加藤虎之助(後の清正、15歳)、姉さん女房をもらいました!

野松 彦秋

文字の大きさ
18 / 34
第3章 十文字槍対策

1.最終兵器(宝蔵院から来た男達)

しおりを挟む
秀長が連れてきた御仁の名は奈良にある宝蔵院ほうぞういんの院主胤栄いんえいという僧であった。

宝蔵院とは、寺社にある宝物、仏典、仏像や事務処理上の文書を保管する倉庫を意味し、それを管理する寺の僧が彼であった。

胤栄は、その時55歳であったが、筋肉がついたその体格は若々しく40代前半にも見える容貌であった。

『お久しぶりでございます。胤栄いんえい様、その節は大変お世話になり申した。』とヒゲ殿が親しげに挨拶をする。

『まさか、お主からお呼びがかかるとは、思わなんだ、息災か?』

『お蔭様で、胤栄様もいつみても若々しいですなあ。御年おんとし55歳には見えぬ見えぬ。』

 二人が挨拶をしていると、胤栄の後ろにいる若者が胤栄に話しかける。

『御師匠、この方が、私の織田家への仕官を手配して下さる村井様でございますか?

『ウム』と胤栄が言葉少なに答えると、若者はヒゲ殿に名を名乗った。

『私、可児才蔵かにさいぞうと申します。お初にお目にかかります。何卒お引き立て宜しくお願い致します。』

『其方が、胤栄殿の愛弟子才蔵殿か、腕前の御噂は胤栄殿から聞いておるぞ、ワシが村井長頼でござる。』

胤栄と名乗る僧、才蔵という若者が、ヒゲ殿と話す様子をみて虎之助達は、一体彼らが何者なのか、又目的も分からずポカ~ンとしていた。

秀長が、虎之助達の事を察してか、3人に彼らの紹介を始めた。

『この御仁は、奈良の宝蔵院の住職、胤栄様じゃ、十文字槍の奥義を極めたお人である、そして隣におられるのは、弟子の才蔵殿。』

『ヒゲ殿が、お前の為に呼んだ、森長可殿対策の最終兵器である。』

『これから、残り3ヶ月弱、お前に十文字槍との戦いを教えてくれるお人達である。』

秀長の紹介を聞き、驚いた虎之助は、ヒゲ殿の顔を見ると、ヒゲ殿は、自慢の顎髭あごひげに手をやりながら、誇らしげな顔【現代でいうドヤ顔】をしていた。

話は、秀長がヒゲ殿からもらった手紙の内容にさかのぼる。

手紙の内容は、胤栄の弟子である才蔵の仕官先を紹介する事。

紹介する条件として、一人の若武者に宝蔵院槍術を教えて欲しいという内容であった。

期間は3ヶ月、契約が終わったら、才蔵を織田家中の名のある武将へ仕官させるという内容であった。

ヒゲ殿と、胤栄の出会いは今から1年半前である。

織田軍と武田軍が戦った長篠の合戦で、前田利家は危うく死にかけた事がある。

逃げる武田軍を追撃していた利家は、弓削左衛門ゆげ さえもんと名乗る武将に右足を深く切り込まれる重傷を負う。

危うく命を取られそうになった所を、髭殿ひげどのが間一髪で駆け付け、利家の命を救ったのである。

救ったというのは事実だが、状況はかなり深刻であった。

なぜなら、この弓削左衛ゆげ さえもん門が十文字槍の名手であり、槍の又左と言われた利家でさえ圧倒できず、不覚にも反撃にあい、足に深手を負ってしまっていた。

駆け付けた長頼も、相手の攻撃をかわすのが手一杯であり、相手が逃げる事を優先し、逃げようとしたところに隙が生まれ、そこに無我夢中で突いた槍がたまたま相手の急所にささり、なんとか討ち取れたという状況であったのである。

合戦の終了後、責任を感じたヒゲ殿は主君利家に半年の武者修行をしたいと願い出た。

その武者修業先が、その時既に天下で有名であった十文字槍の聖地と言われた宝蔵院であった。半年という短い間であったが、長頼は胤栄の弟子として修業をした。

胤栄は、長頼の人柄が気に入り二人は修業の他に、色々と話す間柄になったのである。

その中で、胤栄が長頼に相談していたのが、愛弟子才蔵の仕官口を探しているという内容であったのである。

(長頼が修業している間は、才蔵は実の母が亡くなった時と重なり、ちょうど宝蔵院を留守にしている時であった。)

才蔵は、私生児であった。才蔵の母は、信長が滅ぼした越前の旧領主朝倉義景の近くで女中として働いていた。

ある事情で、朝倉家で居場所を失い、朝倉家から逃げて美濃の願興寺がんこうじに辿り着き、才蔵を生んだ。

願興寺は、地元の人から呼ばれている通称があり、可児寺かに でらと言われていた。

その為、才蔵は寺の通称名を自分の姓にしたのである。寺に残っている寺伝という記録書には、才蔵が朝倉義景の御落胤という記述が有るらしいという話だが真実かどうかは分からない。

才蔵が幼少期の頃、願興寺に胤栄が訪れ二人は出会い、胤栄は才蔵を弟子とし宝蔵院に招き、今に至る。

僧である胤栄にとって、才蔵という若者は仏が自分に与えた息子みたいな存在として考えていた。

あるべき道は、自分と同じ様に、争いの存在しない僧としての人生を歩ませたかったが、自分がのめりこんだ槍術を才蔵に教えた事が、才蔵の運命を変える事になってしまった。

才蔵は、仏より槍の天賦てんぶの才を与えられた者だったのである。

才蔵は、槍を極めて行くうちに槍一本で生きていく武士の世界に憧れるようになってしまったのである。

胤栄も、最初は才蔵に武士ではなく僧の道を選ぶ様に説得したが、説得していく中、それが自分のワガママでは無いかという思いと、才蔵の野心が、自分が若き日に持ち、捨てた夢と重なる事を悟った為、最終的に才蔵の選択を尊重する道を選んだのである。

そんな背景が有り、胤栄は相談していた長頼からの手紙に応え、才蔵を連れて虎之助達の元に訪れたのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

処理中です...