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第7章 遅れてやっときた二人の新婚生活
4.黒衣の僧侶と女戦国大名(二人の関係)
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1547年11月某日、駿河の国守護大名今川義元の館の一室にて二人が密談をしている。
一人は黒衣を纏う僧侶、そしてもう一人は高貴な着物を着ている、僧と同じ年ぐらいの尼であった。
尼が上座に座り、僧が下座に座り頭を下げている。
尼は、小柄ではあるが聡明な目をしており、顔立ちには品が漂っていた。
尼の名は、寿桂尼と言った。後の世の人々に女戦国大名と呼ばれる女性である。
彼女は今川家9代目当主今川氏親の妻であり、10代目当主氏輝、現当主の義元の母であった。
『承菊殿・いや、雪斎殿!』
尼はまるで古くからの友人に話しかける様に僧侶の昔の名で呼んでしまい、慌てて言葉を修正した。
そして、その気恥ずさを誤魔化すように気合を込めて僧に自分の質問を投げかけた。
『ソモハン!、妾の不肖(未熟の意)の息子はどうじゃ?』
『セッパ!、不肖なれど、腐っても鯛ですかな・・流石は寿桂尼様の産んだ御子、何よりなのが自分が独りでは立ちいかないという事を知っておられまする。』
『雪斎殿・・・それ、褒めているのですか?それとも貶しているの?どっちでしょうか?』
『褒めておりまする・・、義元殿は、良い耳を持ち、判断ができまする、良策か、愚策かが分かるのです』
『ただ・・一つ心配なのが、私が亡き後でございまする』
『義元様が頼れる家来を、早く拙僧の立場を引き継げる後継者を育てなければと思っておりまする』
そう言って、黒衣の僧侶は顔をあげた。僧侶の顔は、鼻が高くその目元は涼しい、良い顔をしていた。
『・・・何を気弱な事を、そちは妾と共に100まで生き、義元を、いや今川家を支えるのじゃ』
『今迄も、そしてこれからもじゃ』
『今迄も今川家の当主がどうであれ、妾と其方がおったから、今川家はいつも安泰であった・・』
寿桂尼と呼ばれた尼は、まるで自分の夫を案じる様に、また励ます様にそう言った。
『桂様・・姫様なれば、それも可能にしてしまうかも、しかし、拙・・』
僧侶も自分が昔慣れ親しんだ、寿桂尼が若い時に呼ばれていた名前で呼び、自分の本音を溢しかけたが、その事が自分の想い人の彼女を傷つける事だと悟り、溢しかけた本音を飲み込んだ。
『寿桂尼様の言う通りじゃな、この太源雪斎、齢50は過ぎましたが、まだまだ若い者には負けませぬ!』
『まだまだ今川家の為、寿桂尼様の為に働き、もう一花も二花も咲かしてみせましょうぞ!』
僧侶はそう言って、戦友である寿桂尼を励ますように優しい笑顔を作り、お道化てみせた。
暫く、二人はお互いの心を落ち着かせる様に、二人が共有する思い出話(笑い話)をしながら、その流れで時事問題を話し合った。
二人の話し合いが終盤に差し掛かった頃、雪斎が自分の心にしまっていた計画を寿桂尼に打ち明けた。
『寿桂尼様、2ヶ月前、人質として我らの元に来る筈だった三河(現在の愛知県東部)の松平家の嫡男竹千代殿(後の徳川家康)が、戸田康光の裏切りにあい、尾張に連れ去られた事は聞いておられよ』
『・・・はい』
『これから我らは、三河の覇権を奪う為、尾張の織田家と戦わなければなりませぬ』
『息子を人質に取られた松平広忠が織田に寝返られない様に、一日も早く竹千代殿を取り戻す計画を立てなければなりませぬ』
『時間がありませぬ・・』
『我が家の忍びの者が持って来た情報によれば、尾張の織田信秀と美濃の斎藤道三の間で密かに同盟を結ぶ動きがあるとの事でした』
『もし、今かの二国が手を組むと、我々にとっても、と言うか三河の松平の心に大きく影響を及ぼしかねませぬ』
『これは、義元様にも未だ話をしていないのですが、噂の真意を確認するべく、拙僧自ら美濃へ行こうと思っておりまする』
『何時もの通り、拙僧の不在の間は、影武者をたてますが、我らの国と義元様の事は寿桂尼様に頼みまする』
僧侶が、そう言って深く頭を下げると、僧侶の言葉を否定する様に寿桂尼は顔を強く横にふる。
『妾の方こそ、何時も貴方様にだけ、苦労をかけてばかりで・・』
『スミマセヌ・・。承菊様、無事の御戻り、待っておりますぞ!』
『ハツ・・、それでは準備がありますので、今日はこれで』
僧侶は、そう言うと立ち上がる。
部屋を出ようとする時に、僧侶は独り言の様な小さな声で言葉を残した。
『桂様、暫く会えなくなりますが、又会う日までどうかお健やかに・・』
それを聞いて、寿桂尼もまた、小さい声で返す。
『承菊様も・・』
寿桂尼からは見えなかったが、彼女の言葉を聞いて、雪斎の顔がパッと明るくなった。
雪斎が部屋を出て廊下を歩いていく足音にも、どこか力強さを感じられた
二人は、乱世を共に協力して生き抜いてきた戦友同士であり、二人の間には夫婦を超える愛があった。
『妾は日の本一の性悪女じゃ、承菊様を酷使し、命を削らせといて、それを自覚しながら100迄共に生きろ等と・・』
『この恥知らずめ、どの口でそんな事が言えるのじゃ・・』
呟く寿桂尼の両目からは大粒の涙が零れ、目が真っ赤であった。
土岐頼純が無念の死を遂げてから未だ10日も過ぎていない日の事であった。
一人は黒衣を纏う僧侶、そしてもう一人は高貴な着物を着ている、僧と同じ年ぐらいの尼であった。
尼が上座に座り、僧が下座に座り頭を下げている。
尼は、小柄ではあるが聡明な目をしており、顔立ちには品が漂っていた。
尼の名は、寿桂尼と言った。後の世の人々に女戦国大名と呼ばれる女性である。
彼女は今川家9代目当主今川氏親の妻であり、10代目当主氏輝、現当主の義元の母であった。
『承菊殿・いや、雪斎殿!』
尼はまるで古くからの友人に話しかける様に僧侶の昔の名で呼んでしまい、慌てて言葉を修正した。
そして、その気恥ずさを誤魔化すように気合を込めて僧に自分の質問を投げかけた。
『ソモハン!、妾の不肖(未熟の意)の息子はどうじゃ?』
『セッパ!、不肖なれど、腐っても鯛ですかな・・流石は寿桂尼様の産んだ御子、何よりなのが自分が独りでは立ちいかないという事を知っておられまする。』
『雪斎殿・・・それ、褒めているのですか?それとも貶しているの?どっちでしょうか?』
『褒めておりまする・・、義元殿は、良い耳を持ち、判断ができまする、良策か、愚策かが分かるのです』
『ただ・・一つ心配なのが、私が亡き後でございまする』
『義元様が頼れる家来を、早く拙僧の立場を引き継げる後継者を育てなければと思っておりまする』
そう言って、黒衣の僧侶は顔をあげた。僧侶の顔は、鼻が高くその目元は涼しい、良い顔をしていた。
『・・・何を気弱な事を、そちは妾と共に100まで生き、義元を、いや今川家を支えるのじゃ』
『今迄も、そしてこれからもじゃ』
『今迄も今川家の当主がどうであれ、妾と其方がおったから、今川家はいつも安泰であった・・』
寿桂尼と呼ばれた尼は、まるで自分の夫を案じる様に、また励ます様にそう言った。
『桂様・・姫様なれば、それも可能にしてしまうかも、しかし、拙・・』
僧侶も自分が昔慣れ親しんだ、寿桂尼が若い時に呼ばれていた名前で呼び、自分の本音を溢しかけたが、その事が自分の想い人の彼女を傷つける事だと悟り、溢しかけた本音を飲み込んだ。
『寿桂尼様の言う通りじゃな、この太源雪斎、齢50は過ぎましたが、まだまだ若い者には負けませぬ!』
『まだまだ今川家の為、寿桂尼様の為に働き、もう一花も二花も咲かしてみせましょうぞ!』
僧侶はそう言って、戦友である寿桂尼を励ますように優しい笑顔を作り、お道化てみせた。
暫く、二人はお互いの心を落ち着かせる様に、二人が共有する思い出話(笑い話)をしながら、その流れで時事問題を話し合った。
二人の話し合いが終盤に差し掛かった頃、雪斎が自分の心にしまっていた計画を寿桂尼に打ち明けた。
『寿桂尼様、2ヶ月前、人質として我らの元に来る筈だった三河(現在の愛知県東部)の松平家の嫡男竹千代殿(後の徳川家康)が、戸田康光の裏切りにあい、尾張に連れ去られた事は聞いておられよ』
『・・・はい』
『これから我らは、三河の覇権を奪う為、尾張の織田家と戦わなければなりませぬ』
『息子を人質に取られた松平広忠が織田に寝返られない様に、一日も早く竹千代殿を取り戻す計画を立てなければなりませぬ』
『時間がありませぬ・・』
『我が家の忍びの者が持って来た情報によれば、尾張の織田信秀と美濃の斎藤道三の間で密かに同盟を結ぶ動きがあるとの事でした』
『もし、今かの二国が手を組むと、我々にとっても、と言うか三河の松平の心に大きく影響を及ぼしかねませぬ』
『これは、義元様にも未だ話をしていないのですが、噂の真意を確認するべく、拙僧自ら美濃へ行こうと思っておりまする』
『何時もの通り、拙僧の不在の間は、影武者をたてますが、我らの国と義元様の事は寿桂尼様に頼みまする』
僧侶が、そう言って深く頭を下げると、僧侶の言葉を否定する様に寿桂尼は顔を強く横にふる。
『妾の方こそ、何時も貴方様にだけ、苦労をかけてばかりで・・』
『スミマセヌ・・。承菊様、無事の御戻り、待っておりますぞ!』
『ハツ・・、それでは準備がありますので、今日はこれで』
僧侶は、そう言うと立ち上がる。
部屋を出ようとする時に、僧侶は独り言の様な小さな声で言葉を残した。
『桂様、暫く会えなくなりますが、又会う日までどうかお健やかに・・』
それを聞いて、寿桂尼もまた、小さい声で返す。
『承菊様も・・』
寿桂尼からは見えなかったが、彼女の言葉を聞いて、雪斎の顔がパッと明るくなった。
雪斎が部屋を出て廊下を歩いていく足音にも、どこか力強さを感じられた
二人は、乱世を共に協力して生き抜いてきた戦友同士であり、二人の間には夫婦を超える愛があった。
『妾は日の本一の性悪女じゃ、承菊様を酷使し、命を削らせといて、それを自覚しながら100迄共に生きろ等と・・』
『この恥知らずめ、どの口でそんな事が言えるのじゃ・・』
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