加藤虎之助(後の清正、15歳)、姉さん女房をもらいました!

野松 彦秋

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第4章 御前試合

3.御前試合の前日(食べ物の恨みは恐ろしい)

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秀吉から、御前試合が真槍で行う事を聞いた虎之助は、それが何を意味するのか冷静に考えていた。

(もしかしたら、死ぬかもしれない・・・)

死を意識し、最初に浮かんで来た顔が母イトであった。母を残して自分が死んだら、きっと母は嘆き苦しむだろうと気持ちが悲しくなった。

思い起こせば、ここ数年、自分は運に恵まれ過ぎていた、今この状況になって辻褄つじつまがあった思いもある。

刀鍛冶の家の子であった自分が、北近江の領主となった秀吉の小姓になれた幸運。

ろくな教育も受けていなかった自分を、実の母の様に、小姓になれるようにと教養を身につけさせてもらった幸運。

そして何より、シノ殿という花嫁さんをもらえた幸運。全部、御前試合の結末を知った仏様が自分を哀れだと思って、幸せの前倒しをしてくれたんだと、納得していた。

(あ~死にたくないなぁ)

(せっかく、半年死に物狂いで修業に明け暮れ、やっと強くなったのに、明後日死ぬのかぁ)

(死ぬことが分かっていたら、修業をせず、シノ殿と仲良く生活だけしてれば良かったなァ)

そんな事を考えていたら、夜は明け、一睡もできず、虎之助は朝を迎えてしまった。

朝になり、虎之助はいつも通りお腹が空いてきた。

いつもは、シノ殿が起こしてくれて、朝の鍛錬に出かける時間だと、部屋の窓を明け外をみながら虎之助は思った。

思えば、朝の鍛錬を終え、腹がすいた頃には、当然の様にシノが作ってくれた朝ごはんを食べていた。

シノの朝ごはんを思い出しながら、自分は幸せだった事を改めて感じる虎之助であった。

朝食の時間になり、宿屋の準備した朝ごはんを食べた虎之助は、宿屋の朝食が美味しくないと思ってしまった。

主菜もあるし、味噌汁もある。だしている料理は、シノが出してくれる朝食に遜色そんしょくは無い、ただ美味しくないのである。

午前中、明日に備えて、躰がなまらない様に槍の鍛錬をする。躰は何時もの様に良く動く。

昼になり、上手いモノでも食べに行こうと、外の店で昼食を食べたが、虎之助は美味しく感じなかった。
明日、死ぬと考えている自分の気持ちのせいかと思う程、美味しくなかったのである。

思うのは、シノが作ってくれていた握り飯や、うどんのことばかり、シノの味が恋しくなっていた。

夜になり、明日に備えて早く寝ろと皆に言われ、床に入ったが、腹が空き、暫く眠れなかった。

眠れない虎之助は、シノが作ってくれたイソベ餅の事を思い出し、その後、旅立つ前のシノの顔を思い出していた。

可愛かったな。やっと仲良くなれたのに、そんな事を考えていたら、自然と寝てしまった。

翌日の朝(御前試合当日)、『トラ殿、起きて下さい、朝ですよ。』という声で、目覚めたと思った虎之助は、目を開けて横をみてシノの顔が無い事に気づき、自分が夢をみていた事に気がついた。

既に、外は明るくなっていた。

御前試合の日の朝、食べた朝食も不味いと思ってしまった。

死ぬ前の食事がこんなまずいモノでいいのかと、虎之助の中に、だんだん苛立ちの心が芽生えてきた。

もう一度、シノ殿の作ったご飯を食べて死にたいものだ。

こんなまずい飯が最後のご飯だと、・・・ふざけるな。苛立ちは、いつの間にか怒りに変わっていった。

岐阜城へ登城する時の、虎之助の心の中には、悲壮感はなく、自分の人生を勝手に終わらせようとしている者への怒りと、シノの作ったイソベ餅を食べるという約束を諦めようとしていた自分に腹が立っていた。

(ここで負けてなるものか、俺は御前試合に勝って、約束通りシノ殿のイソベ餅をもう一度食べるんだ。)

(なに、弱気になっていたんだ、俺の馬鹿野郎~、クソ、絶対勝ってやる。)

食欲が虎之助を一匹の獰猛どうもうなトラへと変貌へんぼうさせたのである。

食い意地でも、意地が出てきた虎之助に運命の女神がちょっとなびき始めていた。

虎之助は、御前試合に向け宿屋を後にした。

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