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第6章 土岐家の名君
5.人材収集の哲学
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十兵衛と帰蝶が大桑城へ入城して、既に3ヶ月が過ぎていた。
驚くべき事に、既に3ヶ月が過ぎようとしているにもかかわらず、頼純はほぼ毎日必ず帰蝶の部屋を訪れていた。
大桑城の城内では、そんな頼純に対し、心無い噂が広がっている。
心無い噂とは、大の大人である頼純が、毎日未だ幼子である帰蝶の部屋に訪れる理由は二つあり、一つは頼純が大人の女性に興味がなく、童女が好きだからだという噂である。
もう一つは、頼純が帰蝶の父道三を恐れるあまり、道三のご機嫌を損なわぬ様、律儀に未だ幼い正妻の部屋に足しげく通っているというモノである。
城内の噂は、もちろん十兵衛の耳にも入ってきていた。
実際、美濃の国を治めているのは道三であり、頼純は、道三の指示どおり、言われた処に承認の署名をするという事が彼の仕事であった。
周囲の者は、その実情から想像し、いや印象だけで頼純を心の中で蔑んでいたのである。
頼純が帰蝶の部屋に毎日来るので、当然十兵衛と頼純は毎日顔を会わせる。
十兵衛が見る実際の頼純と、噂で語られている頼純像は大きな差があった。
彼は傀儡【操り人形】を演じているが、自分の署名する書にはきちんと目を通し、道三の指示の意図を理解する努力をしていた。
又、頼純は時間が有れば大桑城の領地を回る。一芸に秀でている者がいると聞くと、その者に会いに行く。
聞くところによると、その一芸に秀でた者が数名の家来が登用され、頼純はその者達を手元に置いた。
鉄砲、弓、槍の名手、連歌の名手、城づくりの名人と呼ばれる者もいた。
一芸に秀でるその者達は、その道にだけ身を捧げているという者が多く、人に媚びず不愛想な者が多く、言葉は悪いが変人の集まりである言う者達も多かった。
そんな彼らを、頼純は可愛がるので、頼純も変わっている主君と見られていた。
ある日、十兵衛は頼純の口から直接、彼らとの交流の感想を帰蝶に伝えている事を聞いた事があった。
『とかく、人間というのは欲張りなモノで、総ての事を卒無く熟す者を有能と思ってしまう』
『十兵衛には、悪いが、正に十兵衛の様な者じゃ』
『しかし、そんな者ばかりだと、平時は良いが難局になった時、逆に困るとワシは思う』
『難局を打破する時には、その道を究めた様な者達が必要だとワシは思うのじゃ』
『例えば、援軍が欲しい、その援軍を呼ぶ為には、足がまあまあ速いでは駄目なのじゃ、誰もが勝てない韋駄天の様な男、そういう男が必要なのじゃ』
『難局を迎えた時、その時頼りになる男を、そういう手駒をワシは多く集めたいのじゃ』
『卒なく熟す者は、難局に弱いというのがワシの持論じゃ!』
『頼純様、十兵衛兄様が、ここ一番で頼りにならないと言うのは酷いですわ!』
『そうは、言っておらん、・・・スマヌ、言葉のあやじゃ、十兵衛も、気を悪くするなよ』
頼純と帰蝶がそんな会話をしながら、二人で自分の表情を伺うので、十兵衛は苦笑いをしながら、気にはしていない事を伝えたのである。
(一理ある・・この若君の言っている事は、私にも学ぶべき事である)
土岐頼純という男を知れば、知るほど、十兵衛は頼純の人柄、能力、考え方に惹かれている自分を感じ始めていた。
しかし、そんな3人の平穏な日々はそれから間もなくして終わったのであった。
ある日を境に、頼純が帰蝶の部屋を訪れなくなったのである。
頼純が越前の朝倉家、尾張の織田家の者達と頻繁に会っているという噂が、十兵衛の耳に入って来たのはそれから間もなくだった。
(やはり、頼純様は、道三様と合戦を・・)と十兵衛は今後の展開を予想すると心が暗くなった。
『十兵衛兄様、頼純様は今日も会いに来てくれないのかしら・・・』
十兵衛に問いかける帰蝶の表情も、何か不穏なモノを感じている様であった。
驚くべき事に、既に3ヶ月が過ぎようとしているにもかかわらず、頼純はほぼ毎日必ず帰蝶の部屋を訪れていた。
大桑城の城内では、そんな頼純に対し、心無い噂が広がっている。
心無い噂とは、大の大人である頼純が、毎日未だ幼子である帰蝶の部屋に訪れる理由は二つあり、一つは頼純が大人の女性に興味がなく、童女が好きだからだという噂である。
もう一つは、頼純が帰蝶の父道三を恐れるあまり、道三のご機嫌を損なわぬ様、律儀に未だ幼い正妻の部屋に足しげく通っているというモノである。
城内の噂は、もちろん十兵衛の耳にも入ってきていた。
実際、美濃の国を治めているのは道三であり、頼純は、道三の指示どおり、言われた処に承認の署名をするという事が彼の仕事であった。
周囲の者は、その実情から想像し、いや印象だけで頼純を心の中で蔑んでいたのである。
頼純が帰蝶の部屋に毎日来るので、当然十兵衛と頼純は毎日顔を会わせる。
十兵衛が見る実際の頼純と、噂で語られている頼純像は大きな差があった。
彼は傀儡【操り人形】を演じているが、自分の署名する書にはきちんと目を通し、道三の指示の意図を理解する努力をしていた。
又、頼純は時間が有れば大桑城の領地を回る。一芸に秀でている者がいると聞くと、その者に会いに行く。
聞くところによると、その一芸に秀でた者が数名の家来が登用され、頼純はその者達を手元に置いた。
鉄砲、弓、槍の名手、連歌の名手、城づくりの名人と呼ばれる者もいた。
一芸に秀でるその者達は、その道にだけ身を捧げているという者が多く、人に媚びず不愛想な者が多く、言葉は悪いが変人の集まりである言う者達も多かった。
そんな彼らを、頼純は可愛がるので、頼純も変わっている主君と見られていた。
ある日、十兵衛は頼純の口から直接、彼らとの交流の感想を帰蝶に伝えている事を聞いた事があった。
『とかく、人間というのは欲張りなモノで、総ての事を卒無く熟す者を有能と思ってしまう』
『十兵衛には、悪いが、正に十兵衛の様な者じゃ』
『しかし、そんな者ばかりだと、平時は良いが難局になった時、逆に困るとワシは思う』
『難局を打破する時には、その道を究めた様な者達が必要だとワシは思うのじゃ』
『例えば、援軍が欲しい、その援軍を呼ぶ為には、足がまあまあ速いでは駄目なのじゃ、誰もが勝てない韋駄天の様な男、そういう男が必要なのじゃ』
『難局を迎えた時、その時頼りになる男を、そういう手駒をワシは多く集めたいのじゃ』
『卒なく熟す者は、難局に弱いというのがワシの持論じゃ!』
『頼純様、十兵衛兄様が、ここ一番で頼りにならないと言うのは酷いですわ!』
『そうは、言っておらん、・・・スマヌ、言葉のあやじゃ、十兵衛も、気を悪くするなよ』
頼純と帰蝶がそんな会話をしながら、二人で自分の表情を伺うので、十兵衛は苦笑いをしながら、気にはしていない事を伝えたのである。
(一理ある・・この若君の言っている事は、私にも学ぶべき事である)
土岐頼純という男を知れば、知るほど、十兵衛は頼純の人柄、能力、考え方に惹かれている自分を感じ始めていた。
しかし、そんな3人の平穏な日々はそれから間もなくして終わったのであった。
ある日を境に、頼純が帰蝶の部屋を訪れなくなったのである。
頼純が越前の朝倉家、尾張の織田家の者達と頻繁に会っているという噂が、十兵衛の耳に入って来たのはそれから間もなくだった。
(やはり、頼純様は、道三様と合戦を・・)と十兵衛は今後の展開を予想すると心が暗くなった。
『十兵衛兄様、頼純様は今日も会いに来てくれないのかしら・・・』
十兵衛に問いかける帰蝶の表情も、何か不穏なモノを感じている様であった。
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