転生したってリセット癖は治らない

佐倉 奏

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#21 記憶のカケラ①

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   ルナがレイトの元を去ってから3日。
新しい土地での生活にも慣れてきた。生息している魔物は全然違うし、町で扱っている食品も違う。
   様々な人種が生活しているので、結構文化の違いに驚かされたりしながらも楽しく暮らしていた。

   未だに捜索の手はこちらに来ている様子は無い。魔王さんに聞いた所、ヴァルカンからここまで馬で2週間はかかるらしい。
   それだけ猶予があるなら一週間はお金を稼ぎまくって、それから他の国へと旅に出るのもいいかもしれない。そう思った。

   何しろこっちの世界に来てから目まぐるしかったから、ゆっくりこの世界の事を堪能していない。
   この世界に来て私は何がしたいのか、このまま冒険者として生きていくのかそれとも…違う職で生きていくのか。
    そんな事も考えずに居たから、それもじっくり考えたい。


   旅に出て自由気ままに暮らすのもいいかなと思ったけど、年を取ってからの暮らしを考えるとそれも怖い。
   安定を求めてしまうのが何だか日本人らしいよなぁと思ったり。


   魔王さんのお屋敷から宿へと泊まる先を変えて以来、魔王さんとは逢っていない。忙しいのか、それとも私に気を使ってくれているのか。

「そう言えば魔王さんに何かお礼でもしようかな…」

   そう考えるとルナは果物を取り扱っているお店へと向かう。

   「…意外と値が張るな…リンゴ」

   お財布とにらめっこしてため息を溢すとルナはギルドへと向かう。途中、誰も居ない所で姿を元の姿に戻す。
   ギルドではこっちの世界での姿で受付をしてしまったので、いきなり姿が変わったら怪しまれると魔王さんのアドバイスによりルナの好きな時に姿を変えられるようにしてもらった。
   魔王さん万能すぎる!!

   ギィ…とドアを開けると今日もギルド内は活気で溢れていた。


   ギルドでの発注も慣れたもので、2~3枚見繕うと受付へと持っていく。
   カウンターに依頼書を置くと受付のお姉さんがチラリと此方を盗み見たのに気が付いた。

「私に何か?」

「あっ…いえ。こんなに依頼を受けて大丈夫かなと思って」

「そうですか。ご心配ありがとう。でも大丈夫なので手続きをお願いします」

「はい。すぐに終わるのでお待ち下さい」


   解せない。昨日は4枚依頼を受けたのに何も言われなかった。キチンと達成もした。


   違和感を感じながらも受付に呼ばれて手続きを終えると、ルナはギルドを後にした。


「月見草か~。確か魔王さんが、お屋敷の裏手の山に生えてるって言ってたな」

   ついでに挨拶していこうか…いやでも手ぶらだしな、と考えながら山道を歩いていく。
   お屋敷周りはある程度散策したが山に行くのは初めてだ。

   月見草が咲くのは夕方から朝方にかけてだ。
夕方は白色で朝方にかけて薄いピンク色に色付いていく。
   今回の依頼は白色の月見草なので夕方に摘み取らないといけない。夕方までに少し時間があるので山で他の依頼の魔物を狩りながら時間を潰す。

   採取クエストは片手間に出来るのがいい。屈強な冒険者ならやらないだろうが、ルナは女性である。
   身の危険の少ないクエストを選ぶ程度には己の強さを弁えているつもりだ。
   最もそんな事を言えばクロードから「はぁ!?」と言われてしまいそうな前科はあるが。


   魔物を狩り、アイテムボックスへと入れていく。
剥ぎ取りをしようかと思ったが服が汚れてしまうのも嫌なので値段は下がるが今日はそのまま納品するつもりだ。

「そろそろいい時間かな」

   日が沈みそうな頃合いになりルナは頂上へと向かう。山と言っても小高い位の大きさなので、そこまで疲れはしない。


   少しずつ頂上が見えてくる。月見草もまばらだが生えている。これが頂上には沢山咲き誇っているんだろうな、と思うと歩く速度も軽快になる。

   やっと頂上へついた時に、目に入ってきたのは黒髪を一つに括っていた、見慣れた後ろ姿だった。


「魔王…さん?」

   声をかけるとゆっくりと振り返る魔王。頂上には大きな木が一本生えていて、辺り一面月見草が咲き乱れていた。
   木の下には石で出来た小さな石碑のような物が2つ並んでいる。


「ルナか…こんな時間に一人は危ない」

   そう言ってルナに手を差し伸べる魔王。酷く儚げで、それでいて優しげな笑顔にルナの頭の中でフラッシュバックが起きる。

   激しい頭痛と吐き気に視界が歪む。グニャリと世界が曲がってしまったような感覚にルナ立っていられずに倒れてしまう。
   地面に倒れる瞬間、魔王はルナの身体を抱き止める。


「全て思い出したら…勇者レイトの元へと帰ってしまうのだろうな」


   寂しげにルナを見つめる魔王。サラリとルナの前髪を横に流すと額にキスを落とす。


「妹と…思った事はただの一度もなかったよ…」

   夕と夜の間の不思議な空の色を見つめる魔王。

「ルナが…私を兄で居て欲しいと願っていたから、それを叶え続けた。心を殺してルナの兄で居続けた…生まれ変わってもルナは私に兄で居て欲しいと…そう願っているのか?」

   眠っているルナに問いかける。答えが返ってこないと分かっていて今、聞いている自分は何て卑怯なのだろう。


   魔王は起きる事のないルナの頭を撫でつつ、登り始めた月を見つめるのだった。
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