黒祓いがそれを知るまで

星井

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告白

21*

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「……っ」

 一瞬でくるりと反転した視界。今まで全力で押さえつけていた俺など相手にならなかったのだろう。その圧倒的な力の差に呆然としながら、まあそれもそうか、とすぐ納得する。
 俺はしがない事務員のおっさんで、エンリィは二十一歳の新人隊員だ。体力も何もかも違う。
 何やら真剣な眼差しをして俺を見るエンリィを何も言わず見つめ返していると、彼はゆっくりと口を開いた。

「そうやって誰にでも股を開くことはそんなに愉しいか? ……理解できないな。私は好きな相手とだけ繋がりたいし、他の人間には触りたくもならない」
「……いいんじゃないの、それで」

 潔癖だとは思ったがこれは違う。こいつは穢れていないだけだ。
 その魂はまっさらのまま、誰にも踏みにじられていない。
 そのまっさらで綺麗なこいつを俺が奪っていいはずがないだろう。
 一気に興が削がれ、俺は大きく溜め息を吐いてエンリィを押し戻す。
 だがその腕は未だ俺を組み敷いたままピクリともしないので、思わず訝しげに奴を見上げた。

「なんなのお前、早くどけよ」
「……私が童貞だとナツヤは興味湧かないのか?」

 ん?

「い、いやいやいやいや」

 この酔っ払い、本気でどこまでも面倒臭いな!

「私が童貞だとしてどうする?」
「どうもしないわ! もうお前どいて、重い!」
「童貞じゃないけどな。もし、の話だもしの」
「童貞丸出しだなおい!」

 思わずツッコんでしまったが、この状況は辛い。
 バタバタ暴れ、なんとかエンリィの下から抜け出そうとするが腹の上に腰を下ろしたやつの重みで全然動けないし、苦しいだけだ。その上両腕を上から押さえつけられていて、見る人が見ればヤバい画だろう。
 癇癪を起こしたようにジタバタする俺をエンリィはどこか冷静な目で見下ろし、そうしてふっと口許を緩めた。

「誰かの唯一になる事が怖いか?」
「はあっ? てか今怖いのはお前だけだわ! どけえ!」
「そうか、私が怖いか。……あなた私を童貞だと言ったな」

 もがいても抜け出せないその状況に遂に肩で息をし始めた俺をエンリィがぼそぼそ呟き、すっと腰を下に移動させた。
 重みがなくなり、息苦しさから解放されたが、生憎と体力は尽きたまま。
 その横たわったままの俺にエンリィが何を思ったのか、ガバっとズボンを下ろしてきて思わず天井を凝視した。

「童貞じゃない証明をしてやる」

 低く掠れた声で奴がそう言い、その金髪がゆっくりと俺の下腹部へと沈んでいく。
 それを視界の一部に止めながら、俺は未だ天井を凝視していた。
 ……大丈夫。まだ、死んではいない。

「……やめた方がいいんじゃないの」

 むき出しの下腹部に何をしようとしているのか想像はつくが、俺は敢えて抵抗もせずエンリィに声をかけた。
 童貞の酔狂なんて、後悔するのは本人だけだ。
 だがその後悔を俺のせいにされるのだけはごめんである。
 案の定、エンリィは俺のものを見つめながら固まっていた。男好きでもないのにできると思うなんて勘違いもいいとこだ。
 ストレートはストレートらしく女見て興奮してればいいのに。

「ほら、そこからどけ」

 微動だにしないエンリィの吐息が俺の息子にかかり、なんだか物凄く罪悪感が湧いてくる。いや俺がさせてるわけじゃないんだけどな。なんだろうなこれ。
 だが予想に反して、エンリィは萎えた俺のそれを口に含んだ。どうせ何も出来ないだろうと悠長に天井を見上げていた俺は、その湿った感触に慌てて上体を起こして様子を確認する。

「えええ、何してんだお前!」

 絶叫して這い出そうと腰を引く。だがその腰をガシっとエンリィの両手が掴み、恐慌状態に陥っている俺を見上げ、エンリィがニヤっと笑った。
 そのまま舌を出し見せつけるように緩く主張してきた俺を舐め上げて言った。

「ふん、意外と出来るものだな」
「……いやいや絶対お前後悔するぞ? ……っ、な? 今すぐやめた方がいい。ぁ……、男のものしゃぶったなんて童貞の風上にも置けないだろ?」
「……なんだそれは」

 混乱した俺の言葉に、エンリィがふふ、と楽しそうに笑い再び俺のものを口に含んだ。
 続行するのか! 勘弁してくれ!
 膝を立てて拒もうとすれば含まれた陰茎に軽く歯を立てられ、抵抗はやめろと言わんばかりに動きを封じられる。初心者のする技ではない。童貞というのは俺の勘違いだったのかも。
 どこか冷静な頭でそんなことを考えながら、どうすればいいのか模索する。どうせ酔っ払いだ。寝て起きたら覚えていない可能性だってあるし、このまま放っておいても……。
 いやいやだからこそ、こいつの行動を止めなきゃならんだろう。後から「なんで男のなんか……!」とか恨み言言われてもなあ。俺だってエンリィと良く分からない展開になるのは御免だ。

「ん……ナツヤ、結構大きいな……っ」

 ぐるぐる考え込んでいるうちに俺のものは立派に育ちきっているしその快楽に背筋が震えているし、あーもう!
 元々俺はシモに関しては緩いんだ! 据え膳だって遠慮なく頂く派だし、それで相手がどうなろうが知ったこっちゃない。それこそ了承を得ればどんな男でもその気になれば食ってきた。

「だがお前はダメだろ……っ」

 好きな人間だけと繋がりたいと言ったエンリィ。
 あれは本心だろう。そんな真っ直ぐな想いを一時なノリで捨ててしまうのは勿体ない。
 こんなのはエンリィだって望んでいないはずだ。

「……わかったわかった。エンリィとりあえず離せ」

 上半身を起こし一心不乱に俺のをしゃぶるエンリィの顔を片手で掴みその動きを止めれば、エンリィは不思議そうな目をして口を離した。
 その隙になんとか体勢を立て直し、エンリィの下から抜け出す。はあ、と息を吐き口を開く。

「お前が童貞じゃないのは分かったから。とりあえずここは冷静になって話し合おうじゃ」
「断る。ナツヤも勃ってるし私が相手になる」
「……お前何言ってんのかわかってるの? 好きな相手としかやらないって言ったばっかじゃねーか」
「だからやってるんだ」
「……は?」

 その言葉に目を見開き正面にある桃紫色の瞳を見れば、エンリィは至極当然のような表情をして言い切った。

「私が好きでもない相手にこんなことすると思うのか? 馬鹿にするんじゃない」
「……あー……でもね君は今、酔ってるからね、まずその思いも勘違いの可能性が大きい」
「勘違いで男のちんこ銜えられるか」
「それもそうだな」
「じゃ、横になれ」

「ってちがーーう!」

 息を荒らげ、思わずエンリィと距離を取る俺にすかさず奴が腕を伸ばしガシっと足首を掴んできた。
 その素早い行動に、ひい、と喉が鳴る。

「お、落ち着け、お前は今ただの酔っ払いだ。明日になればぜーんぶ忘れてる。そもそもお前ストレートだろう!」
「ふ、好きになるのに男だ女だ関係あるのか? 差別だな」
「い、いやいやいやいやなんか違う! まずそれって俺の台詞でお前の台詞じゃないだろ!」

 完全に目が据わっているエンリィに恐怖しか感じず、俺はこの状況から逃れようと必死になった。
 こいつが正気じゃないのは一目瞭然だ。あれだけ酒を飲んでいたし、この行動だって売り言葉に買い言葉に近い。このまま流されて傷つくのは俺じゃなくてエンリィなのは目に見えてわかっているし、年上の男としてそこは正さなければならないだろう。
 だが神は残酷なのだ。
 いつだってどこだって、まるで見ているかのように俺に試練を与えるのだ。

「……修羅場か?」
「……へ?」

 真横から声がして、俺は肩を揺らせた。

「あああ、アーシュ……!」

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