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第6章 土岐家の名君
3.頼純という男【3】
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十兵衛が拉致された部屋には、頼純を含め20名の者達がいた。
十兵衛の両腕を十兵衛の両脇に座っている者が押さえている為、身動きが取れない。
部屋にいるその他の者達総てが、十兵衛を睨んでいる。
まるで十兵衛を罪人の様に見つめているのである。
『お主は、道三入道に何を命令されてやってきた?』
『娘の護衛か?』
『ワシを懐柔するつもりか?』
『それともワシの命か?』、糾弾する頼純の厳しい声が続く。
『・・・・・・』、十兵衛は目を瞑り沈黙し、頼純への質問には答えない。
そんな様子をみて、回りの者達が声を揃えて十兵衛に吐き捨てる様に言う。
『黙っておらず、頼純様の質問に答えよ!!』と数名の者が声を揃えて煽る様に叫ぶ中、十兵衛は覚悟を決める様に目を開けた。
『外野は黙っておれぇい!!』
一瞬にして部屋を震わせる十兵衛の大きな声が響く。
『頼純様、下手な芝居はお止めください、戯れにもほどが有りまする。』
『戯れだとぅ?』と頼純は、反発するような表情で不服の声をあげる。
十兵衛は、そんな頼純の顔から眼を反らさずユックリと言葉を続ける。
『それでは私から問いましょう!』
『私が道三様より、娘の護衛を頼まれ、貴方様の懐柔、そして最終的に命を奪う様に指示を受けて来たと言ったら、貴方様は私をどうするおつもりか?』
『殺すのか?いや殺せるのか?殺せるものなら、トッとと殺せ!!殺せぬクセに何を粋がる、これを戯れと言わず何を戯れというか?』
『私達も、帰蝶様さえこの城の門を潜った時から、覚悟を決めておる、遅かれ早かれじゃ』
『絶好の機会であった昨日、祝言にて道三様を討てなかった者が、私を殺せるモノなら殺してみよ!!』
腹が決まった十兵衛の言葉には、既に敬語は無かった。
『・・・・・』、十兵衛のその態度を頼純は黙って暫く見つめていたが、やがて拍手をし始めたのである。
『皆の者、この者はなかなか見所がある男だ。流石は、我が土岐家の血を継ぐ一族の者じゃ』
『名を明智十兵衛と申す』
『今日よりこの者を、我ら土岐家の一門の者として扱う様に、これはワシの命令ぞ!!』
頼純がそう言うと、十兵衛を押さえていた二人は手を放し、その場で平伏したのであった。
『十兵衛、許せ、其方を試した、此処にいる者総て土岐家の者達のみじゃ』
『お主が、信用に値する男か、土岐家の気概を受け継ぐ男かどうかを皆で試したのじゃ』
頼純はそう言うと両手を畳につけ、十兵衛に謝罪する為頭を下げた。
『恐れ多い・・・御止め下され、頭を上げて下され』
『武士として、男子として多勢で一人を囲むとは、許される事ではない。ワシに出来る事は同じ武士として謝る事だけじゃ、スマヌ許してくれい』
頼純は、そう言うとまた綺麗に頭を垂れる。
十兵衛もそれに合わせ、頼純へ頭を下げる。
(この御方には、身分という概念がないのか?土岐家は、足利家に並ぶ由緒ある家柄、いくら分家とはいえ明智家とは格が違う。)
(こんな私にも、簡単に頭を下げるとは・・・この御方はどういう方なのか・・この行動はこの御方の欠点なのか、美点と評せるモノなのだろうか・・)
『十兵衛、これで終いじゃ。頭を上げてくれ』
『お主、ワシとそんなに年は変わらんじゃろ、今日からワシの相談相手になってくれれば助かる、宜しく頼む!』と頼純は、帰蝶の部屋で見たあの笑顔で話しかけてくる。
『ハッ!有難き幸せ!』と、十兵衛は一度、顔を上げたが直ぐにそう言い又頭を下げる。
頭を下げながら、昨日のたった一日で、あの帰蝶様を懐かせ、そして会うと直ぐに自分を試す頼純の行動力に、底知れぬ恐怖を感じる十兵衛であった。
短期間での彼の行動だけでは、彼の器、真意が測れない十兵衛であった。
十兵衛の両腕を十兵衛の両脇に座っている者が押さえている為、身動きが取れない。
部屋にいるその他の者達総てが、十兵衛を睨んでいる。
まるで十兵衛を罪人の様に見つめているのである。
『お主は、道三入道に何を命令されてやってきた?』
『娘の護衛か?』
『ワシを懐柔するつもりか?』
『それともワシの命か?』、糾弾する頼純の厳しい声が続く。
『・・・・・・』、十兵衛は目を瞑り沈黙し、頼純への質問には答えない。
そんな様子をみて、回りの者達が声を揃えて十兵衛に吐き捨てる様に言う。
『黙っておらず、頼純様の質問に答えよ!!』と数名の者が声を揃えて煽る様に叫ぶ中、十兵衛は覚悟を決める様に目を開けた。
『外野は黙っておれぇい!!』
一瞬にして部屋を震わせる十兵衛の大きな声が響く。
『頼純様、下手な芝居はお止めください、戯れにもほどが有りまする。』
『戯れだとぅ?』と頼純は、反発するような表情で不服の声をあげる。
十兵衛は、そんな頼純の顔から眼を反らさずユックリと言葉を続ける。
『それでは私から問いましょう!』
『私が道三様より、娘の護衛を頼まれ、貴方様の懐柔、そして最終的に命を奪う様に指示を受けて来たと言ったら、貴方様は私をどうするおつもりか?』
『殺すのか?いや殺せるのか?殺せるものなら、トッとと殺せ!!殺せぬクセに何を粋がる、これを戯れと言わず何を戯れというか?』
『私達も、帰蝶様さえこの城の門を潜った時から、覚悟を決めておる、遅かれ早かれじゃ』
『絶好の機会であった昨日、祝言にて道三様を討てなかった者が、私を殺せるモノなら殺してみよ!!』
腹が決まった十兵衛の言葉には、既に敬語は無かった。
『・・・・・』、十兵衛のその態度を頼純は黙って暫く見つめていたが、やがて拍手をし始めたのである。
『皆の者、この者はなかなか見所がある男だ。流石は、我が土岐家の血を継ぐ一族の者じゃ』
『名を明智十兵衛と申す』
『今日よりこの者を、我ら土岐家の一門の者として扱う様に、これはワシの命令ぞ!!』
頼純がそう言うと、十兵衛を押さえていた二人は手を放し、その場で平伏したのであった。
『十兵衛、許せ、其方を試した、此処にいる者総て土岐家の者達のみじゃ』
『お主が、信用に値する男か、土岐家の気概を受け継ぐ男かどうかを皆で試したのじゃ』
頼純はそう言うと両手を畳につけ、十兵衛に謝罪する為頭を下げた。
『恐れ多い・・・御止め下され、頭を上げて下され』
『武士として、男子として多勢で一人を囲むとは、許される事ではない。ワシに出来る事は同じ武士として謝る事だけじゃ、スマヌ許してくれい』
頼純は、そう言うとまた綺麗に頭を垂れる。
十兵衛もそれに合わせ、頼純へ頭を下げる。
(この御方には、身分という概念がないのか?土岐家は、足利家に並ぶ由緒ある家柄、いくら分家とはいえ明智家とは格が違う。)
(こんな私にも、簡単に頭を下げるとは・・・この御方はどういう方なのか・・この行動はこの御方の欠点なのか、美点と評せるモノなのだろうか・・)
『十兵衛、これで終いじゃ。頭を上げてくれ』
『お主、ワシとそんなに年は変わらんじゃろ、今日からワシの相談相手になってくれれば助かる、宜しく頼む!』と頼純は、帰蝶の部屋で見たあの笑顔で話しかけてくる。
『ハッ!有難き幸せ!』と、十兵衛は一度、顔を上げたが直ぐにそう言い又頭を下げる。
頭を下げながら、昨日のたった一日で、あの帰蝶様を懐かせ、そして会うと直ぐに自分を試す頼純の行動力に、底知れぬ恐怖を感じる十兵衛であった。
短期間での彼の行動だけでは、彼の器、真意が測れない十兵衛であった。
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