王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】

野松 彦秋

文字の大きさ
83 / 168
第6章 土岐家の名君

6.連歌の会への招待

しおりを挟む
頼純は、再び帰蝶の部屋を訪れたのは年が変わった正月であった。

1547年、雪の少ない年で例年よりは寒さもきつくなかった。

久しぶりに帰蝶の部屋に訪れた頼純は、心なしか元気が無かった。

『頼純様、私は毎日、お待ちしていたのですよ、さっぱり来て頂けなくなって、帰蝶は寂しいございました!』

帰蝶は、そういうと、頼純へ飛びついた。

『スマン、スマン、仕事が忙しく、又体調が芳しくなくてな・・ワシも帰蝶殿に会えなくて寂しかったぞ・・仕事が、落ち着いたので、また来れる様になったのじゃ』

帰蝶を抱き上げた頼純は、一人では無かった。

御付きの家来が付いて来ていたのである。

頼純に付いて来た家来の男は、部屋に入ってくるなり、十兵衛に軽く会釈をしただけで何もしゃべらず、当然の様に部屋の隅に座り目を瞑る。

『十兵衛、スマヌ、その者は朝倉家に居る時からワシの世話をしてくれている者じゃ』

『不愛想な男じゃが、悪い男では無い、ワシの護衛みたいな者じゃ・・』

『護衛とは、・・・頼純様私と十兵衛兄様が頼純様に危害を与えるとでも?』

頼純に抱き上げられている帰蝶は、幼い素直な意見を口にした。

『そちらの事を怪しんでいるのではない。スマヌ、ワシの言葉が悪かった』

『越前朝倉家の当主、義景様の指示じゃ、守護職に戻ったばかりのワシの身を案じての事、二人とも気を悪くせんでくれ・・』

そう言いながら、抱き上げた帰蝶を自分のウデから下ろす頼純であった。

『私が近くに居れば、頼純様を守ってあげれるから、護衛なんか必要ないわ』

帰蝶は、顔を膨らませながら座っている男へ不満をぶつける様に、そう呟いたのである。

(護衛・・・、頼純様を監視する意思もあるのだろう)

(越前の朝倉義景様という御方も、道三様の意図を見抜いておられる・・という事か)

十兵衛は、座っている男を横目に、隣国の朝倉家の当主の思惑を想像していたのであった。

『そうじゃ、十兵衛、3月に京の都から幕府の使者の方がワシの守護就任の祝いを持って、この城に参る事になった』

『お主、連歌は歌えるか?』

『ワシは、その方が来たら茶会か、もしくは連歌の会でもして、その方を接待したいと思っておる』

『幕府の方と、お会いできる機会など、そうそうある事ではない、お主も我が一族の一門の者として参加するが良いぞ!』

『その時、歌の一句、2句は歌えねば恥をかくぞ、十兵衛、後2ヶ月の猶予がある、歌の勉強をしとけよ』

頼純は、そう言うと十兵衛の背中を軽く叩いたのであった。

『私の様な身分の者が、恐れおおい・・お誘いでございます』

十兵衛は、そう言い、頼純の誘いを丁重に断ろうとしたが、それを頼純は許さなかった。

『十兵衛、これは美濃守護であるワシ、土岐頼純の命令じゃ』

頼純は、威厳のある声でそう言うと、もう議論するつもりはないと言う姿勢を示す様に、帰蝶への方へ向き直ってしまった。

『・・・ハッ!』

(これは、思いがけない事に巻き込まれてしまった・・)と十兵衛は思いながらも、その場で座り込み、背中を向けた頼純へ頭を下げ平伏したのであった。

『頼純様、連歌の会って何、私は出てもいいの?』

幼い帰蝶が、頼純へ無邪気に聞いているのが、下げた頭の上から聞こえてくる。

『帰蝶殿には、先ずこの頼純が連歌を教えて進ぜよう、帰蝶様の連歌の実力がついたと私が判断したら、
参加しても良いが、簡単な様でそんなに簡単ではないぞ』

『連歌、百人一首で、読んでるような句を作ればいいのですか?』

『そうじゃ、そうじゃ、帰蝶殿、百人一首じゃ、あのような句を自分で作れるようになれれば、連歌の会には出れるぞ』

『帰蝶殿は、ワシの正妻になのだから、良い歌を、良い句を作れる女性になって欲しいモノじゃ』

『私頑張る!、頼純様の立派な妻になれる様に!!』

『十兵衛、帰蝶様の気構えを聞いたか?ワシは美濃一の幸せ者じゃな。お主も、帰蝶様に負けない様に頑張るのじゃぞ!!』

『ハッ!この十兵衛、お誘いを受けました連歌の会にて、頼純様、いや土岐の一門の名を落とさない様に努力致します』

『頼むぞ!十兵衛、明智家の名を、土岐の名を汚すでないぞ』

十兵衛は、頼純の言葉に、親戚の年長者から声をかけられた様な温かみを感じたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

処理中です...