21 / 25
#21 記憶のカケラ①
しおりを挟む
ルナがレイトの元を去ってから3日。
新しい土地での生活にも慣れてきた。生息している魔物は全然違うし、町で扱っている食品も違う。
様々な人種が生活しているので、結構文化の違いに驚かされたりしながらも楽しく暮らしていた。
未だに捜索の手はこちらに来ている様子は無い。魔王さんに聞いた所、ヴァルカンからここまで馬で2週間はかかるらしい。
それだけ猶予があるなら一週間はお金を稼ぎまくって、それから他の国へと旅に出るのもいいかもしれない。そう思った。
何しろこっちの世界に来てから目まぐるしかったから、ゆっくりこの世界の事を堪能していない。
この世界に来て私は何がしたいのか、このまま冒険者として生きていくのかそれとも…違う職で生きていくのか。
そんな事も考えずに居たから、それもじっくり考えたい。
旅に出て自由気ままに暮らすのもいいかなと思ったけど、年を取ってからの暮らしを考えるとそれも怖い。
安定を求めてしまうのが何だか日本人らしいよなぁと思ったり。
魔王さんのお屋敷から宿へと泊まる先を変えて以来、魔王さんとは逢っていない。忙しいのか、それとも私に気を使ってくれているのか。
「そう言えば魔王さんに何かお礼でもしようかな…」
そう考えるとルナは果物を取り扱っているお店へと向かう。
「…意外と値が張るな…リンゴ」
お財布とにらめっこしてため息を溢すとルナはギルドへと向かう。途中、誰も居ない所で姿を元の姿に戻す。
ギルドではこっちの世界での姿で受付をしてしまったので、いきなり姿が変わったら怪しまれると魔王さんのアドバイスによりルナの好きな時に姿を変えられるようにしてもらった。
魔王さん万能すぎる!!
ギィ…とドアを開けると今日もギルド内は活気で溢れていた。
ギルドでの発注も慣れたもので、2~3枚見繕うと受付へと持っていく。
カウンターに依頼書を置くと受付のお姉さんがチラリと此方を盗み見たのに気が付いた。
「私に何か?」
「あっ…いえ。こんなに依頼を受けて大丈夫かなと思って」
「そうですか。ご心配ありがとう。でも大丈夫なので手続きをお願いします」
「はい。すぐに終わるのでお待ち下さい」
解せない。昨日は4枚依頼を受けたのに何も言われなかった。キチンと達成もした。
違和感を感じながらも受付に呼ばれて手続きを終えると、ルナはギルドを後にした。
「月見草か~。確か魔王さんが、お屋敷の裏手の山に生えてるって言ってたな」
ついでに挨拶していこうか…いやでも手ぶらだしな、と考えながら山道を歩いていく。
お屋敷周りはある程度散策したが山に行くのは初めてだ。
月見草が咲くのは夕方から朝方にかけてだ。
夕方は白色で朝方にかけて薄いピンク色に色付いていく。
今回の依頼は白色の月見草なので夕方に摘み取らないといけない。夕方までに少し時間があるので山で他の依頼の魔物を狩りながら時間を潰す。
採取クエストは片手間に出来るのがいい。屈強な冒険者ならやらないだろうが、ルナは女性である。
身の危険の少ないクエストを選ぶ程度には己の強さを弁えているつもりだ。
最もそんな事を言えばクロードから「はぁ!?」と言われてしまいそうな前科はあるが。
魔物を狩り、アイテムボックスへと入れていく。
剥ぎ取りをしようかと思ったが服が汚れてしまうのも嫌なので値段は下がるが今日はそのまま納品するつもりだ。
「そろそろいい時間かな」
日が沈みそうな頃合いになりルナは頂上へと向かう。山と言っても小高い位の大きさなので、そこまで疲れはしない。
少しずつ頂上が見えてくる。月見草もまばらだが生えている。これが頂上には沢山咲き誇っているんだろうな、と思うと歩く速度も軽快になる。
やっと頂上へついた時に、目に入ってきたのは黒髪を一つに括っていた、見慣れた後ろ姿だった。
「魔王…さん?」
声をかけるとゆっくりと振り返る魔王。頂上には大きな木が一本生えていて、辺り一面月見草が咲き乱れていた。
木の下には石で出来た小さな石碑のような物が2つ並んでいる。
「ルナか…こんな時間に一人は危ない」
そう言ってルナに手を差し伸べる魔王。酷く儚げで、それでいて優しげな笑顔にルナの頭の中でフラッシュバックが起きる。
激しい頭痛と吐き気に視界が歪む。グニャリと世界が曲がってしまったような感覚にルナ立っていられずに倒れてしまう。
地面に倒れる瞬間、魔王はルナの身体を抱き止める。
「全て思い出したら…勇者の元へと帰ってしまうのだろうな」
寂しげにルナを見つめる魔王。サラリとルナの前髪を横に流すと額にキスを落とす。
「妹と…思った事はただの一度もなかったよ…」
夕と夜の間の不思議な空の色を見つめる魔王。
「ルナが…私を兄で居て欲しいと願っていたから、それを叶え続けた。心を殺してルナの兄で居続けた…生まれ変わってもルナは私に兄で居て欲しいと…そう願っているのか?」
眠っているルナに問いかける。答えが返ってこないと分かっていて今、聞いている自分は何て卑怯なのだろう。
魔王は起きる事のないルナの頭を撫でつつ、登り始めた月を見つめるのだった。
新しい土地での生活にも慣れてきた。生息している魔物は全然違うし、町で扱っている食品も違う。
様々な人種が生活しているので、結構文化の違いに驚かされたりしながらも楽しく暮らしていた。
未だに捜索の手はこちらに来ている様子は無い。魔王さんに聞いた所、ヴァルカンからここまで馬で2週間はかかるらしい。
それだけ猶予があるなら一週間はお金を稼ぎまくって、それから他の国へと旅に出るのもいいかもしれない。そう思った。
何しろこっちの世界に来てから目まぐるしかったから、ゆっくりこの世界の事を堪能していない。
この世界に来て私は何がしたいのか、このまま冒険者として生きていくのかそれとも…違う職で生きていくのか。
そんな事も考えずに居たから、それもじっくり考えたい。
旅に出て自由気ままに暮らすのもいいかなと思ったけど、年を取ってからの暮らしを考えるとそれも怖い。
安定を求めてしまうのが何だか日本人らしいよなぁと思ったり。
魔王さんのお屋敷から宿へと泊まる先を変えて以来、魔王さんとは逢っていない。忙しいのか、それとも私に気を使ってくれているのか。
「そう言えば魔王さんに何かお礼でもしようかな…」
そう考えるとルナは果物を取り扱っているお店へと向かう。
「…意外と値が張るな…リンゴ」
お財布とにらめっこしてため息を溢すとルナはギルドへと向かう。途中、誰も居ない所で姿を元の姿に戻す。
ギルドではこっちの世界での姿で受付をしてしまったので、いきなり姿が変わったら怪しまれると魔王さんのアドバイスによりルナの好きな時に姿を変えられるようにしてもらった。
魔王さん万能すぎる!!
ギィ…とドアを開けると今日もギルド内は活気で溢れていた。
ギルドでの発注も慣れたもので、2~3枚見繕うと受付へと持っていく。
カウンターに依頼書を置くと受付のお姉さんがチラリと此方を盗み見たのに気が付いた。
「私に何か?」
「あっ…いえ。こんなに依頼を受けて大丈夫かなと思って」
「そうですか。ご心配ありがとう。でも大丈夫なので手続きをお願いします」
「はい。すぐに終わるのでお待ち下さい」
解せない。昨日は4枚依頼を受けたのに何も言われなかった。キチンと達成もした。
違和感を感じながらも受付に呼ばれて手続きを終えると、ルナはギルドを後にした。
「月見草か~。確か魔王さんが、お屋敷の裏手の山に生えてるって言ってたな」
ついでに挨拶していこうか…いやでも手ぶらだしな、と考えながら山道を歩いていく。
お屋敷周りはある程度散策したが山に行くのは初めてだ。
月見草が咲くのは夕方から朝方にかけてだ。
夕方は白色で朝方にかけて薄いピンク色に色付いていく。
今回の依頼は白色の月見草なので夕方に摘み取らないといけない。夕方までに少し時間があるので山で他の依頼の魔物を狩りながら時間を潰す。
採取クエストは片手間に出来るのがいい。屈強な冒険者ならやらないだろうが、ルナは女性である。
身の危険の少ないクエストを選ぶ程度には己の強さを弁えているつもりだ。
最もそんな事を言えばクロードから「はぁ!?」と言われてしまいそうな前科はあるが。
魔物を狩り、アイテムボックスへと入れていく。
剥ぎ取りをしようかと思ったが服が汚れてしまうのも嫌なので値段は下がるが今日はそのまま納品するつもりだ。
「そろそろいい時間かな」
日が沈みそうな頃合いになりルナは頂上へと向かう。山と言っても小高い位の大きさなので、そこまで疲れはしない。
少しずつ頂上が見えてくる。月見草もまばらだが生えている。これが頂上には沢山咲き誇っているんだろうな、と思うと歩く速度も軽快になる。
やっと頂上へついた時に、目に入ってきたのは黒髪を一つに括っていた、見慣れた後ろ姿だった。
「魔王…さん?」
声をかけるとゆっくりと振り返る魔王。頂上には大きな木が一本生えていて、辺り一面月見草が咲き乱れていた。
木の下には石で出来た小さな石碑のような物が2つ並んでいる。
「ルナか…こんな時間に一人は危ない」
そう言ってルナに手を差し伸べる魔王。酷く儚げで、それでいて優しげな笑顔にルナの頭の中でフラッシュバックが起きる。
激しい頭痛と吐き気に視界が歪む。グニャリと世界が曲がってしまったような感覚にルナ立っていられずに倒れてしまう。
地面に倒れる瞬間、魔王はルナの身体を抱き止める。
「全て思い出したら…勇者の元へと帰ってしまうのだろうな」
寂しげにルナを見つめる魔王。サラリとルナの前髪を横に流すと額にキスを落とす。
「妹と…思った事はただの一度もなかったよ…」
夕と夜の間の不思議な空の色を見つめる魔王。
「ルナが…私を兄で居て欲しいと願っていたから、それを叶え続けた。心を殺してルナの兄で居続けた…生まれ変わってもルナは私に兄で居て欲しいと…そう願っているのか?」
眠っているルナに問いかける。答えが返ってこないと分かっていて今、聞いている自分は何て卑怯なのだろう。
魔王は起きる事のないルナの頭を撫でつつ、登り始めた月を見つめるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる