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越えられない君 10
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放課後 ― 写真部
写真部の部室。
今年できたばかりの新しい部活だから、部員はまだ少ない。
小さな部屋の机の上には、学校の一眼レフカメラが数台並んでいる。
顧問の森下先生が、やわらかな声で言った。
「今日も春らしい写真を撮ってみましょう」
部員たちはそれぞれカメラを手に、校舎の外へ出ていった。
すずもカメラを抱えながら外へ出る。
春の空気は少しだけ暖かくて、風もやさしい。
校庭の端を歩きながら、すずはゆっくりシャッターを切った。
花壇に咲く小さな花。
青く広がる春の空。
風に揺れる若葉。
カシャッ。
カシャッ。
シャッターを押すたびに、少しずつ楽しくなってくる。
写真を撮る時間は、不思議と心が静かになる。
そのときだった。
ふと視線の先に、弓道場が見えた。
開いた扉の奥。
静かな空間。
そして――
弓を引く姿。
藤沢湊。
背筋を伸ばし、ゆっくり弓を引く。
弦が張り詰める音。
呼吸。
矢が放たれる。
パンッ。
的に当たる音が、遠くまで響く。
その姿は、静かな映画のワンシーンみたいだった。
すずは思わずカメラを構える。
カシャッ。
気づいたときには、もうシャッターを押していた。
(また撮っちゃった……)
自分でも少し恥ずかしくなる。
でも。
カメラの画面に映るその姿は、
やっぱり格好よかった。
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
一方 ―
弓道場の中。
花音はマネージャーとして練習を見守っていた。
湊が弓を引く。
矢が放たれる。
パンッ。
そのとき。
ふと、視線を感じた。
花音はゆっくり顔を上げる。
弓道場の外。
少し離れた場所。
校舎の影。
そこに、すずが立っていた。
カメラを構えている。
そのレンズの先。
――湊。
花音は、ほんの一瞬だけ目を細めた。
すずの視線。
カメラを向けるときの表情。
それは、ただ写真を撮る人の目ではなかった。
花音はもう一度、湊を見る。
そして、すずを見る。
胸の中で、小さな答えが浮かぶ。
(もしかして……)
ほんのわずかな沈黙。
(一ノ瀬さん……)
(湊のこと、好き?)
確信ではない。
でも、なんとなく分かる。
恋をしている人の視線は、すぐに分かるから。
花音はしばらくその光景を見ていた。
そして――
ふっと、小さく笑う。
(まあ……)
(負けないけど)
その笑顔は柔らかい。
でも、その奥には確かな自信があった。
花音にとって湊は、中学の頃からずっと特別な存在なのだから。
写真部の部室。
今年できたばかりの新しい部活だから、部員はまだ少ない。
小さな部屋の机の上には、学校の一眼レフカメラが数台並んでいる。
顧問の森下先生が、やわらかな声で言った。
「今日も春らしい写真を撮ってみましょう」
部員たちはそれぞれカメラを手に、校舎の外へ出ていった。
すずもカメラを抱えながら外へ出る。
春の空気は少しだけ暖かくて、風もやさしい。
校庭の端を歩きながら、すずはゆっくりシャッターを切った。
花壇に咲く小さな花。
青く広がる春の空。
風に揺れる若葉。
カシャッ。
カシャッ。
シャッターを押すたびに、少しずつ楽しくなってくる。
写真を撮る時間は、不思議と心が静かになる。
そのときだった。
ふと視線の先に、弓道場が見えた。
開いた扉の奥。
静かな空間。
そして――
弓を引く姿。
藤沢湊。
背筋を伸ばし、ゆっくり弓を引く。
弦が張り詰める音。
呼吸。
矢が放たれる。
パンッ。
的に当たる音が、遠くまで響く。
その姿は、静かな映画のワンシーンみたいだった。
すずは思わずカメラを構える。
カシャッ。
気づいたときには、もうシャッターを押していた。
(また撮っちゃった……)
自分でも少し恥ずかしくなる。
でも。
カメラの画面に映るその姿は、
やっぱり格好よかった。
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
一方 ―
弓道場の中。
花音はマネージャーとして練習を見守っていた。
湊が弓を引く。
矢が放たれる。
パンッ。
そのとき。
ふと、視線を感じた。
花音はゆっくり顔を上げる。
弓道場の外。
少し離れた場所。
校舎の影。
そこに、すずが立っていた。
カメラを構えている。
そのレンズの先。
――湊。
花音は、ほんの一瞬だけ目を細めた。
すずの視線。
カメラを向けるときの表情。
それは、ただ写真を撮る人の目ではなかった。
花音はもう一度、湊を見る。
そして、すずを見る。
胸の中で、小さな答えが浮かぶ。
(もしかして……)
ほんのわずかな沈黙。
(一ノ瀬さん……)
(湊のこと、好き?)
確信ではない。
でも、なんとなく分かる。
恋をしている人の視線は、すぐに分かるから。
花音はしばらくその光景を見ていた。
そして――
ふっと、小さく笑う。
(まあ……)
(負けないけど)
その笑顔は柔らかい。
でも、その奥には確かな自信があった。
花音にとって湊は、中学の頃からずっと特別な存在なのだから。
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