王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】

野松 彦秋

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第5章 不器用な親子【道三と義龍】

3.道三、御満悦

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『十兵衛よ、お主魚を食うじゃろ・・・肥えた魚と、貧相な魚、どちらを食べたい?』

道三は、サラっと、会って間もない十兵衛の名前を親し気に呼び、話しかける。

それは一瞬にして相手との距離を取り払う、人たらしの技である。

『当然、肥えた魚を・・・』

『そうじゃな、貧相な魚なんぞ、食べた気にもならんからな』

『国も同じじゃ、豊かな国と、貧しい国だったら、民はどちらを選ぶ』

『豊かな国です』

『そうじゃ』

道三はただでさえ大きい目を、さらに大きくしようかとするように力いっぱい開く。
声は変わらず大きく、しかもとおる声で、聞き取りやすい。

『ワシは、座という商人の組合を解散させた』

『そ奴らがいると、商売を独占しようとする。新しく来た者が商売を始めようとすると、自分達の利益を犯すという事で、その者を虐《いじ》めて排除しようとするのじゃ』

『座の者達が、自分達の競争相手を排除するので、モノの値打、値段はいつも同じ、安くならんのじゃ』

『その者達には、良いかもしれんが、モノを買う民達はたまったもんじゃない』

『そんなの不公平だし、不健康なのじゃよ』

『座が無くなり、商人らが自由に商売できるようになった』

『競争が生まれた事で、おのずとモノの値段は下がった。』

『そして商いが盛んになると、それに伴い新しい仕事も生まれる』

『商品を運ぶ者、荷車を作る者、その者達に料理や酒を売る者等等じゃ』

『おのずと、ワシの懐にも金が入ると言う訳じゃ。民達はニコニコしながら税を払ってくれておる』

『我が美濃へ他国から多くの民達がどんどん移り住んで来れば、そりゃもう、倍々でんがな』

(倍々でんがな・・・・?何処の言葉だ)と十兵衛は思ったが、口には出さなかった。

『どうじゃ!!』

『・・・・、参りました』と十兵衛は言い、降参をする様に平伏したのであった。

(十兵衛、参りましたとは何だ、その返答はいかんだろ・・・)と光安は思ったが、口には出せなかった。

『そうじゃろう、そうじゃろう、参っただろう』

『お主、なかなか見込みがあるのう』と道三は御満悦である。

(エッ、殿が御満悦だ・・しかも見込みがある?・・今度、ワシも、参りました・・言おう)と光安は心の中で誓ったのであった。

『しかしな、美濃が肥えれば、甘い汁によってくる蟻みたいな者達がワンサカ出て来るモノじゃ』

『ワシはそ奴らから、美濃を守らねばならん』

『お主が妻木家のご息女と結婚し、明智家と妻木家の関係がますます強くなる』

『十兵衛、お主の叔母、小見の方はワシの正室、横にいる、稲葉も、この者の姉はワシの側室、我が嫡男の母じゃ』

『つまり、此処にいる者達は親戚なのじゃ』

『親戚同士の絆が深くなり、一つになる事が美濃を守る上で必須じゃ』

『美濃を守る為に、先ずは美濃を一つにまとめなければならん、お主の祝言も重大な意味を持つ』

『我らが一つになり、土岐家の残党を一日もはやく排除し、他国に備える体制をつくる』

『十兵衛、叔父光安や、この稲葉の様に、ワシを支えてくれぃ!!』

『ハッ!』と十兵衛は、大きい声で答え頭を下げ、光安と一鉄も又平伏したのであった。

その後も道三は、趣味の茶の湯の事等、楽しそうに語ったのであった。

稲葉一鉄も、茶の湯にはまっており、その話題で楽しく盛り上がったのである。

道三との面会が、もう終わろうとしている頃である。

道三が、思いついたかのように、叔父光安に話を切り出した。

『光安、ワシは十兵衛が気に入った。暫く、ワシの小姓として稲葉城へ置きたいがどうじゃ?』

『ハッ、有難き幸せ!なれど、今日祝言を挙げたばかりですので・・』

『十兵衛、お主、ワシと嫁、どちらを取るのじゃ?』

『・・・道三様より、国の治め方や茶の湯の事を学びとうございます』

『良く言った!光安、決まりじゃ、十兵衛の嫁には、武士の妻としての試練と思えと伝えるのじゃ!』

『なあに、長くはない、2,3ヶ月じゃ』

『ワシの息子、ちょうど義龍と良き学び相手になりそうだと思ってな』

道三は、そう言うと笑顔を光安に投げかける。

『ハッ、畏まりました!』と光安は主君からの命を受けたのであった

十兵衛の稲葉山城での生活が始まる事が決まったのである。
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