限状態のなかで人を疑う者がいた。
「お前じゃないか?」
隼人が私を睨みつけてそう言った。疑われていたのは私だった。
「紗良は死体見ても、平気だよな。お前が殺ったんじゃないか?」
無表情のまま冷静に答えた。相手を刺激しないように。頭で台詞をしっかり考えてから声に出した。
「隼人は私を疑っているんだ。残念だな」
台詞がしっかりきまった。そう思った。
「じゃあその冷静さはどこから出てくるんだよ」
「た、たしかに」
直樹が立ち上がって隼人の考えに賛成した。私の顔がゆがんでいた。これこそ、一方的ないじめだと思った。一人のいじめ行為がきっかけにいじめる人が増えていく。そして、何人もの人が一人をいじめる行為に発展する。隼人の意見にみんなが賛成した。誰もが私を人狼と疑っている。
「ちょっとまって」
みんなが賛成したなかで反論した者がいた。夏美だ。彼女が話を続ける。
「紗良が人狼の証拠がない。隼人が人間とも限らない。別に疑ってるわけじゃないけど」
夏美の説明に賛成も反対の声もなかった。決定的な証拠が無ければ、疑ってもきりがない。
「占い師とかいないの?」
楓が気づいた。占い師の存在に。
「出て来たほうがいいと思うけど」
私も占い師が出てくるようにうながす。狐にとって、占い師は邪魔な存在だったからだ。早めに占い師が誰なのか知っておく必要があった。
「……いないのか?」
誰も手をあげなかった。
「二日目も手掛かり無しか」
浩司が諦めたようにため息をつき、本音を吐いたとき
「……ちょっといい?」
今まで黙っていた綾香が手をあげた。
「信じてくれるか分からないけど、私が霊能力者」
突然のカミングアウト。その場にいた全員が驚きの表情をしていた。
私にとってはとてもラッキーだった。霊能力者がいれば、人狼と村人がそれぞれ何人ずついるのか、予想がつくからだ。
「昨日吊られた智樹は人狼だった」
綾香が智樹の役職を明かした。これで村人が勝利に一歩近づいた。
「本当か?!」
最初に喰いついたのは浩司。私は、全員の表情を見ながら話を聞いていた。
「……それでさ」
綾香の話は終わってなかった。
「今日の夜、騎士がいるなら私を守って欲しい。占い師が分からない今、守るなら私だと思う」
確かに綾香の言う通りだ。そっちのほうが私も村人たちもありがたい。
「本当に霊能力者?騙そうとしてないよね」
詩織が綾香を疑った。
「そう言うあなたは何なの?まさか人狼?」
「そんなわけない!」
詩織が椅子から立ち上がった。隼人が私を疑い始め、綾香が霊能力者と名乗り出て、誰もが混乱していた。この場にいる全員が疑心暗鬼になっていた。
「もうやめない?みんな冷静じゃない。これじゃあ正しい判断もできないぞ」
哲也が昼過ぎにもう一度話し合いを行うように伝えた。納得した者は、食堂か自分の部屋に向かって行った。私は、部屋に戻ることにした。
部屋に戻り、今までの出来事を頭で整理してみた。まず、綾香は本物の霊能力者だろう。他に霊能力者がいなかったから。たが、智樹や葵が霊能力者の可能性もある。そのため、綾香は絶対に霊能力者とは言えない。
次は、占い師の存在。さっきもそうだったが、智樹や葵が占い師の可能性もある。もう占い師がいなければ狐にとっては嬉しいのだが……
最後は、人狼の正体。私を疑った隼人はおそらく人狼だろう。智樹の役職が伝えられたとき、戸惑っている表情を見れた。そう考えると、綾香の霊能力者の確率は高い。彼女は、信じてもよいだろう。私…狐は一体なんなのだろうか。ゲーム終了時に生きていれば、一人勝ち。つまり、自分が生きている状態で人狼か村人を勝たせることができればいいということだ。
今、有利なのは村人だ。綾香の言葉を信じれば人狼はあと二人。しかし、自分は人狼ではないかと疑われている。むやみに意見を言うことができない。元々、そんなこと言える性格ではないが。人狼の見方をするような態度を見せれば、狐とバレれ、夜の襲撃に遭うだろう。
結構な時間迷って考えたが、結果は分からないだった。その前に、占い師を始末しなければならない。
「紗良いる?」
ノックの音が聞こえた後、ドアから自分を呼ぶ声が聞こえた。多分、夏美の声。私は夏美を部屋に入れ、占い師の手掛かりがないか探ってみた。
「占い師が誰かはまだ分からない。私は直樹だと思うな。なんかみんなの様子を見てるって感じがする」
言われてみればそうかもしれない。哲也の意見に賛成したのも、人狼をあぶり出す演技かもしれない。
「占い師がむやみに名乗り出ると人狼のターゲットになるから、直樹は言い出せなかったと思う」
それを聞いて私は焦った。朝の会議で占い師が出てくるように呼びかけた自分を思い出した。夏美がそれを覚えていれば、私が狐か人狼だと知られてしまう。
自分の心臓の音がうるさい。夏美に聞こえそうな大きい音のように感じた。
夏美は「あっ、そうだ」と言って持ってきたビニール袋をあさった。取り出したのは、おにぎりと水の入ったペットボトル。それを私に差し出した。
「朝ご飯食べてないでしょ。ほら、これ食べないと保たないよ」
私がそれを無言で受け取ると、夏美が話を変えた。
「紗良はこれからどうするの?」
「なんのこと?」
「あんた、みんなに疑われてるよ。紗良が部屋に向かった後、隼人が必死に全員を説得してた。もちろん、私も紗良に投票をいれるように言われた」
「多分、隼人は人狼。智樹の正体が分かったとき、あまり嬉しそうじゃなかった。結構隼人は追い詰められてると思う。そろそろ人狼と思われる本性が出てくるかもね」
そう私が説明した。正直に言うと、最後の台詞は半分冗談。だけど、夏美は真剣な顔をして、私の顔を見た。
「安心して。紗良に何かあったら私が守るから。何か手伝えることない?」
隼人の説明でみんなが自分に投票するか分からない。まだ、行動するわけにはいかない。「昼まで待って」
それが私のお願いだった。みんなの思いを知りたかった。
時刻は、十一時過ぎ。もう投票室に皆が集まっていた。最後の楓が椅子に座ると、哲也が仕切り出した。
「昼の会議を始めるぞ。まず、何か情報を持ってる人がいたら、手をあげてくれ」
誰も反応がなかった。
「じゃあ、何か意見がある人は手をあげてくれ」
手をあげたのは、夏美と隼人。
「夏美から言ってくれ」
浩司が夏美を先に言うように指示した。夏美はその場を立って話し始めた。
「朝も言ったけど、証拠が出てきたら疑ってください」
それだけだった。
次は、隼人が立った。
「紗良が、今一番怪しいと思う」
隼人もそれだけだった。
「だから、証拠がないじゃん」
夏美が反論した。まずい。このまま反論し続けると逆に夏美が疑われる可能性がある。しかし、場はヒートアップしていた。自分が止められる状態ではなかった。
「疑うあんたが人狼じゃないの?」
「疑うときりがないって言ってただろ!」「あんただって疑って……」
「もうやめてよ!」
そう言ったのは、私だった。反射的に叫んでいた。その声が響いて、隼人も夏美も椅子に座った。
「僕からいいかな」
浩司がゆっくり手をあげた。
「隼人も紗良も人狼の証拠がない。だから、 今日の夜の二人に投票しにくいと思う」
「だったらどうするの?」
誠が質問した。きっと、みんな同じことを思っていただろう。浩司は真剣な顔で答えた。
「だったら今日の夜、僕に投票して欲しい」
その台詞は誰も予想して無かった。
「浩司は自分で何を言ってるかわかってるの!?」
浩司の反応はない。
「あんたはそれでいいの?」
私がその台詞が本気で言っているのか、確認した。しかし、彼の表情は変わらない。どうやら本気のようだった。いくらゲームといっても命がけだ。そう簡単に口に出せる言葉ではない。
「本当に……いいのか?」
哲也が最終確認をした。浩司はうつむいて、
「構わない。何も手掛かりがない。こうするしか方法は無いんだ」
そして、浩司の処刑が決まった。
それからは何もなく、夜になった。みんなが投票室へ向かう足取りはとても重かった。
浩司が椅子に座り、全員揃った。
「浩司は、これでいいんだな」
哲也の質問に浩司は無言で頷いた。今日は、誠の合図で全員が指を指した。浩司の指示通り、彼に票が集まった。彼は自分で自分のことを指していた。余計な争いを避けるため、みんなの代わりに犠牲になった浩司。
私は何故か辛い気持ちになっていた。私は、彼の苦しむ姿を見たくなかった。私は、彼の苦しむ声を聞きたくなかった。その思いが私の目を閉じ、耳を塞ぐという行動をさせていた。少しの間、自分の周りが騒がしくなった。すぐに静かになり、ゆっくり目を開けた。目を開けたら、責められると思った。
「お前が浩司を殺したんだ!」
みたいな感じで。でも、誰も私を見ていなかった。人を責めている場合ではなかったからだ。みんなの視線の先を見る。そこには、動かない浩司がいた。その姿を見て、私はとても辛く、悔しくなった。そういう思いのせいなのか、泣いている私がいた。今まで人前で泣いたことがなかった。いつも無表情と言われてきた。こんなに感情がある私を見たここに存在する人はどう思っているのだろうか。
「俺が運ぶ。」
隼人が死体となった浩司をかつぎ二階へと階段を上がっていった。浩司への償いのつもりなのだろうか。自分が何もできないことにまた悔しかった。
私はまだ、椅子から立てずにいた。
「大丈夫。私たちは必ず助かる。もう少し頑張ろう」
座っている私の後ろにいた夏美が私の背中をさすりながら、そう言った。慰めているつもりだろうか。その言葉で、私の気持ちは変わらなかった。逆に夏美のその発言の自身はどこから出てくるのか、分からなかった。今日の夜にまた人狼の襲撃がある。その不安は無いのだろうか。夏美の冷静さに少し怖かった。今までの私は、こうだったのかと疑問に思った。
「もういい加減にしてよ!」
その叫び声で、みんなの動きが止まった。投票室の監視カメラに向かって美咲が叫んでいた。浩司の死の悲しみよりも、自分たちを連れてきたこの監視カメラから見ている人への怒りが込み上げていたのだろう。この場にいる人はみんな同じ思いだろう。悔しい思いをしている私以外……
「もうやめろ。犯人を刺激するな」
直樹が美咲に近づき落ち着かせた。美咲は怒りを抑えられないまま部屋に戻って行った。
「明日、ここに占い師がいるなら占い結果を教えて欲しい。占い師が名乗り出るのは難しいと思う。でも、まだ騎士がいるかもしれない。お願い。村人を助けて」
楓の声が震えていた。顔を見ると彼女も泣いていた。さっきはみんな怒っていると思っていたが、この場のほとんどがとても辛い思いをしていたかもしれない。してないのは人狼だけ。人狼はどんなことがあっても許さない。自分も、前回の人狼ゲームで人狼になって同じことをしていた。だから、自分自身も許せない。でも今は、その怒りをこのゲームの人狼と、このゲームをつくった主催者に向けるしかなかった。
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聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
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・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
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主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
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主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
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【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
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