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020 カロン川心中①【エイデン】
しおりを挟むイーサンくんに連れられ、俺は市民病院の一室に向かった。
「レオにはなんでも、遠慮なく聞いてください。
…ただ、俺も同室していいですか」
ぶっきらぼうな言い方でも、イーサンくんはレオという青年が
よほど大事なのだろう。
もちろんと答えると、彼は安心したように微笑んだ。
個室のドアをノックすると
「は~いどうぞ~」というのんきな声が中から聞こえた。
イーサンくんがドアを開けると、赤っぽい頭の青年が、
犬のようにイーサンくんに飛びついた。
「イ~サン!!どこ言ってたの~!!
一人にしないっでって、俺言ったじゃん!!」
頭と同じく、寝間着も赤い。…これがレオくんか。
青年というよりも、少年といった方がしっくりくる。
「お前の着替え取りに帰ってたんだよ!それとお前にお客さん!」
イーサンくんがうるさそうに言うと、
レオくんはようやく俺の存在に気付いたらしい。
俺の姿を見るなり、今度は人見知りする猫のように
イーサンくんの後ろに隠れ
「だ、誰…?黒ギルドの人…?」と、おどおどと言った。
違うと答えても、まだ警戒している。
「ジュナイさんの勤め先の人…そうなんですか、すみません」
イーサンくんが説明してくれたお陰で、
ようやくレオくんは落ち着いて話に応じてくれた。
ただ、まだ体調が万全ではないので、ベッドに半分
這入ったままで話す事になった。
俺はその傍らの椅子に腰掛け、イーサンくんは窓辺に
背を凭れて立っている。
「君はジュナイと心中しようとした。それに間違いはないか」
そう尋ねると、レオくんは口篭ったあと
「…間違いありません」と答えた。
「なぜ、ジュナイなんだ」
その一言は意図せず口から零れ…しかもそれは
自分の声とは思えぬほど、暗く底冷えのするものだった。
それは目の前の二人の青年にも伝わってしまった。
レオくんはびくびくしながらも
それでも芯は強い青年と見えて、言葉を続けた。
「フレデリックの話は…イーサンから聞きましたよね」
頷くと、レオくんは金色がかった猫のような瞳で
まっすぐ俺を見た。
「…一番の仲良しだったフレデリックが死んで、
俺は、毎日死ぬことばかり考えてました」
イーサンくんが苦しげに俯く。
「でも俺はハンパ者で、死ぬことすら、上手くできなくて…」
レオくんの寝間着の袖から見える細い手首には、
痛ましい傷跡が幾筋も刻まれていた。
俺の視線に気づいた彼は、恥じるように手首を袖の中に隠す。
レオくんの整った横顔は、人形にように白かった。
「未遂とかやらかして、イーサンにも心配かけて…
そんなある日。本当に偶然、ジュナイさんに会ったんです」
レオくんとジュナイは、三ヶ月前のフレデリックくんの葬式以来、
その日まで会っていなかったらしい。
「ジュナイさんには俺、隠し事できないんです」
レオくんはそう言って自らを嘲るように、小さく笑った。
「一目見るなり「レオ、お前どうしたんだ」って言われて、俺は」
知らず、膝の上で握った掌に爪が食い込む。
「俺、死にたいのに、一人じゃ失敗するんです。
どうしたらいいんですか?ってみっともなく
ジュナイさんに泣きついて。…そしたらジュナイさん、
「一緒に死のうか」って言ってくれたんです」
二人が再会したのは、遺物横丁近くの公園なのだという。
何の障害もなく、その情景が目に浮かんだ。
『一緒に死のうか』そんな言葉を、さらっと言ってのける
ジュナイの姿もまた、容易に想像出来た。
今思えばだが、一目見たその時から、どこか生への執着の薄い気配が
ジュナイから感ぜられたせいだろう。
「…それから、俺はジュナイさんと時々会うようになったんです」
ジュナイが姿を消していた間の行き先は、彼だったと言う事か。
「あ、あの…」
レオくんが急におろおろとし出した。
そこで自分の眉間に随分としわが寄っていた事に気づく。
…かなり恐ろしい顔をしていたのだろう。
昔から改めたいと思っている欠点だが、改善される兆しはない。
「すまない、大丈夫だ」
そう答えるとレオくんもイーサンくんも、ほっとした表情を見せた。
「で、でも!誓って俺とジュナイさんはやましい関係じゃないですから!!
ジュナイさんは俺ん家にいる間、
飯作ってくれたり、掃除や洗濯してくれたり、
一緒にゲームしたり、ずっと俺の話を聞いてくれたり…
ただ、そばにいてくれたんです…本当です」
そう捲くし立てるレオくんの顔は必死で、
彼が嘘をついていない事はその様子から伺えた。
「…あの日だって、俺が言い出さなければ…」
彼は一度そこで言葉を切った。
話すべきことを頭の中で整理しているのか、
口に出して良い事なのか判断しかねているのか。
「ゆっくりでいいから、話してくれないか」そう促すと、
レオくんは安心したように頷いて、イーサンくんから
差し出された水を一口飲んだ。
飲み終えると、レオくんは意を決したように話し始めた。
俺はただ、彼の話を黙って聞いた。
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