黒祓いがそれを知るまで

星井

文字の大きさ
22 / 78
告白

21*

しおりを挟む
「……っ」

 一瞬でくるりと反転した視界。今まで全力で押さえつけていた俺など相手にならなかったのだろう。その圧倒的な力の差に呆然としながら、まあそれもそうか、とすぐ納得する。
 俺はしがない事務員のおっさんで、エンリィは二十一歳の新人隊員だ。体力も何もかも違う。
 何やら真剣な眼差しをして俺を見るエンリィを何も言わず見つめ返していると、彼はゆっくりと口を開いた。

「そうやって誰にでも股を開くことはそんなに愉しいか? ……理解できないな。私は好きな相手とだけ繋がりたいし、他の人間には触りたくもならない」
「……いいんじゃないの、それで」

 潔癖だとは思ったがこれは違う。こいつは穢れていないだけだ。
 その魂はまっさらのまま、誰にも踏みにじられていない。
 そのまっさらで綺麗なこいつを俺が奪っていいはずがないだろう。
 一気に興が削がれ、俺は大きく溜め息を吐いてエンリィを押し戻す。
 だがその腕は未だ俺を組み敷いたままピクリともしないので、思わず訝しげに奴を見上げた。

「なんなのお前、早くどけよ」
「……私が童貞だとナツヤは興味湧かないのか?」

 ん?

「い、いやいやいやいや」

 この酔っ払い、本気でどこまでも面倒臭いな!

「私が童貞だとしてどうする?」
「どうもしないわ! もうお前どいて、重い!」
「童貞じゃないけどな。もし、の話だもしの」
「童貞丸出しだなおい!」

 思わずツッコんでしまったが、この状況は辛い。
 バタバタ暴れ、なんとかエンリィの下から抜け出そうとするが腹の上に腰を下ろしたやつの重みで全然動けないし、苦しいだけだ。その上両腕を上から押さえつけられていて、見る人が見ればヤバい画だろう。
 癇癪を起こしたようにジタバタする俺をエンリィはどこか冷静な目で見下ろし、そうしてふっと口許を緩めた。

「誰かの唯一になる事が怖いか?」
「はあっ? てか今怖いのはお前だけだわ! どけえ!」
「そうか、私が怖いか。……あなた私を童貞だと言ったな」

 もがいても抜け出せないその状況に遂に肩で息をし始めた俺をエンリィがぼそぼそ呟き、すっと腰を下に移動させた。
 重みがなくなり、息苦しさから解放されたが、生憎と体力は尽きたまま。
 その横たわったままの俺にエンリィが何を思ったのか、ガバっとズボンを下ろしてきて思わず天井を凝視した。

「童貞じゃない証明をしてやる」

 低く掠れた声で奴がそう言い、その金髪がゆっくりと俺の下腹部へと沈んでいく。
 それを視界の一部に止めながら、俺は未だ天井を凝視していた。
 ……大丈夫。まだ、死んではいない。

「……やめた方がいいんじゃないの」

 むき出しの下腹部に何をしようとしているのか想像はつくが、俺は敢えて抵抗もせずエンリィに声をかけた。
 童貞の酔狂なんて、後悔するのは本人だけだ。
 だがその後悔を俺のせいにされるのだけはごめんである。
 案の定、エンリィは俺のものを見つめながら固まっていた。男好きでもないのにできると思うなんて勘違いもいいとこだ。
 ストレートはストレートらしく女見て興奮してればいいのに。

「ほら、そこからどけ」

 微動だにしないエンリィの吐息が俺の息子にかかり、なんだか物凄く罪悪感が湧いてくる。いや俺がさせてるわけじゃないんだけどな。なんだろうなこれ。
 だが予想に反して、エンリィは萎えた俺のそれを口に含んだ。どうせ何も出来ないだろうと悠長に天井を見上げていた俺は、その湿った感触に慌てて上体を起こして様子を確認する。

「えええ、何してんだお前!」

 絶叫して這い出そうと腰を引く。だがその腰をガシっとエンリィの両手が掴み、恐慌状態に陥っている俺を見上げ、エンリィがニヤっと笑った。
 そのまま舌を出し見せつけるように緩く主張してきた俺を舐め上げて言った。

「ふん、意外と出来るものだな」
「……いやいや絶対お前後悔するぞ? ……っ、な? 今すぐやめた方がいい。ぁ……、男のものしゃぶったなんて童貞の風上にも置けないだろ?」
「……なんだそれは」

 混乱した俺の言葉に、エンリィがふふ、と楽しそうに笑い再び俺のものを口に含んだ。
 続行するのか! 勘弁してくれ!
 膝を立てて拒もうとすれば含まれた陰茎に軽く歯を立てられ、抵抗はやめろと言わんばかりに動きを封じられる。初心者のする技ではない。童貞というのは俺の勘違いだったのかも。
 どこか冷静な頭でそんなことを考えながら、どうすればいいのか模索する。どうせ酔っ払いだ。寝て起きたら覚えていない可能性だってあるし、このまま放っておいても……。
 いやいやだからこそ、こいつの行動を止めなきゃならんだろう。後から「なんで男のなんか……!」とか恨み言言われてもなあ。俺だってエンリィと良く分からない展開になるのは御免だ。

「ん……ナツヤ、結構大きいな……っ」

 ぐるぐる考え込んでいるうちに俺のものは立派に育ちきっているしその快楽に背筋が震えているし、あーもう!
 元々俺はシモに関しては緩いんだ! 据え膳だって遠慮なく頂く派だし、それで相手がどうなろうが知ったこっちゃない。それこそ了承を得ればどんな男でもその気になれば食ってきた。

「だがお前はダメだろ……っ」

 好きな人間だけと繋がりたいと言ったエンリィ。
 あれは本心だろう。そんな真っ直ぐな想いを一時なノリで捨ててしまうのは勿体ない。
 こんなのはエンリィだって望んでいないはずだ。

「……わかったわかった。エンリィとりあえず離せ」

 上半身を起こし一心不乱に俺のをしゃぶるエンリィの顔を片手で掴みその動きを止めれば、エンリィは不思議そうな目をして口を離した。
 その隙になんとか体勢を立て直し、エンリィの下から抜け出す。はあ、と息を吐き口を開く。

「お前が童貞じゃないのは分かったから。とりあえずここは冷静になって話し合おうじゃ」
「断る。ナツヤも勃ってるし私が相手になる」
「……お前何言ってんのかわかってるの? 好きな相手としかやらないって言ったばっかじゃねーか」
「だからやってるんだ」
「……は?」

 その言葉に目を見開き正面にある桃紫色の瞳を見れば、エンリィは至極当然のような表情をして言い切った。

「私が好きでもない相手にこんなことすると思うのか? 馬鹿にするんじゃない」
「……あー……でもね君は今、酔ってるからね、まずその思いも勘違いの可能性が大きい」
「勘違いで男のちんこ銜えられるか」
「それもそうだな」
「じゃ、横になれ」

「ってちがーーう!」

 息を荒らげ、思わずエンリィと距離を取る俺にすかさず奴が腕を伸ばしガシっと足首を掴んできた。
 その素早い行動に、ひい、と喉が鳴る。

「お、落ち着け、お前は今ただの酔っ払いだ。明日になればぜーんぶ忘れてる。そもそもお前ストレートだろう!」
「ふ、好きになるのに男だ女だ関係あるのか? 差別だな」
「い、いやいやいやいやなんか違う! まずそれって俺の台詞でお前の台詞じゃないだろ!」

 完全に目が据わっているエンリィに恐怖しか感じず、俺はこの状況から逃れようと必死になった。
 こいつが正気じゃないのは一目瞭然だ。あれだけ酒を飲んでいたし、この行動だって売り言葉に買い言葉に近い。このまま流されて傷つくのは俺じゃなくてエンリィなのは目に見えてわかっているし、年上の男としてそこは正さなければならないだろう。
 だが神は残酷なのだ。
 いつだってどこだって、まるで見ているかのように俺に試練を与えるのだ。

「……修羅場か?」
「……へ?」

 真横から声がして、俺は肩を揺らせた。

「あああ、アーシュ……!」

しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

処理中です...