2 / 2
第1章 鏡石(きょうせき)と多紀月(たきつ)
第1話 ホタル籠 前編
しおりを挟む
今日はよい日だ。部活の担当でもないし、こんな日は提出物の確認をしたり、たまっている仕事を処理しないと。
実験の用意や実験プリントも作らないと、今日くらいは少しは早く帰りたいし。
鏡石はうれしかった。会議も打ち合わせも無い日は、早くから自分の仕事ができる。こんな日が週に2日くらいないと、とてもじゃないが仕事が回らない。
教員は結構ブラックだけど、今更他の仕事もできないから。
そんなことを考えながら、赤ペンを手にした時、がらっと勢い良く準備室の扉が開いた。
「先生!」
アニ研の1年女子が顔を出した。手に小さな何かを持っている。
「かわいいっしょ」
何かをゆらゆらさせながら聞いてくる。
「なんだいそれは」
せっかくの時間を邪魔されたことは顔に出さないで、私を訪ねて来るなんてめったにあるもんじゃないから話を聞いてあげることにする。
「クリスマスの飾りで、かわいいから買ったけど何かわからなくて」
手のひらサイズの四角垂を軽くねじったような形をしている。
「これは、今の時期ならサイズ的にオーナメントかな。」
顔を近づけて軽く確認してからそう答えた。
「オーナメント?」
語尾が上がりながら答えつつ、頭に?マークが浮かんでいる。
そうか、家でツリーを飾る家も少なくなったんだろうな。
椅子に深く腰掛けなおしながら、教えてあげる。
「クリスマス飾りだよ。ツリーやリースに飾る」
「だから紐がついてるんだ。スマホのストラップかと思った。ストラップなんか最近付けるのはおじさんばっかりだから、こんなかわいいの変だなと思ったんだ。」
目の高さに持ち上げながら、じっくりと全体を見ている。
「何の形かな」
オーナメントを少し持ち上げながらつぶやいている。
「さぁ何だろうね」
こっちを向いて無茶ぶりに訊ねてくる。
「何の意味があるの」
しっかり生徒に向き直って答える。
「神に対しての豊作の感謝だね。豊穣だね。」
オーナメントを手に軽く握りながら、驚いた顔をしながら聞いてくる。
「形が何かわからないのに、意味は分かるの?」
軽く足を組みながら説明する。日頃の運動不足に中年のお腹の肉付きが良くなって、足は深く組めなくなってきている。
「その形のものは、昔見たことがあるよ。古い古い時代に、ヨーロッパで【かまどの神】にささげる供物だったね。材料は麦だから、間違いなく豊穣神や大地の神或いは食べ物の神への感謝になる。」
また、はてなマークが浮かんでいるな。あたりまえだけど。
「それが何で、クリスマス?」
まあ、一般的には知らなくて当たり前か。そんなとこまで歴史では習わないからね。
「古い神は、キリスト教の布教とともに唯一神に集約されたからね」
少し納得した顔をしながらも、不思議そうな顔をしてまたオーナメントを見ながら、
「どうやって作るんだろう」
おそらく作りたいのではなくて、どんな構造なのかが知りたいんだろうな。
「作り方は、ネットを探せば出てくるよ」
若いのに眉間にしわが寄って、顔をしかめながら
「いや。英語はむり」
少し笑いながら、簡単な英会話なら何とか聞けるのかもしれないけど、説明の動画の英語はそりゃ無理だろうと思う。
「しっかり日本語だよ」
びっくりした顔で
「日本で作られているの?」
「あぁ。そういうことじゃないんだ。」
鏡石は、自分のスマホをスワイプしながら
「実際にみたほうが早い。」
見つけたサイトの画像を、生徒に見せながら
「このサイトにある、これ同じ形だろ。」
麦わら細工 ホタルかごで検索をかけて出てきたサイトの画像を見せる。
驚いた顔をして
「ほんとだ。全く同じ形。」
スマホを机に戻しながら
「作り方も動画でたくさん紹介されているから、底の部分が四角だったり、五角形だったりするけど。」
小首をかしげながら
「なんで、同じ形しているの?」
「そういう研究はないな。」
椅子に深く腰掛けなおしながらこたえる。
「研究が必要なの?」
「民族学になるかな。ヨーロッパのオーナメントも、日本の麦わらかごも民俗学だから、分野が違うから、研究者が両方を知ることはないんだよ」
「めんどくさいんだね。」
「まぁ。仕方ないかな。」
「なんで、先生は知っているの。」
「僕は正式な研究者じゃないし。僕は、民族学、民俗学、考古学なんでも興味があるからね」
胸の前で腕を組んで難しい顔をした。
「また新しい言葉がでて来た。簡単に説明して、簡単に。」
次回 1月18日の後編に続くのであった。
実験の用意や実験プリントも作らないと、今日くらいは少しは早く帰りたいし。
鏡石はうれしかった。会議も打ち合わせも無い日は、早くから自分の仕事ができる。こんな日が週に2日くらいないと、とてもじゃないが仕事が回らない。
教員は結構ブラックだけど、今更他の仕事もできないから。
そんなことを考えながら、赤ペンを手にした時、がらっと勢い良く準備室の扉が開いた。
「先生!」
アニ研の1年女子が顔を出した。手に小さな何かを持っている。
「かわいいっしょ」
何かをゆらゆらさせながら聞いてくる。
「なんだいそれは」
せっかくの時間を邪魔されたことは顔に出さないで、私を訪ねて来るなんてめったにあるもんじゃないから話を聞いてあげることにする。
「クリスマスの飾りで、かわいいから買ったけど何かわからなくて」
手のひらサイズの四角垂を軽くねじったような形をしている。
「これは、今の時期ならサイズ的にオーナメントかな。」
顔を近づけて軽く確認してからそう答えた。
「オーナメント?」
語尾が上がりながら答えつつ、頭に?マークが浮かんでいる。
そうか、家でツリーを飾る家も少なくなったんだろうな。
椅子に深く腰掛けなおしながら、教えてあげる。
「クリスマス飾りだよ。ツリーやリースに飾る」
「だから紐がついてるんだ。スマホのストラップかと思った。ストラップなんか最近付けるのはおじさんばっかりだから、こんなかわいいの変だなと思ったんだ。」
目の高さに持ち上げながら、じっくりと全体を見ている。
「何の形かな」
オーナメントを少し持ち上げながらつぶやいている。
「さぁ何だろうね」
こっちを向いて無茶ぶりに訊ねてくる。
「何の意味があるの」
しっかり生徒に向き直って答える。
「神に対しての豊作の感謝だね。豊穣だね。」
オーナメントを手に軽く握りながら、驚いた顔をしながら聞いてくる。
「形が何かわからないのに、意味は分かるの?」
軽く足を組みながら説明する。日頃の運動不足に中年のお腹の肉付きが良くなって、足は深く組めなくなってきている。
「その形のものは、昔見たことがあるよ。古い古い時代に、ヨーロッパで【かまどの神】にささげる供物だったね。材料は麦だから、間違いなく豊穣神や大地の神或いは食べ物の神への感謝になる。」
また、はてなマークが浮かんでいるな。あたりまえだけど。
「それが何で、クリスマス?」
まあ、一般的には知らなくて当たり前か。そんなとこまで歴史では習わないからね。
「古い神は、キリスト教の布教とともに唯一神に集約されたからね」
少し納得した顔をしながらも、不思議そうな顔をしてまたオーナメントを見ながら、
「どうやって作るんだろう」
おそらく作りたいのではなくて、どんな構造なのかが知りたいんだろうな。
「作り方は、ネットを探せば出てくるよ」
若いのに眉間にしわが寄って、顔をしかめながら
「いや。英語はむり」
少し笑いながら、簡単な英会話なら何とか聞けるのかもしれないけど、説明の動画の英語はそりゃ無理だろうと思う。
「しっかり日本語だよ」
びっくりした顔で
「日本で作られているの?」
「あぁ。そういうことじゃないんだ。」
鏡石は、自分のスマホをスワイプしながら
「実際にみたほうが早い。」
見つけたサイトの画像を、生徒に見せながら
「このサイトにある、これ同じ形だろ。」
麦わら細工 ホタルかごで検索をかけて出てきたサイトの画像を見せる。
驚いた顔をして
「ほんとだ。全く同じ形。」
スマホを机に戻しながら
「作り方も動画でたくさん紹介されているから、底の部分が四角だったり、五角形だったりするけど。」
小首をかしげながら
「なんで、同じ形しているの?」
「そういう研究はないな。」
椅子に深く腰掛けなおしながらこたえる。
「研究が必要なの?」
「民族学になるかな。ヨーロッパのオーナメントも、日本の麦わらかごも民俗学だから、分野が違うから、研究者が両方を知ることはないんだよ」
「めんどくさいんだね。」
「まぁ。仕方ないかな。」
「なんで、先生は知っているの。」
「僕は正式な研究者じゃないし。僕は、民族学、民俗学、考古学なんでも興味があるからね」
胸の前で腕を組んで難しい顔をした。
「また新しい言葉がでて来た。簡単に説明して、簡単に。」
次回 1月18日の後編に続くのであった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる