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第7章 遅れてやっときた二人の新婚生活
7.派手な服を着た坊主
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料理屋での昼食を終えた十兵衛と煕子は、料理屋の近くに宿屋を見つけ、部屋をとった。
その後、最低限の荷物を持ち二人の目的地である養老山へ向かった。
養老山へ入り、養老の滝へ行く途中、二人は道端に座る坊主頭の男を見つける。
僧侶ではなく、坊主頭の男と二人が認識したのは、その男の着ている服装であった。
その服装とは僧侶の着る衣服とは思えない程、派手な黄色の着物を着ていたからであった。
『御仁、どうかされましたか?』
十兵衛は、見ないふりをして通り過ぎる訳も行かず、その男に話しかけた。
男をよく見ると、初老の男で目が細く、目とは不釣り合いの太い眉をしていた。
『あんさんの目は節穴か?疲れ果てて、行倒れておるのや』
『あぁ、もうダメや、ワシも年貢のおさめどきや。あぁ、最期に水を一杯飲みたかった』
小柄な男は、そう言うとワザとらしく、目を閉じ、弱弱しい声でお経を唱えだす始末。
十兵衛は、暫くの間、考えがまとまらず、暫く男の様子を見ていたが、男を不憫に思い堪らず声をかける。
『水なら、この瓢箪の中にあるのを飲みなされ・・』
十兵衛は、自分の持っていた水を男に差し伸べる。
十兵衛の声を聞いた男は、突然閉じていた細い目をカッと見開き、十兵衛の差し出した瓢箪の蓋をすばやく開け、中の水を勢いよく一気飲みである。
その素早さに、十兵衛は呆気にとられてしまった。
ゴクッゴクッという男の喉の音が、少し離れた煕子にもしっかりと聞こえてくる程であった。
喉の渇きを潤した坊主の男は、満面の笑顔で十兵衛に礼をいい、空になった瓢箪を十兵衛に返す。
『あんさん、なかなか見所がある。徳が服を着ているような人やぁ、おおきに』
『・・・いえ、御仁の助けができて、良かったです。それではこれで』
十兵衛は、何処か芝居のかかった男が信用できず、その場を直ぐに立ち去ろうとした。
『あんさん、何をいけず言いなさる。拙僧は、もう一歩も歩けないんや』
『拙僧??御仁、和尚様でしたか?』
『この坊主頭をみて、他に何があるんや?拙僧の顔、よく見てくれなはれ。徳に満ちた顔やろ!』
男は、そう言いながら、細い目で十兵衛を見つめ、自分のツルツルした頭を撫でて見せる。
(怪しい男だ、言葉遣いも・・怪しい、そもそも仏に仕える者が、自分で自分の顔を徳に満ちた顔とは・・)
十兵衛は、男の様子を見つめ、疑いの視線を男に向ける。
『宗派は?』
男を試す様に十兵衛は質問する。
『臨済宗や!』
『何処で修業されましたか?』
『京都五山の建仁寺や』
男は、堂々とそう答え、ニヤリと笑いこれ見よがしに両肘の間の距離を縮め、合掌する。
『ウソではないようですな・・それでは旅の無事を祈っておりまする』
(問答は完璧、だが・・しかし・・笑みが邪悪だ・・多分ロクなものではない)
『煕子、さあ、日が落ちる前に滝へ・・』
十兵衛は、男とのやり取りが無かった様に、煕子にそう言い立ち去ろうとした。
煕子の居る方向に振り返り、男に背を向ける。しかし、坊主の男は十兵衛を逃がさない。
『ウゥッ』と呻き、『持病の脚気があぁ』とワザとらしく溢し、胸を押さえその場で倒れた。
そして、十兵衛に聞こえる声で、殺し文句をつぶやく。
『あんさん!、坊さんを、いたいけな老人を粗末にするとバチあたるでぇい』
二人のやり取りを聞いていた煕子が、自分の顔を見るのを見て、頭に手を添え、十兵衛は覚悟を決める。
十兵衛は、小柄な男を背負う。
脚気だと胸を押さえていた筈の男は、ニコニコしながら、背負ってくれた十兵衛に礼を言う。
『あんさん、なかなか見所がある。徳が服を着ているような人やぁ、おおきに』
『御仁、何処までいけばよろしいのですか?』
男は、十兵衛の質問には直ぐに答えず、煕子に話しかける。
『嬢ちゃん、可愛いなあ・・お名前は?』
煕子が名乗ると、満面の笑顔である。
『煕子はん、ワシは、斎雪と申します、コレからよろしゅう、仲良くしてな』
男の名前を知り、十兵衛はもう一度大きな声で同じ質問する。
『斎雪殿!、何処までお連れすれば宜しいか?』
『あぁ、もうウルサイなぁ、わて今、煕子ハンと話しておりますのや・・』
十兵衛の背で、斎雪はシツコイ十兵衛の質問にウンザリする様に答える。
『行き先は、先ずは養老の滝でよろし、頼んます』
(先ずは?・・・わて?・・・煕子・・はん?・・・何だこの御仁は・・この図太さは)
旅は道ずれ、世は情けと言うが、斎雪の強引さに不安を覚える十兵衛であった。
十兵衛の隣では、夫の気持ちも知らず、煕子はニコニコしながら斎雪と会話をしていた。
この様にして3人は出会ったのであった。
その後、最低限の荷物を持ち二人の目的地である養老山へ向かった。
養老山へ入り、養老の滝へ行く途中、二人は道端に座る坊主頭の男を見つける。
僧侶ではなく、坊主頭の男と二人が認識したのは、その男の着ている服装であった。
その服装とは僧侶の着る衣服とは思えない程、派手な黄色の着物を着ていたからであった。
『御仁、どうかされましたか?』
十兵衛は、見ないふりをして通り過ぎる訳も行かず、その男に話しかけた。
男をよく見ると、初老の男で目が細く、目とは不釣り合いの太い眉をしていた。
『あんさんの目は節穴か?疲れ果てて、行倒れておるのや』
『あぁ、もうダメや、ワシも年貢のおさめどきや。あぁ、最期に水を一杯飲みたかった』
小柄な男は、そう言うとワザとらしく、目を閉じ、弱弱しい声でお経を唱えだす始末。
十兵衛は、暫くの間、考えがまとまらず、暫く男の様子を見ていたが、男を不憫に思い堪らず声をかける。
『水なら、この瓢箪の中にあるのを飲みなされ・・』
十兵衛は、自分の持っていた水を男に差し伸べる。
十兵衛の声を聞いた男は、突然閉じていた細い目をカッと見開き、十兵衛の差し出した瓢箪の蓋をすばやく開け、中の水を勢いよく一気飲みである。
その素早さに、十兵衛は呆気にとられてしまった。
ゴクッゴクッという男の喉の音が、少し離れた煕子にもしっかりと聞こえてくる程であった。
喉の渇きを潤した坊主の男は、満面の笑顔で十兵衛に礼をいい、空になった瓢箪を十兵衛に返す。
『あんさん、なかなか見所がある。徳が服を着ているような人やぁ、おおきに』
『・・・いえ、御仁の助けができて、良かったです。それではこれで』
十兵衛は、何処か芝居のかかった男が信用できず、その場を直ぐに立ち去ろうとした。
『あんさん、何をいけず言いなさる。拙僧は、もう一歩も歩けないんや』
『拙僧??御仁、和尚様でしたか?』
『この坊主頭をみて、他に何があるんや?拙僧の顔、よく見てくれなはれ。徳に満ちた顔やろ!』
男は、そう言いながら、細い目で十兵衛を見つめ、自分のツルツルした頭を撫でて見せる。
(怪しい男だ、言葉遣いも・・怪しい、そもそも仏に仕える者が、自分で自分の顔を徳に満ちた顔とは・・)
十兵衛は、男の様子を見つめ、疑いの視線を男に向ける。
『宗派は?』
男を試す様に十兵衛は質問する。
『臨済宗や!』
『何処で修業されましたか?』
『京都五山の建仁寺や』
男は、堂々とそう答え、ニヤリと笑いこれ見よがしに両肘の間の距離を縮め、合掌する。
『ウソではないようですな・・それでは旅の無事を祈っておりまする』
(問答は完璧、だが・・しかし・・笑みが邪悪だ・・多分ロクなものではない)
『煕子、さあ、日が落ちる前に滝へ・・』
十兵衛は、男とのやり取りが無かった様に、煕子にそう言い立ち去ろうとした。
煕子の居る方向に振り返り、男に背を向ける。しかし、坊主の男は十兵衛を逃がさない。
『ウゥッ』と呻き、『持病の脚気があぁ』とワザとらしく溢し、胸を押さえその場で倒れた。
そして、十兵衛に聞こえる声で、殺し文句をつぶやく。
『あんさん!、坊さんを、いたいけな老人を粗末にするとバチあたるでぇい』
二人のやり取りを聞いていた煕子が、自分の顔を見るのを見て、頭に手を添え、十兵衛は覚悟を決める。
十兵衛は、小柄な男を背負う。
脚気だと胸を押さえていた筈の男は、ニコニコしながら、背負ってくれた十兵衛に礼を言う。
『あんさん、なかなか見所がある。徳が服を着ているような人やぁ、おおきに』
『御仁、何処までいけばよろしいのですか?』
男は、十兵衛の質問には直ぐに答えず、煕子に話しかける。
『嬢ちゃん、可愛いなあ・・お名前は?』
煕子が名乗ると、満面の笑顔である。
『煕子はん、ワシは、斎雪と申します、コレからよろしゅう、仲良くしてな』
男の名前を知り、十兵衛はもう一度大きな声で同じ質問する。
『斎雪殿!、何処までお連れすれば宜しいか?』
『あぁ、もうウルサイなぁ、わて今、煕子ハンと話しておりますのや・・』
十兵衛の背で、斎雪はシツコイ十兵衛の質問にウンザリする様に答える。
『行き先は、先ずは養老の滝でよろし、頼んます』
(先ずは?・・・わて?・・・煕子・・はん?・・・何だこの御仁は・・この図太さは)
旅は道ずれ、世は情けと言うが、斎雪の強引さに不安を覚える十兵衛であった。
十兵衛の隣では、夫の気持ちも知らず、煕子はニコニコしながら斎雪と会話をしていた。
この様にして3人は出会ったのであった。
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