ジンロウゲーム

JOKER

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四日目

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 残り六人。その中で人狼は多分一人。この人狼ゲームもあと少しで終わる。長くてもあと二日で終わる。

 四日目の投票室には、やはり誠の姿がなかった。今日も哲也が人数を数えた。誠一人だけいなかった。誰も見に行くとは言わなかった。だから、
「私が見てくる」
 その行動に出た理由は二つ。一つは、誰も行きたくはなかったと思うから。もう一つは、誠の部屋にある「あれ」を確認したかったからだ。
「一人で大丈夫か?俺もついて行ったほうがいいか?」
「一人でいい」
 とっさに直樹が気を使ってくれたが、一人のほうが動きやすい。

  誠の部屋の前に立ち一度、深呼吸した。私には、心の準備が必要だった。部屋に入ったら目の前に現れる光景を恐れていた。分かっているのに、怖かった。覚悟を決め、ドアをゆっくり開いた。部屋の中は真っ暗。入口近くのスイッチを押して部屋の電気をつける。予想通りの光景が目に映った。いや、予想以上の光景だった。今までの襲撃のなかで最も残酷な姿だった。一度刺された体ではなかった。死体には何ヶ所も刺し傷がいたるところにできていた。人狼の怒りの現れとも思えた。
 死体を踏まないように、誠の部屋にある机の引き出しやベッドの下などを調べあさった。そして、タンスのなかにこの部屋に来た目的の「あれ」があった。もうこれでこの部屋にようはない。私は一枚の紙切れを持って部屋を出た。 
「誠の部屋にこれがあった」
 投票室に戻った私は、紙切れをみんなに見せた。
「なんだよそれ」
 紙切れにいち早く反応したのは、直樹だ。予想通り。
「何か書いてあるの?」
 横から夏美が覗き込んできた。私は紙を折りたたみ、ポケットにしまった。
「見せてくれないのかよ」
 隼人が睨んでいた。みんな、私に注目している。私の発言をみんなが求めている。いい気分だ。
「まだこの中身は知らない方がいい」
 哲也が軽く舌打ちをした。投票室が静かだったせいか、はっきりと聞こえた。 
 みんなが椅子に座り、四日目の朝会議が始まった。もちろん最初は綾香の発言からだった。
「みんな分かってると思うけど、楓は人狼だったよ」
 霊能力者からの報告が終わった。誠ではなく楓が人狼だった。あれは誤算だった。私は誠を疑った。だから、次は私が疑われる可能性が高い。でも、この紙がある以上、私は疑われない。その他の報告では情報は無かった。少し、沈黙が流れた。 
「そろそろ教えてくれよ。その紙切れ」
 哲也の我慢が限界に近かった。できれば、自ら人狼と名乗り出てから伝えたかった。しょうがなく紙切れを取り出して、みんなに伝えた。
「これは、誠が今までに占った人とその結果が書いてある。昨夜、誠は見事に残りの人狼を占った。その人もここに書いてある」
「……誰なの?」
夏美が私の目を見てはっきりと言った。その目には、期待もあり不安もある感じの目をしていた。
「その前に、残りの人狼が自ら名乗り出てくれたほうがいいけど」
 また沈黙が流れた。少したって、哲也が声を出した。
「人狼が自ら名乗り出るわけないだろ。もういいだろ。早く教えてくれ」
 私はポケットから紙を取り出して、ゆっくりとそれを開く。
「直樹。あなたが人狼?」
 私は紙の内容を打ち明けた。直樹の隣に座っていた隼人が立ち上がり、直樹から一歩下がった。直樹の反応は何も無かった。逆に怖い雰囲気が投票室中を包んでいた。
「……本当か?」
 隼人が確認をした。その声にも直樹は無反応。
「占った結果全部、教えてくれ」 
 哲也がめんどくさいお願いをしてきた。
 一日目は、葵。二日目は、隼人。昨日は、直樹。そう伝えた。今度は哲也が直樹に質問した。
「本当に人狼はお前なんだな。だから、昨日の投票で楓じゃなくて、誠に投票していたんだな」
 その質問に直樹は諦めたように首を縦に振った。確かに、誠に投票したのは私と夏美と楓と直樹の四人だった。
「全て紗良と哲也の言うとおり。俺が人狼だ」
「本当に直樹が三人を殺したの?」
 夏美の質問にも頷いた。
「何でそんなことができたの? 自分が生き残るため? お金のため?」
 怒りをこらえきれなかった夏美が叫んだ。正直に言うと、彼女も人狼の経験者だ。今の発言は自分にも言っているように私は聞こえた。結局、四日目で人狼全員の正体が分かった。これですべてが終わったと思った。いや、終わるはずだった。

「今日、俺を処刑していいのかな?」
 直樹が耳を疑う発言をして、みんなの顔がけわしくなった。
「何言ってんだよ、お前」
 隼人が胸倉を掴んでいた。直樹を殴る勢いだった。喧嘩寸前の感じだ。このまま隼人が直樹を殴れば隼人の首が締まる。
「人狼はあなただけ」
 夏美がそう言った。
「そう人狼は俺だけだ。だが、狐が残っている。俺を吊る前に狐を吊るべきだな」
 そう言われてドキッとした。直樹は笑っていた。自分に相当な自信があるのだろうか。そのまま歩いて食堂へ行ってしまった。
「ちくしょう……」
 隼人は拳を震わせながら小さく呟いた。結局、直樹に投票しようとはならなかった。狐の存在で村人たちも余裕がなくなっていた。

 本当に狐がいるとは限らない。でも、いたら……ていうか、狐は私だった。

「詩織と楓が……」
 部屋のカーテンを開けて夏美が外を見ていた。今日は雲で太陽が隠れ、雨は降っていなかったが、外はとても暗かった。夏美が目を細めて遠くを見ていた。そこには、昨日飛び出して行った詩織と楓の倒れた姿があった。今居る建物から二人の姿のところまで距離がある。二人とも首が締め付けられているなか、あそこまで走って行ったのだろう。そして、力尽きた。一体彼女たちは何を考えていたのだろう。逃げられるとでも思ったのだろうか?
「本当に狐がいるのか?」
「居るわけない」
 隼人の独り言に私は振り向き即答した。もちろん、私は狐。
「なんで?」
 夏美が首を傾げていた。しかし、彼女の顔には余裕がある感じがした。私は、この時に何を言おうか、だいたい決めていた。頭のなかで、言いたいことを整理してから口に出した。なるべく簡潔に。余計なことは言わないように。
「二日目の朝、哲也と浩司と私で葵の様子を見に行った。予想通り、葵はナイフで殺されてた。でもそのとき葵のリングが締まっていたの。二日目の夜に殺された美咲はそんなんじゃなかった」
 そんなハッタリを口に出してみた。葵の首は閉まっていたが、あれは人狼の襲撃のときに、抵抗したからだろう。私が人狼のときも、抵抗した奴がいた。
「確かにそうだったかも……」
 哲也が二日目の朝を思い出していた。
「もしかして、一日目の夜に……」
 隼人が気づいたみたいだ。私は説明を続ける。
「そう、一日目の夜に誠は葵を占ったの。葵の首のリングが締まってたということは……」
「……葵が狐」
 綾香が目を丸くして私を見て言った。
「大正解」
 説明は終わった。肝心なところを夏美に言われてしまい、後味が悪かった。
「俺からのお願いだ」
 哲也が手を合わせて喋り出した。
「今日、直樹に投票してくれないか?」
 そのお願いをした直後だった。ガチャちょうどのタイミングで朝食を食べ終えた直樹が投票室に入ってきてしまった。いや、朝食など食べてなかった。直樹もしっかり哲也の声を聞いていた。
「いいのか本当に俺を処刑しても」
「この場に狐はいない。残りはお前だけだ」
 哲也と直樹で睨み合いになっていた。
「もう一度聞く。本当に俺でいいのか?」
 直樹の声が低く強くなっていた。
「あんたの他に誰がいるの?」
 今度は私を睨んできた。まぁ当然だろう。挑発されて少しでもイラつけば、人間はだいたいこうなる。直樹が制服の深いポケットを探り始めた。嫌な予感がした。離れた方がいい。そういう野生の感がはたらいていた。それに体が反応して、数歩、直樹から下がった。直樹が何か取り出した。室の明かりでそれが一瞬輝いた。それを見て全員が息を飲んだ。冷静になるほうが無理だ。直樹が持っているのはナイフなのだから。
「死にたいか?」
 ナイフを前に突き出し、威嚇してきた。そのナイフで三人の犠牲が出たのだろう。三人の血はしっかりと洗われている。
「それで脅しにでもなると思ってんの?」
 夏美が声を張り上げた。
「うるせぇ!おめえらも道連れだ!」
 直樹の顔は殺意に溢れている。今持っているナイフが突然向かってくるかもしれない。もし、刺されば生きていられるわけがない。場は膠着状態だった。どちらも動けなかった。
「あーもうやめた、やめた。さっさとナイフをしまえ。危ないだろ」
 哲也が警戒を解いた。直樹には出来ないと思ったのだろう。
「あんた、相当余裕ないね。負けを認めたら?今更、何をやっても、みんなの考えは変わらないよ。いくら攻撃したところであんたの首が締まるだけ」
 私はそう言ってからやってしまったと思った。直樹の目が血走っていた。殺る気満々だ。そう思った瞬間、直樹がおもいっきり床を蹴った。ナイフを突き立てながら、走って来た。走って来たのだ。ここに。つまり、狙いは私。直樹がだんだんと大きく見えてきた。脳が逃げろと指示していた。でも体が指示通り動かなかった。直樹の走ってくる姿がスローモーションに見えた。直樹との距離約三メートル。私は強く目を瞑った。その直後、自分の体は後ろに倒れた。刺された感覚が無かった。飛ばされた。いや、押されたのだろうか? ゆっくり目を開けると、目の前に哲也がこっちを向いて立っていた。何が起きたかわからない。直樹の姿が見えなかった。私が立ち上がった直後、足元に哲也が倒れた。 
「…うぁあ……ぁあ…あぁ…」
 哲也から化け物かと思わせる叫び声が室に響いた。哲也の脇腹にナイフが刺さっていた。哲也自身でナイフを抜こうとしていた。その時、直樹の首のリングが締め付け始めていた。そんなことには全く気づかない私は、哲也に刺さったナイフを引き抜こうとナイフを自分の方へ引き寄せた。ナイフは深々と刺さっていた。なかなか抜けない。哲也もナイフを引き抜こうとしていた。
「うああぁぁぁあぁぁーー!!」
 苦しむ声がとても奇妙に聞こえた。ナイフが少し動いたときだった。
「ナイフを取っちゃだめ!!」
 夏美の叫び声と同時にナイフが抜けた。直後、哲也の傷口から大量の血が噴き出て、自分の体と制服を真っ赤に染め上げた。ナイフを引き抜いてすぐ、哲也は少し痙攣して動かなくなった。あっという間に哲也の下に血だまりができている。私はその中にいる。血の臭いに吐き気がした。

 自分をかばって死んだ男が目の前に倒れている。自分のせいで死んだ。私がいなければこうはならなかった。そう思うと切なく悲しく辛かった。立ち上がってみんなのほうを向いた。綾香は頭をかかえて泣いている。
「紗良は何も悪くないよ。早く着替えてきな」
 夏美の励ましの言葉に軽く頷いて部屋に戻った。その足取りはとても重かった。部屋に戻り、直ぐにシャワーを浴びた。ついた血とその臭いが、なかなか落ちなかった。気持ちが悪い。シャワーを済ませた私はベッドにうずくまり泣いた。部屋の外まで聞こえそうな嗚咽が部屋に響いた。 

「なんで守ったんだろうな。 そうだろ夏美」
 隼人が独り言のように呟いた。確かに、哲也が紗良を守る必要は無かった。哲也は自分が刺される覚悟ができていた感じでもあった。紗良からは数メートル離れていた。直樹が走り出したと同時に哲也も走り出した。そして、紗良の前で止まった。直樹の目的の前に壁が出来た。直樹は、その壁に突っ込んで行った。反射的に飛び出したのだろうか? なぜ、紗良を守る必要があったのか? 紗良は何が起きたか分かっていなかった。後で説明したほうがいいだろう。でも、それで自分を追い詰めてしまわないだろうか。私が声をかけた時、彼女の目は今にも泣きそうな目をしていた。今もしかしたら、部屋で泣いているかもしれない。いままで彼女は、人前で泣くことを恐れていた。

 ふと、二日目の夜を思い出した。浩司が吊られたとき、彼女は泣いていた。彼女はいままで自分の性格を表に出していなかったのかもしれない。いつもの彼女は冷たい目をしていて、何を考えているかも分からなかった。でも、このゲームをやって、彼女に気持ちの動きを目の前で見た。それを思い返すと、紗良は誰よりも、友達を大切にする人間なのかもしれない。表の顔は人一倍、優しいのかもしてない。
「終わったんだな……」
 隼人がまた、独り言を呟いた。人狼、狐はいなくなり、この場には村人だけが残った。村人の勝利。しかし、これで終わるのだろうか。主催者は本当に解放してくれるのだろうか。私は、このゲームは二回目。もしかしたら、三回目があるのかもしれない。死ぬまでこのゲームをやらされるのだろうか。それならば、このゲームに終わりは無い。そんなのは嫌だ。

「……なんで……」
 床に座っている、綾香が震えた声をあげた。綾香は、テレビを見ていた。投票室の隅にあるテレビがついている。そこには、青い画面に白い文字でこう映されていた。

[ゲーム終了。狐の勝利]

 テレビに映された文字の意味が、分からなかった。狐の勝利?狐は葵。もう、狐の葵は死んだはず。沈黙のなかでテレビの画面が切り替わる。

[人狼は楓、智樹、直樹]

 画面は次々切り替わる。次の画面を見て絶望した。

[狐  紗良]

「嘘……だろ……」 
 隼人から声が漏れた。私も同じ気持ちだ。紗良は、村人ではなかったのか。この人狼ゲームで見てきた紗良は何だったのか。あの涙は何だったのか。葵が狐じゃなかったの? あの発言は自分を守るための嘘だったの?謎を考えるたびに新しい謎が生まれた。

そんなことを考えていた夏美は、綾香と隼人の首のリングが赤く点滅していることに気がついていなかった。もちろん、自分自身についている首のリングの点滅にも気づくわけも無かった。隼人がその場に倒れた。綾香はゾンビのように、床を這いつくばっていた。それに気づいて急に体が重くなった。その重みに耐えられず、膝をつく。ものすごい頭痛を感じた。全身に力が入る。手足が震えていた。少しずつ力が抜けてきて、目が霞んできた。人間の死ぬ間際はこうなるのだと初めて感じた。また、さらに絶望した。一瞬、紗良が投票室に入ってきた気がした。
「……紗良…なんで……」
 心の中でそう叫んだ。もちろん彼女に届くことはなかった。少しずつ意識が薄れて、夏美は絶望の闇へと落ちていった。 



 泣き始めてから一体、何分たっただろう。ベッドの上に使用済みのティッシュが山になっていた。

 ふと、今回ゲームを振り返ってみる。一、二回目よりあっさり終わった。緊張感が少なかった気がした。人狼はいなくなった。今回ゲームは、狐の勝利。私だけ勝利。

あれ?

 今、なんて思った? ワタシダケショウリ? 一人だけ? 他は? 死んじゃうの? 夏美は? 村人の夏美はどうなるの? ワタシガカテバ、ナツミワシヌ。何日か前にそんなことを考えた気がする。

 私は急いで部屋を出た。ドアを乱暴に閉め、投票室へ走った。息を切らして投票室全体を見回す。五人の人間の姿があった。その中で立っているのは、自分だけだった。立っていない者イコール死んでいる者だ。つまり、今私しか生きていない。狐の私しか。投票室の隅で夏美倒れている姿を見た。私が生きていなければ、こうはならなかった。私がいなければ、こうはならなかった。こんなゲームが無ければ、こうはならなかった。きっとカメラの向こうでは人狼ゲームの主催者が見ている。笑っている気がした。カメラに向かって問いかけてみた。
「なんでこんなことするの?なにが楽しいの?」
 その声は震えていた。もちろん、問いの答えは無かった。
「なにが楽しいか聞いてんだよ!!」
 私はカメラに怒号をとばした。悲しみがあったが、それよりも怒りが込み上げていた。こんなふざけたゲームをさせられ、騙し合い、殺し合い、それを見ている主催者は楽しんでいる。
「見てんじゃねえよ!!」
 前にあった椅子を蹴り飛ばし叫んだ。蹴り飛ばした椅子が窓ガラスに当たり、窓ガラスにヒビがはいった。私は狂っていた。自分で分かっているから、そんなでもないかもしれない。でも、私は自分自身で思う狂気をむき出しにした。

 ヒビがはいった窓ガラスの横のテレビがついていた。画面には、私が狐であることが堂々と映し出されていた。テレビが乗っている棚に二つのテープがある。一日目は一つしか無かった。私は二つとも手に取った。一つは、ルール説明。もう一つは、ゲーム終了報告。直ぐにそのテープを流した。
[狐の勝利。紗良さん、おめでとうございます]
 突然、画面いっぱいにその文字が現れた。その後、テレビの画面には、プレイヤー全員の殺されるシーンが流されていた。

 私はこのゲームとクラスメイトの十二人に勝った。そんな思いは全くなく、崩れ落ち、また泣き叫んでいた。 


GAME CLEAR 



 画面は、どんどん切り替わっていった。気づけば、テープは終わっていた。
 ほとんど見ていられないものだった。目をこすり立ち上がる。足になかなか力が入らなかった。心も体も限界かもしれない。このまま力尽きればいい、そう思った。

 深く深呼吸して、テレビの前に立った。もう一度、再生ボタンを押した。いきなり画面に映った文字の数が増え、文字のサイズも小さくなった。思わず、目を細めた。それは、勝利した報酬とその受け取り方だった。賞金一億円。人狼で、勝利した時もそうだった。勝利した気持ちは人狼で勝利した時と同じ。人を殺してまで勝ちたくない。だったら自分がという気持ちでいた。テレビの画面の文字が消え、新たに文字が浮かび上がってきた。

[それか、願いを一つ、できる範囲で叶えましょう]

 馬鹿にしてるのかと思った。小さな子どものような扱いをされている気分でまた、腹が立った。でも、一つ叶えたい事があった。テレビ画面は、叶えたい事を食堂の監視カメラに向かって言えと指示していた。願いを言えば、叶うのだろうか。そんな、夢のような話があるのか。信じてはいなかったが、食堂に向かった。金よりもこっちのほうがいいだろう。

 食堂の扉をゆっくり開いた。中は、真っ暗だった。食堂の真ん中にあるテーブルにカメラが置いてあって、その横に小型のテレビがあった。食堂の明かりはカメラの赤い光とテレビのみ。一瞬、自分の首についているリングが赤く点滅しているのだと思って、焦った。もう一度カメラに視線を戻した。
 一言で願いがかなうのだろうか?
もし、無理なことを言ったら、自分の身に何が起こるか分からない。でも言いたい。そうためらう自分がいた。この人物ゲームとは、何なのだろうか? 勝手に役を決められ、人が人を騙し、裏切り、そして勝った後には何が残るのか? 賞金だけ? 結局私は貰っていない。次のゲームに強制参加されられた。死ぬまでこのゲームをやり続けなければいけないのか? 無かったことになればよかった。こんなゲームが無ければ、こんな事にはならなかった。
 だから今、私はこう願う。
このゲームに参加した全員が生き返って欲しい。
また、みんなと話せるようにして欲しい。
夏美を、生き返らせて欲しい。
そして、このゲームが無かったことにして欲しい。

心からそう願った。 



 ?日目「…….ここは……あの世…?」
 目を開くと真っ暗だった。周囲のものが何も見えない暗闇。そこでは私は目覚めた。少しずつ視界が開けてきた。あの世では無いらしい。
 私はパーティー会場のようなところに倒れていた。自分が倒れていた前の記憶を探る。何も思い出せなかった。なぜ私がこんなところに? 背後から声が聞こえた。背後は扉があった。どうやら、この扉の向こうに人がいるらしい。そこの人に話を聞いたほうが良いだろう。
 扉の取っ手に手をかけ、強く前に押した。開けた扉の隙間から差し込んでくる光におもわず私は目を細めた。視界がはっきりしてくると、目に入ったのは部屋の中央に円形に並べられた十三脚の椅子と十二人の人間の姿だった。この広い部屋にしては、その椅子とアナログテレビしかなく、とても部屋が広く感じられた。
「……紗良」
 円形に並べられた椅子の中央にいた少女が私の名前を知っていた。顔をよく見ると夏美だった。なぜ夏美がここに?
「これで全員?」
 そう言った夏美とは違う少女が辺りを見回している。私も人がどんな人かを確認した。全員知っている人だった。私のクラスの生徒が十二人いた。背後の扉が開いていることに気づき、閉めようとしたときだった。自分が目覚めた部屋にテレビがあり、そのテレビがついていることに気づいた。

【報酬受け取り済み】

 テレビはその文字が映し出されていた。その文字で全ての記憶が蘇った。私はあの時、カメラに向かって叫んだ。みんなを生き返らせて欲しいと。それが私の願い。その願いは叶い、みんなは生き返った。それは再びゲームが始まる事を意味していた。

 急いでポケットにあるカードを確認した。カードには……赤い目の黒い動物。
 私は、人狼。

 前のゲームとは違う。前回とは別のゲーム。突然、手が震え出した。今回も生き残れるとは限らない。夢に見た自分の首が締まる感覚を思い出した。震える手を必死に抑え、みんなのほうを向くと、全員が私に注目していた。
 私は、その場に立ち尽くすことしかできなかった。 

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