ジンロウゲーム

JOKER

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三日目

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 投票室へ行くと、もうみんな集まっていた。
 
 私が最後だった。投票室の椅子がそこらに散らかっていた。その中で、空いている椅子に私が座り、三日目の朝会議が始まった。

 浩司がいなくなって、司会をはじめたのは隼人。あれだけ人を疑った隼人がなぜ司会をやり出したか分からない。そのまま投票まで指示されそうな気がした。迷いもなく、隼人は私に投票しろと言うだろう。とにかく、隼人に司会をさせたくなかった。だから、止めようとした。でも、遅かった。
「情報があったら、教えてくれ」
 少し考えていたら、始まっていた。重い空気の中、手をあげる者はいなかった。
「じゃあ、俺が」
 そう言って隼人が手をあげた。嫌な予感がした。
「みんな、冷静に聞いてくれ。俺は占い師だ。昨日の夜に紗良を占った。紗良は、狐だった」
 その発言を聞いて私はつい、笑みがこぼれてしまった。隼人が自ら墓穴を掘ってくれた。
「ちょっとまって。もし紗良が狐だったら、紗良はもう死んでるはず」
 そう。その通り。気づいたのは、楓だった。隼人が占っていたら、ここに私はいない。だから、隼人は人狼確定。
「まさか自ら墓穴を掘るなんてね。ねぇ、自分がバカだと思わない?」
 挑発的に言ってみた。全員が疑いの目で隼人を見る。隼人は目を血走らせながら叫んだ。
「俺は本当に紗良を占ったんだ!」
 隼人の口からは、言い訳しか出てこなかった。彼が何を言おうと、全員の疑いが強くなるばかりだ。
 バカな人。哀れな男。
 心の中で隼人を笑った。私は勝利を確信した。これでみんなが隼人に投票すれば、人狼はあと一人。万が一のことがない限り、負けることはない。そう思うのは、早過ぎだろうか。隼人にとどめをさしてやろうと思った。
「これでみんな分かったでしょ。私は狐じゃない。てことは、隼人は……」
 私は説明を続けようとした。でも、できなかった。口が開いたまま、うまく動かなかった。うまく声が出なかった。首が、冷たい何かに触れた。背筋にゾクリと寒気を感じた。血の気が一気に引いていく感じが分かった。震えている手で自分の首を触ってみた。途中、何かに触れた。首についていたリングだ。それを摘まんでみた。リングが少し、小さくなっていた。摘まんでいる手の腕が赤く点滅していた。その点滅が自分の腕ではなく、リングから出ていることにすぐ気づいた。つまり、リングが自分の首を締め付け始めていた。

 反射的に私はそのリングを引き剥がそうとしていた。もちろんそう簡単に外れることもなく、私は椅子から崩れ落ち、床に膝をついていた。なにも声が出ず、力も入らなくなっていった。誰も私を助ける者などいない。目が霞んできた。顔を見ても、誰が誰かは分からなかった。みんな、冷たい目線で私を見ていた気がする。自分がこの世から消える恐怖が襲っていた。そして、私は恐怖に負け、自分の死を受け入れた。これこそ、絶望というのだろうか。そう思ってすぐに、私はその場に倒れ、動かなくなり生物から物体へと変わった。 



「紗良!起きて紗良!」
 夏美が私の体を揺らしながら、叫んでいた。その声で目が覚めた。なぜ、自分が部屋で寝ている?
「……悪い夢でも見た?すごい魘されていたけど……」
 そう言われてやっと分かった。あれは夢だと。どうやら、あの夢で魘されていたらしい。
「……大丈夫?」
 私は頷いた。自分の汗でベッドがびっしょり濡れていた。汗が冷え、鳥肌がたった。まだ、頭がうまく回っていなかった。
「……出てってくれない?」
 夏美は「えっ?」という顔をしていた。私は、今すぐにでも着替えたかった。そして、一人で考える時間が欲しかった。うまく言えたか分からなかったが、夏美は頷き、「投票室で待ってる。」と私に告げて部屋を出て行った。どうやら伝わったようだ。

私はまだ、息が荒く、いつものように冷静ではなかった。夢の中で体験したあの恐怖が頭に染み付いて離れなかった。あのときの感覚ははっきりと覚えている。あの恐怖と感覚は一生忘れることはないだろう。いつもの冷静さを取り戻し、着替えて部屋を出て、投票室へ向かった。 



 やはり私が最後だった。時刻は八時半。いくらなんでも遅すぎると、夏美が私の様子を見に来ると、魘されている私がいた。そんな、感じだろう。

 部屋の隅に椅子が重ねて置いてあった。あれは、死んでいった者たちの椅子だ。全部で六脚。投票室に美咲の姿がなかった。今朝の犠牲は彼女だったのだろう。
「じゃあ、始めるよ」
そう言ったのは、夏美。雰囲気がいつもと違った。なぜか、残酷な人を想像させるような感じだった。
「情報手に入れた人いる?」
綾香が手をあげた。
「浩司は分かってると思うけど人間だったわ」
 そんなこと言う必要もなかった。誰もが分かっていることだ。
「……あの……」
 詩織が手をあげた。彼女は無表情。一瞬見たとき死んでいると思ってつい、二度見してしまった。そういえば、学校では詩織と美咲は友達の関係で、いつも仲が良かった。美咲が死んで相当なショックを受けているのだろう。そんな詩織が、耳を疑うようなことを突然言い出した。
「……美咲は騎士だった」
みんな、「え?」という表情になった。
「詩織は占い師なの?」
 詩織は首を振った。どういうことか分からなかった。占い師でもないのに、なんで美咲の役職を詩織が知っている?
「……本人から直接聞いたの」
 私の疑問の答えが詩織の口から出てきた。
「どうやって?」
 誠がまた、質問した。詩織は泣きそうになっていた。自分が疑われていると思っているのか、それとも美咲の死の悲しみなのか、私には分からない。ついに彼女は泣き出し、しゃくりあげながら必死に答えた。
「……昨日の昼に自分の部屋で教えてもらったの。あなたを守るって言ってくれた。なのに……」

 このあとの発言はもう私にとってどうでもよかった。とにかく、詩織は余計なことをしてくれた。今の発言で人狼は騎士がいないことを知り、夜の襲撃で迷わず邪魔な奴を排除するだろう。このまま、占い師が出なければ、今夜狙われるのは、霊能力者の綾香になってしまう。霊能力者を失うのは、村人にとっても、狐にとっても辛いことだ。占い師が出てきてくれればいいのだか…そう思ったときだった。

「占い師はいないの?」
 直樹が、私の代わりに言ってくれた。また沈黙が流れ、誰もが諦めていたときだった。「ごめん隠してた。本当は僕が占い師なんだ」
 手をあげながら言ったのは、誠だった。とても、落ち着いた口調で話していた。突然の報告で哲也は口が開いていた。
「隼人を昨夜占った」
 その発言で隼人の肩に力がはいったのが分かった。投票室に緊張がはしる。
「隼人は人間だ」
 それを聞いて隼人は、肩の力が抜けた。ため息をついている人が数人いた。私もだけど。

これで隼人は白確定。普通だったら。でも、そう簡単にはいかなかった。
「ちょっとまって。誠は嘘ついてる。私が本当の占い師。私も隼人を占った。彼は、人狼だった」
「何を言ってんだよ」
 誠の次に手をあげたのは、楓だった。楓も顔の表情を変えず、冷静に声を発していた。

 誠と楓。この二人の発言で村人にとって、最悪なパターンを作り出していた。どちらが本当の占い師。もう片方は人狼。
「俺は人狼じゃないからな。楓は人狼だ」
 隼人の声が、私には言い訳にしか聞こえなかった。私は隼人が人狼と信じているからだ。となると、隼人を人間と言った誠がもう一人の人狼で、隼人を人狼と疑った楓が本当の占い師。でも、人狼も占い師も狐の私にとって、どちらも邪魔な存在だ。どちらを先に吊るべきか……
「とにかく、一日目に占った人とその結果を教えてくれ」
 提案したのは、直樹。その判断は正しい。「じゃあ、おれから。一日目は、葵だ。村人だった」
「何で私なの?」
「一番静かにしてたから。自分の正体を隠している気がした。それだけ」
 彼はスラスラと言い終えた。
「楓は誰なんだ?」
 気づけば直樹が仕切っていた。
「私は、浩司を占った。彼はもちろん村人」「なぜ昨日言わなかったの?」
「浩司は自分に投票してとか言ったから、そのタイミングで占い結果を言っても、自分が占い師だと人狼にばれるだけ。自分の首を絞めることになる」
 確かにその通りだ。今、理由を聞いた感じでは、どっちが人狼か分からない。表情はどちらとも堂々としていた。表情からも読み取ることは出来ない。

 残る人狼はあと二人。隼人と誠であってほしい。そうでなければ、私が疑われる。なぜなら、私は隼人を疑ったからだ。
「なんで二人とも名乗り出れたの?騎士もいないのに」
 そう疑問を持ったのは夏美。
「人狼をおびき出すためさ」
 それが誠の理由だった。これもまた、言い訳にしか聞こえなかった。そんな勇気のある誠は見たことがない。生き残るための言い訳だ。誠に対して、楓の理由はとても驚くものだった。
「人狼が嘘を付き始めたから、みんなが誠を信用する前に名乗り出たの。多分、今日の夜に私は狙われる。もうその覚悟はできてる」
 その発言と気持ちで圧倒された。

 このあとは、誰も声を出さなかった。私は一番に席を立ち、食堂に向かった。



 私はなんとなく、冷蔵庫をあさった。もう三日目なのに、まだ多くの食料があった。これこそ、このゲームの主催者の唯一の優しさなのかもそれない。

 冷凍食品のグラタンを取り出し温め、適当に食べた。結構美味しかった。他の人達は無言で食事をしていた。ラーメンをすする音だけが聞こえていた。食事もせず、ただ座っている人もいた。夏美もそうだった。体力的にも精神的にも限界が近いのかもしれなかった。私はまだ、どうってことない。自分の中ではそう思ってる。冷凍食品を食べ終えて、冷蔵庫の横にある棚を探った。この食堂にはお菓子も充実していた。ポテチを持って部屋に戻った。 

部屋の前の廊下で楓とすれちがった。
「私のこと信じてる?」
突然話しかけられ、体がすくんだ。なにも会話をせずに、部屋へ入りたかった。
「まだどちらも信用してない」
それが私の答え。
「私を信じてな……」
楓はまだ質問をしてきたが、それを無視して部屋に入った。部屋のドアを閉めると外の音はなにも聞こえなかった。きっと、ドアも壁も厚いのだろう。

ベッドに座り、ポテチを開けた。袋を見ると塩味と記されていた。私は正直、コンソメのほうが好きだ。ポテチを食べながら、これから先を考える。

 まず、占い師が二人。二人とも明日か明後日には、いないだろう。これから起きそうな出来事をパターンとして考えてみる。今日、占い師を処刑したとする。明日、偽占い師が生きていることを知り、そいつを吊る。しかし、このパターンには問題がある。占い師の処刑を行った日の夜、霊能力者が襲撃にあうことになるだろう。霊能力者は失いたくない。だが、自分が人狼の襲撃の被害になることはない。

 次は逆に今日、人狼を処刑したとする。夜にもう一人の人狼が占い師を襲うだろう。霊能力者はまだ生き続ける。霊能力者の報告で吊った人狼とわかり、誠と楓の役職がはっきりする。しかし、占い師を今日の夜までに生かしておきたくない。占い師が私を占えば、私の命はない。いや、楓が占い師なら隼人を占うはず。だが、人狼はどっちだ? 隼人の味方をしている誠な気がする。残りの人狼はこの二人だろう。しかし、誠が占い師だと、隼人を疑った私が疑われる。危険だが、いち早くゲームを終わらせるために人狼を狙うか、生き残れる確率を上げるために占い師を狙うか、迷っていた。楓が占い師。誠が人狼だろう。

 少し考えた私は、いち早くゲームを終わらせることを選んだ。今日の投票では人狼の誠に投票する。そう決めた。ポテチを半分食べたところで手を止めた。さすがに食べ過ぎたと思ったからだ。 

 みんなの様子を見に部屋を出た。二人のどちらを疑っているか、知りたかったからだ。ちょうど、投票室に座っていた夏美を見つけた。椅子を持ってきて隣に座った。
「夏美はどっちを信じるの?」
 第一声がこの言葉だった。夏美も突然に質問されて、少し戸惑っている様子だった。彼女は、こう答えた。
「どちらも信用してない」
 自分が部屋に入る前、楓に聞かれたときの答えと同じ答え。顔を見ると、やはり夏美も迷っていた。占い師を処刑すれば、人狼の思い通りにゲームが進んでしまう。そして、人狼が勝ち村人が死ぬ。人狼を吊らなければ、逆に殺られる。そういう状況だ。迷って当然だろう。
「私は、誠が人狼だと思うな」 
 さりげなく、誠に投票するように誘ってみた。気づかれないように。
「なんで?」
「誠が隼人をかばってる気がしたからさ」
「てことは、誠と隼人が人狼ってこと?」
 私は頷いた。
「分かった。誠を見てて怪しいところがあったら伝えるね」
 夏美はそう言ってくれた。とても嬉しかった。信用してくれた喜び。きっとそうだろう。

 ふと、自分が狐であることを思い出した。人狼がゼロになれば、村人の勝利。そこに狐がいれば、狐の勝利。村人は、敗北。夏美が敗北。敗北ばその人の死を意味する。つまり、私が勝つと夏美は死ぬということだ。二人とも生き残ってゲームクリアすることは出来ない。どちらが必ず死ぬ。自分の脳がそう連想させた。

 少しの沈黙を破るようにまた、夏美に尋ねた。
「もし、このゲームで夏美が解放されたら、まず何したい?」
 あくまで、真剣な話をして硬くなった空気を柔らかくするためだ。
「家に帰って、家族に会って、ゆっくりしたいかな」
「夏美らしいね」
「みんなそうするでしょ。このゲームに勝てればね」
 このゲームに勝つ。そのためには、生きていなければならない。死んではならない。
「紗良が危険だった、私が守るから」
「冗談でしょ」
 
 生き残れるのは、自分か相手かを選べたら人間は迷わず自分を選ぶだろう。自分のためだったら、他の人なんてどうでもいい。人間はそう思うだろう。実際に人狼ゲームをやってその心理を知った。私が人狼になったとき、自分の正体を隠すために人狼の私が人狼に投票することがあった。
「何でこんなゲームをやるんだろう?」と夏美が天井を見上げて呟いた。
「優秀な人材をみつけるとか言ってたよね」
「で、その人材を死ぬまで働かされるとか?。一つの可能性だけど」
「違うと思う。このゲームを見て主催者が楽しんでいるなら、私たちはただの賭け馬」
 そう、賭け馬。監視カメラの向こうではゲーム参加者でお互いに騙し、裏切る様子を楽しんでいる。生き残るであろう人間にお金を賭けて楽しんでいるだろう。

「三回目もあるのかな?」
 三回目というのは、次の人狼ゲームのことだろう。夏美はこのゲームが二回目だから、次の三回目を気にしているようだ。私は、これが三回目。次があるなら四回目。三回目をやって生きていたらさずが凄いと思われるだろう。私に金をかける人が増える。そう考えるだけで、少し有名人の気分になれた。それだけの余裕がある自分に驚いた。

「聞いてるの?」
 と言った夏美が私の顔を覗き込んできた。「う、うん。聞いてた」
「嘘つき」
 そう言って夏美は窓の方向に歩いた。その先の窓が開いていた。きっと誰が窓を開けて、風を浴びたのだろう。夏美は、窓からは外に出る勢いで歩いていた。思わず、座っていた私も立ち上がった。

 夏美があと一歩で外に出てしまう場所でぴたりと足を止めた。
「このまま外に逃げられたらいいのにね」
 振り向いてそう言った。その姿が、日の光に照らされて何か不思議なものを放っていた。
「危ないから」
 そう言って私は窓を閉めた。
「いい風だったのに」と、夏美は頬を膨らませた。
「部屋で少し寝ようかな」
 部屋に戻ろうと、夏美に背を向けた。
「本当に信じていいんだよね」
 信じていいというのは、私が村人ということだろうか。それとも私が誠のことを人狼と言ったこと? 

 振り向くと夏美が真剣な目をして私を見ていた。私の嘘をついているか見抜こうとしている目だ。心臓の音が大きく聞こえる。落ち着け私。ここで深呼吸などの行動をすれば、確実に疑われる。
「信じて。私は村人。夏美の見方だよ」
 その言葉を言い残して部屋に戻った。目覚まし時計を設定して、ベッドに潜り込んだが、しばらく寝付けなかった。 



 目を開けると、目覚まし時計が鳴っていた。もう時間だった。少し寝たせいか、頭も体も軽くてスッキリしている。

 ベッドの上で体を伸ばした。足で何かに触れた。ポテチの袋に触れていた。食べようと袋に手を突っ込むと、ポテチは粉々だった。寝てる間に自分の足が袋を蹴ったり、潰していたのだろう。寝相が悪いのは私の一つのコンプレックス。親にもそんなことを何度も言われてきた。勉強しろとか、毎日のように言われていた。

 でもここは何も言われない世界……。もしかしたら現実の世界より、こっちの世界の方が楽なのではないか?気づいたらそう考えていた。なんてことを考えているのと自分を責めた。馬鹿だと思った。精神的にやられているかもしれないと思った。

 私は強く首を振り、部屋を出て投票室へ向かった。もうすぐ投票の時間。投票室に向かう途中、詩織が歩いていた。彼女も投票室に向かっている。無言で後ろをついて行った。自分が投票室に着くころには、みんなが円型に並べられた椅子に腰掛けていた。投票までまだ時間があった。

 私が座ると哲也がこの場にいる人数を数える動作をしていた。
「全員いるな」
 みんながいることを確認し、夜の処刑会議が始まった。誰も何も言わない。一人一人が自分の発言に注意しているかもしれない。一言でも、口を滑らせれば人狼と疑われる。そんな空気のなかで会議をやっていた。

 突然、誠が手をあげた。
「楓が、人狼だ。楓に投票してくれ。お願いだ」
 誠はまだ楓に票をいれてとお願いしていた。ここにいるほとんどは、誠が人狼と思っている。根拠は何もないけど、そんな気がした。
「人狼の無様な姿ね」
 楓は勝利を確信した目をしていた。
「だから、僕は人狼じゃないんだ!」
「言い訳はもういいから!」
 夏美が叫んだ。夏美は誠に投票するだろう。

 誠は今日、処刑される。私はそう確信した。
「もうすぐ時間になる」夏美がそう伝えた。
「僕は人狼じゃない! 死にたくない!」
 誠がもう一度、自分が人狼ではないことを説明した。何度言おうと、その言葉は私と夏美には届かない。誠の目が血走っていた。我を失っている。まさに化けの皮を剥がされた人狼だった。
「残りの三十秒」
 詩織がカウントダウンを始めた。これで残りの時間が分かる。ありがたい。

「六、五、四 ……」

「……ちがう……僕じゃない……」
 誠は震えを抑えられずにいた。

「三、二、一、ゼロ!」

「せーの!」
 夏美の合図で投票を行った。
 私と夏美はもちろん誠に投票。のこりの誠、詩織、哲也、隼人、綾香は……楓に指を指していた。
「……嘘……。……何で……私?」
「お前言ってたよな。浩司は自分に投票しろと言ったから名乗り出ても無駄だと。でも、占い師が名乗り出るように誘ったのは、浩司が投票を指示する前なんだよ」
 哲也が睨みつけて言った。確かにそうだった。浩司は手がかりがないから、投票を指示したんだ。矛盾している。ということは、楓は——人狼。

 投票の結果、今夜の処刑は楓になった。楓はすぐに首に違和感を感じたらしく、首を抑え出した。顔が真っ赤になり、リングを引きちぎろうとしていた。その場にいた誰も、悲鳴も声もあげなかった。楓はその場に崩れ落ちた。そこまでは今までの処刑された人たちと同じ動作と行動をしていた。でも、ここからは違った。崩れ落ちた後、直ぐに立ち上がり投票の窓の鍵を開け、外に飛び出して行った。外は何も灯りがなく真っ暗。あっという間に楓の姿は消えていった。

 これでまた一人クラスメイトを殺した。そんなこと考えが頭を埋め尽くしていた。
「……もう……やだ……」
 また詩織は泣き、頭を手で抱え、ガタガタ震えていた。
「終わるまでやるしかない」
 横にいた哲也が背中をさすりながら、慰めていた。そのときだった。詩織が哲也を押し倒し、窓の方へ全速力で走って行った。
「外に出ちゃだめ!!」
 窓の近くにいた夏美が詩織の腕を掴んで引っ張った。しかし、掴まれた夏美の腕もなぎ払い、外に飛び出して行った。

 人間が狂うとこうなるのだろうか。自分もこうなってしまうのだろうか。そんな恐怖を感じた。

「のこりの人狼は、きっとあと一人だ。あともう少し、頑張ってくれ。俺たちは絶対に勝てる」
 哲也の言葉で何人かが首を縦に振った。そう考えるのはまだ早い。楓が人狼じゃないかもしれない。私には一つ疑問があった。

「ねぇ哲也。何で楓の矛盾を教えてくれなかったの?」
「なかなか見つからなくて、部屋に行ったけど寝てるみたいだったし。もう、過半数の人を説得したからそこまでする必要はなかったかなと思って」

「……みんな、あのさ、」
 喋り出した誠を私は睨んだ。彼は冷静さを取り戻していた。投票前とは全然違う。
「明日には、僕はいないと思う。後は自力で人狼を探して欲しい」
 自分の死を受け入れた目をしていた。本当に彼が占い師なのか?

「ねぇ誠。少しいい?」
 疲れきった顔をした誠に言いたいことがあって、声をかけた。
「あなた、本当に占い師?」
「明日になれば分かる」
表情を変えずに言い切った。
「誠が本当に占い師なら、お願いしたいことがあるの」
 私は、寝る前に誠を部屋に呼び出した。 
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