王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】

野松 彦秋

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第6章 土岐家の名君

23.遭遇

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帰蝶は、輿に乗せられてからどれくらいの時が経ったのかを考えていた。

(既に半刻(1時間)は、経ったかしら、越前に向かうと言っていたけど、どれくらいで着くのかしら・・このままでは十兵衛兄様がモタナイ・・)

(父上の居る、稲葉山城に向かっていたら、それほど時間はかからないと思うのだけど・・私がそんな事を言うと、頼純様へ迷惑をかける事になるかもしれないし・・・今の状況では)

帰蝶がそんな事を考えていた時である、遠くから音が聞こえて来た。
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最初は、何の音か分からなかったが、暫くすると帰蝶にもその音が何であるかが分かった。

その音は、馬の蹄が、地面を蹴る、馬の足音であった。

その音が、どんどん近づいてくる。

ドドドドッと地響きを伴う駆け足である。1頭、2頭では無い。

帰蝶は、耳に全神経を傾ける様に耳を立てた。

『山崎殿、これは無理だ。逃げられぬ!!』

輿の後ろから、六郎の大きい声が聞こえる。

『皆の者、仕方が無い、立ち止まるのじゃ!!』

六郎に山崎と呼ばれていた男の声が響くと、帰蝶の乗っている輿も、前進を止めた。

(私達、捕まってしまうの、捕まったらどうなるの・・・頼純様に、もう会えないかも)

緊張と共に、帰蝶の心に不安が生じる。

輿の中に居て、外をみなくても、帰蝶にも囲まれている気配が伝わって来た。

自分達に駆け寄る、足音、その大きさは、数頭、数十頭では無い、数百である。大軍が自分達一行を囲んでいる様に感じられた。

『その方たち、何者じゃ。我らを朝倉家の者と知っての行動か??』

『ワシは、朝倉家家臣、山崎吉家である!』

一行を先導していた山崎吉家が、大声で相手を威嚇する様に叫ぶ。

その声が響くと、輿の後ろから刀を抜く音が聞こえて来た。

どうやら、輿の後ろから着いて来た、六郎と数十名の家来達が刀を抜いたらしい

『我らに危害を与えるという事は、朝倉家に弓を引く行為、その覚悟はあるのか?』

続けて、叫ぶ山崎吉家の声、ただならぬ緊張感が、聞いている帰蝶にも伝わってくる。

言葉では言い表す事ができない緊張感のある沈黙が、その場を支配した。

暫くすると、落ち着いた一人の男が、山崎吉家の言葉に答えた。

『フォッフォフォッ・・・・我らに朝倉家と戦う意思はござらんよ』

『皆様には、一つお願いがあってのぅ、少しお話する時間を頂きたい』

声の主は、決して若くない、少しかすれたような声が印象的だった。

『ワシは、織田信秀様が家来、平手政秀と申す』

『織田の手の者が、何故此処に居る。・・我らに用とは、何じゃ』

『簡単なお願いでございます。貴殿達が、越前の国に着きましたら、主の方達に、今回の土岐頼芸の行いは、我ら織田家は関与していない事をお伝え頂きたい!』

『・・・・今日、起こっている頼芸殿の蛮行に、頼芸殿を庇護している織田家が関与していない訳があるまい』

『そんな戯言を、誰が信じましょうか?ワシの口から、そう伝えても、ワシの主たちは一笑に伏す事でしょう・・』

『仰ること、ごもっとも、その証拠の品として、お見せしたい者がござりまする』

平手と名乗る者が、そう言うと、一人の者が、山崎吉家に歩みより、その者が手にした書状を吉家に渡す。

書状は、2通あり、一通は道三から織田信秀に送った和議を望む手紙と、信秀がその書状に対する返書の写しであった。

山崎吉家は、馬上から降り、一人の者が用意した蝋燭の火の前で、その書状に目を通す。

『平手殿と言ったか?・・・この書状、偽りではないのか?ワシは、この書状信用できんぞ!』

吉家は、馬に乗った平手に向けて、大きな声で確認する。

『・・・フォッフォフォッ当然の物言いでござるな・・。』

『今から、その書状が本当である事を証明しますので、其処でご覧下され』

平手政秀と名乗った男は、落ち着いた声でそう言うと、後ろにいる若武者に指示を出す。

権六ごんろくよ、捕らえたあの者達を此処に連れて来い』

『ハッ』と権六と呼ばれた大男は、決まっていたかのように、片手を後ろの部下に向けて振る。

暫くすると、縄に縛られた数十名の者達が、織田の兵達に引きつられてやってくる。

『この者達は、大桑おおが城から貴殿達を追ってきた者達でござる』

『フォッフォフォッ、・・・それでは』

平手と呼ばれた男が、片手を上げ、その腕を振り落とすと、縄で捕らえられた者達が次々と後ろから刀で心臓を一突きにされ、一人、又一人と殺されていく。

籠の中にいる帰蝶にも、倒れていく者達が地面にぶつかる音が聞こえてきた。

総ての者の命を断った後、平手という男は、落ち着いた声で山崎吉家に確認する。

『フォッフォフォッ、これで信じて頂けますかな?』

『信じて頂けなければ、ワシもやりたくない事をしなければならぬのだが・・・』

平手政秀は、そう言うと、殺気を込めた目で山崎吉家の顔を睨みつける。

『・・・分かった。この書状、お主の言う事を信じよう』

山崎吉家は、平手政秀の言っているい事の意味を理解し、諦めたかのようにそう叫んだ。

『フォッフォフォッ、物分かりの良い方で、良かった。』

『それでは、美濃と越前の国境沿いまで、貴殿達一行をワシの部下に送らせましょう』

『斎藤家ともそうじゃが、我が殿は、朝倉家とも末永く仲良くしたいと思っておりまするゆえ、その旨もお伝え頂ければ・・』

平手政秀がそう言い終える前に、突然一つの輿から、何かが飛び降りて来た。

帰蝶である。

『平手殿と申される方、私は斎藤道三の娘、帰蝶と申します!』

『今回の土岐頼芸の暴挙、織田家が加担していないという事は、朝倉家、当然我が斎藤家にも弁明が必要ですよね、もし、私と十兵衛兄様を稲葉山城へ送って下されば、私が弁明に協力致します』

『どうか、十兵衛兄様と私を稲葉山城へ!!』

帰蝶は、従兄の十兵衛を救う為に勇気を振り絞り、逃げずに表舞台へと飛び降りたのであった。
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