【毎日連載】古魔道具屋『レリックハート』の女房と猫

丁銀 導

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013 不良作家と救い主【ラルフ・ロックハンド】

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 なんだコノヤロー!!!!
 金なんかねえぞ!!帰れ!!!!


 ……は?借金取りじゃない?人を探してる?
 …はぁ、そうなの。
 あんたガタイいいし、てっきり借金取りかと…。
 ああこれが写真ね…ってこれ、ジュナイさんじゃん。
 知ってるのかって?…まあね…
 この人はまぁ、俺様のいわば『大恩人』なんだよ。
 …とりあえず、上がれば?

 汚ねぇ部屋で悪いけどさ、テキトーにそのへん座ってくれよ。
 …ジュナイさんが行方不明なんだよな。それは分かった。
 で、なんで俺様んちに来た訳?
 …ジュナイさんの手帳に、ここの住所と魔導フォン番号が…なるほどね。
 それであんたは、ジュナイさんの何な訳?情夫とか?
 違うんだ…古魔道具屋の店主で、雇い主ね…へぇ。
 ジュナイさん、今そんな仕事やってんの。意外だわ~。
 っていうのも、俺様が始めて出会った時は、あの人借金取りだったからな!
 なんかバイトでしてるとか言ってたけど、怖ぇのなんのって…

 は?俺様の名前?
 …『ラルフ・ロックハンド』だけど。

 まぁそりゃペンネームでな、本名は『ただのラルフ』だ。ド貧民の出だからな。
 知ってて来たんじゃねえの?確認?何のために…
 ああそうだよ、俺様は作家先生だぜ?
 二年前にベストセラーをポンッと出して、あとは鳴かず飛ばすだけどなぁ…
 まぁ今は印税で細々食ってるよ。は?あんた俺様のファンなの?マジで?
『悲しきコーデュアルに捧ぐ』が特に好き?!
 あれ一番売れなかったんだよな~。俺様一番のお気に入りなのに!!
 へぇ~…見かけによらずと言っちゃあ失礼だが、あんた読書通なんだな。
 嬉しいねぇ!サイン書こうか?後でいい?
 …ああ、ジュナイさんのことだったよな。
 確かに、一月ほど前、ジュナイさんはここに居たよ。
 ちょっと昔のしがらみでモメてる事があってさ、悩んでたんだよね…俺様。
 そしたら街で偶然ジュナイさん見掛けてさ~!即座に追っかけて、身も世もなく相談した訳よ。
 なんせ裏の事情に明るくて、俺様の味方してくれんのなんか、
 ジュナイさんくらいしか居ないしさぁ……あ、この辺の話は別にいいか。え?聞きたい?
 …あっそう。じゃあ、話すわ。

 元はと言えば、俺様がジュナイさんと出会ったのは、三年前な訳よ。
 まぁ俺様は、見た目のとおり育ちが悪い!
 実家は北の方なんだけど、ド貧乏で両親はクズでね…学校も行かせてもらえなくてさ。
 読み書きも自分で勉強してさぁ…ある日、なんもかんもイヤんなって、
 親の財布から金引っ掴んで、逃げて来た訳よ。シナノワに。

 嬉しかったね…そん時ぁ。
 シナノワじゃ、きっといい事がいっぱいあると思ってさ。
 …でもまぁ、現実は厳しいもんだよな。

 一文無し同然の貧民出のガキなんか、ロクに雇ってくれるところはねえし、住む家も借りられねえ。
 …俺様みたいなはぐれ者のガキを相手にしてくれんのなんか、裏稼業だけよ。
 そんで、法に思いっ切り触れるような仕事も色々したんだよ。
 飯と寝床にありつくためとあっちゃあ、選り好みしてらんねぇからな。
 …でまぁ、俺様も世間を知らねえガキだったから、悪い大人に悪い遊びを教えられて、
 ズルズル楽な方に流れてったね…。一応、夢もあったのにさ。
 夢?…そりゃあ…作家になりたかったんだよ。詩歌とか物語とか、昔から好きでさ。
 そもそも、もっと本が読みたい一心で読み書きを勉強したからなぁ…ガキの頃は。
 今はこんなでも、いつかは…って思ってたんだが、気がつけば借金まみれ。
 ハメられたとこもあるけど、半分は俺様が悪いね。今も特に治ってねえし。
 ほんと俺様も間違いなく、クズだった両親の子だね…。
 そんで、気付けばとんでもない多額の借金を、ホントいつの間にか背負っててな~。
 もうほんっと首回んねえの!
 連日借金の取立てが来てさ、たまりかねて逃げようとしたら、とっ捕まってボコボコよ。
 ああもう俺様死ぬんだな~って覚悟したら、
 唯一「もうよせ」って止めてくれる人がいたんだよ。
 その人がお待ちかね、ジュナイさんだった訳!
 でも止めた理由は「これから内臓売るのに、腹を蹴るな」とかだったし、
 別に親切心じゃなかったんだけどな…。
 あの人って見た目だけだと、割と優男じゃん?
 でも他のガタイのいい奴らは皆従ってたし、こりゃあ俺様逆らえねえなって。
 で、なんかどっかの事務所みたいなとこ連れてかれて、持ち物洗いざらい調べられたのよ。
 当然、なんも金目のもんとか無かったけどな~。
 いよいよ内臓かね…って諦めてたら、ジュナイさんが俺の手帳見て
「これ書いたの、あんたか」って、すげえ真面目な顔で聞くの。
 ビビッた。

 …さっきも言ったけど、俺様の夢は作家になることで…。
 思い浮かんだ言葉とか、その日あった出来事とか、手帳にちょこちょこ書いてたんだよ。
 ネタ帳みたいな感じでさ。そうですって答えたら、ジュナイさんが
「死なずに済むかもしれない方法あるけど、乗るか」って。
 俺様、一も二もなく乗ったね。
 それから何がどうなったのか、未だによく分からねえけど…
 とりあえず俺様は、シナノワのはずれに建ってる屋敷の一室をあてがわれて、
 そこで小説を一冊書き下ろすことになったって訳。
 仲良くなったる黒ギルドの下っ端のヤツらに後で聞いたけど、ジュナイさんが
 上の連中とすげぇ熱心に掛け合ってくれたらしい。


「あいつは生かしておけば大金を稼げる作家になる。
内臓を売るより儲かるはずだ」ってな…。


 命が懸かってんのもそうだけど、俺様は正直、
 今までの人生でそこまで他人に期待されたことって無かったしさ。
 ここで応えねえと男が廃るって思ってな!
 それから1年、マジで必死に書いたよ…。

 そんで世に出たのが、二年前のベストセラーって訳。
 俺様としても最高傑作だとは思うけど、黒ギルドがフロント企業使って
 めちゃくちゃに宣伝しまくって、連日魔石放送で取り上げて…。
 あれじゃどんなゴミでも、それなりに売れるだろうよ。

 それはともかく金貨何万枚って売れたから、俺様の借金はチャラ!
 黒ギルドとかのヤバイ奴らにほとんどの金持ってかれたけど、
 ジュナイさんが俺様の分もいくらか取っといてくれたから、
 晴れて俺様自由の身!
 …そこも感謝だけど、屋敷に軟禁されてた一年の間も、
 ジュナイさんにはホントあれこれ世話になったしなぁ。
 …どんな事でって…そりゃ、日常生活のちょっとした事だよ。
 よく飯作ってくれたりしたな…かなり美味かった。
 あとは…これ言っちまっていいのかな?…いいの?じゃあ言うけど、何回か寝たな。
 ほら、あの人って変な色気あるじゃん?
 男とか全然興味なかったのに、あの人にはなんかこうクラッと来ちゃうっていうか。
 あと俺様若いのに部屋に篭りっきりで正直溜ま……に、睨まないで?
 ジュナイさんがあんたに出会う前の話だから!
 つい最近会った時は、指一本触ってねぇから!
 …分かってくれた?そっか…あんた本当に堅気?
 なんか迫力あるけど…。

 話戻るけど、その一件以来、俺はジュナイさんとしばらく会ってなかった訳。
 最近モメたって件も、もうあの人のお陰で解決したんだよ。
 それも一ヶ月前の話だしさ、今ジュナイさんがどこにいるのか、俺様知らねえんだよ。
 なんか、ごめんな。力になれなくって。
 ……でもさ、なんか俺様安心したよ。
 ジュナイさんにも、こうして心配して捜してくれる人がいんだな~って。
 あの人って、自分をさ…全然大事にしないじゃん。
 俺様とこう…色々した時も?「書くのに必要なら好きにしろ」って言ってさ。
 全然抵抗とかしなくて…大丈夫かなこいつって、正直思ったんだよ。
 俺様みたいなクズを庇ってくれたり、下っ端のガキ共にも優しかったし…
 すげえいい人なのに、なんでこんな仕事してんだか、不思議だった。
 どんな事情があるんだか知らないが、この人も、
 いや…誰もがみんな、本当は悲しいんだなって思った訳よ…。

 …という訳で、俺様が話せる事は以上だな。
 他に手がかりになりそうな何か?
 そーだな~…組の下っ端の奴らに会ってみるか?
 あいつら今は足洗って堅気になってるはずだけど。
 三人…いや、今は二人か…。名前はレオとイーサン。
 どっちから当たってもいいんじゃねえかな。悪い奴らじゃねえから。
 住所と連絡先はこれだ。持っていけよ。

 …い、いいよ!そんなに頭下げんなって!
 真面目な人だなぁ~…あんた。
 …ジュナイさんは大丈夫だろ。簡単にくたばる玉じゃねえよ、あの人は。
 じゃあな、気ィつけて帰れよ!
 俺様の回りは今でもたまに筋者がウロついてるし、もう来ない方がいいぜ。

 ……ま、まだ何かあんのか?

 ああ、サイン?
 …俺様なんかのでよけりゃ、喜んで…!

『エイデン・レリックハートさんへ』でいいんだよな?

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