虚声断ちのルグダン

深海 紘

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第一話「ドリームランド: 桐生圭介の場合」

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「はぁ……はぁ…なんで……こんなことに…」


 男の呼吸が乱れていた。喉の奥から金属をこするような音が混じる。
 全身は汗で濡れ、シャツは赤黒いしみを吸い込んでいた。


 手に握られた刃物。
 刃先には血と臓物の破片がこびりついている。
 赤い滴が床に落ち、一定のリズムで乾いた音を立てた。

 目の前には“人だったもの”が横たわっていた。
 顔の形はもうわからない。
 胸も腹も割れ、内臓が床に散らばっていた。
 部屋には窓がなく、換気扇のかすかな唸りと男の呼吸だけが響いている。


「こいつから、…聞こえてくるんだ」


 男の声はひび割れていた。
 刃物を握る手が震えている。
 恐怖か、それとも別のものか。


「お前のせいだ…お前が悪いんだ……」


 刃先が頭蓋をこじ開ける。
 鈍い音。骨が割れる感触が手に伝わる。
 男はそこから何かを探していた。

 必死に。



 ***



 彼の名は桐生圭介。

 大手銀行の本店勤務。次期支店長も見えていた。
 容姿は端正。服は高級ブランド。休日はワインとゴルフ。誰もが羨む生活。


 だが、彼は退屈していた。


 学生時代からすべてが順調だった。成績は上位。
 入試も就職も失敗はない。恋愛も人望も予定通り。

 何もかもが予定調和。

 わずかな工夫と努力で成功が手に入る世界に、彼は早くから飽きていた。
 だからこそ、彼はこの世の娯楽にも飽きてしまっていた。


 その夜も、ワインを片手にPCの前に座っていた。
 日課のようにSNSやニュースサイトを眺め、株価の動きを確認し、何も新しい発見がないことを確かめる。


 深夜一時。

 タブを適当に開いていると、見慣れないフォーラムに辿り着いた。

 夢を超えた者は帰還できない。
 だが、そこに至る道は存在する。

 古い呪文の断片、匿名の書き込み、スキャンした羊皮紙の写真。
 内容は支離滅裂で、翻訳アプリを通しても意味がわからない。


 だが、妙にリアルだった。


 まるで誰かが本当に体験したことを記録しているような熱量があった。

 圭介は好奇心を覚えた。
 彼には珍しいことだった。

 学生のころは映画や小説にも熱中した。
 だが社会人になってからは、何を見ても先が読めた。
 どんな娯楽も型に嵌っているように感じた。


 だがこのフォーラムの文章は違った。
 文法は崩れ、論理もなく、ただ断片が積み重なっている。


「ドリームランド」


 何度もその単語が出てきた。
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